退職金で住宅ローンを完済すべきか|損得を分ける4つの判断軸

退職金で住宅ローンを完済すべきか|損得を分ける4つの判断軸

退職金がまとまって入ると、多くの方が「このお金で住宅ローンを完済すべきか」で迷います。返してしまえば毎月の返済も利息もなくなり、気持ちも軽くなる。その一方で、老後の手元資金が一度に減ることや、団信や住宅ローン控除といった優遇を失うことも気にかかります。この記事では、住み替えのトビラが、完済のメリットとデメリットを対等に並べ、自分の状況で完済すべきかを見分ける4つの軸を順を追って解説します。さらに「一部だけ返す」「あえて返さず残す」「住み替えで身軽になる」まで含めて、老後の家計に無理のない選び方を整理します。

退職金で住宅ローンを完済する前に押さえたい全体像

退職金での完済は選択肢の一つであって、誰にとっても正解になる方法ではありません。

完済の損得は、残っている借金の額、いまの金利、まだ受けられる住宅ローン控除、そして完済後に手元へ残る老後資金のバランスで決まります。この記事では、全額返す、一部だけ返す、あえて返さず残す、いっそ住み替えて身軽になる、ここまで並べて比べます。まずは利点と代償の両面をそろえて見ていきます。

あらかじめ道筋を整理しておくと、全額返す・一部返す・あえて返さず残すの3つは、いまの住まいに住み続けたまま退職金をどう配分するかという資金の判断です。それに対して住み替えは、住まいそのものを売ってお金に換え、家計ごと組み直す道になります。老後の住まいの選び方は大きく、住み続ける・住み替える・住宅資産を取り崩す(借りる・貸す・売る)に分かれますが、完済をめぐる話の多くは「住み続ける」道の中の資金判断だと捉えると位置づけが見えやすくなります。

退職金で住宅ローンを完済するメリット

完済の利点は、お金の面と気持ちの面の2方向にあります。

利点は事実として押さえておく価値があります。ただし後で見るデメリットと必ずセットで判断する前提で読み進めてください。片方だけを見て決めると、完済してから後悔しやすくなります。

利息の負担が減り総返済額を抑えられる

繰上げ返済でいちばん分かりやすい効果は、これから払うはずだった利息が減ることです。

住宅ローンは、借りた元本に対して利息が上乗せされていきます。まとまった額を前倒しで返すと、その分にかかるはずだった将来の利息が消えるため、最終的な総返済額が軽くなります。ただし軽くできるのはあくまで「まだ払っていない利息」だけです。返済が進んで残りの期間が短くなっているほど、これから発生する利息そのものが少ないため、繰上げで浮く額も小さくなります。

どれだけ軽くなるかは、金利・残高・残りの期間で大きく変わります。同じ額を繰上げに回しても、金利が高く残期間が長い人ほど効果は大きく、低金利で残りわずかな人ほど効果は限られます。効果の見立てはあくまで目安として捉え、自分のローン残高で試算するのが安心です。

繰上げには返す期間を縮める「期間短縮型」と、毎月の返済額を下げる「返済額軽減型」があります。利息の軽減という点では、期間短縮型のほうが効果は大きくなります。返す期間そのものが縮み、その期間ぶんの利息がまるごと消えるためです。

毎月の返済がなくなり定年後の家計が身軽になる

完済すれば毎月の返済という固定支出が消え、定年後の家計にゆとりが生まれます。

定年後は、収入の柱が給与から年金へと移り、多くの家庭で毎月入るお金が現役時代より減ります。その局面で住宅ローンの返済が続くと、限られた年金から一定額が自動的に出ていくことになります。完済でこの固定支出をなくせば、月々の収支に余白ができ、医療費や趣味など変動する支出を吸収しやすくなります。

年金生活は、入ってくるお金がほぼ決まっている一方で、出ていくお金は年によって上下します。返済という動かせない支出を先に消しておくと、家計のやりくりがしやすくなる効果は小さくありません。

「借金がない」安心感で老後の見通しが立てやすい

残債ゼロという状態は、数字に表れない安心感をもたらします。

借金が残っていること自体が気がかりで、退職後の生活を素直に楽しめないという声は少なくありません。完済すれば「住まいに関する借金はもうない」と言い切れる状態になり、老後の生活設計に落ち着いて向き合えます。この安心は人によって価値の重みが違うため、金額では測りにくい利点です。数字の損得と並べて、自分にとってどれだけ大切かを考える材料になります。

退職金で完済する前に知っておきたいデメリットとリスク

完済の代償は、「戻せないお金の減少」と「失う保障・優遇」に整理できます。

やっかいなのは、これらの多くが完済してから気づいても取り返しにくい点です。ここでは、完済すると制度や仕組みのうえで何が起きるのか、失うものの正体を順に見ていきます。自分の場合にどちらへ振れるかという判断は、次の章の4つの軸であらためて扱います。

老後の手元資金が一気に減り突発支出に対応できない

退職金で完済すると、老後を支えるはずの手元資金が一度に大きく減ります。

退職金は住宅ローンを返すためだけのお金ではなく、老後の暮らしを支える生活防衛資金でもあります。まとまった額を完済に充てると、預貯金が一気に薄くなり、いざというときに使えるお金が乏しくなります。

老後には、思わぬ支出が波のように訪れます。入院や手術といった医療費、介護が必要になったときの費用、給湯器や屋根の修繕、家電の買い替えなど、まとまった現金が必要になる場面は避けられません。手元資金を完済で使い切ってしまうと、こうした突発的な出費に現金で対応できず、生活費を切り詰めたり、あらためて借り入れをしたりすることになりかねません。

では完済後にいくら残しておけば安心なのか、その水準は次の章の1つ目の軸で扱います。ここではまず、完済によって手元の現金が減り、突発支出への備えが弱くなるという現象を押さえてください。

団体信用生命保険の保障を失う

住宅ローンを完済すると、団体信用生命保険(団信)による保障も同時に消えます。

団信は、住宅ローンを組むときに多くの人が加入する保険で、契約者が亡くなったり高度障害になったりした場合に、残っているローンが保険金で完済される仕組みです。残債があるからこそ働く保障であり、ローンを完済すればその役割は終わり、保障もなくなります。つまり完済とは、返済義務を消すと同時に、万一のときに残債が消える備えを手放すことでもあります。

団信の代わりに一般の生命保険で備え直そうとすると、年齢が上がってからの新規加入は保険料が高くなりやすく、健康状態によっては加入そのものが難しい場合もあります。

団信を手放しても遺族が困らない備えがあるかどうか、その確認は次の章の4つ目の軸で扱います。ここでは、完済すると死亡時にローンが消えるという保障を失う、という事実を押さえてください。

住宅ローン控除が残っていると受けられたはずの控除を失う

住宅ローン控除がまだ残っている時期の完済や大きな繰上げ返済は、本来受けられたはずの控除を失うことにつながります。

住宅ローン控除は、年末のローン残高に応じて所得税などが軽くなる制度です。戻る額は「年末のローン残高(借入限度額まで)× 0.7%」で決まります。残高が多いほど戻る額も大きくなるため、繰上げ返済で残高を一気に減らすと、その年以降に戻る控除額も小さくなります。

どこまでが控除の対象になるか(借入限度額)は、入居した年の制度で決まります。すでに入居している方は、自分の入居年の区分を確認してください。たとえば令和6年・令和7年に入居した場合、1年あたりに戻る上限は、認定長期優良住宅・認定低炭素住宅で31.5万円、ZEH水準省エネ住宅で24.5万円、省エネ基準適合住宅で21万円です。控除期間は13年(区分に当たらない「その他の住宅」は10年)です。

つまり、控除が残り3年ある方が認定住宅の区分なら、返さずに残高を保つことで最大で30万円台から90万円台が戻ってくる計算になります。これを「早く返して減らせる利息」と並べて比べるのが、この軸の考え方です。

さらに注意したいのが、返済期間そのものが短くなるケースです。繰上げ返済によって、返済を始めてから終わるまでの期間が10年未満になると、その年以後は住宅ローン控除を受けられなくなります。国税庁も、繰上返済によって最初の償還から最後の償還までの期間が10年以上でなくなった場合には、その年の住宅借入金等特別控除の適用を受けられないと示しています。

出典: 国税庁 繰上返済等をした場合の償還期間

控除が残っている期間は、「控除で戻ってくる額」と「早く返して減らせる利息」を天秤にかける論点が生まれます。急いで返すと利息は減らせても控除の恩恵を早く手放すことになり、どちらが得かは人によって変わります。控除が自分にあと何年残っていて、それを判断にどう活かすかは、次の章の3つ目の軸で扱います。

繰上げ返済手数料や金利タイプによっては効果が小さい

繰上げ返済には手数料がかかる場合があり、条件によっては軽くなる利息より手数料のほうが重くなることもあります。

繰上げ返済の手数料は金融機関によって異なり、無料のところもあれば、一定の金額がかかるところもあります。金利が低く残りの期間もわずかな状態では、繰上げで浮く利息そのものが小さいため、手数料を払ってまで返す意味が乏しくなる場合があります。自分のローンで手数料がいくらかかるか、そして浮く利息がそれに見合うかを事前に確かめておくと安心です。

退職金で完済すべきか自分の状況で判断する4つの軸

完済する・しないは感覚で決めるものではなく、この4つの軸に自分を当てはめると向きが見えてきます。

複数の要素が絡むため、一つずつ自分の状況に照らして考えていきます。その前に押さえておきたいのが、完済に回せる原資である退職金は、人によって手取りが違うという点です。退職金には退職所得控除という仕組みがあり、勤続年数が長いほど税金がかかりにくくなります。勤続20年以下なら40万円×勤続年数(この計算が80万円に満たないときは80万円)、20年を超える部分は年70万円ずつ控除額が積み上がり、控除を引いた残りをさらに半分にした額に課税されます。たとえば勤続38年なら、800万円+70万円×18年=2,060万円が控除額です。

なお、この計算方法は制度改正で変わることがあります。実際に受け取るときは、国税庁のその年の案内で確かめてください。

出典: 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)

つまり額面の退職金がそのまま完済に使えるわけではなく、手取りベースでいくら返済に回せるかが出発点になります。控除の細かい計算は複雑なので、ここでは「手取りが人によって変わる」という前提だけ押さえ、その手取りを分母に置いて以下の軸を当てはめていきます。

以下の4つの軸は、それぞれ自分がどちらへ傾くかで、完済に前向きになれるか、急がないほうがよいかが分かれます。全体像を先に一覧で示すと次のとおりです。

判断の軸完済に向く状況急がないほうがよい状況
手元に残る生活防衛資金完済後も備えが残る備えまで削ることになる
いまの金利高い・変動で上昇が不安低金利で借りている
住宅ローン控除の残りほぼ残っていないあと数年残っている
団信に代わる死亡保障別の保険や資産で足りる団信が大きな備え

それぞれの軸を、自分の状況に当てはめながら順に見ていきます。

完済しても生活防衛資金が手元に残るか

第一の軸は、完済したあとにも、暮らしを守るためのお金がきちんと残るかどうかです。

生活防衛資金とは、収入が途絶えたり突発的な出費が生じたりしても、当面の暮らしを維持できるだけの現金のことです。老後の場合、ここに医療・介護・住宅修繕といった、まとまって出ていく可能性のある支出への備えも重ねて考える必要があります。目安としては生活費の半年から1年分を軸に、想定される大きな出費を上乗せして考えると、必要な現金の水準が見えてきます。なお、この「半年から1年分」は家計相談の場で広く使われる考え方であり、公的統計に裏づけがある水準ではありません。自分の生活費の実額に当てはめて、金額として出しておいてください。

生活費の実額の目安としては、総務省の家計調査(2025年平均)で、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出が月263,979円でした。単純に12倍すると1年分は約317万円になります。

出典: 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」

判断はシンプルです。完済に必要な額を退職金の手取りから引いても、この生活防衛資金と突発支出の備えが手元に残るなら、完済に前向きになれます。逆に、完済すると備えまで削ることになるなら、全額返すのは急がないほうが安全です。ここで大切なのは、額面ではなく手取りの退職金を分母に置いて計算することです。

老後資金は持ち家ありでいくら必要?考え方と資金化の選択肢 老後資金は持ち家ありでいくら必要?考え方と資金化の選択肢

いまの金利が低く急いで返す利得が小さくないか

第二の軸は、いまのローンの金利が、無理をして急いで返すほど高いかどうかです。

金利が低いほど、繰上げ返済で浮く利息は小さくなります。低金利で借りている場合、急いで返して得られる利息の軽減はわずかで、それよりも手元に現金を残しておく価値のほうが相対的に高くなりやすいといえます。手元資金は突発支出にも使え、いざとなれば繰上げ返済にも回せる自由度があるからです。

一方で、金利が高い場合や、変動金利で今後の金利上昇が気になる場合は、話が変わります。高い利息を払い続けるより、まとまった額で残高を減らして利息の負担を軽くするほうが、完済の利得は大きくなりやすい局面です。自分のローンの金利がいまどのくらいで、変動か固定かを確かめ、急いで返す価値があるかを見極めてください。おおまかには、金利が低いほど残す方向、高いほど返す方向に向きが傾きます。

住宅ローン控除の残りをどう活かすか

第三の軸は、住宅ローン控除が自分にあと何年残っていて、それをどう活かすかです。

控除が残っている期間は、返済を続けることで所得税などの軽減を受けられます。この期間に急いで完済すると、まだ受けられたはずの控除を早めに手放すことになります。控除が残り数年あるなら、その間は無理に完済を急がず、控除の恩恵を受けきってから完済を考えるほうが有利になりやすいといえます。

逆に、控除の残り期間がほとんどなかったり、すでに控除期間が終わっていたりするなら、控除を理由に完済を先送りする必要はありません。まず自分の控除があと何年残っているかを確認し、残りが長ければ急がない、短ければ完済のタイミングとして検討する、という向きで当てはめてみてください。控除で戻る額と早く返して減らせる利息を比べ、どちらが自分にとって大きいかで最終的な向きが決まります。

団信に代わる死亡保障を別に確保できているか

第四の軸は、団信を手放しても、遺された家族が住まいで困らない備えがあるかどうかです。

完済すれば団信の保障はなくなりますが、それでも問題ないかは家庭ごとに違います。すでに十分な死亡保障のある生命保険に入っている、あるいは家族が当面暮らしていける預貯金や資産があるなら、団信を手放しても遺族が住まいで困る心配は小さいといえます。

反対に、団信が大きな死亡保障になっている場合は注意が必要です。完済で団信を手放すと、万一のときに家族へ残せる備えが薄くなります。その場合は、完済を進める前に代わりの生命保険を検討したり、団信を残す意味も含めて完済のタイミングを考え直したりする必要があります。いま加入している保険と資産を書き出し、団信がなくても家族が困らないかをセルフチェックしてから判断してください。

「完済する」以外の選択肢

完済するかしないかの二択に縛られなくても、間をとる方法や、住まいごと見直す方法があります。

手元資金・保障・住まいそのものまで含めれば、選び方はもっと広がります。ここでは、返済に回す量を減らす方法から、そもそも返さず残す方法、さらに家ごと組み直す方法まで、対象の範囲を広げながら見ていきます。

退職金の一部だけを繰上げ返済に回す

全額を返すのではなく、一部だけを繰上げに充て、残りを手元に残す折衷案があります。

たとえば退職金のうち一定額だけを繰上げ返済に回し、残りは生活防衛資金として手元に置く方法です。これなら利息の負担をある程度軽くしつつ、突発支出に備える現金も確保できます。全額返すか一円も返さないかの間で、自分に合うバランスを探せるのがこの方法の利点です。

一部繰上げでは、期間短縮型と返済額軽減型のどちらを選ぶかで効果が変わります。利息をできるだけ減らしたいなら期間短縮型、毎月の返済負担を軽くして家計に余裕を持たせたいなら返済額軽減型が向いています。どれだけ残高を圧縮できるかは金利や残高しだいなので、具体的な効果はあくまで目安として、自分のローンで試算してみてください。

あえて完済せず手元資金を厚く残す

低金利で控除や団信のメリットが残っているうちは、あえて返さず手元に多く残す選択も理にかないます。

金利が低ければ、繰上げで浮く利息は限られます。加えて住宅ローン控除が残っていれば控除の恩恵を受け続けられ、団信の保障も維持できます。判断軸の章で見た「残す価値」がそろっているうちは、退職金を返済に回さず、生活資金として手元に置く選択が合う場面があります。手元の現金は突発支出にも備えられ、将来まとまった修繕や介護の費用が必要になったときの支えにもなります。

なお、手元に残したお金を運用に回す考え方もありますが、運用には元本が保証されないという前提があります。返済せずに残す判断と、そのお金を増やそうとする判断は分けて考え、必要な生活防衛資金までリスクにさらさないよう気をつけてください。あくまで、無理に完済しない選択肢もあるという中立の視点で捉えるのが安全です。

住み替えで残債を圧縮し老後の家計を組み直す

残債が重い、あるいはいまの住まいが老後の暮らしに合わなくなっているなら、住み替えという第3の道があります。

完済するかどうかを退職金の範囲だけで考えると、「いまの家を持ち続ける」前提から抜け出せません。ここまでの全額返す・一部返す・据置は、どれも住み続けたまま退職金をどう配分するかの判断でした。それに対して住み替えは、住まいそのものを売ってお金に換え、家計ごと組み直す道です。老後の住まいは住み続ける・住み替える・住宅資産を取り崩すに分かれ、住み替えは「売って住み替える」形の取り崩しにあたります。

住み替えを考えるきっかけは、いまの住まいが広すぎる、駅から遠くて生活が不便、築年数が進んで管理費や修繕積立金の負担が重い、といった悩みです。一方で、2階への階段の上り下りがつらい、庭や外壁の手入れが大変といった動機は戸建ての話であり、マンションにお住まいの方には基本的に関係ありません。マンションはワンフロアで段差が少なく、共用部の管理を管理組合や管理会社に任せられるため、住み替えを考える理由はむしろ立地や広さ、毎月の固定費に寄ります。

マンションを売る場合の強みは、比べられる材料が多いことです。マンションは一戸ごとの個別性が戸建てより小さく、同じ建物の他の住戸や近隣の同種の住戸がそのまま比較の対象になります。取引の件数も多く、首都圏の中古マンションの成約件数は2025年(暦年)で49,114件でした。だから相場の見当をつけやすいのです。売却で手元にいくら残るかが見通しやすいので、住み替えを完済や据置と同じ土俵にのせて比べやすくなります。

ただし、複数社の査定額がどれくらいばらつくかを集計・公表した公的機関・業界団体の統計はありません。査定額は各社が自社の販売方針をふまえて出すものなので、「マンションだから各社の査定が近い値にそろう」とは言い切れません。だからこそ複数社に依頼して幅を見る意味があります。

ここで大切なのは、査定額そのままを残債と比べないことです。実際に手元へ残るのは、査定額から仲介手数料や抵当権の抹消費用などの諸費用を差し引いた手取りです。この手取りが残っているローン残債を上回れば、売却代金でローンを清算しても差額が手元に残り、老後の資金に回せます。退職金を丸ごと完済に充てなくても身軽になれるのが、住み替えの利点です。

住まいを小さくすれば、管理費や修繕積立金、光熱費といった毎月の固定費も抑えやすくなります。ただし住み替えには売却の費用と購入の費用がかかり、必ず得になるとは限りません。

このうち購入の側は、売買価格から額が決まる分(媒介報酬の上限・印紙税・登記の司法書士報酬)だけを積み上げると、3,000万円の物件で約116.5万円、価格に対しておよそ3.9%です。5,000万円なら約182.5万円で3.65%と、価格が上がるほど比率は下がります(媒介報酬の定額部分と印紙税・司法書士報酬が価格に比例しないためです)。

ただし、この積み上げには登録免許税と不動産取得税が入っていません。この2つは売買価格ではなく固定資産税評価額をもとに計算するため、物件の評価額が分からないと額が出ないからです。評価額は課税明細書か固定資産評価証明書で確かめてください。住宅ローンの事務手数料・保証料、火災保険料、引っ越し費用も別に見ておく必要があります。

売却額は相場やタイミングによって変わるため、資金計画は低めに見積もっておくと安心です。完済すべきか迷っている段階でも、いまの住まいがいくらで売れそうかを把握しておけば、完済・据置・住み替えを同じ土俵で比べる材料がそろいます。

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退職金と住宅ローンで迷ったときの相談先

完済すべきかの最適な答えは、資産・年金・家族構成によって一人ひとり変わるため、専門家に相談すると判断の精度が上がります。

領域ごとに相談先の目安は次のとおりです。

  • 資金計画・老後資金・ローンの判断:ファイナンシャルプランナー(FP)
  • 退職金の税金・住宅ローン控除・確定申告:税理士
  • 売却や住み替えの見込み・家の価値:不動産会社の宅地建物取引士

自分だけで抱え込むと、目先の利息や安心感に引っ張られて判断が偏りがちです。お金の全体設計はFP、税の細かい扱いは税理士、住まいの選択肢は不動産の専門家と、領域ごとに相談先を分けると、完済の損得を落ち着いて見比べられます。とくにマンションは比較できる成約事例が多いので、複数の会社に見てもらえば売却の手取りの幅をつかみやすくなります。

まとめ:退職金でローンを完済すべきか迷ったら、住み替えのトビラ

退職金での住宅ローン完済は、老後の選択肢の一つであって、誰にとっても正解になる方法ではありません。利息が減り家計が身軽になる利点と、手元資金・団信・住宅ローン控除を失う代償を、同じ天秤にのせて考えることが出発点になります。

判断に迷ったら、完済後に生活防衛資金が残るか、金利は急いで返すほど高いか、控除はあと何年残っているか、団信に代わる備えはあるか、この4つの軸に自分を当てはめてみてください。額面ではなく手取りの退職金を分母に置くと、実際に返済へ回せる額が見えてきます。

選び方は、全額返す・一部だけ返す・あえて返さず残す・住み替えて身軽になる、と幅があります。特に、住まいそのものを見直す住み替えは、退職金を守りながら残債を軽くできる可能性のある方法です。マンションは比べられる材料が多く手取りの見当をつけやすいので、完済・据置・住み替えを同じ土俵で比べる出発点として、いまの住まいがいくらで売れそうかを知っておくと判断が進みます。

住み替えを取り巻く状況は変わり続けます。住み替えのトビラは、そのときの最新の情報を正確に、わかりやすくお届けし続けます。