転勤の辞令を受けたとき、持ち家をどう扱うかより先に答えを出すのは、家族もいっしょに移るのかどうかです。
家族が残るのか全員で移るのかをはっきりさせると、持ち家の扱いの候補は半分に減ります。
4つの選択肢の比べ方と、誰も住まなくなったときに止まる住宅ローンの軽減の損得までを説明します。
転勤で持ち家をどうする?売る・貸す・空き家・単身赴任
転勤で持ち家をどうするかに万人共通の正解はなく、赴任の期間や戻る見込み、家族の事情で最適な選択肢が変わります。
まず4つの選択肢を俯瞰し、次に自分のケースがどの分岐に当てはまるかを見極め、最後は次に動くべき一手まで絞り込んでいく流れです。
4つの選択肢の全体像
転勤のときに持ち家へ取れる対応は、大きく売る・貸す・空き家のまま・単身赴任の4つに分かれます。
4つはまず「家を手放すか、残すか」で二分できます。売却は手放す方向で、残る3つは持ち続けたまま使い方を変える方向です。
売却は家を現金に換え、固定費の支払いも止める方法です。賃貸は住まいを残しながら家賃収入を得られます。空き家のまま残せば手続きは最小限で済み、単身赴任なら家族はこれまでどおり暮らせます。
4つの選択肢を同じ基準で比較
4つの選択肢を同じ基準で並べると、それぞれの得意と不得意が見分けられます。
5つの物差しで横に並べると、選択肢ごとの違いがつかめます。次の表で、向き・費用・お金の効果・住宅ローン控除・戻りやすさを見比べられます。
| 選択肢 | 向いている状況 | 費用・手間 | お金の効果 | 住宅ローン控除 | 戻りやすさ |
|---|---|---|---|---|---|
| 売る | 戻る予定がない・長期 | 仲介手数料など/数か月かかる | 現金化+固定費ゼロ | 売却で適用終了 | 低い |
| 貸す | 戻る可能性を残したい | 管理委託費・空室や修繕 | 家賃収入を得られる | 原則停止 | 契約しだい(定期借家なら可) |
| 空き家のまま | 短期で確実に戻る | 手間は小さい・収入なし | 収入ゼロ・固定費は続く | 原則停止 | 高い |
| 単身赴任(家族が居住) | 家族の生活を変えたくない | 二重生活の費用 | 収入は変わらず支出は二重 | 継続しうる | 高い |
全体の傾向として、売却は身軽になる代わりに、あとから元へは戻れません。残す3つは戻る余地がある一方、収入のない空き家や単身赴任では費用だけが出続けます。
最適解を分ける3つの軸
どの選択肢が合うかは、主に3つの条件で決まります。
鍵になるのは、戻る見込み・家族帯同か単身か・残債と査定額の大小という3点です。たとえば数年で確実に戻るなら家を残す前提で考えられますが、戻る時期が読めないなら売却も現実的な案になります。
下のチェックリストは、この3点を質問にしたものです。3問に答えると今の自分の位置がつかめ、このあと選択肢を絞り込むときの出発点になります。
現在地チェック(3つの質問)
- 数年で確実に戻る見込みはありますか?
- 家族は帯同しますか、それとも単身赴任ですか?
- ローンの残債と今の家の査定額、大きいのはどちらですか?
4つの選択肢を1つずつ詳しく見る
4つの選択肢は、どんな状況の人に向いているかを入り口にすると、自分に合うものを選びやすくなります。
売る・貸す・空き家・単身赴任を同じ順番で並べ、向いている人・メリット・見落としやすい注意点・費用と手間を一つずつ確かめていきます。
売る:現金化して身軽になりたいなら
売却が向いているのは、戻る予定がなく現金化して身軽になりたい人です。
売ってしまえば、住宅ローンの残債を清算でき、固定資産税や管理の負担も同時になくなります。手元に現金が残るため、転居先での出費にも充てられます。
注意したいのは、買い手が決まるまでの時間が読めない点です。首都圏の中古マンションでは、レインズ(不動産会社間で物件情報を共有するシステム)に登録してから成約に至るまで平均82.5日かかっています(2025年・東日本不動産流通機構)。これはレインズへの登録を起点にした平均で、査定や媒介契約にかかる時間は含みません。分布(何日以内に何%が売れたか)も公表されていないため、自分の物件が平均どおりに進むとは限りません。辞令から赴任までに間に合わないこともあり、急いで値下げすると相場より安く手放すことになりかねません。
仲介で売る場合の手数料は「売買価格×3%+6万円+消費税」が上限で、売買価格3,000万円なら105.6万円(税込)が目安です。この速算式は売買価格400万円以上のときに使えます。どうしても時間がないときは買取という方法もありますが、仲介で売るより価格は下がります。ただし、買取価格を業者横断で集計・公表している公的機関や業界団体はありません。業界では「仲介相場のおおむね6〜8割」と言われるものの、出典を示せる数字ではないので、実際の水準は買取業者の提示額を複数取って確かめてください。
転勤にともなう売却を具体的に進める手順は、転勤で家を売るときの進め方で詳しく整理しています。
貸す:戻る可能性を残して家賃を得たいなら
賃貸が向いているのは、戻る可能性を残しつつ家賃収入も得たい人です。
家を残したまま家賃収入を得られるため、ローンの返済や維持費の一部をまかなえます。資産として持ち続けられる点も利点です。
見落としやすいのが住宅ローンの扱いです。多くは本人の居住を前提としており、無断で貸すと契約違反になりかねません。転勤の事情があれば認められる場合もあるので、貸す前に金融機関へ相談しておきましょう。
もう一つの注意点が契約の種類です。普通借家で貸すと借り手を簡単には退去させられず、期間を区切る定期借家にしておかないと、帰任しても自分の家に戻れない恐れがあります。
管理を会社に任せると、家賃から管理委託費が引かれます。ただし委託費の料率を集計・公表した公的統計や業界団体統計はなく、水準は管理会社と委託する業務の範囲によって変わります。契約前に見積もりで料率と業務範囲を確かめてください。これに加えて空室や修繕のリスクもあるため、家賃収入がそのまま手元に残るわけではない点は念頭に置きたいところです。
空き家のまま:短期で確実に戻るなら
空き家のまま残すのが向いているのは、1〜2年など短期で確実に戻る見込みがある人です。
貸す手続きも売る手続きもいらないため、最も手間がかかりません。戻ったその日からまた住める安心感もあります。
ただし、人が住まなくても固定資産税や管理の費用は出続け、家賃のような収入は入りません。換気や通水をしないと家が傷みやすく、定期的な管理の手間も残ります。
単身赴任:家族の生活を変えたくないなら
単身赴任が向いているのは、子どもの学校や配偶者の仕事など、家族の生活を変えたくない人です。
家族はこれまでの住まいと生活を続けられ、子どもの転校や配偶者の離職を避けられます。本人が単身赴任で、生計を一にする家族が住み続ける場合は、住宅ローン控除を引き続き受けられる可能性もあります。
一方で、自宅と赴任先で二重の生活費がかかり、家計の負担は増えます。離れて暮らす期間が長くなると、家族と顔を合わせる時間も限られます。
転勤すると住宅ローン控除はどうなる?
転勤で住宅ローン控除が続くかどうかは、単身赴任か家族帯同かで分かれます。
控除が止まる場合と続く場合の境目から、失ったときにどれくらい損するのか、帰任後に再び受けられるのかまでを順に整理します。
控除が続く条件と止まる条件
控除の分かれ目は、その家に「生計を一にする家族」が住み続けているかどうかです。
住宅ローン控除は、本人がその家に住んでいることが前提です。家族そろって転勤先へ移り、自宅が空になると、その間は控除を受けられません。
一方、本人だけが単身赴任し、配偶者や扶養親族が住み続ける場合は、所有者本人が住んでいるものとして扱われ、控除を受けられます。この扱いには「家屋の取得から6か月以内に家族が入居し、その後も引き続き住んでいること」という条件が付きます。共働きで生活費を出し合っている世帯も、生計を一にすると認められます。なお赴任先が国外の場合は、家屋を取得した時期によって扱いが変わります。
住み替え(買い替え)と住宅ローン控除の関係をさらに詳しく知りたいときは、住宅ローン控除と住み替えで条件と手続きを確認できます。
出典: 国税庁「No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等」
控除を失うといくら損するか
控除を失ったときの損は、「残りの控除年数 × 年末のローン残高 × 控除率」でおおよそ見積もれます。
控除率は年末のローン残高の0.7%で、全区分に共通します。ただし控除の対象になるのは、住宅の区分ごとに決まった借入限度額までです。残高が大きいほど、また残りの年数が長いほど、受けられなくなる金額も大きくなります。
たとえば令和8年入居で、年末残高3,000万円・借入限度額3,500万円のZEH水準省エネ住宅(中古)なら、控除額は1年あたり21万円です。これを受けられない年が3年続くと、単純計算で63万円の差になります。同じ残高3,000万円でも、借入限度額2,000万円の「その他の住宅」なら控除の対象は2,000万円までで、1年あたり14万円になります。自分の家がどの区分かで金額が変わるので、まず区分を確かめてください。
控除率や控除できる期間は、家を取得した年や住宅の種類によって変わります。実際の金額を試算するときは、最新の国税庁の情報で自分の条件を確かめておくと安心です。
帰任して再び住めば控除は再開できる
控除が止まっても、帰任して再びその家に住めば、残っている期間内は控除を受け直せます。
注意したいのは、控除の期間そのものは延びない点です。控除期間は住宅の区分で決まり、認定長期優良住宅・認定低炭素住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅は新築でも中古でも13年、これらに当たらない「その他の住宅」は10年です。13年の控除がある家で3年間留守にすれば、戻ってから受けられるのは残りの10年分だけになります。
再適用を受けるには、その家に住まなくなる日までに「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」を、家屋の所在地を所轄する税務署へ提出しておく必要があります。出してから引っ越すのではなく、住まなくなる日が期限です。辞令が出た段階で書類の準備を始めてください。あわせて、勤務先からの転任の命令その他これに準ずるやむを得ない事由があることと、控除期間が残っていることが再適用の条件になります。
転勤の住み替えは結局どうする?
転勤での住み替えは、戻る見込み・家族の事情・残債と査定額の3つを当てはめると、2〜3案まで絞り込めます。
自分が置かれた状況ごとに、有力な選択肢と最初に動くべきことを示します。最後は次の一手として、査定で現在地を確かめるところまでつなげます。
単身赴任か家族帯同かを先に決める
家をどうするかの前に、まず単身赴任か家族帯同かを決めると、選択肢が一気に絞り込めます。
家族で移るなら自宅は空くため、売る・貸す・空き家のいずれかが軸になります。家族の生活拠点を移す分、準備することも多くなります。
単身赴任なら家族が住み続けるので、家をそのまま残す前提で考えられます。住宅ローン控除が続く可能性もあり、どちらを選ぶかでその後の選択肢が変わります。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 辞令の直後 | 選択肢を知り、家族帯同か単身赴任かを決める |
| 赴任の1〜2か月前 | 査定を受け、残債と売却見込み額の差をつかむ |
| 方針決定 | 戻る見込みと照らして2〜3案に絞る |
| 赴任まで | 選んだ方針の契約・手続きを進める |
数年で確実に戻るなら空き家か定期借家
数年のうちに確実に戻るなら、空き家のまま残すか、定期借家で貸すのが有力です。
どちらも戻る前提を崩さない、後戻りのきく方法だからです。短い留守なら、空き家のままにしておくのが最も手軽です。
家賃で費用をまかないたいなら、帰任時に確実に明け渡してもらえる定期借家を選びます。まずは留守中の管理をどうするか、家族や管理会社と相談するところから始めます。
戻らない・長期なら売却を軸にする
戻る予定がない、または赴任が長期になるなら、売却を軸に考えるのが現実的です。
戻らない家を持ち続けると、住まない間も維持費だけがかかり続けます。空き家のまま置いておくほど、傷みや管理の手間も増えていきます。
まずは査定で売却の見込み額を把握します。時間に余裕がなければ、価格の下がる買取も含めて比べると判断しやすくなります。
戻れるか未定ならまず査定で残債との差を知る
戻れるかどうかが今は決められないなら、まず査定で残債との差を知り、あとから選び直せる手から始めます。
戻れるか未定の状況は、判断を先送りにしがちで、いちばん迷いやすい場面です。最初にすべきは、住宅ローンの残債と今売れそうな金額のどちらが大きいかを知ることです。査定額が残債を上回るなら売却もしやすく、下回るなら当面は残す方向で考えやすくなります。
迷う間は、あとで方針を変えられる打ち手から入ると安心です。定期借家で貸せば、決めた期間が来たときに、売る・自分が戻る・貸し続けるを選び直せます。一定期間で売れなければ不動産会社が買い取る買取保証も、売却に踏み切れないときの保険になります。
最初の一歩は、複数の会社に査定を依頼して、今の家の価値と残債の差を正確につかむことです。そこが定まれば、残す・貸す・売るのどれを選ぶにしても、迷いが小さくなります。
| 戻る見込み | 有力な選択肢 |
|---|---|
| 数年で確実に戻る | 空き家のまま、または定期借家で貸す |
| 戻らない・長期 | 売却(急ぐなら買取も) |
| 未定 | まず査定で残債との差を確認し、定期借家や買取保証など後戻りできる手から |
売却を軸に動くときに役立つ、お金まわりの次の一歩をまとめました。
まとめ:転勤の住み替えを家族の動きで固めるなら、住み替えのトビラ
転勤で持ち家をどうするかは、家族がいっしょに移るのかどうかで大きく変わります。だれかが今の住まいに残るのであれば、売るか貸すかで悩む必要はありません。
全員で移るなら、全員で移ったときに毎月の負担がいくら増えるのかを出しておきます。誰も住まなくなると受けられなくなる軽減があり、手取りから出ていく額が変わります。
赴任の日が近づく前に、家族が動けるのかどうかを話し合っておきましょう。住み替えのトビラでは、転勤にともなう住まいの決め方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
住み替えのトビラ