マンションを売って賃貸へ移るとき、先に調べるのは新しい部屋を借りるときにかかるお金です。
ただし用意する額はそこでは足りず、売り終わるまで続く今の支払いと重なった月の分だけ増えます。
二重に払う月がどれだけ続くのかを、売りと借りのどちらを先にするかまで含めて説明します。
マンションから賃貸への住み替え初期費用と二重払いの全体像
賃貸の初期費用そのものは敷金・礼金の有無で1.5〜4か月分ほどですが、マンションから賃貸への住み替え(買い替え)で実際に用意すべき金額は、売却が終わるまで続くいまの支払いと重なる「二重払い」の期間で大きく変わります。
この記事では、二重払いをどう小さくするかを軸に、総額の目安、自分に合うタイミングの選び方、費用の内訳と出ていく順、つまずきやすい点の順で見ていきます。
賃貸の初期費用は契約しだいで大きく変わる|「4〜6か月分」は上限側の見方
賃貸へ移るときの初期費用は、契約の条件によって1.5か月分から4か月分ほどまで大きく変わります。「家賃4〜6か月分」という言われ方をしますが、これは敷金も礼金もある契約を前提にした上限側の見方です。
国土交通省の令和7年度住宅市場動向調査(三大都市圏)では、敷金または保証金があった世帯は51.9%、礼金があった世帯は43.1%でした。敷金も礼金もない契約が半分近くあるということです。あった世帯に限ると、月数は敷金・礼金とも「1か月ちょうど」が最も多く、それぞれ64.4%・73.4%を占めます。
費目を積み上げると、次のようになります。
- 敷金1か月+礼金1か月+媒介報酬1.1か月+前家賃1か月 = 4.1か月分
- 敷金なし・礼金なしなら 媒介報酬0.55〜1.1か月+前家賃1か月 = 1.55〜2.1か月分
なお、同じ調査の月額家賃は平均83,381円・中央値74,000円、共益費は平均4,837円です。家賃7.4万円の部屋なら、初期費用は約11万円から約30万円のあいだで動く計算になります。
ただし、この額さえ用意すればよいわけではありません。売却が終わってマンションを引き渡すまでは、いま住んでいる住まいのローンや管理費などの支払いが並行して続きます。そのため、実際に手元へ要るお金は、初期費用よりも大きくなりやすいのです。
いまのマンションの支払いと賃貸費用を並べて見る「二重払い」の正体
本当の負担は、いま住んでいるマンションの支払いと、移る先で始まる費用が重なる期間で決まります。
| いまのマンションで払い続けるもの | 賃貸へ移ると発生するもの |
|---|---|
| 住宅ローンの返済 | 賃貸の初期費用(敷金・礼金の有無で1.5〜4か月分ほど) |
| 管理費 | 毎月の家賃・共益費 |
| 修繕積立金 | 仮住まいの費用(必要な場合) |
| 固定資産税・都市計画税 | |
| 駐車場代など |
左側の支払いが無くなるのは、売却の引き渡し(決済)が終わった時点です。住宅ローンはこの決済でまとめて返済され、管理費や税金の負担も、所有権を手放すことで区切られます。
問題は、右側の賃貸費用がこの決済より前に始まると、両方を同時に払う期間が生まれることです。この重なりが数か月に及ぶか、ほぼゼロで済むかで、住み替え全体で必要なお金は大きく変わります。だからこそ、初期費用の金額そのものよりも、いつ賃貸を始めて、いつ売却を終えるかというタイミングの設計が、総額を大きく左右します。
マンションを売って賃貸へ、売り先行と借り先行の選び方
二重払いと仮住まいは同時には避けにくく、どちらを引き受けるかは主に住宅ローンの残債と手元資金で決まります。
売り先行と借り先行のどちらが正解と、一律には言えません。ここでは2つの進め方のトレードオフを押さえたうえで、自分の条件に照らして選ぶ順序を見ていきます。
売り先行・借り先行のトレードオフと選び方
売り先行は二重払いを避けやすいものの仮住まいが要り、借り先行は仮住まいが要らないかわりに二重払いのリスクを負う、という裏返しの関係です。
売り先行は、先にマンションを売って引き渡してから、賃貸を探して移る進め方です。ローンや管理費はいったん止まりますが、賃貸が決まって入居するまでのあいだ、仮住まいが必要になりやすくなります。短期の賃貸を契約すれば初期費用がもう一度かかり、引っ越しも2回になります。
借り先行は、先に賃貸へ移ってから、空いたマンションを売る進め方です。仮住まいは要らず引っ越しも1回で済みますが、売却が長引くほど、ローン・管理費と新居の家賃を同時に払う期間が延びていきます。
仲介の一般的な案内では、売買契約を結んでから賃貸を申し込む順が勧められることが多く、これは二重払いを抑える売り先行寄りの考え方です。ただ、それが誰にとっても最善とは限りません。仮住まいの手間や費用を避けたい人、売却を急がずじっくり売りたい人には、借り先行のほうが合うこともあります。
住宅ローン残債の有無が判断を最も大きく左右する
住宅ローンの残債が残っているほど二重払いの痛みは大きく、売り先行で時期を合わせたい動機が強くなります。
ローンが残っていると、二重払いの期間はローン返済と家賃が同時にのしかかります。この負担の重さが、借り先行で売却の長期化を抱えるリスクを取りにくくさせます。
もう一つの起点が、売却代金でローンを完済できるかどうかです。売却の見込み額がローン残債を上回る(アンダーローン)なら、売った代金で完済して賃貸へ移りやすくなります。逆に、売っても残債が残る(オーバーローン)場合は、その差額をどう埋めるかを先に決めないと、売却そのものが進めにくくなります。残債と売却の見込み額の関係が、進め方を考える出発点になります。
手元資金・売却の見通し・仮住まいの手間で最終的に決める
残債の次は、二重払いや仮住まいの費用を吸収できる手元資金と、売却の見通し、仮住まいの手間をどこまで許容できるかで決めます。
- 手元資金の余力:二重払い数か月分や仮住まいの費用を、貯蓄から持ち出せるか
- 売却の急ぎ・売れやすさ:早く売れそうな条件なら、借り先行でも二重払いは短く済む
- 引っ越しの手間:2回の引っ越しや荷造りを、体力や年齢の面で許容できるか
- 損得の見きわめ:売り急いで安値で手放すより、多少の二重払いを引き受けたほうが結果的に得な場合もある
これらを見比べると、資金に余裕があって売却を急がないなら、無理にどちらかへ寄せず、時期をずらして重なりを小さくする道もあります。場合によっては、いまは売らずに住み続けるという判断も選択肢に入ります。急いで決めるほど選べる幅は狭まりやすいので、時間の余裕を持てるかどうかを、最初に確かめておきたいところです。
もう一つ、いまのマンションを貸すという道もあります。手放さずに家賃収入を得られれば、新居の家賃と相殺する見方ができ、二重払いの重さも違って見えてきます。ただし、空室で家賃が入らない期間や、入居者の管理・退去時の原状回復といった手間と費用がかかり、住宅ローンが残っている物件はそのまま賃貸に出せない場合もあります。貸せるかどうかや条件は物件やローンの契約しだいなので、金融機関や管理を頼む会社に早めに確かめておきたいところです。
マンションから賃貸への住み替えでかかるお金の内訳と出ていく順番
出ていくお金は「賃貸の初期費用」「仮住まいの費用(必要な場合)」「売却まで続くマンションの支払い」の3つに分かれ、これらが重なる時期に負担の山が来ます。
金額は表で、出ていく順は時系列で押さえると、いつ・いくら手元から出るかが掴めます。ここでは内訳の目安と、二重払いが生まれる期間を順に見ていきます。
賃貸の初期費用の内訳と総額の目安
賃貸の初期費用は、敷金・礼金があるかどうかで1.5か月分から4か月分ほどまで変わります。
| 費目 | 目安 | 根拠 |
|---|---|---|
| 敷金 | 家賃1か月分(あった世帯の64.4%が「1か月ちょうど」)。そもそも無い契約が約5割 | 住宅市場動向調査(令和7年度・三大都市圏) |
| 礼金 | 家賃1か月分(あった世帯の73.4%が「1か月ちょうど」)。そもそも無い契約が約6割 | 同上 |
| 仲介手数料 | 法定の上限は借賃1か月分の1.1倍。居住用の建物では、承諾を得ている場合を除き、借主から受け取れるのは0.55倍まで | 国土交通省告示第1552号 第四 |
| 前家賃 | 家賃1か月分 | 契約による |
| 保証料 | 会社によって決め方が違う | 集計は確認できていない |
| 火災保険料 | 契約による | 集計は確認できていない |
| 鍵交換費用 | 契約による | 集計は確認できていない |
仲介手数料は、告示が上限を定めています。居住用の部屋では、借主が承諾していない限り、借主が負担するのは家賃0.55か月分までです。「1か月分+消費税」を当然のものとして受け取らず、承諾を求められているのかどうかを契約前に確かめてください。
敷金や礼金が無い物件を選べば総額は下がりますし、礼金2か月の人気物件なら上振れします。保証料・火災保険料・鍵交換費用は契約ごとに決め方が違い、まとまった集計は確認できていません。見積もりを受け取ったら、この3つが自分の契約でいくらになるかを個別に確かめてください。
マンションを売った資金でまかなう人が多いものの、売却代金が手元に入るのは決済の後です。初期費用は先に自分の手元から出す前提で見ておくと安心です。
仮住まいになった場合に上乗せされる費用
売却と入居の時期がずれて仮住まいが必要になると、賃貸の初期費用とは別枠で費用が上乗せされます。
- 短期の賃貸(マンスリー・ウィークリー)の費用
- 引っ越しが2回(旧居から仮住まい、仮住まいから新居)
- 荷物を預けるトランクルーム代
マンスリーなどの短期契約は、通常の賃貸より割高になりやすいのが難点です。数週間から数か月でも、初期費用と月額を合わせて、仮住まいだけで数十万円かかることは珍しくありません。引っ越しも2回になれば、その分の費用と手間が二重にのしかかります。
金額は物件や期間で大きく変わる目安ですが、仮住まいが挟まるかどうかで総額が一段変わります。だからこそ、そもそも仮住まいを短くできないか、避けられないかを早めに考えておきたいところです。
お金が出ていく順番と、二重払いが発生する期間
お金は「賃貸の契約時にまとめて初期費用を払い、売却の決済で戻る」順で動き、その間に二重払いの期間が生まれます。
まず賃貸を申し込み、契約するときに初期費用がまとめて出ていきます。仮住まいを挟むなら、短期賃貸の費用もこのタイミングで先に出ます。一方、いま住んでいるマンションの支払いは、売却の決済(引き渡し)が済むまで続きます。決済でローンがまとめて返済され、そこで初めて売却代金が手元に入ります。つまり、先に大きなお金が出ていき、戻ってくるのは後、という順番になります。
マンション側の支払いが「いつ止まるか」も、この流れの中で押さえておきましょう。管理費と修繕積立金は、引き渡し日を境に日割りで精算されるのが一般的で、引き渡し後の分は買主が負担します。固定資産税・都市計画税も、引き渡し日で日割り精算するのが取引上の慣行ですが、これは法律上の義務ではなく、売買契約での取り決めによります。いずれも、所有権を手放す決済日が区切りになります。
二重払いの期間の長さは、前に見た売り先行・借り先行のどちらを選ぶかで変わります。売り先行なら決済の後に賃貸を始めるので重なりは短く、借り先行なら売却が長引くほど重なりが延びます。
マンションから賃貸への住み替えでつまずきやすい費用の落とし穴
つまずきの多くは、「売却が思いどおりに進む」前提で資金計画を立てることから起きます。
時間・費用・手続き・税の特例・入居審査の5つで、余裕と正確さを持っておくと防げます。順に見ていきます。
売却が長引いて二重払いが想定より延びる
マンションは想定どおりに売れるとは限らず、売却が長引くと二重払いや仮住まいが延びて費用が膨らみます。
売り出し価格を強気に設定すると、買い手がつかず売れ残ることがあります。値下げして手取りが減るうえ、売れるまでのあいだ、ローンと家賃(または仮住まい費用)が重なり続けます。
期間の目安として、東日本レインズの集計では、首都圏の中古マンションがレインズに登録されてから成約に至るまでの日数は、2025年で平均82.5日でした(2024年は85.3日、2023年は80.1日)。ただしこれはレインズへの登録日を起点にした平均で、売り出しからでも査定からでもありません。また、何日以内に売れた物件が何%あるかという分布は公表されていないため、「自分は何か月で売れるか」をこの数字から読み取ることはできません。平均の倍かかることも、その逆もありうる前提で、資金に余裕を持たせてください。
だからこそ、二重払いを何か月分か持ち出せる資金の余裕を、最初から資金計画に織り込んでおきたいところです。ぎりぎりの計画だと、売却の遅れがそのまま暮らしの圧迫につながります。
仮住まい・初期費用を抑える現実的な手
初期費用と仮住まいの費用は、物件や進め方の選び方でかなり圧縮できます。
- 敷金・礼金ゼロの物件やフリーレント(一定期間の家賃無料)を選ぶ
- 保証料の安い保証会社の物件を選ぶ
- UR賃貸住宅(礼金・仲介手数料・更新料が不要。入居時に必要なのは敷金=月額家賃の2か月分と日割り家賃、共益費)を検討する
- 仮住まいを短く刻む、または新居へ直行して仮住まいそのものを避ける
これらを組み合わせれば、初期費用は家賃1.5〜2か月分ほどまで抑えられます。ただし、敷金礼金ゼロやフリーレントの物件は数が限られ、短期で解約すると違約金がかかる契約もあります。マンスリーなどの短期賃貸が割高な点も変わりません。安さを優先して選ぶと住み心地や条件で妥協することになりやすいので、優先順位を決めて選びたいところです。金額はいずれも目安で、物件やタイミングで変わります。
住民票の異動と譲渡所得の確定申告
マンションを売って賃貸へ移ると、住民票の異動と確定申告の手続きが必ず絡みます。
引っ越したら、転入届は新しい住所に住み始めた日から14日以内に提出します。これは住民基本台帳法で定められた期限で、正当な理由なく届け出ないと過料の対象になることもあります。
売却で利益(譲渡所得)が出た場合は、翌年に確定申告が必要です。その際、旧居の「住民票の除票」と新住所の住民票が、そこが居住用の家だったことを示す書類として求められることがあります。手続きの面で見落としやすいのが、この書類の準備です。
仮住まいを挟む場合も、そこが生活の本拠になるなら、届出は同じように必要です。「短い期間だから移さなくてよい」という扱いは法律上ありません。届出をどうするか迷うときは、転居先の市区町村の窓口に事情を伝えて確かめてください。住民票と申告は個別の事情で判断が分かれるため、譲渡所得の申告は税理士、登記や書類の準備は司法書士に相談すると安心です。
賃貸へ移っても使える3,000万円特別控除
マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除は、買い替えをしなくても、つまり賃貸へ移る場合でも使えます。
正式名称は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」です。自分が住んでいた家を売ったときに、譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける制度で、買い替えは要件になっていません。だから、マンションを売って賃貸へ移るこの住み替えでも対象になります。「家を買わないから税の特例は関係ない」と思い込んで、申告で損をするのは避けたいところです。
混同されやすいのが「買換え特例」で、こちらは新居の購入が要件のため、賃貸へ移る場合には使えません。名前は似ていても別の制度で、3,000万円の特別控除のほうは、購入がなくても適用できます。主な要件は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなどです。控除額の計算や細かな適用要件、申告の進め方は個別性が高いので、税理士に相談しながら進めると安心です。
出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除の特例
高齢での賃貸入居審査という見落としがちな壁
マンションを所有していた人ほど見落としがちですが、賃貸は入居審査でつまずくことがあります。
定年後で年金が主な収入だったり、退職して無職の期間があったりすると、賃貸の入居審査や保証会社の審査が通りにくくなることがあります。長く持ち家に住んでいると審査を受ける機会自体がなく、意外な壁になりやすいのです。
対処の方法はいくつかあります。連帯保証人を立てる、審査基準のゆるやかな保証会社の物件を選ぶ、預貯金や資産の残高を示して支払い能力を補う、といったやり方です。UR賃貸住宅では、収入が基準に届かない場合でも、家賃額の100倍の貯蓄があればそれに代えられます。基準月収額は、単身なら家賃62,500円未満で家賃額の4倍、62,500円以上20万円未満で25万円、20万円以上で40万円です。高齢者・障がいのある方・父子母子世帯・満18歳以上の学生は、収入が基準月収額の2分の1に満たない場合でも申し込めます。持ち家からの住み替えでは、資金の準備に加えて「借りられるか」も早めに確かめておきたいところです。審査の可否や基準は、保証会社や物件によって異なります。
まとめ:二重に払う月まで数えて賃貸へ移るなら、住み替えのトビラ
マンションから賃貸へ移るときは、借りるときのお金に、二重に払う月の分を足して用意します。借りるときのお金だけを見ていると、売れるまでの家賃と住宅ローンが手元から抜けていきます。
足すには、売れるまでにどれくらいかかりそうかを先に調べます。すぐ売れる前提で資金の計画を組むと、延びた月の分をそのまま持ち出すことになります。
部屋の契約に進む前に、売れるまでの見込み期間を調べてみてください。住み替えのトビラでは、売りと借りのどちらを先にするかも含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
住み替えのトビラ 
