退職金で住み替え(買い替え)|老後資金を守る配分と資金計画の考え方

退職金で住み替え|老後資金を守る配分と資金計画の考え方

定年前後にまとまって受け取る退職金は、住み替え(買い替え)の心強い原資である一方、使い方をやり直せない一回きりのお金です。

ただし全額を住み替えへ回す前に、暮らしの不足分や急な出費への備えなどを見込んで手元に残す額を先に決めると、使いすぎを防げます。

退職金の配り方と売却益の見積もり、新居の買い方、そして見送るときの判断まで説明します。

退職金を住み替えに使う前に押さえる「3つの使い道」と配分の考え方

退職金は住み替えの原資になりますが、全額を住み替えに充てる前提では考えないことが出発点です。

退職金は、いちど使い方を決めると、やり直しのきかない一回性のお金です。住み替えの費用、残債があればローンの完済、そして老後に手元へ残す生活資金という複数の行き先で取り合いになります。この章では、その使い道の枠組みと、いくらを住み替えに回してよいのかという配分の考え方を整理します。

退職金を「住み替え・ローン完済・手元資金」のどこに振り分けるか

退職金の使い道は、大きく「住み替え費用」「既存ローンの完済」「老後の手元資金」の3つの方向に分かれます。

住み替えを選ぶなら、この3つのバランスで考えることが欠かせません。新居の購入や引っ越しにいくら充てるか、いま残っている住宅ローンを完済に回すか、そして老後の生活のために手元へいくら残すか。どれか1つに寄せすぎると、ほかの行き先が痩せてしまいます。

  • 住み替え費用:新居の購入資金、引っ越し、諸費用
  • 既存ローンの完済:いま残っている住宅ローンの繰上げ返済
  • 老後の手元資金:日々の生活費の補填や、予測外の出費への備え

なお、いま残っている住宅ローンを退職金で完済すべきかどうかは、繰上げ返済で利息をどれだけ抑えられるか、団体信用生命保険の保障が消える点をどう見るかなど、単体で丁寧に考える論点です。この記事では完済も選択肢の一つとして触れるにとどめ、損得の詳しい判断は完済を扱う記事に譲ります。

まずは、退職金を1つの使い道に全部つぎ込むのではなく、3つの行き先に配る前提を持つこと。ここが住み替えの資金計画の出発点になります。金額をどう見積もるかは、このあと順に見ていきます。

退職金で住宅ローンを完済すべきか|損得を分ける4つの判断軸 退職金で住宅ローンを完済すべきか|損得を分ける4つの判断軸

老後に手元へ残すべき額(必要ライン)の考え方

住み替えの金額を決める前に、まず「老後に手元へ残しておきたい額」という物差しを先に立てておきます。

年金だけの暮らしでは、毎月の生活費に対して収入が届かず、貯蓄を少しずつ取り崩す家計になりやすいのが実情です。手元に残すべき額は「毎月の不足額 × 12か月 × 見込む年数」で出せます。毎月の不足額は、家計の実額(年金の受給見込み額と、住居費を含む生活費)から自分で出してください。年数の目安には平均余命が使えます。令和4年簡易生命表では、65歳時点の平均余命は男性19.44年、女性24.30年です。たとえば毎月の不足が3万円で20年なら720万円、5万円で25年なら1,500万円になります。金額そのものより、この式に自分の数字を入れることが必要ラインを立てる骨格になります。

ただし、生活費も年金額も人によって大きく異なります。持ち家か賃貸か、車を持つか、趣味や交際にどれだけ使うかで、毎月の不足額はまるで違ってきます。ここで挙げた数字はあくまで考え方を示すための目安であり、ご自身の家計に当てはめて見積もることが前提です。

マンションへ住み替える場合は、毎月の生活費とは別に、管理費と修繕積立金という固定費が老後もずっと続く点を、必要ラインに織り込んでおきたいところです。これらは住んでいるかぎりかかり、修繕積立金は将来の見直しで上がることもあります。新居がマンションなら、この毎月の固定費も家計の前提として見込んでおくと、必要ラインの見積もりがぶれにくくなります。

なお、戸建てへ移れば管理費や修繕積立金という形の毎月の支払いはなくなりますが、そのぶん屋根や外壁などの修繕費は自分で積んで備える必要があります。維持費が「毎月決まって出る」か「自分で積んで、いつか大きくまとめて出る」かという質の違いがあるだけで、備えそのものが要る点は変わりません。ここでは深く立ち入らず、住み替え先の維持費の型を頭に入れておく、という点だけ押さえておきます。

さらに、日々の生活費とは別枠で、予測しづらい出費への備えも見ておきたいところです。大きな病気や介護、住まいの修繕、家電や車の買い替えなどは、いつ・いくら必要になるか読みにくく、それでもまとまった額が出ていきます。生活費の不足分とは分けて、この予備の枠も必要ラインに含めておくと安心です。

こうして「老後に手元へ残すべき額」を自分なりに見積もっておくと、退職金のうちどこまでを住み替えに回せるかを測る物差しができます。この物差しを使って住み替えを見送るかどうかを判断する話は、記事の後半で改めて扱います。

必要ラインを確保した「残り」を住み替えにどう配分するか

住み替えに回してよいのは、老後の必要ラインを先に確保したうえでの「残り」です。

順番が大切です。退職金と今のマンションの売却益を合わせた原資から、まず老後に残すべき必要ラインを差し引く。そのうえで残った額が、住み替えに使える上限になります。先に住み替えの希望額を決めてから逆算するのではなく、手元にいくら残したいかを起点にして、住み替えに回せる額を導く考え方です。

この順序で見ておくと、「気に入った物件があったから予算を上げた」といった流れで、老後の備えまで削ってしまう事態を避けやすくなります。住み替えは、必要ラインを守った枠の中で組み立てる。これが、退職金を使いすぎないための基本の原則です。

原資を実際にいくら作れるかは、今のマンションがいくらで売れるかによっても変わります。その金額の組み立て方を、次の章で見ていきます。

退職金と自宅の売却益で住み替え資金はいくら作れるか

住み替えの原資は、退職金に加えて、いまの自宅であるマンションの売却益と合わせて考えます。

退職金をまるごと住み替えに使わずに済むかどうかは、今のマンションがいくらで売れるかに大きく左右されます。売却益が厚ければ退職金の持ち出しは少なく済み、薄ければ退職金からの補填が増えます。この章では、住み替えに使える原資をどう組み立てるかを整理します。

今のマンションの「売却益」と退職金から諸費用を引いた額が実際に使える原資

実際に住み替えへ使える原資は、今のマンションの売却で手元に入るお金と、退職金から必要ラインを除いた額を足したものです。

マンションの売却で手元に入るお金は、売れた価格そのものではありません。売却価格から、残っている住宅ローンの残債、仲介手数料、譲渡益にかかる税金といった諸費用を差し引いた額が、実際に手元へ残ります。ここに、退職金から老後の必要ラインを引いた残りを合わせたものが、住み替えに充てられる原資です。

マンションは、同じ建物や近隣の似た物件の成約事例を参照しやすく、立地の良し悪しが価格に映りやすいといわれます。一方で、同じマンションでも階数や向き、リフォームの履歴、築年数、そして管理状態や修繕積立金の積み立て具合によって、査定額には幅が出ます。売却価格が保証されるものではないため、原資を見積もるときは「このくらい」という目安で幅を持たせ、低めに見ておくくらいが安全です。

自宅の査定や売却時の費用・税金の具体的な計算は、それだけで踏み込んだ内容になります。ここでは原資の組み立て方を押さえるにとどめ、詳しい査定や費用の見方は別の記事で扱います。

不動産売却の一括査定サイトおすすめ7選|選び方と組み合わせ方 不動産一括査定サイトのおすすめを「元・査定サイトの中の人」が徹底比較してみた

売り先行なら使える金額を確定してから新居を決められる

住み替えの原資を固めてから動きたいなら、今のマンションを先に売る「売り先行」が向いています。

売り先行は、自宅の売却で手元に入る金額を確定させてから、新居を選ぶ進め方です。使える原資がはっきりしてから予算を組めるので、退職金をどこまで足すかの計算も立てやすくなります。資金計画を崩したくない定年前後の住み替えとは、相性の良い順番です。

逆に、新居を先に買う「買い先行」では、自宅がまだ売れていない間、新旧2つの住まいの費用が重なる時期が生じます。既存ローンが残っていれば返済が二重になり、その負担を退職金や貯蓄で一時的に立て替える形になりがちです。定年前後は現役時代より収入が細るため、このつなぎの負担は重くのしかかります。

もちろん、売り先行にも仮住まいが必要になるといった手間はあります。どちらの順番で進めるか、その具体的な流れは別の記事で詳しく扱いますが、退職金を守る観点からは、使える金額を先に確定できる売り先行が無理のない選び方といえます。

新居は現金で買うか、シニア向け住宅ローンを使うか

新居を現金で買うかローンを使うかは、金利の損得よりも、手元にいくら現金を残せるかで判断します。とはいえ、ローンを使うといくら増えるかは押さえておいてください。前提にする金利は次のとおりです。

【フラット35】2026年8月適用の金利 年3.290%(借入期間21年以上35年以下・融資率9割以下・新機構団信付き)

金利は毎月変わるため、実際の借入時の金利で確認してください。この金利・元利均等で借入1,000万円あたりを見ると、20年なら毎月56,923円で総返済は借入額の1.366倍、25年なら48,943円で1.468倍、30年なら43,740円で1.575倍、35年なら40,122円で1.685倍です。期間を10年延ばすと毎月の負担は下がりますが、総返済は借入額の0.2〜0.3倍ぶん増えます。60代で組むなら期間の上限(フラット35なら「80歳−申込時の年齢」と35年の短いほう)で自動的に短くなるため、毎月の負担のほうが先に効いてきます。

退職金で現金購入すれば利息はかかりませんが、その分だけ手元の現金は薄くなります。ローンを使えば手元の現金は厚く保てますが、返済が老後も続きます。このトレードオフをどう見るかが判断の分かれ目です。なお、ここで扱うのはあくまで新居をどう買うかであり、いま残っているローンを完済するかどうかとは別の話です。

現金購入は利息ゼロだが手元資金が薄くなるリスクがある

現金で新居を買う最大の利点は、利息がまったくかからないことです。

住宅ローンを組めば、借入額に応じて数百万円単位の利息を負担することもあります。現金購入ならこの利息がゼロになり、ローン審査も不要で、老後に返済を抱える不安もありません。返済のプレッシャーから解放される安心感は、現金購入の確かな強みです。

一方で、退職金を新居の購入に振り向けるほど、手元に残る現金は薄くなります。前の章でみたように、老後には大きな病気や介護、住まいの修繕といった予測しづらい出費が控えています。新居がマンションなら、これに管理費や修繕積立金といった毎月の固定費も重なります。手元の現金が乏しいと、こうした場面でお金が足りず、生活を切り詰めたり資産を慌てて手放したりしかねません。

だからこそ、現金購入を考えるときの軸は「利息を払わずに済む安心」よりも「手元現金の厚み」に置くことをおすすめします。利息を惜しんで現金を使い切るより、多少の利息を払ってでも手元に余力を残すほうが、老後の暮らしは守りやすくなります。

60代でも組めるシニア向け住宅ローン・リ・バース60という選択肢

60代でローンを検討するなら、シニア向けの住宅ローンや「リ・バース60」という選択肢があります。

一般の住宅ローンには、完済時の年齢に上限があります。国土交通省が毎年行っている民間住宅ローンの実態調査(令和7年度)では、994機関のうち978機関(98.4%)が完済時年齢を審査項目にしていて、その内訳(複数回答)は80歳未満が716機関、85歳未満が65機関、75歳未満が42機関、70歳未満が5機関、「なし」が2機関、「その他」が158機関でした。最も多いのは「80歳未満」ですが、「その他」が158機関あるとおり単一の線ではありません。なお、この調査は金融機関が申告した審査項目を集計したもので、実際に融資が実行された案件の完済時年齢の分布ではありません。60代で組むと借入期間が短くなりがちで、期間が短いほど毎月の返済額は重くなるため、現役世代と同じ感覚では借りにくいのが実情です。

その代わりとして用意されているのが、住宅金融支援機構が民間金融機関と提携して提供する「リ・バース60」です。満60歳以上の方向けの住宅ローンで、毎月の支払いは利息のみとなり、元金は契約者が亡くなったときに、相続人による一括返済か、担保物件(住宅と土地)の売却によって返済する仕組みです。毎月の負担が利息だけで済むため、年金収入でも返済を続けやすい設計になっています。

担保物件は「住宅と土地」で評価されますが、マンションの場合は、その住戸が持つ土地の持分(敷地権)と建物を合わせて担保として見る形になります。マンションでもリ・バース60を利用できますが、担保としてどう評価されるか、そもそも取扱いの対象になるかは、金融機関や物件によって異なります。自分のマンションで使えるか、いくらまで借りられるかは、取扱いのある金融機関に確認するのが確実です。

融資の限度額は、担保評価額(住宅および土地)の50%または60%が上限で、長期優良住宅で満60歳以上の場合は55%または65%まで、いずれも1億2,000万円以内かつ必要な資金の範囲内とされています。満50歳以上満60歳未満で利用する場合は担保評価額の30%です。「50〜60%」という幅ではなく、50%か60%かの2択である点に注意してください。また、担保物件を売却しても債務が残った場合に、相続人が残りを返済しなくてよい「ノンリコース型」も選べます。2025年度に申請のあった案件では、ノンリコース型が99.8%を占めました。実際の利用の姿は、2025年度の申請戸数が1,293戸・実績戸数が1,225戸、申込者の平均年齢70.1歳、平均年収404万円、平均融資額1,561万円、毎月の平均支払額4.6万円です。「住宅または住宅ローンを必要とする理由」で住替えを挙げたのは10.4%でした。なお、融資割合や上限額を含む商品内容は金融機関ごとに異なります。

この仕組みは、向き不向きがはっきり分かれます。元金が最終的に住まいの売却で返る前提のため、家を子に相続財産として残したい人には慎重な検討が要ります。逆に、家を最後まで自分たちの住まいとして使い切る考えなら、無理のない選択肢になります。利用できる年齢や資金の使いみち、限度額などの細かな条件は金融機関ごとに異なるため、実際の借入れは取扱いのある金融機関で確認してください。

出典: 住宅金融支援機構 リ・バース60

手元資金を厚く保ちたいなら「一部ローン」で分散する考え方

全額を現金で払うか、全額をローンで賄うかの二択で考える必要はありません。

退職金の一部を頭金に充て、残りをローンで組む「分散」という折衷案があります。頭金を入れることで借入額と利息を抑えつつ、手元にはまとまった現金を残せます。利息負担と手元資金の余力、その両方をほどよく取りにいく考え方です。

ここでも軸になるのは、前の章で立てた配分の原則です。老後に手元へ残すべき必要ラインを先に確保し、そのうえで住み替えに回せる額の中から、いくらを頭金にしていくらをローンにするかを決めていきます。手元にどれだけ現金を残したいかを起点に逆算すれば、現金一括か全額ローンかという極端に寄らず、自分の家計に合った配分に落とし込めます。

住み替えで使える税の優遇と退職金にかかる税

住み替えでは、自宅の売却益にかかる税と退職金にかかる税の両方を押さえると、手元に残る額を正しく読めます。

税の扱いを知らないままだと、使える原資を多く見積もりすぎたり、逆に必要以上に少なく見たりしがちです。この章では、住み替えで使える主な税の優遇を整理します。ただし、適用できるかどうかは個々の状況で変わるため、実際の判断は税理士に相談することをおすすめします。

住み替えローンは使えるか・使うべきか|売却額と残債で自分で判断する 住み替えローンは使えるか・使うべきか|売却額と残債で自分で判断する

自宅の売却益は「3,000万円特別控除」で税負担を抑えられる

マイホームを売って利益が出ても、「3,000万円特別控除」を使えば、譲渡所得から最高3,000万円まで差し引けます。

この特例は、住んでいた自宅(居住用財産)を売ったときに使え、所有期間の長短を問わず適用できます。売却益が3,000万円までなら、この控除によって譲渡所得への税負担をゼロに近づけられるため、住み替えでは影響の大きい優遇です。マンションの売却でも、住んでいた住戸であれば同じように対象になります。

ただし、使えないケースもあります。買換え特例など他の特例と併用できず、親子や夫婦といった特別の関係がある人への売却は対象外です。前年・前々年にこの特例をすでに受けている場合も使えません。また、新居で住宅ローン控除を使うつもりなら、併用の制限に注意してください。住宅ローン控除の側の要件では、居住した年およびその前2年、その後3年の計6年間に、3,000万円特別控除などの譲渡所得の課税の特例を受けていないことが条件になります。起点は売却の年ではなく、新居に住み始めた年(居住年)です。適用できるかどうかは条件を1つずつ確認する必要があります。

出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例(3,000万円の特別控除)

買い換えるなら「買換え特例」で課税を先送りできる場合がある

一定の要件を満たすと、「特定のマイホームの買換え特例」で、自宅の売却益への課税を将来に繰り延べられる場合があります。この特例が使えるのは、令和9年(2027年)12月31日までの譲渡です。令和8年度の税制改正で、それまでの令和7年12月31日から2年延長されました。譲渡資産の側の要件は、居住期間10年以上、売った年の1月1日で所有期間10年超、売却代金1億円以下です。

このほか、買い換える建物の床面積や土地面積にも要件があります。要件が細かいため、自分が当てはまるかは慎重な確認が要ります。

大切なのは、これが非課税ではなく「先送り」だという点です。売却益への税金がなくなるわけではなく、買い換えた新居を将来売るときまで課税が繰り延べられる仕組みです。3,000万円特別控除とは併用できず、どちらを選ぶほうが有利かはケースによって変わります。なお、国税庁のタックスアンサーNo.3355 は2026年8月時点で改正前の「令和7年12月31日」表示のままです。

出典: 国税庁 No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例

退職金自体は「退職所得控除」で税負担が軽くなっている

退職金は「退職所得控除」によって、給与などよりも税負担が軽くなる設計です。

退職金にかかる税は、まず受け取った額から退職所得控除を差し引き、さらに残りを2分の1にした額に対して計算されます。この控除額は勤続年数で決まり、長く勤めた人ほど大きくなります。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

たとえば勤続38年なら、控除額は800万円に70万円×18年を加えた2,060万円となり、この額までの退職金には税金がかかりません。控除を超えた分も2分の1にしてから課税されるため、退職金の手取りは額面の印象より目減りが小さく収まります。住み替えの原資を見積もるときは、この控除を踏まえて手取りベースの退職金を把握しておくと、計算がぶれにくくなります。

出典: 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)

退職金を使ってまで今住み替えるべきか、見送り・縮小の判断

退職金を使うと老後の手元資金が必要ラインを割る場合は、今の住み替えを見送る・縮小するのも合理的な判断です。

住み替えは目的であって、義務ではありません。退職金を守ることを優先して、住み替えの時期を遅らせたり規模を抑えたりする選択も、対等な選択肢です。この章では、どんなときに見送り・縮小を考えるとよいかを整理します。

住み替えで老後資金が必要ラインを割るなら見送り・先送りも選択肢

住み替えの支出で老後に手元へ残る資金が必要ラインを割り込むなら、見送りや先送りが理にかなった判断になります。

前の章で立てた必要ラインは、ここで使う物差しになります。退職金と売却益を合わせた原資から住み替えの費用を払ったあと、手元に残る老後資金がその物差しを下回るなら、住み替えはいったん立ち止まって考えるべきサインです。時期を数年遅らせて貯蓄や退職金の運用で備えを厚くする、規模を縮小して支出を抑える、あるいは今のマンションをリフォームして住み続けるという判断が、老後の安心につながります。

もちろん、必要ラインを十分に確保できるなら、住み替えに踏み切ってかまいません。大事なのは、住み替えたい気持ちを優先して物差しを甘くしないことです。人によって家計も価値観も違うため、答えは一つではありません。自分の必要ラインに正直に照らして、無理のない範囲かを見極めることが、後悔しない選択につながります。

予算を抑える住み替え(コンパクトなマンション・立地見直し・賃貸)で退職金を守る方法

希望どおりの住み替えでは原資が足りないときは、退職金の持ち出しを抑える方向へ計画を見直します。

前の章で組み立てた原資(今のマンションの売却益と退職金の残り)が、希望する住み替え費用に届かないこともあります。そんなときは、住み替え自体をあきらめる前に、支出を抑える工夫で退職金を守る道があります。

  • 住まいを小さくする:夫婦2人に合ったコンパクトなマンションに移り、価格と管理費・修繕積立金を含む維持費を下げる
  • 立地やエリアを見直す:今より価格の落ち着いた地域や近隣の物件へ移り、購入費用を抑える
  • 購入から賃貸へ切り替える:今のマンションを売って賃貸に移り、売却益を老後資金や運用に回す

これらは妥協というより、「退職金を守る」ことを軸にした計画の見直しです。たとえば購入をやめて賃貸に切り替えれば、まとまった購入資金を使わずに済み、売却益をそのまま老後の手元資金に残せます。家賃という支出は続きますが、その分だけ大きな現金を手元に確保できます。

今より小さいマンションに移れば、購入費用に加えて、毎月の管理費や修繕積立金、固定資産税や光熱費といった維持コストも下げやすくなります。価格の落ち着いた地域へ範囲を広げれば、同じ予算でも広さや築年数の面でゆとりある物件を選びやすくなります。いずれも、住み替えの満足度を大きく損なわずに退職金を守る現実的な手立てです。

どの方向が合うかは、その後の暮らし方や家族の状況によって変わります。賃貸への切り替えや、コンパクトな住まい・別の地域への住み替えは、それぞれに検討すべき点があるため、詳しくは個別の情報にあたって判断してください。共通するのは、退職金を守ることを優先しつつ、住み替えの満足度も両立させる落としどころを探る姿勢です。

まとめ:退職金を残しながら住み替えるなら、住み替えのトビラ

退職金を使った住み替えでつまずくのは、先に新居の予算を決めてしまうときです。順番を逆にして、老後に手元へ残す額から決めていきます。

残す額から決めるには、今のマンションが売れる額まで含めて、住み替えへ回せる上限を先に出します。上限のないまま探し始めると、気に入った1件に合わせて備えを削ってしまいます。

物件を見に行く前に、老後に残す額と今の住まいの値打ちを並べておきましょう。住み替えのトビラでは、退職金の使い道の割り振りも含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。