「老後資金は2,000万円」とよく耳にしますが、家賃のかからない持ち家がある場合、本当にそれだけ必要なのか気になるところです。
持ち家があると、賃貸に比べて毎月の支出は軽くなりやすい一方、税金や修繕という続く負担もあります。
この記事では、住み替えのトビラが、単一の金額を覚えるのではなく、自分の支出・収入・持ち家のコスト・資産価値から必要額を逆算する考え方を、順を追って解説します。
老後資金は持ち家ありでいくら必要か(考え方の全体像)
持ち家ありの老後資金に「これだけあれば安心」という単一の正解額はなく、自分の支出・年金・持ち家のコストから逆算するのが当てはめ方です。
この章では、まず金額の全体像と、自分で計算するための考え方を扱います。持ち家は家賃がかからない分だけ必要額を軽くする一方で、固定資産税や修繕といった続く負担もあり、その具体は次の章で見ていきます。
「2,000万円」は誰にでも当てはまる数字ではない
「老後資金2,000万円」は、平均的なモデル世帯を前提にした試算であって、すべての人の必要額ではありません。
この数字のもとは、2019年に公表された金融庁(金融審議会 市場ワーキング・グループ)の報告書「高齢社会における資産形成・管理」です。報告書では、夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯で、毎月の収入と支出の差が平均で約5万円の赤字になると仮定しました。この赤字がこの先20〜30年続くとすれば、不足額の合計は単純計算でおよそ1,300万〜2,000万円になる、という試算です。
つまり2,000万円は「毎月の赤字がいくら続くか」という前提を積み上げた結果の数字にすぎません。世帯の支出水準や年金額、寿命の見込みが変われば、必要額は大きく上下します。赤字がもっと小さい世帯もあれば、年金が手厚く赤字が出ない世帯もあります。だからこそ、この額をそのまま自分の目標にするのではなく、あくまで一つの目安として受け止めるのが安全です。
出典: 金融庁 金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書「高齢社会における資産形成・管理」の公表について
必要額は「支出−年金など収入=毎月の不足」で決まる
必要な貯蓄額は「毎月の不足額 × 老後の年数 + 一時的な大きな支出」でおおよそ掴めます。
計算の入り口は、毎月の家計を「出ていくお金」と「入ってくるお金」に分けることです。次の2つを並べて、その差を出します。
- 支出:食費・光熱費・通信費・保険・医療・交際費など毎月の生活費に、持ち家の固定資産税や修繕の備えを加えたもの
- 収入:公的年金(夫婦の合計)に、あれば個人年金・企業年金・働いて得る収入などを加えたもの
支出から収入を引いた差が、毎月の不足額です。この不足が老後に何年続くかを掛け合わせると、貯蓄で埋めるべきおおよその金額が見えてきます。たとえば毎月3万円の不足が25年続くなら、3万円 × 12か月 × 25年で約900万円という具合です。金融庁の試算はこの計算を「約5万円 × 20〜30年」で行ったものにあたります。
ここに、毎月の生活費とは別枠で、一時的な大きな支出を足します。介護が必要になったときの費用や、後の章で触れる屋根・外壁・水回りの修繕、バリアフリー化などがこれにあたります。毎月の家計とは性質が違うので、別に予備費として見込んでおくと計算がぶれません。
なお、毎月の生活費そのものの実額は、総務省の家計調査などで水準を知ることができます。ただし世帯の暮らし方によって幅が大きいため、公表値は「よその平均」という目安にとどめ、自分の家計簿の数字に置き換えて計算するのが確かです。
持ち家だから軽くなるお金・かかり続けるお金
持ち家は家賃ゼロが最大の強みですが、税金・修繕・(マンションなら)管理費という続く負担を、老後資金にきちんと織り込んでおく必要があります。
前の章で触れた「持ち家は必要額を軽くも重くもする」を、ここでは具体的な金額の目安に落として見ていきます。まず軽くなる面から確認し、続いて重くなる面を順に見ていきます。
家賃がかからない分、毎月の支出は賃貸より軽くなりやすい
持ち家の最大の強みは、老後に家賃という毎月の固定支出を負わない点です。
賃貸で暮らすと、収入が年金中心になっても家賃は毎月かかり続けます。仮に月8万円の家賃なら、25年で2,400万円という大きな金額になります。持ち家でローンを完済していれば、この毎月の支払いがまるごと不要になり、その分だけ用意すべき貯蓄が軽くなります。
ただし、家賃がゼロになっても住まいの費用がまったくかからないわけではありません。次に見る固定資産税や修繕費が、家賃の代わりとまではいかなくても一定の負担として残ります。持ち家の身軽さは、この続くコストを差し引いて考えるのが現実的です。
固定資産税は住み続ける限り毎年かかる
持ち家は住み続ける限り、固定資産税(地域によっては都市計画税も)が毎年かかります。
住宅ローンを完済しても、この税金は消えません。ローンが終われば住居費はゼロと考えてしまいがちですが、税金という形で負担は続きます。老後の家計に、この毎年の出費を必ず入れておきましょう。
負担がやわらぐ仕組みもあります。人が住むための土地には「住宅用地の特例」があり、課税のもとになる評価額が軽くされます。総務省の説明では、200㎡以下の部分(小規模住宅用地)は評価額の6分の1に、200㎡を超える部分は3分の1になります。この特例があるため、更地よりも住宅が建っている土地のほうが税は軽く抑えられています。
年額そのものは、土地や建物の評価額、地域によって大きく変わるため、一律にいくらとは言えません。数万円で収まる家もあれば、十数万円かかる家もあります。手元の納税通知書で自分の家の実額を確認し、それを老後の毎年の支出に組み込むのが正確です。
出典: 総務省 地方税制度 固定資産税
修繕・リフォームは老後の間に数回まとまった出費になる
老後の20〜30年の間には、屋根・外壁・水回りなどでまとまった修繕費が数回発生する可能性があります。
戸建ては築年数が進むほど、外壁の塗り替えや屋根の葺き替え、給湯器・水回りの交換といった大きな工事の時期がやってきます。毎月少しずつではなく、あるとき数十万円から百万円規模でまとまって出ていくのが修繕費の特徴です。金額は建物の広さや工事の内容で幅が大きいため、いくらと決めつけず、老後資金とは別に「修繕の予備費」として見込んでおく考え方が役立ちます。
加齢に伴う改修も、この一時的な支出に入ります。手すりの設置や段差の解消、浴室の改修といったバリアフリー化は、長く住み続けるほど必要になりやすい工事です。健康なうちは思い浮かびにくい費用ですが、老後の住まいを考えるうえでは早めに視野へ入れておくと計画が立てやすくなります。
マンションは管理費・修繕積立金が毎月続く
マンションは戸建てと違い、管理費と修繕積立金が毎月かかり続けます。
戸建てにはないこの固定費が、老後も毎月出ていきます。ローンを完済しても管理費・修繕積立金の支払いは残るため、家計に必ず織り込んでおきましょう。金額は物件の規模や築年数で変わり、一律には言えません。
注意したいのは、修繕積立金が築年数とともに上がっていく傾向がある点です。新築時は低めに設定され、大規模修繕の時期に合わせて段階的に引き上げられることが多く、老後に負担が増える場面もあります。戸建ては修繕費がまとまって不定期に出るのに対し、マンションは毎月ならして払う——維持費のかかり方が両者で違う点を押さえておくと、必要額の見積もりがぶれにくくなります。
持ち家という資産を老後資金に変える選択肢
貯蓄だけでは足りない場合でも、持ち家は「お金に換えられる資産」であり、住み替え・借入れ・売却など使い方に幅があります。
ここでは、それぞれの選択肢の仕組みと、向き・不向き、気をつけたい点を見ていきます。売ることだけが答えではなく、住み続けながら資金を得る方法もあります。自分の暮らし方に合うものを選べるよう、順に整理します。
住み替えで“家の差額”を老後資金にする
今の家を売り、価格を抑えた住まいへ移れば、その差額を老後資金に回せます。
たとえば子どもが独立して使わない部屋が増えた広い戸建てから、駅に近いコンパクトなマンションへ移るケースです。仮に3,000万円で売れた家から2,000万円の住まいへ移れば、差額の1,000万円ほどが(諸費用を除いて)手元に残り、老後の生活費や予備費に充てられます。
住み替えには、差額のほかにもう一つの効果があります。住まいが小さくなれば、固定資産税や修繕費、光熱費といった維持費も下がりやすく、毎月の家計そのものが軽くなります。前の章で見た「かかり続けるお金」を抑えられるのは、住み替えならではの利点です。
ただし、売却には仲介手数料や引っ越し、税金などの費用もかかり、いくら手元に残るかは家の売値しだいで変わります。売却の流れや費用の見積もりは、次のリンク先でくわしく確認できます。
自宅を担保に借りる(リバースモーゲージ・リ・バース60)
自宅に住み続けたまま、その自宅を担保にお金を借りる方法もあり、代表例が住宅金融支援機構の「リ・バース60」です。
仕組みはこうです。毎月の支払いは利息のみで、借りた元金は返しません。元金は契約者が亡くなったときに、相続人が一括で返すか、担保にした自宅を売って返します。さらに「ノンリコース型」を選べば、自宅の売却額が元金に届かなくても、相続人が残りの債務を返す必要はありません。自宅を残すよりも、自宅を活かして老後の資金をつくりたい場合に検討される仕組みです。
ここで最も気をつけたいのが、資金の使いみちに制限がある点です。リ・バース60で借りたお金は、住宅の建設・購入・リフォームや、住宅ローンの借換え、サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金などに使う商品で、住宅金融支援機構は「生活資金にはご利用できません」と明記しています。つまり「老後の生活費に自由に使えるお金を、自宅を担保に借りられる商品」ではありません。ここを取り違えると、想定と違う使い方ができず困ることになります。
利用できる年齢や金利、細かな条件は取り扱う金融機関ごとに異なります。ノンリコース型で返済が不要になった債務にも税金がかかる場合があるなど、注意すべき点もあります。検討する際は、自分が使いたい目的にそもそも使える商品なのかを含め、金融機関の窓口で条件をよく確かめることが大切です。
出典: 住宅金融支援機構 リ・バース60
売って賃貸に住み替える・リースバックで住み続ける
持ち家を売って資金に換えつつ、賃貸へ移るか、リースバックで同じ家に住み続けるか、という選び方もあります。
一つは、家を完全に手放して賃貸へ移る方法です。売却でまとまった資金を得られる代わりに、その後は毎月家賃がかかります。身軽になり、住まいの修繕や税金の心配から解放される一方、家賃という新しい固定費が生まれる点を家計に織り込む必要があります。
もう一つがリースバックです。これは自宅を売って資金を得たあと、その家を買主から借りて、同じ家に住み続ける方法です。引っ越さずに現金化できるのが利点ですが、売却後は家賃を払うことになり、総額で見ると割高になりやすい面があります。買い取る価格や家賃の条件は買主によって差が大きいため、複数の条件を比べて慎重に判断するのが安心です。手放して移るか、住み続けるか——同じ「売る」でも、その後の暮らし方が変わります。
どの選択肢も「自宅がいくらか」を知ることから始まる
どの選択肢を選ぶにも、まず自宅がいくらで売れそうか(担保としていくらと評価されそうか)を把握することが出発点です。
住み替えで得られる差額も、担保にして借りられる額も、リースバックで受け取れる資金も、すべて自宅の価値が土台になります。土台となる金額がわからないままでは、どの方法が自分に合うかを比べようがありません。まずは今の自宅がどのくらいの価値を持つのかを掴むことが、判断の前提になります。
自宅の価値を知る手がかりになるのが、不動産会社への査定です。複数社に価格の目安を出してもらえば、売却や資金化を具体的に考える材料が揃います。次のリンク先で、査定で価格の目安を知る方法を確認できます。
まとめ:持ち家ありの老後資金を考えるなら、住み替えのトビラ
持ち家ありの老後資金は、単一の額を覚えるより、自分の支出・収入・持ち家のコスト・資産価値を並べて考えるほうが、確かな備えにつながります。
最初の一歩は、自分の家計で「毎月の不足額 × 老後の年数 + 一時的な費用」を出し、いまの貯蓄と照らし合わせてみることです。2,000万円という一般論ではなく、あなたの年金額・生活費・持ち家のコストから逆算していけば、本当に必要な額が見えてきます。
年金や退職金、持ち家の扱いまで含めた個別の資金計画を立てたいときは、FP(ファイナンシャルプランナー)に相談すると具体的に組み立てられます。住み替えや売却で資金化を考える場合は、不動産の専門家や税の専門家にも併せて相談すると、より安心して判断できます。
住み替えを取り巻く状況は変わり続けます。住み替えのトビラは、そのときの最新の情報を正確に、わかりやすくお届けし続けます。
住み替えのトビラ 
