老後のダウンサイジングで後悔しない広さの決め方と資金の計算

老後のダウンサイジングで後悔しない広さの決め方と資金の計算

子どもが独立して、3LDKのマンションに夫婦二人。使っていない部屋の掃除や、年金から払う管理費と修繕積立金が気になり、もっと小さな家に移ろうかと考え始めた人も多いはずです。

老後のダウンサイジングで軽くなるのは、暮らしの手間と毎月の固定費です。手元に残るお金は条件で大きく変わり、新しい家の床面積によって使える税金の特例も変わります。

この記事では、メリットとデメリット、広さの決め方、手元に残る資金の計算方法、住み替え先の選び方、進める順番を、国の制度や統計の一次情報とあわせて解説します。

老後のダウンサイジングのメリット

ダウンサイジングのメリットは、暮らしの手間と毎月の固定費が減ることです。売ってお金が浮くかどうかは条件で変わるので、後の章で計算します。

ここでは、小さくすることで起きる変化を4つ紹介します。

掃除や手入れの負担が減る

部屋が減ると、掃除機をかける面積も、窓やカーテン、照明、エアコンの数も減ります。

子どもが使っていた部屋は、閉めたままにしておくと湿気やほこりがたまります。使っていなくても、手入れは続きます。

70㎡の3LDKから50㎡の1LDKに移れば、手入れする面積は約3割減ります(20㎡÷70㎡=約29%)。エアコンが4台から2台になれば、掃除の手間も、買い替えの費用も半分です。

年齢を重ねると、高い所の照明の交換や、家具を動かしての掃除がつらくなります。使っていない部屋の手入れから解放されることは、毎日の負担を目に見えて軽くします。

70代、80代と続く暮らしを、自分の力で回せる量に今のうちに減らしておく。これがダウンサイジングのいちばんの効用です。

駅や病院に近い立地を選び直せる

ダウンサイジングは、広さと引き換えに立地を選び直す機会になります。

今の家を買ったときは、子どもの学校や通勤を基準に選んだ人が多いはずです。老後は基準が変わります。病院、スーパー、駅まで歩いて行けるかが、暮らしの質を左右します。車の運転をやめた後も、自分の足で用事を済ませられるからです。

広さを減らせば、同じ予算で駅に近い物件や、生活施設がそろったエリアを選びやすくなります。段差の少ない共用部やエレベーターなど、新しい建物の暮らしやすさも手に入ります。

ただし、立地を上げると1㎡あたりの価格も上がります。広さを減らした分の予算がそのまま立地に回り、お金が残らないケースもあります。この点は資金の章で計算します。

管理費・修繕積立金・固定資産税が下がる

マンションの管理費と修繕積立金は、多くの場合、専有部分の床面積の割合で決まります。国土交通省のマンション標準管理規約は、管理費等を共用部分の共有持分に応じて算出し(第25条)、共有持分は専有部分の床面積の割合による(第10条のコメント)としています。面積を減らせば、毎月の負担もほぼ比例して下がります。

固定資産税も同じ考え方です。マンションの建物部分の固定資産税は、地方税法第352条で、専有部分の床面積の割合で区分所有者ごとに分ける決まりになっています。

管理費と修繕積立金は、同じ単価の建物なら次の式で見当がつきます。

移った後の管理費等 = 今の管理費等 × 移る先の広さ ÷ 今の広さ

たとえば管理費と修繕積立金の合計が月3万円の70㎡の部屋から、同じ単価の50㎡の部屋に移るとします(金額はすべて仮定)。3万円×50÷70で月約2万1,400円になり、年間では約10.3万円の差です。

ただ、1㎡あたりの単価は建物ごとに違います。総戸数が少ない建物や、修繕積立金の値上げが控えている建物では、面積を減らしても負担が下がりにくくなります。移る先の金額は、物件ごとに重要事項調査報告書などで確かめます。

出典: 国土交通省 マンション標準管理規約(令和7年10月17日改正) 出典: e-Gov法令検索 地方税法(第352条)

子どもが相続しても売りやすい

家は、いずれ子どもが相続します。広い家は価格が高い分、買える人が限られ、売るまでに時間がかかりがちです。

駅に近いコンパクトなマンションは、一人暮らしの人や夫婦二人の世帯、賃貸に出したい投資家まで、買い手の幅が広がりやすいと言われます。子どもが住む予定がなくても、売るか貸すかを選びやすくなります。

相続が起きると、空き家の管理や売却の手続きは、離れて暮らす子どもが担います。物件が小さく、立地が良いほど、その負担は軽くなります。

親が元気なうちに住まいを整理しておけば、家財の片付けも一度で済みます。ダウンサイジングで持ち物を減らすことは、子どもが後で行う遺品整理を軽くすることにもつながります。

老後のダウンサイジングのデメリット

小さな家に移ると、広さがあったからこそできていたことが、できにくくなります。

ここでは、住み替え一般の失敗ではなく、「小さくしたこと」で起きる4つの不便と、その和らげ方を紹介します。

老後の住み替えで失敗しないために|よくある後悔と回避の判断軸 老後の住み替え(買い替え)で失敗しないために|よくある後悔と回避の判断軸

売買の諸費用で手元の現金が減る

家を売って別の家を買うと、売る側と買う側の両方で費用がかかります。

  • 売る側: 仲介手数料、印紙税、ローンが残っていれば抵当権の抹消費用
  • 買う側: 仲介手数料、登記費用、不動産取得税、固定資産税と管理費の精算金
  • その他: 引っ越し代、家具の処分代、リフォーム代

仲介手数料は、国土交通省の告示で上限が決まっています。売買価格のうち200万円以下の部分は5%、200万円を超え400万円以下の部分は4%、400万円を超える部分は3%で、それぞれに消費税がかかります。400万円を超える物件なら、次の速算式と同じ金額になります。

仲介手数料の上限 = (売買価格 × 3% + 6万円) + 消費税

3,000万円の売買なら、(3,000万円×3%+6万円)=96万円に消費税10%を足して、上限は105.6万円です。3,000万円の家を売って3,000万円の家を買えば、売るときと買うときの2回で合計211.2万円になります。

つまり、売った金額と同じ金額の家を買うと、現金はこの諸費用の分だけ減ります。「広い家を売って小さな家を買えば、お金が残る」と考えている人ほど、ここで計算が狂います。

どれくらい残るかは、資金の章の計算式に自分の数字を当てはめて確かめます。

出典: 国土交通省 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(令和6年6月21日改正)

子どもや孫が泊まれる部屋がなくなる

部屋を減らすと、子どもや孫が帰省したときに泊まる場所がなくなります。

泊まる場所がないと日帰りの帰省が増え、会う回数が減ることもあります。年に数回の帰省のために空き部屋を持ち続けるかどうかは、悩ましいところです。

和らげ方は3つあります。

  • 近くのホテルや旅館に泊まってもらう
  • ゲストルームのあるマンションを選ぶ
  • リビングに布団を敷ける広さと、布団をしまう収納を残す

ゲストルームは、マンションの共用施設として有料で借りられる場合があります。料金や予約の決まりは管理組合の使用細則で決まるので、購入前に確かめます。年に数回の帰省なら、空き部屋の分の管理費や固定資産税を払い続けるより、負担は小さく収まりやすくなります。

帰省の回数と人数を家族で話し合ってから、必要な部屋数を決めると後悔が減ります。

収納が減り家具が入りきらない

小さな家に移ると、部屋の広さ以上に収納が減ります。ファミリー向けのマンションには、ウォークインクローゼットや納戸が付いていることが多いからです。

その結果、今の家具が入りきらなくなります。大きなダイニングテーブル、婚礼箪笥、食器棚、ピアノは、新居に入らず処分や買い替えになりがちです。

入りきらない荷物をトランクルームに預けると、毎月の利用料がかかります。せっかく下げた管理費や固定資産税が、トランクルーム代で相殺されてしまいます。

対策は、新居を決める前に持ち物の量を確かめることです。何を持っていくかを先に決め、その量が入る収納のある物件を選びます。家具は、新居の間取り図で採寸してから残すものを決めます。

住み慣れた地域の人付き合いが途切れる

知らない地域に移ると、近所の知り合い、通い慣れた病院、行きつけの店との関係が一度途切れます。

たとえば次のようなケースです。

仮のケース

郊外の家を売り、知り合いのいない駅前のマンションに移った70代の夫婦。周りは働く世代の世帯が多く、顔見知りができるまでに時間がかかりました。買い物は便利になった一方で、立ち話をする相手がいなくなり、外出と会話が減っていきました。

広さや立地の条件が良くなっても、人付き合いの場が消えると、毎日の張り合いが失われやすくなります。

和らげ方は、今の生活圏から大きく離れずに探すことです。

  • 同じ駅や同じ沿線で探す
  • かかりつけの病院に通える範囲で探す
  • 今のマンションの中で、小さな部屋に移る

同じマンションや近所で住み替えれば、人間関係を保ったまま広さだけを減らせます。立地を大きく変えるなら、移る前に何度か足を運び、地域の集まりの場を確かめておきます。

ダウンサイジング後の広さの決め方

どこまで小さくするかは、家族の人数、今の家の使い方、将来の介護、税金の特例の4つで決めます。

目安の㎡数だけで決めると、狭すぎて困ったり、税金で損をしたりします。順に見ていきます。

夫婦二人・一人暮らしで必要な部屋数

まず、何部屋必要かを考えます。

世帯部屋数の目安
夫婦二人(寝室は一緒)1LDK
夫婦二人(寝室を分ける)2LDK
一人暮らし1LDK

広さの目安として長く使われてきたのが、国の住生活基本計画の居住面積水準です。令和3年3月19日に閣議決定された計画では、2人世帯の最低居住面積水準を30㎡(10㎡×2人+10㎡)、都市部の共同住宅でゆとりある暮らしを送る都市居住型誘導居住面積水準を55㎡(20㎡×2人+15㎡)としていました。いずれも壁の中心線で測る面積です。

令和8年3月27日に閣議決定された新しい計画では、この居住面積水準の別紙はなくなりました。代わりに、単身や2人世帯などが暮らせる規模として「40㎡程度を上回る住宅」の供給・流通を促す考え方が示されています。

夫婦の場合、いびきや起きる時間の違いから、寝室を分けたいと考える人も多くいます。どちらかが介護を受けるようになったときも、寝室が分かれているほうが暮らしやすくなります。

もう1つ考えておきたいのが、夫婦のどちらかが先に亡くなった後です。一人になっても住み続けられる広さと立地なら、もう一度住み替える手間を省けます。

出典: 国土交通省 住生活基本計画(全国計画)本文(令和3年3月19日閣議決定) 出典: 国土交通省 新たな「住生活基本計画(全国計画)」を閣議決定(令和8年3月27日)

今の家で使っていない部屋から減らせる広さを出す

目安の㎡数より頼りになるのは、今の家の使い方から逆算する方法です。

  1. 今の家の部屋を書き出す
  2. 1週間のうちに使った部屋に印をつける
  3. 印のない部屋の面積を足す

たとえば70㎡の3LDKで、子ども部屋2つ(各約6畳、約10㎡)を物置にしているなら、使っていない面積は約20㎡です。今の暮らしは、約50㎡で成り立っていることになります。

ただし、物置になっている部屋には荷物があります。その荷物を処分できるかで、減らせる広さが変わります。処分できない荷物が多い人は、収納の多い物件を選ぶか、一部屋を収納として残します。

目安の㎡数は、この逆算の結果を確かめるために使います。順番を逆にすると、「思ったより狭かった」という後悔につながります。

介護ベッドや車いすを置ける広さを残す

小さくしすぎると、将来、家で介護を受けるときに困ります。

国土交通省の「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」は、介助用の車いすを使う人が暮らせることを想定して、高齢者が使う寝室や水回りの広さを示しています。

場所基本の水準推奨の水準
高齢者の寝室内法で9㎡以上内法で12㎡以上
浴室(マンション)内法で1.8㎡以上・短辺1.2m以上内法で2.5㎡以上・短辺1.4m以上
便所長辺が内法で1.3m以上など短辺が内法で1.3m以上など

広告の畳数は1畳あたり1.62㎡以上で表示する決まりなので、6畳の寝室は基本の9㎡前後、推奨の12㎡はおよそ7畳半にあたります。介護ベッドは幅90〜100cm、長さ200cm前後が目安で、6畳の寝室に置くと、部屋はほぼベッドと介助の通路で埋まります。たんすや机は別の部屋に移すことになります。

トイレや浴室が狭いと、介助する人が一緒に入りにくく、入浴の介助を外のサービスに頼ることになります。

介護保険の住宅改修では、支給限度基準額20万円の範囲で費用の支給を受けられます。対象は、手すりの取付け、段差の解消、床や通路の材料の変更、引き戸などへの扉の取替え、洋式便器などへの取替えと、それに付帯する工事です。部屋を広げる工事は、この一覧の外にあります。

家で介護を受けたいと考えているなら、寝室にベッドを置いた後も通路が残る広さと、ゆとりのある水回りを確保しておきます。

出典: 国土交通省 高齢者が居住する住宅の設計に係る指針 出典: 厚生労働省 介護保険における住宅改修 出典: 不動産公正取引協議会連合会 不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則

床面積50㎡を下回ると使えない税制の特例

ダウンサイジングでいちばん見落とされやすいのが、床面積50㎡の線です。家の売買にかかわる税金の特例には、新しく買う家の床面積を条件にしたものが多くあります。

特例新しく買う家の床面積の条件
居住用財産の3,000万円特別控除(売る家)なし
特定の居住用財産の買換え特例50㎡以上
買い換えたときの売却損の損益通算50㎡以上
住宅ローン控除50㎡以上※1
登録免許税の軽減50㎡以上
不動産取得税の軽減(中古住宅)40㎡以上240㎡以下※2

※1 合計所得金額が1,000万円以下の年は、40㎡以上50㎡未満でも対象になる場合があります。中古住宅は、令和8年度の税制改正でこの40㎡の緩和の対象に加わりました。 ※2 令和8年3月31日以前の取得は50㎡以上240㎡以下でした。

さらに知っておきたいのが、面積をどこで測るかです。住宅ローン控除について、国税庁は次のように説明しています。

マンションの場合は、階段や通路など共同で使用している部分(共有部分)については床面積に含めず、登記事項証明書上の専有部分の床面積で判断します。

(国税庁 No.1211-3)

買換え特例も、買い換えた家の面積を登記事項証明書などで示します。登記簿の面積は、マンションでは壁の内側の線で測ります。

建物の床面積は、各階ごとに壁その他の区画の中心線(区分建物にあっては、壁その他の区画の内側線)で囲まれた部分の水平投影面積により、平方メートルを単位として定め、一平方メートルの百分の一未満の端数は、切り捨てるものとする。

(不動産登記規則 第115条)

広告やパンフレットの専有面積は、壁の中心線で測った壁芯面積で書かれていることが多く、その場合は登記簿の面積より大きく出ます。国土交通省の標準管理規約のコメントも、登記簿の面積は内のり、管理費などの基準になる共有持分の面積は壁芯と区別しています。広告で50㎡を少し上回る程度の部屋は、登記簿では50㎡を下回ることがあります。

一方、不動産取得税の軽減は、東京都の場合、登記の面積ではなく現況の床面積で判定し、マンションは共用部分を按分した面積も含めます。同じ部屋でも、特例ごとに面積の数え方が違います。

50㎡前後の物件を検討するとき

広告の面積ではなく、登記簿の面積を不動産会社に確かめます。使う予定の特例ごとに、どの面積で判定するかも契約前に確かめておくと、使えるはずの特例を取りこぼさずに済みます。

出典: 国税庁 No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例 出典: 国税庁 No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき 出典: 国税庁 No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除) 出典: 国土交通省 住宅ローン減税 出典: 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表 出典: 東京都主税局 中古住宅とその敷地を取得した場合の軽減制度(フロー図) 出典: e-Gov法令検索 不動産登記規則(第115条) 出典: 国土交通省 マンション標準管理規約(令和7年10月17日改正)

ダウンサイジングで手元に残る資金の計算方法

ダウンサイジングで手元に残るお金は、次の式で出します。

手元に残る資金 = 売却の手取り額 - 購入と引っ越しにかかる総額

この章では、式のそれぞれの出し方と、広さを減らしてもお金が残らない条件、税金の扱いを解説します。

老後資金は持ち家ありでいくら必要?考え方と資金化の選択肢 老後資金は持ち家ありでいくら必要?考え方と資金化の選択肢

売却の手取り額を出す

売却の手取り額は、売れた金額から、売るためにかかるお金を引いて出します。

売却の手取り額 = 売却価格 - ローン残高 - 仲介手数料 - 印紙税 - 抵当権の抹消費用 - 税金

ここで大切なのは、売却価格を査定額ではなく、成約の相場で見積もることです。査定額は「この価格で売り出せそう」という会社の見込みで、実際に売れる価格より高めに出ることがあります。

たとえば次のようなケースです。

仮のケース(数値はすべて仮定)

査定額2,000万円をもとに住み替え先の予算を組んだものの、実際に売れたのは1,700万円だった。仲介手数料の上限は72.6万円から62.7万円に下がるものの、売却の手取りは見込みより約290万円少なくなり、住み替え先の予算を下げるか、貯蓄を取り崩すかを迫られた。

成約の相場は、国土交通省の不動産情報ライブラリや、不動産流通機構のレインズ・マーケット・インフォメーションで調べられます。近くの似た物件が実際にいくらで売れたかを見て、手取り額は少し低めの価格で計算しておきます。

出典: 国土交通省 不動産情報ライブラリ

購入と引っ越しにかかる総額を出す

新しい家の総額は、物件の価格に、買うための費用と移るための費用を足して出します。

購入と引っ越しの総額 = 購入価格 + 仲介手数料 + 登記費用 + 不動産取得税 + 引っ越し代 + 家財の処分代 + リフォーム代

現金で買う場合は、住宅ローンの事務手数料や保証料、抵当権の設定費用が丸ごと省けます。売却代金と貯蓄で現金で買える人は、その分、諸費用を抑えられます。

見落としやすいのが、家財の処分代とリフォーム代です。3LDKから1LDKに移ると、入りきらない大型家具の処分にまとまった費用がかかります。中古の物件を買うなら、水回りの交換や手すりの取り付けも加わります。どちらも金額は物件と量で大きく変わるので、業者の見積もりで確かめます。

リフォームは、住み始めてからだと家具を動かす手間が増え、費用もかさみます。購入前に見積もりを取り、総額に入れておきます。

広さを減らしても購入価格が下がらない条件

正直に言うと、「広い家を売って小さな家を買えば差額が残る」が成り立つのは、立地を変えないときです。

駅に近い場所や都心に移ると、1㎡あたりの価格が上がります。広さを減らした分が、立地の値上がりで打ち消されます。

物件の価格 = 広さ(㎡) × 1㎡あたりの価格

今の家移る先
広さ70㎡50㎡
1㎡あたりの価格50万円70万円
価格3,500万円3,500万円

表の数値は計算の仕組みを示すための仮定です。広さを約3割(20㎡÷70㎡=約29%)減らしても、1㎡あたりの価格が1.4倍になれば、価格は同じです。この場合、手元の現金は諸費用の分だけ減ります。

自分の数字で確かめるときは、今の家と移る先の候補について、近くの成約事例から1㎡あたりの価格を出し、上の式に広さを掛けます。移る先の価格が今の家より低くなる分が、諸費用を払った後に残るお金の元になります。

お金を残したい人は、立地を大きく変えずに広さだけを減らすか、築年数や駅からの距離など、どの条件を譲るかを先に決めます。

売却益・売却損が出たときの税金

家を売って利益が出ると、税金がかかります。利益は、売った金額から、買ったときの金額(建物は年数に応じて減らす)と売るための費用を引いて出します。

利益が出た場合は、住んでいた家なら3,000万円特別控除を使えます。売った年の1月1日で所有期間が10年を超えていれば、税率が下がる軽減税率の特例も重ねて使えます。

買換え特例を選ぶこともできますが、3,000万円特別控除とはどちらか一方です。買換え特例は、売った金額より安い家に買い換えると、その差額に税金がかかります。ダウンサイジングで安い家に移るなら、この点を踏まえて3,000万円特別控除と比べて選びます。

新しい家をローンで買う人は、もう1つ注意が要ります。3,000万円特別控除や買換え特例を使うと、入居した年とその前後の一定期間は、新しい家で住宅ローン控除を受けられなくなります。

損が出た場合は、さらに注意が要ります。住んでいた家の売却損を、給与や年金などほかの所得と差し引きできる特例は2つです。

  • 新しい家を、返済期間10年以上の住宅ローンで買う場合(新しい家は床面積50㎡以上)
  • 売った家のローンが、売却価格より多く残っていた場合

どちらも令和9年12月31日までの売却が対象です。ローンを完済していて、新しい家を現金で買う人は、どちらの条件からも外れます。土地や建物の売却損は、原則としてほかの所得と差し引きできないため、損は年金などと相殺されずに残ります。

出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例 出典: 国税庁 No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例 出典: 国税庁 No.3358 売った金額より少ない金額でマイホームを買い換えたとき 出典: 国税庁 No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき 出典: 国税庁 No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき 出典: 国税庁 No.2250 損益通算

ダウンサイジングで住み替え先を選ぶポイント

小さな物件の中には、管理の状態や住んでいる人の構成が、ファミリー向けのマンションと違うものが混ざっています。

ここでは、老後に長く住み続けるために見るポイントを4つ紹介します。

歩いて通院と買い物ができる立地

老後の住まいでいちばん大切なのは、車がなくても暮らせる立地です。

確かめたいのは、次の場所まで歩いて行けるかです。

  • かかりつけにしたい病院や診療所
  • スーパーやドラッグストア
  • 駅やバス停
  • 銀行や郵便局、役所の出張所

地図で距離を測ったら、次は実際に歩きます。坂道、長い信号待ち、歩道のない道、駅の階段など、地図に載らない負担が見えてきます。

歩くときは、70代、80代で足腰が弱ったときの自分を想像します。重い買い物袋を持って帰れるか、雨の日でも通えるかも確かめます。

昼と夜、平日と休日で雰囲気が変わる場所もあります。時間を変えて何度か足を運ぶと安心です。

長期修繕計画と修繕積立金の上がり方

マンションの修繕積立金は、今の金額だけで判断すると外れます。最初は安く、年数に応じて段階的に上げていく方式をとるマンションがあるからです。

国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」は、将来の値上げを前提にした段階増額積立方式より、計画期間中に均等に積み立てる均等積立方式が望ましいとしています。ガイドラインが段階増額積立方式の例として示す図でも、月6,000円から始めて5年ごとに3,000円ずつ上げ、26〜30年目には月2万1,000円になる想定です。

令和6年6月の改定で、段階増額積立方式の目安として、初期額は均等積立とした場合の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内とする考え方が加わりました。この目安に沿う計画なら、最後の額は最初の額の2倍弱(1.1÷0.6=約1.8倍)に収まります。改定前に作られた計画は、これより大きく上がることがあります。

確かめる書類は3つです。

  • 長期修繕計画: 今後30年ほどの工事と積立金の予定
  • 重要事項調査報告書: 今の積立金の残高や滞納の状況
  • 総会の議事録: 値上げや一時金の話し合いの有無

年金生活では、毎月の支出が上がることがいちばん響きます。購入前に、10年後、20年後の積立金がいくらになる計画かを確かめておきます。

修繕積立金の値上げで住み替え?生涯コストで考える 修繕積立金の値上げで住み替え(買い替え)?生涯コストで考える

出典: 国土交通省 マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和6年6月改定)

将来売りやすく貸しやすい物件

老後の住まいも、いずれ手放す日が来ます。施設に移るときや、相続した子どもが処分するときに、買い手や借り手がつく物件かを考えておきます。

見るポイントは次のとおりです。

  • 駅からの距離(広告の徒歩分数は、道路距離80mを1分として計算した数字)
  • 総戸数(少なすぎると1戸あたりの管理費の負担が重くなりやすい)
  • 管理の状態(共用部の清掃、掲示物、修繕の記録)
  • 住んでいる人の構成

30㎡未満のワンルームのような小さな物件には、投資用に建てられ、住民の多くが賃借人というマンションもあります。持ち主が住んでいないと、管理組合の話し合いが進みにくくなりがちです。

また、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた旧耐震の物件は、税金の特例で不利になることがあります。住宅ローン控除と不動産取得税の軽減は1982年(昭和57年)1月1日以後に建てられた家か耐震基準に適合する証明がある家を、買換え特例は築25年以内か耐震基準に適合する家を、それぞれ対象にしているからです。

旧耐震マンションの売却|買主が減る理由と耐震診断・適合証明の使い方 旧耐震マンションの売却|買主が減る理由と耐震診断・適合証明の使い方

出典: 不動産公正取引協議会連合会 不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則 出典: 国税庁 No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除) 出典: 国税庁 No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例 出典: 東京都主税局 中古住宅とその敷地を取得した場合の軽減制度(フロー図)

段差がなく介護が要っても住み続けられる建物

長く住み続けるには、建物の中の動きやすさも大切です。

確かめたいのは次の4点です。

  • エントランスから部屋まで段差があるか(スロープの有無)
  • エレベーターがあるか、何基あるか
  • 廊下やドアの幅が、車いすで通れる広さか
  • 浴室やトイレに手すりを付けられるか

古いマンションの中には、エントランスに数段の階段があるものや、エレベーターが1基だけのものがあります。エレベーターが1基だと、点検や故障のときは階段を上り下りすることになります。

部屋の中も、玄関の上がり框や浴室の入口の段差を見ます。部屋の中の段差は介護保険の住宅改修で解消できる場合がありますが、共用部分は個人で工事できず、管理組合の判断になります。

共用部分の段差は、購入前に現地で確かめておきます。

老後のダウンサイジングを進める順番

ダウンサイジングは、次の4つの工程で進めます。

  1. 持ち物を減らし、新居の広さを確かめる
  2. 今の家の売却相場を調べる
  3. 売り先行と買い先行を選ぶ
  4. 引っ越しと引き渡しの日程を組む

始める時期には、体力と年齢の期限があります。荷物の整理と引っ越しは、体力を使います。住宅ローンにも年齢の条件があり、たとえば住宅金融支援機構のフラット35は、申込時の年齢が満70歳未満で、借入期間は「80歳-申込時の年齢」が上限の1つになります。ローンを使う予定の人ほど、早めに動き始めます。

出典: 住宅金融支援機構【フラット35】ご利用条件

持ち物を減らし新居の広さを確かめる

最初にやるのは、物件探しより先に、持ち物を減らすことです。

必要な広さも収納の量も、持ち物の量で決まります。先に荷物を減らしておけば、新居の候補を見るときに「この収納に入るか」をその場で判断できます。

進め方は次のとおりです。

  1. 使っていない部屋から片付ける
  2. 新居に持っていく家具を決め、サイズを測る
  3. 残す荷物の量を、段ボールの数などでつかむ

荷物を減らしておくと、今の家を売るときにも役立ちます。物が少ない部屋は広く見え、内覧に来た人の印象が良くなります。

片付けは体力と時間を使うので、数か月単位の時間を見込んで少しずつ進めます。家族に手伝ってもらい、残すか迷うものは一緒に決めると早く進みます。

今の家の売却相場を調べる

次に、今の家がいくらで売れそうかを調べます。この金額で、新居の予算が決まります。

調べ方は2つです。

  • 不動産会社に査定を依頼する(複数社に頼むと比べられる)
  • 不動産情報ライブラリなどで、近くの似た物件の成約価格を調べる

査定額は、会社によって差が出ることがあります。いちばん高い査定額で予算を組むと、その価格で売れなかったときに予定が狂います。

各社に査定額の根拠を聞き、成約事例と照らし合わせて、無理のない売却価格を見積もります。

売り急ぐと、買い手の値下げ交渉に応じるしかなくなります。相場を自分でも押さえておけば、落ち着いて交渉できます。

売り先行と買い先行を選ぶ

住み替えには、今の家を先に売る売り先行と、新しい家を先に買う買い先行があります。

売り先行買い先行
向く人ローンを使う人現金で買える人
よい点予算が決まってから買える仮住まいが要らない
気をつける点仮住まいが要ることがある売れるまで二重の支払いが続く

ローンを使う人は、売り先行が基本です。今の家のローンが残ったまま新しいローンを組むと、審査が厳しくなるからです。

シニアのダウンサイジングで見落とされがちなのが、現金で買える人の買い先行です。新居の購入にローンの審査がいらないので、今の家が売れる前に新居を買えます。仮住まいと2回の引っ越しを避けられ、荷物も少しずつ運べます。

ただし、今の家が売れるまでは、2軒分の管理費と固定資産税がかかります。手元のお金も一時的に減るので、売れるまでの期間を見込んでおきます。

売り先行・買い先行はどちら?住み替えで損しない選び方と実践テクニック 売り先行・買い先行はどちら?住み替え(買い替え)で損しない選び方と実践テクニック

引っ越しと引き渡しの日程を組む

最後に、引っ越しと今の家の引き渡しの日程を組みます。

売り先行の場合、引き渡し日は買主との契約で決まります。新居が決まる前に引き渡し日が来ると、仮住まいが必要です。買主と交渉して、引き渡し日を新居の入居後にずらしてもらえる場合もあります。

日程を組むときに確かめるのは次の4つです。

  • 新居の引き渡し日とリフォームの完了日
  • 今の家の引き渡し日
  • 引っ越し業者の予約(一般に3〜4月は依頼が集中しやすい)
  • 不用品の回収日

引っ越しは、荷物が少ないほど費用も体力も軽く済みます。新居で使わない家具は、引っ越しの前に処分しておきます。

住所の変更や、電気・ガス・水道の手続きも重なります。家族に手伝ってもらう日を決めて、無理のない日程を組みます。

まとめ:広さは今の暮らしから逆算し、残るお金は計算で確かめる

老後のダウンサイジングで軽くなるのは、暮らしの手間と毎月の固定費です。手元にお金が残るかは立地と諸費用で決まり、広さを減らしても1㎡あたりの価格が上がれば、現金は諸費用の分だけ減ります。

次の一歩は、今の家で使っていない部屋を書き出し、近くの似た物件の成約価格を調べることです。この2つを飛ばして物件を探すと、狭すぎる家を選んだり、査定額を当てにした予算が崩れたりします。

候補が50㎡前後なら、登記簿の面積と使う予定の税金の特例を、契約前に不動産会社や税務署で確かめましょう。住み替えのトビラでは、老後のダウンサイジングの広さと資金の決め方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。