親が年齢を重ねてくると、これから先の住まいをどうするかが、急に現実味を帯びてきます。とくに、いま持ち家のマンションで暮らしている人にとっては、親の同居や近居を考えることが、そのまま「自分は今のマンションから住み替えるのか」という問いにつながっていきます。同じ家で一緒に暮らす同居がいいのか、近くに住む近居がいいのか、それとも今のままがいいのか。どれも一長一短で、簡単には決められません。
老後の住まいには、大きく分けて〈今の家をリフォームして住み続ける〉〈住み替える〉〈住宅資産を取り崩す(借りる・貸す・売る)〉の3つの道があります。親のために同居や近居を選ぶための住み替えは、このうち「住み替える」の一つの形です。この記事では、住み替えのトビラが、同居・近居・今のままの3つを対等に並べ、それぞれの違いや向き不向き、そしてマンションを持つあなた自身がどの道を取れるのかまでを、順を追って解説します。
「同居」と「近居」の違いと、住まいの選択肢の全体像
同居・近居・現状維持は、親とどのくらいの距離で暮らすかが根本的に違い、そこから見守りやすさも暮らしやすさも変わってきます。
ここでは、まず言葉の意味を距離感で整理し、そのうえで「新しく住まいを作らない」という選択も対等な候補として並べます。あわせて、いま実際の高齢者と子がどんな距離で暮らしているのか、公的なデータでも見ていきます。
同居・近居・隣居の意味と距離感
3つの言葉は、親と子が「どのくらい近くに暮らすか」で分かれます。
同居は同じ家で一緒に暮らす形、近居はすぐ行き来できる距離に別々に住む形を指します。その中間に「隣居」という言葉もあり、同じ敷地内や隣同士の家に別々に住むイメージです。玄関やキッチンを分けるかどうかも含めて、家族の距離感には段階があります。
| 呼び方 | 住まいの距離 | 生活空間 |
|---|---|---|
| 同居 | 同じ家 | 一緒(一部を分ける形もある) |
| 隣居 | 同じ敷地・隣同士 | 別々 |
| 近居 | 行き来しやすい距離 | 別々 |
表のとおり、同居から近居へ向かうほど親子の生活空間は分かれ、お互いの暮らしに干渉しにくくなります。一方で、何かあったときにすぐ駆けつけられる近さは薄れていきます。近さと自立のどちらを優先するかは、この後の章で家族ごとに考えていきます。
「今のまま(現状維持)」も対等な選択肢
親も自分も今の住まいのままでいることは、消極的な先送りではなく、積極的に選んでよい一つの答えです。
同居や近居を検討し始めると、つい「何か新しい住まいを用意しなければ」と考えがちです。けれども、親が元気で自分たちの暮らしも回っているなら、当面は今のまま様子を見るのも十分に理にかなった判断です。とくにマンションを持つ人にとっては、今の住まいを動かさずに済むのは大きな身軽さです。無理に住まいを動かすほうが、かえって双方に負担をかけることもあります。
今の家を手放さずに支え合う選び方には、いくつかの形があります。
- 親も自分も今の住まいのまま、行き来で支え合う
- 親を子の近くの賃貸住宅に呼び、住み替えの負担を抑える
- 今のマンションを保ちつつ、行き来しやすい距離へ少しずつ寄せていく
将来的には、介護施設や高齢者向け住宅という選択肢も出てきます。ただしそれは、住まいの形を考えるうえでの候補の一つであり、いま急いで決めるものではありません。まずは今の暮らしを土台に、必要になったら次を考えるという順番でも遅くはありません。
データで見る親との住まいの実際
親と子が一緒に暮らす形は、この数十年で大きく減ってきました。
内閣府の高齢社会白書によると、昭和55年(1980年)には、65歳以上の人がいる世帯の半数を三世代世帯(親・子・孫が同居する世帯)が占めていました。それが令和5年(2023年)には、夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割を占めるようになっています。親世代と子世代が別々に暮らす形が、今では多数派になっているとわかります。
高齢者自身が望む付き合い方も変わってきました。同白書では、子や孫と「いつも一緒に生活できるのがよい」と考える割合が下がる一方で、「ときどき会って食事や会話をするのがよい」と考える割合が上がる傾向が示されています。近くにいて支え合いつつ、お互いの暮らしは保ちたいという気持ちが、背景にあると読み取れます。
こうしたデータは、同居が減っていることを示すものであって、同居が良くないという意味ではありません。あくまで、いろいろな暮らし方が選ばれるようになった、という事実として受け止めてください。
同居・近居・現状維持のメリットとデメリット
3つの選択肢は、親との近さと、自分たちの暮らしやすさが、いわばシーソーの関係にあります。どれか一つが優れているのではなく、何を大事にするかで評価が入れ替わります。
ここでは、見守りやすさ・プライバシー・費用の性質・関係の距離という物差しで3つを横並びに比べ、そのうえで急な体調変化や介護が始まったときにどう差が出るか、近居ならどのくらいの距離がちょうどいいかを見ていきます。
3つを比べたメリット・デメリット一覧
同居は近さが強み、近居は程よい距離が強み、現状維持は身軽さが強みと、それぞれ得意な部分が違います。
まず、代表的な4つの物差しで全体を見比べてみます。
| 物差し | 同居 | 近居 | 現状維持 |
|---|---|---|---|
| 見守りやすさ | 高い | 中くらい | 低め |
| プライバシー | 保ちにくい | 保ちやすい | 保ちやすい |
| 費用の性質 | 一世帯分に集約 | 住居費が二重 | 追加費用が小さい |
| 関係の距離 | とても近い | 程よい | 今のまま |
費用の性質だけ補足します。同居は光熱費や家賃・ローンといった住居のお金を一つの世帯にまとめやすく、近居はそれぞれの世帯で住まいを持つため住居費が二重にかかります。現状維持は、今の暮らしを続けるので追加の出費が小さくすみます。具体的な金額は住まいの形や地域で大きく変わるため、後の章であらためて目安を見ていきます。
表からわかるように、同居は見守りやすさと引き換えに、生活リズムやプライバシーで気をつかう場面が増えます。近居は程よい距離を保てる代わりに、いざというときの即応性は同居ほどではありません。現状維持は身軽ですが、離れている分、変化に気づくのが遅れることもあります。どれを取るかは、次に挙げる「もしものとき」への備えをどう考えるかで、見え方が変わってきます。
緊急時・介護が始まったときの差
急な体調の変化や介護が始まる場面では、住まいの近さが「対応の早さ」と「支える人の負担」の両方に関わってきます。
同居であれば、体調の異変にすぐ気づけ、退院後の付き添いや日々の介助にも動きやすくなります。ただし、その負担が同居している家族の一人に集中しやすいという難しさもあります。近居の場合、駆けつけるまでに多少の時間はかかりますが、それぞれの世帯の生活を保ったまま支えられます。現状維持でも、見守りサービスや定期的な連絡、地域の支援を組み合わせることで、離れていても異変に気づく仕組みは作れます。
介護が本格化したときは、家族だけで抱え込まず、公的な介護サービスや施設という選択肢も視野に入ってきます。住まいをどう選ぶかは、こうした支えをどう組み合わせるかとセットで考えると、無理のない形が見つけやすくなります。
近居の「ちょうどいい距離」の考え方
近居でよく言われる目安は、「行き来はしやすいが、生活は分けられる」くらいの距離感です。
近居に「この距離まで」という公的な基準はありません。実際の親子がどのくらい離れて暮らしているか、その距離帯ごとに行き来の頻度がどう変わるかを集計したデータも見つかりませんでした。近すぎると干渉が増えて気疲れし、遠すぎると気軽に立ち寄りにくくなる、そのちょうど中間を探すイメージです。
そのため、距離は時間ではなく「通える条件」で考えるほうが確かです。毎日のように通うことが想定されるなら、無理なく往復できる範囲であること。乗り換えが少なく、夜間や悪天候でも動けること。この2つを満たすかどうかを、実際に往復してみて確かめてください。
家族に合う選び方の判断軸
同居・近居・現状維持のどれが正解かは、家族ごとに違います。この記事で「これがおすすめ」と一つに決めることはできません。
大切なのは、自分たちの状況をいくつかの軸で見つめ直すことです。ここでは、親の健康状態、お金の出どころ、家族それぞれの気持ち、そして将来の見通しという4つの軸から、判断の手がかりを示します。
親の健康状態と自立度(最大の分岐)
住まいの選び方を最も大きく左右するのは、親が今どのくらい自立して暮らせているかです。
親が元気で身の回りのことを自分でこなせるうちは、無理に同居せず、近居や現状維持で程よい距離を保つほうが、お互い快適に過ごせることが多くなります。この段階では、干渉しすぎない距離が、親の自立を長く支えることにもつながります。
一方で、通院の付き添いが増えたり、日常の動作に手助けが要るようになったりすると、より近くで支えられる形が現実味を帯びてきます。ここで一つの考え方が、段階的に住まいを移していくやり方です。元気なうちは近くに住んで様子を見守り、支えが必要になった時点で同居へ切り替える、という進め方です。
段階的に考える利点は、その時々の状態に合わせて無理のない形を選べる点にあります。最初から同居に踏み切ると、まだ自立できる親の暮らしに干渉しすぎてしまうこともあります。反対に、いよいよ支えが必要になってから慌てて住まいを探すのも大変です。今の状態と、これから起こりうる変化の両方を見て、今すぐ動くか、備えだけしておくかを見極めるとよいでしょう。
双方の経済状況と「誰の資金で賄うか」
住まいをどう選ぶかは、費用の大きさだけでなく、「そのお金を誰が出すのか」で意思決定が変わってきます。
同居のために住まいを広げたり建て替えたりすると、まとまった初期費用がかかります。近居はそれぞれの世帯が住まいを持つため、住居費が二重にかかり続けます。現状維持なら追加の出費は小さくすみます。どの形にも、お金のかかり方に違いがあります。
マンションを持つ人の場合は、その資産をどう扱うかも資金の出どころに関わってきます。今のマンションを売って新居や住み替えの資金に充てるのか、貸して住居費の足しにするのか、手元に残すのか。住宅ローンの残債が残っていれば、売却でそれを返せるかどうかも見ておく必要があります。
そのうえで考えたいのが、費用の出どころです。主に次のような組み合わせがあります。
- 親の資金で賄う
- 子の資金で賄う
- 親子で折半する
- ローンを組む
誰が、いくらを、どの形で負担するかは、家族の関係にも将来の相続にも関わってきます。親の資金をあてにするなら親の老後資金が足りるかを、子がローンを組むなら定年後の返済まで見通せるかを、あらかじめ確認しておくことが欠かせません。金額の目安や、贈与・相続にまつわる税の注意点は、お金の章でくわしく整理します。
親・自分・きょうだいの意向をどう揃えるか
住まいの決定でいちばん難しいのは、費用や間取りではなく、関わる人それぞれの気持ちを揃えることです。
親には親の思いがあります。子と近くで暮らしたい人もいれば、長年の住まいや近所付き合いを離れたくない人、子に負担をかけたくないと本音を言わない人もいます。「一緒に住もう」という言葉が、親にとって必ずしも望む形とは限りません。まずは親自身がどう暮らしたいのかを、時間をかけて聞くことが出発点になります。
同居を選ぶ場合は、自分の配偶者の暮らしにも大きく関わります。日々の家事や気づかいの負担が特定の一人に偏らないか、生活のリズムや距離感をどう保つか、当事者だけで抱え込まない話し合いが要ります。ここを曖昧にしたまま進めると、後々の関係にひずみが残りやすくなります。
きょうだいがいる場合は、役割の分担と公平感が課題になります。同居する人に負担が偏り、離れて暮らすきょうだいとの間で気持ちのすれ違いが生まれることは少なくありません。誰がどう関わるか、費用や将来の負担をどう分けるかを、早い段階でオープンに話しておくことが、後の不公平感やわだかまりを防ぐことにつながります。全員がまったく同じ気持ちになるのは難しくても、それぞれの事情を出し合い、納得できる落としどころを探す姿勢が支えになります。
5年後10年後の見通しから逆算
住まいの選択は、一度決めると後から変えにくいものほど、慎重に考える価値があります。
同居・近居・現状維持は、後戻りのしやすさがそれぞれ違います。おおまかには、次のように可逆性に差があります。
- 新居を用意しての同居:費用も手間も大きく、やり直しがきかない
- 住まいの改修を伴う同居:新居ほどではないが、簡単には元に戻せない
- 近居:住み替えは必要だが、状況に応じて見直しやすい
- 現状維持:いつでも次の一手に切り替えられる
大きな決定ほど、今の事情だけでなく5年後・10年後を見据えて判断したいところです。今は親も元気で通いも苦にならなくても、数年後に介護が重くなる、自分自身が定年を迎える、子どもの進学や独立で暮らしが変わる、といった変化はいずれ訪れます。
だからこそ、迷ったときは「後から変えやすい選択」から始めるのも一つの考え方です。まず近居や現状維持で様子を見て、状況がはっきりしてから住み替えや同居に踏み込む。この順番なら、思い切った決断で後悔する場面を減らしやすくなります。将来の変化を完璧に読むことはできませんが、変えにくい決定ほど時間をかける、という姿勢が家族を守ります。
同居・近居を選ぶとき、マンションを持つ自分が取れる住まいの道
同居や近居を決めても、住まいの整え方は一つではありません。とくにマンションを持つ人の場合、今の住まいを売って動くのか、手元に残すのかで、取れる道が変わってきます。
ここでは、マンションを持つあなたが実際に取りやすい道を先に整理し、そのうえで、よく語られる「実家の二世帯化」がなぜこの立場には当てはまりにくいのかを、あわせて仕分けしていきます。それぞれ費用の重さや、誰の暮らしが変わるかが違うため、自分の状況に照らして見比べてください。
今のマンションを売って親の近くへ住み替える/親を近くに呼び寄せる
マンションを持つ人が同居や近居に踏み出すとき、現実的に取りやすいのは、今の住まいを起点に動く形です。
大きく分けて2つの道があります。一つは、今のマンションを売って、親の近くのマンションや住まいへ住み替える形です。売却で得た資金を新居に充てられ、身軽に動きやすいのが利点です。もう一つは、今のマンションは手放さず、親を自分の近くの賃貸や住まいへ呼び寄せる形です。こちらは自分の住まいを動かさずに、親子の距離だけを縮められます。
一方で、親を呼び寄せる場合は、注意したい点があります。長年住んだ土地を離れることは、親にとって暮らしの土台が大きく変わることを意味します。かかりつけの病院や、近所付き合い、行きつけの店、慣れた道といった、日々を支えてきたつながりを一度に失いやすいのです。子の近くで安心して暮らせるはずが、知り合いのいない土地で孤立してしまうこともあります。
だからこそ、呼び寄せを考えるときは、親の気持ちと環境の変化をていねいに見てあげてください。あなた自身が今のマンションを売って親の近くへ移る場合も、慣れた環境を離れることになります。どちらの道でも、売り急いで安く手放したり、環境の変化を軽く見たりせず、時間に余裕を持って進めることが、後悔を減らすことにつながります。
親も自分も住み替えて新居で同居する
両世帯がそれぞれの住まいを手放し、新しい住まいで一緒に暮らす形もあります。
この場合、あなたは今のマンションを売って新居の資金に充て、親も今の住まいを離れて動くことになります。両世帯にとって新しい環境で暮らせる利点がある一方、動く人が多いぶん、準備も気持ちの整理も大がかりになります。新居を選ぶときは、親の介助のしやすさや、双方のプライバシーの保ち方まで見ておくと、あとで暮らしにくさを感じにくくなります。
なお、同居に伴って親の住んでいた家が空く場合、その家をどうするかという課題が出てきます。これは相続もからむ別のテーマになるため、本記事では深く立ち入らず、後の章で触れるにとどめます。
実家を二世帯にするのは「親が戸建てを持つ場合」の別の道
同居の話でよく紹介される選択肢に、実家を二世帯向けにリフォームしたり建て替えたりする形があります。ただし、これは親が戸建てを所有している場合の道であり、マンションから住み替えようとしているあなた自身の意思決定とは、性質が異なります。
実家の建て替えや二世帯化は、親の土地と建物を作り替える話です。かかる費用や間取りの自由度はケースで大きく変わりますが、いずれも「親の戸建てをどうするか」が主役であって、あなたが今のマンションをどうするかとは別の問題です。マンションを持つ子世帯なら、まずは前の2つ、つまり今の住まいを売って動くか、手元に残して親を近くに迎えるか、から考えるほうが現実的です。実家が二世帯にできる戸建てかどうかは、あくまで親側の事情として切り分けておくと、判断がぶれにくくなります。
一点だけ、お金の面で知っておきたいことがあります。親名義の実家を子の負担でリフォームや建て替えをすると、その費用の分が親への贈与とみなされ、贈与税がかかる場合があります。名義と費用を出す人が食い違うときの扱いは、次のお金の章で整理します。
同居・近居にかかるお金と使える制度(贈与・相続の注意)
住まいの形によって、かかるお金は大きく変わります。あわせて、親からの資金援助や相続には税の特例があり、知らないと損をしたり、思わぬ課税を受けたりすることもあります。
ここでは、形ごとの費用が何で決まるかと、誰が負担するかの考え方を示したうえで、親からの資金援助にかかわる贈与税の特例と、同居と関わりの深い相続の特例を整理します。税の要件は個別事情で変わるため、具体的な判断は税理士に相談することをおすすめします。
住まいの形ごとの費用のかかり方と、誰が出すか
同じ同居でも、今のマンションを売って動くか、親の家を作り替えるかで、必要なお金は大きく違います。
マンションを持つあなたの視点で、費用の重さをおおまかに並べると次のようになります。
- 今のマンションを売って新居を用意:物件しだいで費用は大きいが、売却代金を充てられる
- 近居:親と自分の住居費が二重にかかり続ける
- 現状維持:追加の出費は小さい
- (親が戸建ての場合)実家の建て替えや二世帯へのリフォームは、親の土地と建物を作り替える工事になる。二世帯住宅を型別(完全同居型・部分共用型・完全分離型)に切り出した建築費の公的統計・業界団体統計は存在せず、金額の目安を出典付きで示すことはできない
土台として置ける値は、住宅全体の所要資金です。フラット35利用者調査(2024年度)では、注文住宅の所要資金は平均3,936万円でした。二世帯にすることで何割増えるかを示す統計はないため、この記事では増分を書きません。
費用を動かすのは、水回り・玄関・階段をいくつ持つかです。完全同居型から部分共用型、完全分離型へ進むほどこれらが増え、工事は大きくなります。実際の金額は、売却なら複数の不動産会社に査定を、工事なら複数の会社に見積もりを取って確かめてください。なお3,936万円はフラット35の利用者(買取承認・付保承認案件)の値であり、住宅を取得した世帯の全体ではありません。
費用の大きさと同じくらい大切なのが、そのお金を誰が出すかです。親の資金で賄うのか、子の資金か、親子で折り合いをつけて折半するのか、あるいはローンを組むのか。マンションを持つ人なら、今の住まいの売却代金をあてにすることも多いはずです。組み合わせによって、家計への影響も、後の相続の際の扱いも変わってきます。親の資金をあてにするなら親自身の老後の暮らしに支障が出ないかを、子がローンを組むなら定年後まで無理なく返せるかを、早い段階で見通しておくことが欠かせません。
親からの資金援助と住宅取得等資金の贈与税非課税特例
親や祖父母から住まいの資金を援助してもらう場合、一定の要件を満たせば贈与税が非課税になる制度があります。
父母や祖父母などの直系尊属から、住宅の新築・取得や増改築のためのお金の贈与を受けたときは、贈与を受けた人ごとに一定額まで贈与税が非課税になります。非課税になる限度額は、省エネ等の基準を満たす住宅で1,000万円まで、それ以外の住宅で500万円までです。適用されるのは、令和6年(2024年)1月1日から令和8年(2026年)12月31日までの間に受けた贈与です。
この期限は2026年12月31日で、あと数か月です。令和8年度の税制改正(令和8年3月31日公布)では、国土交通省の税制改正概要にこの措置の延長は挙げられておらず、2026年8月時点で延長は確認できていません。援助を受ける予定があるなら、贈与の時期を年内に収められるかを先に確かめてください。
出典: 国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
この特例には、贈与を受ける人の年齢や所得、住宅の床面積など、いくつかの条件があります。受贈者は、贈与を受けた年の1月1日に18歳以上で、合計所得金額が2,000万円以下であることなどが求められます。ただし住宅の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は、合計所得金額の上限が1,000万円以下になります。コンパクトな住戸を選ぶときはここで外れることがあるため、面積と所得の組み合わせを先に確認してください。適用を受けるには、贈与を受けた翌年に贈与税の申告が必要な点にも注意してください。
もう一つ、名義と費用の食い違いにも触れておきます。親名義の実家を子の負担でリフォームや建て替えをすると、その費用の分だけ親が利益を受けたとみなされ、親に贈与税がかかる場合があります。贈与税には、年間110万円までの基礎控除があり、これを超えた分に課税される仕組みです。名義を誰にするか、費用を誰が出すかは、税の観点からも早めに整理し、判断に迷うときは税理士に確認しておくと安心です。
同居と小規模宅地等の特例(混同しやすい2制度)
親と同居していた土地は、相続の際に評価額が大きく下がる特例の対象になることがあり、同居を考えるうえで知っておきたい制度です。
小規模宅地等の特例では、被相続人が住んでいた土地を一定の親族が相続する場合、330㎡までの部分について評価額が80%減額されます。同居していた親族が引き継ぐケースは、この特例の対象になりやすい形です。ただし、同居していた家に相続後も住み続け、その土地を持ち続けるといった要件を満たす必要があり、詳しい適用は個々の事情で変わります。相続税の負担を大きく左右する制度のため、同居の相続面での意味は小さくありません。
出典: 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
ここで気をつけたいのが、先ほどの贈与の特例と、この相続の特例は別の話だという点です。両方とも「住まいのお金」に関わるため混同しやすいのですが、贈与税の非課税は生前に資金をもらうときの制度、小規模宅地等の特例は相続のときの土地評価の制度です。しかも、両者が絡み合う場面があります。同居していない親族でも、持ち家がないなどの要件(いわゆる家なき子)を満たせば小規模宅地等の特例を受けられる場合がありますが、その要件には「相続開始前3年以内に自分や配偶者などが所有する家に住んでいないこと」が含まれます。贈与の特例を使って自分の持ち家を得ると、この家なき子の要件から外れる場合があります。どの制度を、どのタイミングで使うのがよいかは、家族の状況によって答えが変わります。要件は個々で異なり、相続まで見据えた判断になるため、税理士に相談しながら進めることをおすすめします。
決めたあと、実家(親の家)をどうするか
住まいの形が決まると、次に気になるのが、空く実家や残る実家をどうするかです。ただ、この点は本記事の主役ではありません。
同居や住み替えで親の家が空く場合も、近居で親の家が残る場合も、その家を売るか貸すか残すかは、相続ともからむ論点です。住み替えのトビラは、あなた自身の住み替えの意思決定を扱う立場から、実家(親の家)そのものの処分や相続の手続きには、ここでは深く立ち入りません。実家の扱いをくわしく知りたいときは、その点を専門に扱う情報にゆずります。
一つだけ言えるのは、方針を決めずに時間だけが過ぎると、選べたはずの選択肢がだんだん狭まってしまうことです。実家をどう扱うかは、住まいの形を決めるのと並行して、早めに家族で話しておくと安心です。
まとめ:親との同居と近居に迷ったら、住み替えのトビラ
同居・近居・現状維持のどれが良いかに、すべての家族に当てはまる正解はありません。親がどのくらい自立して暮らせているか、お金を誰がどう負担するか、家族それぞれの気持ちをどう揃えるか、そして5年後10年後をどう見通すか。この4つの軸から、自分たちに合う形を探すことが出発点になります。
そのうえで、いま持ち家のマンションで暮らすあなたにとっては、同居や近居が「今のマンションから住み替えるかどうか」の問いに直結します。今の住まいを売って親の近くへ動くのか、手元に残して親を近くに迎えるのか。実家の二世帯化のような親の戸建ての道と、自分がマンションから動く道とを混同しないことが、判断をぶれさせないこつです。
迷ったときは、あなたが後から変えやすい選び方から始め、家族の状況に合わせて見直していくのも一つの手です。家族で気持ちを出し合い、その時々の状況に合わせて見直していく。その積み重ねが、親にとっても自分たちにとっても、無理のない暮らしにつながります。
住み替えのトビラは、これからも住み替えの判断に役立つ情報を届けていきます。
住み替えのトビラ 
