「築40年を超えているから、うちは旧耐震だろう。旧耐震は売れないと聞いた」。売却を考え始めた人の多くが、この2つを同時に信じています。
先に答えを書きます。旧耐震かどうかは築年数ではなく建築確認日で決まり、税法にはもう1本別の線があります。減るのは「住宅ローン控除を前提に予算を組む買主」で、自己資金の多い実需層・投資家・買取業者は残ります。
この記事では、線引きの確かめ方、買主が減る理由、残る買主、耐震診断と適合証明の使い方、売り方の選択肢、高く売る準備まで、売主の立場で順に見ていきます。
旧耐震マンションの線引きと確認方法
「築40年を超えているから旧耐震だろう」と決めつけて相談に行く人は多いです。けれども旧耐震かどうかは築年数ではなく、書類の日付で決まります。
まず線引きの正体と、自分の物件で確かめる方法から見ていきます。
旧耐震の線引きは建築確認日が1981年5月31日以前
旧耐震と新耐震の境目は、1981年(昭和56年)6月1日に施行された建築基準法の耐震基準です。この日より前に建築確認を受けた建物が旧耐震、この日以降に受けた建物が新耐震と呼ばれます。
住宅金融支援機構のフラット35の技術基準も、建築確認日が昭和56年5月31日以前の中古住宅を、耐震性の確認が要る住宅として扱っています。地震保険の建築年割引も「昭和56年6月1日以降に新築された建物」が条件です。制度の側が、この日を境に扱いを変えています。
大事なのは、基準になる日付が「完成した日」でも「入居した日」でもなく、「建築確認を受けた日」だという点です。マンションは建築確認から完成まで1〜2年かかるのが目安なので、1982年や1983年に完成した棟でも、建築確認が1981年5月以前なら旧耐震です。
売却の相談で「築44年だから旧耐震ですね」と言われても、それは推定にとどまります。確認日を見るまで決めつけずにおくと、あとで話が変わるのを防げます。
出典: 財務省「地震保険制度の概要」 出典: 住宅金融支援機構 フラット35「中古住宅の技術基準の概要」
自分のマンションの建築確認日を調べる書類
建築確認日は、次のどれかの書類で確かめられます。
| 書類 | どこにあるか | 見る欄 |
|---|---|---|
| 建築確認通知書(確認済証) | 管理組合の書庫・分譲時の資料 | 確認年月日 |
| 検査済証 | 同上 | 確認番号と年月日 |
| 建築計画概要書 | 所在地の特定行政庁(市区町村または都道府県の建築指導の窓口)で閲覧 | 確認済証交付年月日 |
| 重要事項調査報告書 | 管理会社に発行を依頼 | 建築確認年月日の欄(様式による) |
| 購入時の重要事項説明書 | 自宅の契約書類 | 建物の概要 |
手元に何もなければ、建築計画概要書を閲覧する方法が近道です。建築基準法には、閲覧を請求されたときの特定行政庁の義務が書かれています。
特定行政庁は、確認その他の建築基準法令の規定による処分並びに第十二条第一項及び第三項の規定による報告に関する書類のうち、(中略)国土交通省令で定めるところにより、閲覧の請求があつた場合には、これを閲覧させなければならない。
所在地と建物名を伝えれば、その場で確認済証の交付日が分かります。管理会社に頼む重要事項調査報告書は、一般に発行手数料がかかります。売却時にはどのみち仲介会社が取り寄せるので、その写しをもらう手もあります。
住宅ローン控除の線引きは登記上の建築日で別
売主を混乱させるのが、建築基準法とは別に、税法にもう1本の線があることです。
買主が住宅ローン控除を受けるとき、中古マンションは「昭和57年1月1日以後に建築されたものであること」であれば、そのまま控除の対象になります。ここで見るのは建築確認日ではなく、登記事項証明書に載る建築年月日です。国税庁も、この要件を確かめる書類として登記事項証明書を挙げています。
この2本の線のズレから、次のような棟が生まれます。
- 建築確認が1981年6月以降(新耐震)でも、登記の建築日が1981年12月31日以前なら、買主は耐震の証明書があってはじめて控除を使える
- 建築確認が1981年5月以前(旧耐震)でも、登記の建築日が1982年1月1日以後なら、買主は証明書なしで控除を使える
2つ目のケースは、旧耐震マンションの売主にとって知っておく価値があります。建築確認と完成の間に年をまたいだ棟は、建築基準法の上では旧耐震でも、買主の税制の上では新耐震と同じ扱いになるからです。
登記事項証明書は法務局で誰でも取れます。売却前に、自分の棟の建築日を確かめておきましょう。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.1211-3「中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
旧耐震マンションは全国に約103万戸ある
国土交通省の推計では、2025年末のマンションストック総数は約723.6万戸で、そのうち旧耐震基準で建てられた戸数は約103万戸です。103万戸を723.6万戸で割ると14.2%になり、およそ7戸に1戸の割合です。都心や駅前の便利な場所ほど、旧耐震の棟が多く残っています。
この数字が示すのは、旧耐震マンションの売買が特殊な取引から外れているということです。毎年、多くの旧耐震マンションが売買され、買主も付いています。買主の顔ぶれと値段の付き方が新耐震とは違う、と捉えるのが実態に近いです。
一方で、築40年以上のマンションは2025年末で約158.8万戸あり、10年後には約2.0倍、20年後には約3.2倍に増える見込みです。同じような売り物が増えていく中で、自分の棟が選ばれる理由を先に用意しておくことが、次の章から見ていく売り方につながります。
出典: 国土交通省「分譲マンションストック数の推移(2025年末現在)」 出典: 国土交通省「築40年以上の分譲マンション数の推移(2025年末現在)」
旧耐震マンションが売りにくい理由
旧耐震マンションが売りにくいと言われる理由は、建物が古いからというより、買主の側で使える制度が減るからです。
売主が「何が減るのか」を知っておくと、買主がどこで迷うのかが見えてきます。ここでは買主の目線で、次の4つに分けて見ていきます。
- 買主の住宅ローンが通りにくい
- 買主が住宅ローン控除を使えない
- 地震保険の建築年割引が付かない
- 耐震診断の結果が重要事項説明で買主に伝わる
買主の住宅ローンが通りにくい
買主が一番先にぶつかるのが住宅ローンです。
住宅金融支援機構のフラット35では、建築確認日が昭和56年5月31日以前の中古住宅について、耐震評価基準への適合が技術基準になっています。共同住宅の耐震評価基準は、構造形式がラーメン構造と壁式構造の併用でないこと、平面形状が著しく不整形でないこと、セットバックが大きくないこと、ピロティ部分が偏在していないことの4項目です。棟として耐震診断を受けて基準を満たしていれば、適合証明の道が開けます。診断をしていない棟では、この確認が取れないまま止まります。
民間の銀行も、担保となるマンションの築年と耐震性を評価に入れます。銀行によって扱いはさまざまで、旧耐震でも立地と管理状態を見て融資する銀行もあれば、旧耐震というだけで融資期間を短くする銀行もあります。
売主にとっての要点は、「買主がローンを組めるかどうかは、棟ごとに、銀行ごとに違う」という点です。同じ棟で最近ローンを使って買った人がいれば、その銀行では通る見込みが立ちます。
出典: 住宅金融支援機構 フラット35「中古住宅の技術基準の概要」
買主が住宅ローン控除を使えない
住宅ローン控除は、買主が年末のローン残高の一定割合を所得税から差し引ける制度です。中古住宅のうち「その他の住宅」では、令和4年から令和12年までに居住した場合、控除期間は10年、各年の控除額は年末残高等×0.7%、控除限度額は14万円と定められています。
中古マンションでこの控除を受けるには、登記上の建築年月日が昭和57年1月1日以後であるか、それより前の建物なら、次の要件を満たす必要があります。
取得の日前2年以内に、地震に対する安全上必要な構造方法に関する技術的基準に適合するものであると証明されたもの(耐震住宅)であること
証明の方法は3つです。
- 建築士などが発行する耐震基準適合証明書
- 耐震等級1以上の建設住宅性能評価書
- 既存住宅売買瑕疵担保責任保険の付保証明書
ただしマンションの場合、専有部分だけを見て証明を出すのは難しく、棟としての耐震性が前提になります。
買主が失う控除額の上限(仮定の例)
控除限度額の14万円は、年末残高等が2,000万円のときの0.7%にあたります(2,000万円×0.7%=14万円)。10年間ずっと上限に届く残高があると仮定すると、14万円×10年=140万円が上限です。実際には残高が毎年減るので、これより下がります。自分の物件で見るときは、買主の想定借入額と返済年数を入れて計算し直します。
買主が予算を組むとき、この差は10年分の手取りとして効いてきます。控除を前提に予算を組んでいた買主にとって、旧耐震は「同じ価格でも手元に残るお金が減る物件」に見えます。売りにくさの正体は、この部分が大きいです。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.1211-3「中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
地震保険の建築年割引が付かない
地震保険には割引の制度があり、その一つが建築年割引です。財務省の説明では、昭和56年6月1日以降に新築された建物であれば、保険料が10%割り引かれます。旧耐震マンションはこの割引の対象から外れるので、買主が地震保険に入るとき、新耐震の同じ広さの部屋より保険料が高くなります。
ここで知っておくとよいのが、耐震診断割引という別の割引です。
地方公共団体等による耐震診断または耐震改修の結果、建築基準法における耐震基準を満たす場合
この条件に当てはまれば、同じ10%の割引を受けられます。棟として耐震診断を受けて基準を満たしていれば、保険の面では新耐震と同じ扱いになります。
なお、地震保険の割引は免震建築物割引50%、耐震等級割引10〜50%、耐震診断割引10%、建築年割引10%の4区分で、財務省は「重複不可」と明記しています。旧耐震マンションでは、建築年割引の代わりを耐震診断割引が務める形になります。
出典: 財務省「地震保険制度の概要」
耐震診断の結果が重要事項説明で買主に伝わる
売買契約の前に、仲介会社は買主に重要事項説明を行います。宅地建物取引業法施行規則には、説明すべき事項として次の定めがあります。
当該建物(昭和五十六年六月一日以降に新築の工事に着手したものを除く。)が建築物の耐震改修の促進に関する法律第四条第一項に規定する基本方針のうち同条第二項第三号の技術上の指針となるべき事項に基づいて次に掲げる者が行う耐震診断を受けたものであるときは、その内容
診断を行う者として挙がっているのは、指定確認検査機関・建築士・登録住宅性能評価機関・地方公共団体の4者です。
ここで一つ注意があります。この規則の線引きは「昭和56年6月1日以降に新築の工事に着手したもの」を除く、つまり着工日が基準です。旧耐震かどうかを分ける建築確認日とは基準の日が違うため、確認日が1981年6月以降でも着工がそれより前なら、この説明の対象に入ります。
裏を返せば、耐震診断を受けていない棟は「耐震診断は未実施」と説明されます。診断の結果が「耐震性が不足する」だった棟は、その内容がそのまま買主に伝わります。売主が知っておくべきなのは、この説明を避ける道はないという点です。
だからこそ、売主のほうが先に棟の状況を把握し、内覧の段階で自分の言葉で説明できるようにしておくほうが、買主の不安を小さくできます。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の4の3第5号) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第35条第1項第14号)
旧耐震マンションを買える買主の種類
制度が不利になっても、旧耐震マンションを買う人は実際にいます。減るのは「住宅ローン控除を前提に予算を組む実需層」で、残るのは別の物差しで物件を見る人たちです。
| 買主の種類 | 見る指標 | 価格の決め方 | 向く売り方 |
|---|---|---|---|
| 自己資金が多い実需層 | 立地・管理・間取り | 周辺の旧耐震成約事例 | 仲介で居住用として広告 |
| 投資家 | 賃料と利回り | 想定賃料÷期待利回り | 仲介で収益物件として広告 |
| 買取再販業者 | 再販価格と工事費 | 再販想定額から逆算 | 買取(即時) |
誰が残るのかを知ると、売り方と価格の決め方が変わります。
自己資金が多く住宅ローン控除に頼らない実需層
住宅ローン控除は、ローンを組む人のための制度です。自己資金の割合が高い人、親からの資金援助で買う人、住み替えで前の家の売却代金を充てる人は、控除の有無で予算が変わりにくい層です。
この層は「都心の駅近に、この予算で住める」という立地の価値で旧耐震マンションを選びます。年齢層で言えば、退職前後で現金の比率が高い世代と、実家の支援を受けられる若い世代の両方にいます。共通しているのは、築年より場所を優先している点です。
この層に届く売り方は、居住用として仲介で広告を出し、管理状態と立地の強みを書類で示すことです。ローンの可否を気にせずに済むので、価格交渉も周辺の旧耐震の成約事例を軸に進みます。
利回りで判断する投資家
投資家は自分で住むわけではないので、住宅ローン控除やフラット35は最初から判断材料の外にあります。見ているのは賃料と利回りです。
旧耐震マンションは購入価格が抑えられる分、家賃との比率で見た利回りは新耐震より高く出やすく、投資家にとってはむしろ選びやすい物件になります。
価格の決め方も違います。投資家は「想定賃料の年額を期待利回りで割る」形で上限価格を出します。
投資家の上限価格の出し方(仮定の例)
月10万円で貸せる部屋なら、年間の賃料は120万円。期待利回りを6%と置くと、120万円÷0.06=2,000万円が上限の目安になります。期待利回りは地域と時期で変わる仮定の数字なので、自分の部屋の想定賃料と、周辺で売られている収益物件の利回りに置き換えて計算します。
投資家に売る場合は、仲介会社に「収益物件としても広告してほしい」と頼み、周辺の賃料相場を資料に添えると反応が変わります。賃貸中の部屋であれば、入居者が付いたまま売れるのもこの層ならではです。
リノベーションして再販する買取業者
買取再販業者は、旧耐震マンションを現状のまま買い取り、室内を全面的に改装して再び販売する事業者です。買主自身が住むわけではないので、控除の要件は判断の外にあり、契約から決済までが早く、室内の傷みも問題になりにくいです。
その代わり、買取価格は「改装後に売れる価格」から工事費と利益を引いて逆算されます。仲介で実需に売れた場合より低くなるのが一般的で、その差が「早さと決済の見通し」の対価です。
大事なのは、買取業者の提示額だけを見て決めずにおくことです。仲介で売れた場合の想定価格を先に出してもらい、その差額が自分の急ぎ度に見合うかを比べてから選ぶと、後悔が減ります。
買取業者を複数当たると提示額に幅が出ます。1社の額を「相場」と思い込まない工夫も必要です。
同じ棟の直近成約で買主のローン可否を確かめる
旧耐震マンションの買主がローンを組めるかどうかは、部屋ではなく棟で決まります。同じ棟で最近売れた部屋の買主が、どの銀行でローンを組めたか。これは売主にとって最も役に立つ情報です。
調べ方はかんたんです。仲介会社に査定を頼むとき、「この棟の直近の成約で、買主はローンを使えましたか。どの銀行でしたか」と聞きます。自社で扱った成約なら分かりますし、他社の成約でも、大手であれば同じ棟の取引履歴を持っていることがあります。
管理組合の理事や管理員が、最近の売買と買主の動きを知っていることもあります。
この情報が取れると、売り出しの広告に融資実績を書けるかを検討でき、買主の不安を先回りして消せます。ローンが通った実績は、旧耐震マンションでは価格以上に買主を動かします。
耐震診断と適合証明が売却に与える影響
旧耐震マンションの売却で、買主の制度が戻るかどうかを左右するのが耐震診断です。ただし診断は部屋ではなく棟の話で、結果しだいで売主に有利にも不利にもなります。
| 棟の状態 | 買主の制度 | 重要事項説明 | 売主の立ち位置 |
|---|---|---|---|
| 診断済み・耐震性あり | 控除・フラット35・地震保険割引の道が開く | 診断結果を説明 | 新耐震に近い売り方 |
| 診断済み・耐震性不足 | 改修と証明を経て再判定 | 不足の内容を説明 | 改修計画の有無が争点 |
| 未診断 | 使えないまま | 診断なしと説明 | 買主の不安が価格に乗る |
診断の仕組みと、結果ごとに売却がどう変わるかを見ていきます。
耐震診断は管理組合が棟単位で行う
耐震診断は、建物の構造全体を調べて、現在の基準でどの程度の耐震性があるかを判定するものです。
マンションでは柱や梁などの構造部分は共用部分なので、診断の単位は棟全体です。診断を行うかどうかは管理組合の総会で決め、費用も管理組合が負担します。
法律の上では、建築物の耐震改修の促進に関する法律が、所有者の立場を3段階に分けています。
要安全確認計画記載建築物及び特定既存耐震不適格建築物以外の既存耐震不適格建築物の所有者は、当該既存耐震不適格建築物について耐震診断を行い、必要に応じ、当該既存耐震不適格建築物について耐震改修を行うよう努めなければならない。
これが法16条で、一般の分譲マンションの多くはここに当たります。学校・病院・百貨店など多数の者が利用する一定規模以上の建築物は法14条で診断と改修の努力義務を負い、耐震改修促進計画に記載された建築物と、計画に記載された道路(緊急輸送道路など)に接する通行障害既存耐震不適格建築物は、法7条で診断を行って所管行政庁に報告する義務を負います。分譲マンションでも、緊急輸送道路の沿道で指定を受けた棟は、この義務の側に入ります。
売主が個人でできるのは、管理組合の議事録や総会資料で「耐震診断」という言葉を探し、過去に診断が提案されたか、実施されたか、結果はどうだったかを確かめることです。ここが売却の出発点になります。
出典: e-Gov法令検索「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(第7条・第14条・第16条) 出典: 国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」
耐震性ありなら適合証明で買主の制度が戻る
診断の結果、棟が現在の基準に照らして耐震性ありと判定されていれば、売主にとって大きな追い風です。
この結果をもとに、建築士などが耐震基準適合証明書を発行でき、買主は住宅ローン控除を受けられます。フラット35の適合証明も取りやすくなりますし、地震保険は耐震診断割引の対象になります。制度の面では、新耐震のマンションとほぼ同じ土俵で売れます。買主の母数が戻るので、価格も「旧耐震だから」という値引き圧力を受けにくくなります。
注意点は期限です。国税庁の要件では、証明のための調査が「取得の日前2年以内」に終わっている必要があります。売主が売り出し前に証明書を取っても、買主の取得日から見て2年を超えると使えなくなります。
診断結果が古い場合でも、建築士が改めて調査して証明書を出す形になるので、仲介会社と発行の段取りを決めておきましょう。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.1211-3「中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
耐震性不足なら重要事項説明で伝わる
診断で耐震性が不足すると判定された棟は、その内容が重要事項説明で買主に伝わります。買主は控除を使えず、不安も抱えるので、価格交渉は厳しくなりがちです。
ただ、ここで売主が見るべきなのは「その後、管理組合がどう動いたか」です。
改修工事の計画が総会で決まっている棟、改修の設計まで進んでいる棟は、買主にとって「不足しているが直る予定の棟」になります。税制にも、改修を前提にした枠が用意されています。国税庁は要耐震改修住宅について、取得の日までに「建築物の耐震改修計画認定申請書」などにより一定の申請手続をしていること、そのうえで居住の用に供する日(取得の日から6か月以内の日に限る)までに耐震基準適合証明書などで証明されていることを要件としています。買主が動ける期間は短いので、改修の見通しは早めに伝えたいところです。
逆に、診断後に改修の話が止まっている棟は、買主から見て先が読みにくいです。売主は議事録で改修の議論の経過をたどり、内覧で聞かれたときに答えられるようにしておくことが、数少ない打ち手になります。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.1211-5「要耐震改修住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
診断していない棟は診断なしとして売る
国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、旧耐震基準に基づき建設されたマンションのうち耐震診断を行ったマンションは31.6%でした。そのうち「耐震性があると判断された」割合は17.1%です。母数は管理組合向け調査で、全国4,270管理組合に配布し、有効回収は1,589管理組合(回収率37.2%)でした。
つまり旧耐震マンションの7割近くは、診断をしないまま売買されています。診断をしていない棟は、重要事項説明で「耐震診断は未実施」と説明されます。買主は安全性を確かめる材料を持たずに判断することになり、その不安が価格に乗ります。
一方で、悪い結果が確定しているわけでもないので、耐震性不足と判定された棟よりは買主の幅が広い、という見方もできます。
売主が個人で総会の決議を動かすのは時間がかかります。売却を急ぐなら「未診断のまま、管理と立地で売る」と割り切るのが現実的です。診断を提案するなら、売却まで1年以上ある場合に限ります。
出典: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕」
耐震診断の費用と自治体の助成
耐震診断の費用は建物の規模と構造で変わり、管理組合の負担になります。ただ、多くの自治体が旧耐震マンションの耐震診断に助成を出しており、費用の一部から大部分をまかなえる場合があります。
東京都では区市町村ごとに助成の率と上限が違い、東京都耐震ポータルサイトに区市町村別の補助額一覧が載っています。同じサイトには耐震化の技術相談窓口があり、建物の種類によらず無料で相談できます。緊急輸送道路の沿道で指定を受けた建物には、率の高い助成の制度が別に用意されています。東京都以外の読者は、所在地の自治体の耐震化の窓口で同じことを確かめられます。
売主が知っておくとよいのは、助成の申請は管理組合が行う点と、年度ごとに予算の枠があり申請の時期が限られる点です。
売却のスケジュールと合わせて診断を提案する場合は、自治体の申請期限を先に確かめてから総会に諮ると、話が前に進みやすくなります。
出典: 東京都耐震ポータルサイト
旧耐震マンションの売却方法の選択肢
旧耐震マンションの売り方は、仲介・買取・待つの3つの系統に分かれます。急いでいるのか、棟に診断や建替えの動きがあるのか、で向く選択肢が変わります。
| 選択肢 | 向く状況 | 価格 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 仲介で実需や投資家に売る | 時間に余裕がある | 高い | 3か月〜 |
| 買取業者に売る | 急いでいる・室内の傷みが大きい | 低い | 数週間 |
| 診断や建替え議論の結果を待つ | 棟に動きがあり1年以上待てる | 結果しだい | 1年〜 |
| 仲介で反響を見て買取に切り替える | 高く売りたいが期限がある | 中間 | 3〜6か月 |
表の期間はいずれも目安で、棟の立地と売り出し価格によって動きます。
仲介で実需や投資家に売る
仲介は、不動産会社に買主を探してもらい、一般の買主に売る方法です。旧耐震マンションでも、立地が良く管理状態が分かる棟なら、実需層と投資家の両方から反応があります。価格は買取より高くなりやすく、時間をかけられる人に向きます。
旧耐震で仲介を選ぶときの工夫は、広告の出し方です。居住用として出すのと並行して、収益物件としても出してもらうと、投資家の目に留まります。周辺の賃料相場を資料に添え、想定利回りを示せると反応が変わります。
仲介会社を選ぶときは、「この棟の売買を扱ったことがあるか」「旧耐震でローンが通った銀行を知っているか」を聞いてみましょう。棟の取引履歴を持つ会社は、買主の不安への答えを最初から持っています。
買取業者に売る
買取は、不動産会社が自ら買主になる方法です。旧耐震マンションでは、室内を改装して再販する買取再販業者が主な相手になります。仲介と違って買主を探す期間がなく、契約から決済まで数週間で終わるのが目安です。室内の傷みや残置物もそのまま引き渡せるのが利点です。
価格は仲介より低くなります。改装後に売れる価格から、工事費と業者の利益を引いた額が提示されるためです。この差を「急ぎの対価」として受け入れられるかが判断の分かれ目です。
買取を選ぶときは、買取業者を複数当たり、同時に仲介会社にも「仲介で売った場合の想定価格」を出してもらいましょう。2つの数字を並べると、買取の提示額が妥当かどうかを自分で判断できます。
買取では、契約不適合責任を免責とする契約が一般的で、引き渡し後の責任が軽くなるのも旧耐震の売主には見逃せない点です。
耐震診断や建替え議論の結果を待ってから売る
棟に動きがある場合は、その結果を待ってから売る選択肢があります。
耐震診断の実施が総会で決まっているなら、結果が「耐震性あり」なら買主の制度が戻り、売りやすさが変わります。逆に不足と出た場合は、改修計画の有無で次の判断をすることになります。
建替えや敷地売却の議論が始まっている棟も同じです。2026年4月1日に施行された区分所有法の改正で、建替えなどの決議の要件が見直され、所在等不明区分所有者を決議の母数から除外できるようになりました(38条の2)。議論が決議に近づくほど、買主は「建替え後の新しい部屋の権利」として見るようになり、価格の付き方が変わります。
待つ選択肢の弱点は時間です。診断だけでも数か月、建替えの決議は年単位でかかるのが目安です。住み替え先の期限が決まっているなら、待つ選択肢は外して考えるほうが現実的です。
出典: 法務省「区分所有法制の見直し(令和7年法律第47号)」
仲介で反響を見てから買取に切り替える
高く売りたいけれど期限もある、という人に向くのが、まず仲介で売り出し、一定期間で売れなければ買取に切り替える方法です。不動産会社によっては「買取保証」として、仲介で一定期間売れなかったときにあらかじめ決めた価格で買い取る仕組みを用意しています。期間の長さは会社ごとに違うので、契約前に確かめます。
旧耐震マンションでは、仲介で出してみて初めて「この棟の買主はどの層か」「ローンが通る銀行はどこか」が分かることも多いです。反響の中身を見て、実需が来るなら仲介を続け、来ないなら買取に切り替える、と段階で決められます。
買取保証を使うときは、保証価格が最初から低めに設定されていないかを見ておきましょう。仲介の売り出し価格と保証価格の差が大きすぎる場合は、別の会社の買取額とも比べるのが安全です。
旧耐震マンションを高く売るコツ
旧耐震マンションを高く売る鍵は、買主が不安に思う点を先回りして消すことです。
管理と立地を書類で示し、ローンの道筋を用意し、耐震について聞かれたときの答えを持っておく。この3つで、買主の見え方が変わります。
管理状態を書類で示す
旧耐震マンションの買主が最も見ているのは、建物の管理状態です。築年が同じでも、修繕を計画どおりに進めてきた棟と、積立金が足りず先送りしてきた棟では、買主の評価がまったく違います。
売主は次の書類を揃えて、管理の良さを見える形にしましょう。
- 大規模修繕の履歴(実施年と工事内容)
- 長期修繕計画書
- 修繕積立金の残高と積立状況
- 重要事項調査報告書
- 耐震診断の結果(あれば)
- 総会議事録(直近数年分)
これらは管理会社と管理組合から入手できます。仲介会社が契約前に取り寄せるものでもありますが、売主が先に手元に置き、内覧のときに買主に見せられる状態にしておくと、買主は安心して次の段階に進めます。
「古いけれど手入れされてきた棟」という印象は、数字より書類で伝わります。
買主のローンが通る銀行を先に確かめる
旧耐震マンションの売却で、価格と同じくらい重要なのが「ローンが通る銀行があるか」です。買主が銀行に断られて契約が流れる事態を防ぐには、売り出す前に仲介会社に銀行を当たってもらいます。
具体的には、同じ棟の直近の成約で使われた銀行、仲介会社が旧耐震の取引で実績のある銀行、地元の信用金庫などを候補に、「この棟で融資が可能か」を事前に確認してもらいます。銀行は物件の所在地・築年・管理状態で判断するので、棟の資料を渡せばおおよその答えが返ってきます。
融資が可能な銀行が分かっていれば、買主が現れたときに「この銀行なら通った実績があります」と案内でき、審査の遅れや不成立を減らせます。広告に融資実績を書けるかどうかも、仲介会社と相談してみましょう。
価格は同じ棟や近隣の旧耐震成約事例で決める
売り出し価格の決め方で、旧耐震マンションがつまずきやすいのが「新耐震の相場から築年で引き算する」やり方です。この方法だと、旧耐震で実際に買主が付く価格帯とずれることがあります。買主の顔ぶれが違うので、価格の付き方も別だからです。
参考にするべきは、同じ棟の成約事例と、近隣の同じ年代の棟の成約事例です。レインズの成約データは仲介会社が見られますし、国土交通省の不動産情報ライブラリでは、実際の取引価格の情報を誰でも調べられます。同じ棟で1〜2年以内の成約があれば、それが最も強い根拠になります。
査定額を受け取ったら、「この額はどの成約事例から出しましたか」と聞いてみましょう。旧耐震の事例を根拠にしているかどうかで、査定の信頼度が分かります。
出典: 国土交通省 不動産情報ライブラリ
内覧での耐震の質問に答えを用意する
旧耐震マンションの内覧では、買主から「地震は大丈夫ですか」「耐震診断はしていますか」と、ほぼ必ず聞かれます。ここで曖昧に答えると、買主の不安はそのまま残ります。答えを先に用意しておきましょう。
内覧での答え方の例
- 「建築確認は1980年で旧耐震です。耐震診断は2019年に管理組合で実施し、耐震性ありと判定されています。診断結果の写しをお渡しできます」
- 「耐震診断はこれからです。管理組合では2024年の総会で診断の提案があり、次期に再検討する予定です。議事録の写しをお渡しできます」
- 「診断で一部不足と出ていますが、2027年度に補強工事を行う計画が総会で承認されています。計画書をお渡しできます」
どの答えも、事実を隠さず、根拠の書類を添える形になっています。悪い事実でも、管理組合がどう動いているかまで説明できると、買主は「先が読める棟」として受け止めます。
答えを準備する過程で、売主自身が棟の状況を把握できるのも利点です。
リフォームは最小限にして現況で売る
旧耐震マンションを売る前に、室内をリフォームして高く売ろうと考える人がいます。けれども旧耐震では、この投資が回収しにくい傾向があります。
買主の多くが自分好みに改装する前提で探しているか、買取業者のように全面改装を前提にしているからです。売主が入れた新しいキッチンは、買主にとって「壊す対象」になることがあります。
やるとすれば、内覧の印象を左右する最小限に絞ります。清掃、不要な家具の撤去、壊れた設備の修理、明かりを明るくする程度で足ります。数十万円以上の工事は、その分を価格に反映できるか仲介会社に確かめてからにしましょう。
現況のまま売る場合は、設備の不具合を告知書に正直に書きます。旧耐震では買主が「古さ」を織り込んで見ているので、正直な告知が信頼につながり、引き渡し後の揉めごとも減ります。
まとめ:旧耐震で減るのは買主の母数だけなので、棟の耐震診断の状況から売り方を決める
いちばん重いのは、旧耐震という条件が建物の価値ではなく買主の制度に効いているという構造です。住宅ローン控除は控除期間10年・年末残高等の0.7%・控除限度額14万円で、上限まで使えれば10年で140万円になります。この差が予算から消えるので、控除を前提にした買主が減ります。逆に言えば、自己資金の多い実需層、利回りで見る投資家、買取再販業者は残り、棟の耐震診断が「耐震性あり」なら減った買主も戻ります。
次の一歩は、管理組合の議事録と総会資料で、自分の棟の耐震診断の状況を確かめることです。旧耐震で診断まで進んだマンションは31.6%にとどまるので、多くの棟は「未診断」からの出発になります。ここを飛ばして売り出すと、重要事項説明で初めて診断の有無が買主に伝わり、契約の直前で価格交渉が振り出しに戻ります。
そのうえで、建築確認日と登記上の建築年月日という2つの日付を書類で確かめ、仲介と買取の両方から価格を取ります。3つが揃えば、急ぐか待つか、仲介か買取かを自分の数字で選べます。住み替えのトビラでは、旧耐震マンションの売却も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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