訪問査定を3社に頼み、1社に決めた。残りの2社には世話になった気持ちがあり、何と言って断ればよいか、他社の名前を言うべきか、断ったら引き止められるのではないか。ここで手が止まる人は多いはずです。
先に答えを書きます。どの会社にどの契約で頼むかは売主に委ねられていて、断りに理由の説明義務も他社名を明かす義務も課されていない立場です。文面は「感謝・他社に決めた結論・今後の連絡は不要」の3要素で足ります。ただし、口頭で「お願いします」と言っていれば契約が成立しうるので、断る前に成立の線を確かめます。引き止めの提案は法令と約款の物差しで返し、断った後の勧誘継続は省令で禁止されています。
この記事では、断る前に知っておく決まり、場面ごとの文例、引き止めの提案への返し方、そして断った後に勧誘が続くときの止め方を順に見ていきます。
媒介契約を断る前に知っておく決まり
訪問査定を受けた会社のうち1社に決めたら、残りの会社には媒介契約の提案を断る連絡をします。断り方の前に、3つのことを確かめます。
- その会社との媒介契約は、まだ成立していない状態か
- 決めた会社と結ぶ契約の種類は何か(専任か一般か)
- 伝える手段と時期をどうするか
3種類の媒介契約の違いは、別の記事で扱っています。
依頼先と契約の種類を選ぶのは売主で理由の説明義務はない
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、第34条の2関係の冒頭で、不動産会社が媒介契約を締結する際に専属専任媒介契約・専任媒介契約・一般媒介契約の相違点を十分に説明し、依頼者の意思を十分確認したうえで媒介契約を締結するものとする、としています。そのうえで依頼者への周知の1(2)は、標準媒介契約約款の3種類の類型について「その選択は依頼者に委ねられている」と書いています。どの会社に、どの契約で頼むかは売主が決める事項です。
したがって、提案を断ることは法律上まったく自由で、理由の説明も義務の外にあります。担当者に世話になった気持ちがあっても、「検討の結果、他社にお願いすることにしました」で足ります。
「査定額が他社より低かったので」と理由を伝えた。翌日、「査定額を見直しました」と200万円高い査定書が届き、断ったはずの会社との話が再開してしまった。
この200万円は例示で、自分が示された差額に置き換えて読みます。理由を詳しく伝えると、その理由への反論が始まります。理由を言わない断りは失礼ではなく、双方の時間を守る形です。感謝の言葉と結論だけを伝えます。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 冒頭・1(2))
口頭の承諾で媒介契約は成立しうるので持ち帰って決める
断る前に最も注意したいのは、「まだ契約していないつもりが、法律上は契約が成立している」状態です。
宅地建物取引業法34条の2第1項は、媒介契約を締結したときは遅滞なく所定の事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者に交付するよう会社に義務づけています。書面は締結の後に交付される形です。国土交通省の解釈・運用の考え方は、この「媒介契約締結の日」についてこう書いています。
「媒介契約締結の日」とは、媒介の契約締結の意思の合致のあった日であって、同日以後に遅滞なく交付することとされている媒介契約に係る書面の交付の日でないことに留意することが必要である。
つまり、書面に署名する前でも、口頭で「お願いします」と言えば意思の合致として契約が成立しうる形です。
査定の席で「では専任でお願いします」と言ってしまうと、その後の「やっぱり他社に」は断りではなく解除の話になります。決めきれないうちは「持ち帰って検討します」と言い、書面を受け取っても署名しないまま返事を保留します。契約後の解除は別の記事で扱います。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第1項) 出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 6(3)①ハ)
他社名を明かす義務はなく専任なら重ねて頼めないと伝える
断るとき、他社に決めたことを伝えるべきか、その会社名を言うべきかで迷う人がいます。どちらも義務の外にあります。「他社にお願いすることにしました」で足り、会社名を聞かれても答えるかどうかは売主の自由です。
ただし、決めた会社と専任媒介(または専属専任媒介)を結ぶなら、その事実を伝えると勧誘が止まりやすくなります。宅地建物取引業法34条の2第3項は、専任媒介契約を「依頼者が他の宅地建物取引業者に重ねて売買又は交換の媒介又は代理を依頼することを禁ずる媒介契約」と定義しています。標準専任媒介契約約款第12条は、その効果をこう置いています(甲は依頼者、乙は会社です)。
甲は、専任媒介契約の有効期間内に、乙以外の宅地建物取引業者に目的物件の売買又は交換の媒介又は代理を依頼することはできません。甲がこれに違反し、売買又は交換の契約を成立させたときは、乙は、甲に対して、約定報酬額に相当する金額(この媒介に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を除きます。)の違約金の支払を請求することができます。
「専任媒介を結んだので、重ねて依頼できない契約になっています」と伝えれば、会社側も勧誘を続ける意味がなくなります。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第3項) 出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(標準専任媒介契約約款第12条・標準一般媒介契約約款第4条)
断った会社の査定書は価格交渉の材料として残る
断った会社との関係は、そこで終わるとは限らず、あとで役に立つ場面があります。受け取った査定書は手元に残り、決めた会社との話し合いに使えます。
査定書には、査定額とその根拠(比較した成約事例、評価の減点加点)が書かれています。決めた会社の査定と比べて、成約事例の選び方が違えば、売り出し価格を決めるときの材料になります。宅地建物取引業法34条の2第2項は、会社が売買すべき価額または評価額について意見を述べるときに、その根拠を明らかにしなければならないと定めているので、どの会社の査定書にも根拠が載っているはずです。
また、決めた会社で3か月売れなかった場合、断った会社に改めて頼む道も残ります。同条3項は専任媒介契約の有効期間について三月を超えることができない旨を定め、4項は「前項の有効期間は、依頼者の申出により、更新することができる」としています。更新の起点は売主の側にあるため、申し出のないまま満了日が来れば契約はそこで終わり、別の会社と結び直せます。断りの連絡を丁寧にしておけば、この道が残ります。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第2項・第3項・第4項)
場面ごとの断り方と文例
断りの連絡は、文書で行います。決めてから数日以内という目安で動くと、相手も次の対応に移れます。場面ごとに文例を示します。文例の「(会社名)(担当者名)」は例示なので、自分の宛先に置き換えます。
- 訪問査定の後に他社へ決めたときの文例
- 契約書を受け取ったが署名する前に断るときの文例
- 電話で伝えるときは結論を先に短く言う
- 契約を結んだ後に断りたいなら解除か満了の手続きになる
訪問査定の後に他社へ決めたときの文例
最も多い場面です。訪問査定を受け、査定書と提案をもらったあと、別の会社に決めたときの文例です。
件名: 査定のお礼とご連絡
(会社名)(担当者名)様
先日は訪問査定にお越しいただき、ありがとうございました。検討の結果、今回は他社に売却をお願いすることにいたしました。今後のご連絡は不要です。丁寧なご対応に感謝しております。
要素は3つです。感謝、他社に決めた結論、今後の連絡は不要という一文。理由と他社名は省きます。「今後のご連絡は不要です」を入れておくと、断った後の勧誘の禁止(後の章)を求めるときの足がかりになります。
メールで送れば、送信日時と内容が残ります。担当者の携帯メールしか知らない場合は、会社の代表アドレスにも同じ内容を送ると、担当者個人の判断で連絡が続く事態を防ぎやすくなります。
契約書を受け取ったが署名する前に断るときの文例
査定の席で媒介契約書を渡され、「持ち帰って検討します」と持ち帰ったあとに断る場面です。署名も押印もしておらず、口頭の承諾もしていなければ、意思の合致がない状態なので、媒介契約は成立していない形です。
件名: 媒介契約書の件
(会社名)(担当者名)様
お預かりしていた媒介契約書の件ですが、検討の結果、今回は他社にお願いすることにいたしました。契約書は署名せずにお返しします(返送方法をお知らせください)。今後のご連絡は不要です。
書き方の要点は、「署名せずに返す」と明記することです。会社側が「契約は成立している」と主張する余地をなくします。査定の席で口頭の承諾をしていない旨も、書き添えておくと後の争いを避けられます。
契約書を受け取った時点で会社がレインズ登録や広告を始めていた場合はどうか。標準媒介契約約款が費用の償還を定めている条項(標準専任媒介契約約款であれば第14条)は、その媒介契約が成立していて初めて働くものです。意思の合致がなく媒介契約が成立していない段階は、この条項が働く土俵の外にあります。「契約書を受け取っただけ」の状態と、「契約が成立した」状態は別物として扱います。
出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(標準専任媒介契約約款第14条) 出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 6(3)①ハ)
電話で伝えるときは結論を先に短く言う
電話で断る場合は、結論を先に、短く伝えます。「検討の結果、他社にお願いすることにしました。今後のご連絡は不要です。ありがとうございました」。30秒で足ります。
電話では、その場で引き止めの提案が始まります。「理由を聞かせてください」「もう一度だけお時間を」と言われても、理由は言わず、「決めたことなので」で通します。提案があれば「文書で送ってください」と返し、その場での判断は避けます。引き止めへの返し方は次の章で扱います。
電話で伝えた後、同じ内容をメールでも送っておくと、記録が残ります。「先ほどお電話でお伝えしたとおり」と書き出せば、手間は最小で済みます。
契約を結んだ後に断りたいなら解除か満了の手続きになる
すでに媒介契約を結んでいる(署名した、または口頭で承諾した)場合、「断る」ではなく契約を終える手続きになります。
一括査定サイトを通じて複数の会社から連絡が来ている段階なら、各社への断りとは別に、サイトの運営会社に連絡停止を依頼する方法もあります。こちらも別の記事で扱っています。
引き止めの提案への返し方
断ると、会社から引き止めの提案が来ることがあります。提案そのものは営業として自然な行為です。乗るかどうかは、法令と約款の物差しで判断します。
| 引き止めの型 | 返し方の物差し |
|---|---|
| 「もっと高く売れます」 | 査定の根拠(成約事例)を求める |
| 「手数料を割り引きます」 | 契約書の報酬欄に書ける条件か |
| 「買主がいます」 | 購入申込書があるか |
| 「今日決めないと」 | 不当に急がせる行為として禁止 |
「もっと高く売れる」には査定の根拠を求める
「うちなら300万円は高く売れます」という提案には、その価格の根拠を求めます。この300万円は例示で、自分が示された額に置き換えます。宅地建物取引業法34条の2第2項は、会社が売買すべき価額または評価額について意見を述べるときに、その根拠を明らかにしなければならないと定めています。同じマンションや近隣の直近の成約事例と、自分の物件との差を数字で示してもらいます。
根拠の示されない高い価格は、成約価格の見込みではなく「売り出し価格」に近いものです。高く売り出して売れなければ、値下げして成約に至ります。断った会社が示す高値と、決めた会社の査定額の差は、成約事例で比べれば埋まるか、埋まらないかが分かります。
根拠が示されて納得できるなら、決めた会社に「他社はこの事例でこの価格を出している」と伝え、売り出し価格の相談に使います。会社を替えずに済む場合も多いです。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第2項)
「手数料を割り引く」は契約書に書ける条件かで判断する
「手数料を1%にします」という提案は、口頭のままでは条件として弱い状態です。この1%も例示です。宅地建物取引業法46条1項は、媒介に関して受けることのできる報酬の額を「国土交通大臣の定めるところによる」とし、2項は、前項の額をこえて報酬を受けることを禁じています。国土交通省の解釈・運用の考え方1(3)は、報酬の額が告示(昭和45年建設省告示第1552号)で定める限度額の範囲内でなければならないとしたうえで、限度額を当然に請求できるものではなく、具体的な報酬額は会社が行おうとする媒介業務の内容等を考慮して依頼者と協議して決める事項である、としています。割引の提案そのものは、この枠の中の話です。
判断の物差しは、その割引を契約書の報酬欄に書けるかどうかです。書けるなら条件として成立し、書けないなら口約束のままです。
同時に、決めた会社にも同じ協議を持ち込めます。「他社はこの率を提示している」と伝えれば、決めた会社が応じる可能性もあります。手数料だけで会社を選び直すより、決めた理由(担当者・販売計画・報告の約束)と手数料を合わせて比べます。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第46条第1項・第2項) 出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 1(3))
「買主がいる」は購入申込書があるかで判断する
「実は購入を検討しているお客様がいます」という提案は、断った直後によく出ます。判断の物差しは、購入申込書があるかどうかです。
宅地建物取引業法34条の2第8項は、媒介契約を締結した会社に対し、目的物件の売買または交換の申込みがあったときは遅滞なくその旨を依頼者に報告するよう義務づけています。国土交通省の解釈・運用の考え方は、この報告の対象を、購入申込書等の売買または交換の意思がはっきり示された「文書等による申込み」があったときとし、依頼者の希望条件を満たさない申込みの場合等であっても、その都度報告する必要があるとしています。
口頭で「いる」と言われた段階は、ここでいう文書等による申込みとは別の状態です。
契約前の段階で実際に買主がいるなら、その買主の希望条件(価格・時期)を文書で示してもらえるはずです。示されないなら、判断材料としては弱いままです。決めた会社に頼んだ後にその買主が現れれば、決めた会社を通して申込みが届きます。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第8項) 出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 6(3)①ロ)
「今日決めないと」は不当に急がせる行為として禁止されている
「今日中に決めていただかないと、この条件は消えます」という言い方は、宅地建物取引業法施行規則16条の11第1号ロが禁じる行為にあたります。同号ロは、契約の締結の勧誘をするに際して次の行為をすることを禁じています。
正当な理由なく、当該契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒むこと。
国土交通省の解釈・運用の考え方は、これを「契約の締結を不当に急がせる行為の禁止」と説明し、例をこう挙げています。
例えば、契約の相手方が「契約の締結をするかどうかしばらく考えさせてほしい」と申し出た場合において、事実を歪めて「明日では契約締結はできなくなるので、今日しか待てない」と告げることが該当する。
この言い方が出たら、「持ち帰って検討します」で通します。急がせる理由が実際にあるなら、文書で示してもらえます。急がされて結んだ契約は、3か月の縛りを自分で作ることになります。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の11第1号ロ) 出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第47条の2第3項関係 1(2))
断った後に勧誘が続くときの止め方
断りの連絡をしたのに、電話や訪問が続くことがあります。この段階からは、法令が売主の側にあります。
- 契約しない意思を示した後の勧誘継続は法令で禁止されている
- 会社の責任者に文書で再勧誘の停止を求める
- 個人情報の利用停止を求める
- 免許行政庁に相談する
契約しない意思を示した後の勧誘継続は法令で禁止されている
宅地建物取引業法施行規則16条の11第1号ニは、契約の締結の勧誘をするに際しての禁止行為として、こう定めています。
宅地建物取引業者の相手方等が当該契約を締結しない旨の意思(当該勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示したにもかかわらず、当該勧誘を継続すること。
断りの連絡で「今後のご連絡は不要です」と書いておく意味は、ここにあります。同号ホは「迷惑を覚えさせるような時間に電話し、又は訪問すること」、ヘは「深夜又は長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法によりその者を困惑させること」を、あわせて禁じています。
また、宅地建物取引業法47条の2第2項は、契約を締結させ、または契約の申込みの撤回もしくは解除を妨げるために相手方を威迫する行為を禁止しています。国土交通省の解釈・運用の考え方は、威迫する行為とは脅迫とは異なり、相手方に恐怖心を生じさせるまでは要しないが相手方に不安の念を抱かせる行為が該当するとし、「なぜ会わないのか」「契約しないと帰さない」などと声を荒げ、面会を強要したり拘束するなどして相手方を動揺させるような行為を例に挙げています。
これらは行政処分の対象になりうる行為です。勧誘が続いたら、日時・手段・内容・担当者名を記録します。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の11第1号ニ・ホ・ヘ) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第47条の2第2項) 出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第47条の2第2項関係)
会社の責任者に文書で再勧誘の停止を求める
担当者個人に断っても続く場合は、会社の責任者(店長・支店長)宛に文書で停止を求めます。メールで、断った日付と「以後の勧誘は不要と伝えた」事実、その後に続いた連絡の日時を書き、「今後の勧誘の停止を求めます」と明記します。
会社として記録に残る形で求めれば、担当者個人の判断で続いていた連絡を会社の側で止める材料になります。文書には、施行規則16条の11第1号ニが禁じる行為にあたる旨を一言添えておきます。
このあたりの具体的な文例と、本社窓口の探し方は、しつこい営業電話への対処を扱った別の記事で詳しく書いています。
個人情報の利用停止を求める
査定を頼んだ時点で、会社は売主の氏名・住所・電話番号・物件情報を持っています。勧誘を止めたいなら、個人情報の利用停止も求められます。
個人情報保護法35条5項は、本人が、その保有個人データを事業者が利用する必要がなくなった場合や、その取扱いにより本人の権利または正当な利益が害されるおそれがある場合に、利用停止等または第三者への提供の停止を請求できると定めています。同条6項は、請求に理由があることが判明したときは、本人の権利利益の侵害を防止するために必要な限度で、遅滞なく利用停止等または第三者への提供の停止を行わなければならない、としています。売却の依頼を見送った後も勧誘に使われている状況は、この5項の枠で求める形です。
同条1項の請求は、18条(利用目的による制限)・19条(不適正な利用の禁止)・20条(適正な取得)の違反を要件とするもので、5項とは要件が違います。断った後の勧誘を止めたい場面では、違反の立証を要しない5項の形で求める方が通ります。会社のプライバシーポリシーに請求窓口が書かれているので、そこに「勧誘目的での利用の停止を求めます」と文書で伝えます。
一括査定サイトを通じて査定を頼んだ場合は、サイトの運営会社にも情報が残っています。運営会社への連絡停止と情報の利用停止は、別の記事で扱っています。
出典: e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第35条第1項・第5項・第6項)
免許行政庁に相談する
会社に文書で求めても止まらない場合は、免許行政庁に相談します。不動産会社は都道府県知事か国土交通大臣の免許を受けて営業しており、宅地建物取引業法65条1項は、免許を受けた宅地建物取引業者がこの法律の規定に違反した場合などに、国土交通大臣または都道府県知事が必要な指示をすることができると定めています。
相談先は、都道府県の宅地建物取引業を担当する部署です。同条3項は、都道府県知事が、国土交通大臣または他の都道府県知事の免許を受けた業者で当該都道府県の区域内において業務を行うものに対し、その区域内における業務に関して必要な指示をすることができる、としています。国土交通大臣免許の会社でも、業務が行われている都道府県の窓口が受け皿になる仕組みです。
相談に行くときは、断りの連絡(メール)、その後に続いた連絡の記録(日時・手段・内容・担当者名)、責任者宛の停止要求の文書を揃えます。時系列で並べれば、窓口側も判断しやすくなります。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第65条第1項・第3項)
まとめ:断りは感謝と結論だけで足り、理由も他社名も義務の外にある
いちばん重いのは、依頼先と契約の種類を選ぶ立場が売主の側にあるという点です。国土交通省の解釈・運用の考え方は、標準媒介契約約款の3類型について「その選択は依頼者に委ねられている」と書いています。だからこそ、断りに理由の説明義務も他社名を明かす義務も課されていない立場です。文面は「感謝・他社に決めた結論・今後の連絡は不要」の3要素で足ります。「今後のご連絡は不要です」の一文は、施行規則16条の11第1号ニが禁じる「契約を締結しない旨の意思……を表示したにもかかわらず、当該勧誘を継続すること」を求めるときの足がかりにもなります。
次の一歩は、断りの連絡を送る前に、その会社との媒介契約が成立していない状態かを確かめることです。解釈・運用の考え方が「媒介契約締結の日」を意思の合致のあった日としているため、査定の席で「お願いします」と口にしていれば、書面に署名していなくても契約が成立しうる形です。ここを飛ばして「断ります」とだけ伝えると、話が断りではなく解除に移り、費用償還の条項の土俵に乗ってしまいます。口頭の承諾をしたかどうかを思い出してから、文面を書きます。
そのうえで、引き止めの提案が来たら、法令と約款の物差しで返します。「もっと高く売れる」には34条の2第2項の根拠明示、「買主がいる」には購入申込書、「今日決めないと」には施行規則16条の11第1号ロ。断った後も勧誘が続くなら、責任者宛の文書、個人情報保護法35条5項の利用停止請求、免許行政庁への相談という順に手を進めます。住み替えのトビラでは、媒介契約の断り方と引き止めへの返し方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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