媒介契約の解除|違約金が生じる場面と広告費請求の範囲を条文で確かめる

媒介契約の解除|違約金が生じる場面と広告費請求の範囲を条文で確かめる

専任媒介で売り出したが、会社の対応に不満がある。3か月を待たずに解除したいと伝えたら、「解除なら広告費を払ってもらいます」「違約金がかかります」と言われた。本当に払う義務があるのか、いくらまでなのか、ここで立ち止まる人は多いはずです。

先に答えを書きます。媒介契約は民法上いつでも解除できます。違約金が生じるのは「専任の期間中に他社へ重ねて頼み、その会社の仲介で成約したとき」で、解除そのものへの違約金は標準の約款に置かれていない形です。売主都合の解除で生じるのは費用償還で、会社が明細書と領収書で立証した実費に限られ、上限は約定報酬額です。会社に義務違反があれば、費用償還の要件から外れます。

この記事では、解除できる場面、違約金が生じる場面と生じない場面、費用償還で請求できる範囲と請求できない費用、そして催告から解除通知・解除後の処理・相談先までの手続きを順に見ていきます。

媒介契約を途中で解除できる場面

媒介契約は、3か月の期間中でも解除できます。解除の根拠と、そのときに費用が生じるかどうかは、場面によって変わります。先に一覧にします。

場面解除の根拠売主が負担する費用
会社が義務(レインズ登録・報告など)を果たさない専任約款第16条の催告解除なし
会社に背信行為(不正・不告知など)がある専任約款第17条の解除(催告は不要)なし
売主の都合で解除する民法651条1項の任意解除・専任約款第14条1項履行に要した費用(上限は約定報酬額)
期間中に他社へ頼み、他社の仲介で成約専任約款第12条の違約金約定報酬額に相当する額の違約金
3か月の満了で更新しない解除ではなく期間満了なし

3種類の媒介契約の違いは、別の記事で扱っています。

媒介契約の違いは5つ|一般・専任・専属専任を比較し自分で選ぶ 媒介契約の違いは5つ|一般・専任・専属専任を比較し自分で選ぶ

解除の条項は3類型でほぼ同じ形に置かれていて、催告解除と背信行為による解除が専任約款第16条・第17条、専属専任約款第15条・第16条、一般約款第17条・第18条に並びます。違いは違約金と費用償還の側にあり、他社へ重ねて依頼したときの違約金の条項は専任と専属専任にだけ置かれています。

民法上は準委任としていつでも解除できる

媒介契約は、不動産会社に売却の相手探しと契約の手伝いという事務を委ねる契約で、民法上は準委任にあたると解されています。民法第656条が「この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。」としているため、委任の規定がそのまま働く形です。

第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。

売主は理由を問わず、いつでも媒介契約を解除できる立場にあります。会社が「3か月は解除できない契約です」と説明したとしても、法律の側には解除の自由が置かれています。

ただし2項があるため、相手方に不利な時期の解除では損害の賠償が問題になります。やむを得ない事由があったときは、賠償の対象から外れます。標準媒介契約約款は、売主都合で解除されたときに会社が請求できるものを「契約の履行に要した費用の償還」とし、上限を約定報酬額に絞る形で条項に置いています(専任約款第14条)。売主都合の解除でいくら払うかは、この条項の枠で決まります。

出典: e-Gov法令検索「民法」(第651条・第656条) 出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第14条)

会社が義務を果たさないときは催告してから解除できる

会社側に契約上の義務違反があるときは、催告解除の条項が使えます。専任媒介契約約款第16条は、甲または乙が契約に定める義務の履行に関してその本旨に従った履行をしない場合に、その相手方は相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは契約を解除できる、と定めています。専属専任は第15条、一般は第17条に同じ形の条項が置かれています。

会社の義務は法律と約款で決まっています。宅地建物取引業法34条の2第5項の指定流通機構への登録(期限は施行規則15条の10で専任は締結の日から7日、専属専任は5日。休業日数は算入しません)、同条6項の登録証明書の引渡し、同条9項の業務処理状況の報告(専任は二週間に一回以上、専属専任は一週間に一回以上)、同条8項の購入の申込みがあったときの報告。契約書に書いた広告の措置も、約款上の義務にあたります。

これらが果たされていない状況であれば、まず文書で「〇日までに履行してほしい」と催告します。期間を過ぎても履行がないときに解除できます。この解除は会社の責めによる事由なので、費用償還の要件から外れます。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第5項・第6項・第8項・第9項) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の10) 出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第16条・専属専任媒介契約約款第15条・一般媒介契約約款第17条)

会社に背信行為があれば催告なしで解除できる

専任媒介契約約款第17条は、売主が催告を経ずに解除できる3つの場面を定めています。会社が業務について「信義を旨とし誠実に遂行する義務」に違反したとき。重要な事項について故意または重過失により事実を告げず、または不実のことを告げる行為をしたとき。宅地建物取引業に関して不正または著しく不当な行為をしたとき。専属専任は第16条、一般は第18条が同じ3事由を置いています。

たとえば、レインズ上で取引状況を事実と違う内容(売主の意向によらない「売主都合で一時紹介停止中」など)で登録して他社の紹介を止める囲い込みが、この3事由に当たるかが問題になります。取引状況の登録そのものは、令和6年6月の施行規則の改正により令和7年1月1日から会社の義務になっていて、登録事項は施行規則15条の11第2号の「当該宅地又は建物の取引の申込みの受付に関する状況」です。国土交通省の解釈・運用の考え方は、登録内容が事実と異なるときは法65条1項の指示処分の対象になる、としています。

同じ考え方は、解除の要件についてもこう書いています。宅地建物取引業者が宅地建物取引業に関して不正または著しく不当な行為をしたときは、その行為の相手方が当該依頼者でなくとも解除が認められる。会社が別の顧客に対して行った行為でも、解除の根拠になりうる形です。この解除も会社の責めによる事由なので、費用償還の対象から外れます。

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第17条・専属専任媒介契約約款第16条・一般媒介契約約款第18条) 出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 6(3)⑨・9(1)) 出典: 国土交通省「宅地や建物の(専属)専任媒介契約を締結したら レインズの「ステータス管理機能」を活用しましょう!」 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の11第2号)

売主の都合でも解除できるが費用償還の対象になる

会社に落ち度がなく、売主の側の事情(売却をやめる、別の会社に替えたい)で解除する場合も、民法上は解除できます。ただし、専任媒介契約約款第14条1項の費用償還の条項が働きます。

同項は、有効期間内に甲が自ら発見した相手方と契約を締結したとき、または「乙の責めに帰すことができない事由によって専任媒介契約が解除されたとき」に、会社が契約の履行のために要した費用の償還を請求できる、としています。2項が「前項の費用の額は、約定報酬額を超えることはできません。」と上限を置いています。専属専任媒介契約約款第13条は、このうち解除の場面だけを持つ形です。

一般媒介では約款の費用償還の場面が違う

一般媒介契約約款の費用償還は、第14条1項が「甲が乙に明示していない宅地建物取引業者に……依頼し、これによって……契約を成立させたとき」、第15条2項が売主の通知を怠った後に会社が善意で費用を支出したときの2場面で、解除を理由とする費用償還の条項は一般媒介契約約款に置かれていない形です。一般媒介の解除で会社が費用を求めるときは、約款の条項ではなく民法651条2項の損害賠償の枠で議論することになります。

「解除すると違約金がかかります」と説明されることがありますが、売主都合の解除で生じるのは違約金ではなく費用償還です。金額は会社が実際に使った費用に限られ、明細と領収書で立証されたものだけが対象です。違約金と費用償還の違い、請求できる費用の範囲は、次の2つの章で詳しく見ます。

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第14条・専属専任媒介契約約款第13条・一般媒介契約約款第14条・第15条) 出典: e-Gov法令検索「民法」(第651条)

満了を待てるなら満了で終える方が安全

解除の根拠があっても、3か月の満了が近いなら、満了で終える方が費用も争いも避けられます。宅地建物取引業法34条の2第3項は専任媒介契約の有効期間を「三月を超えることができない」とし、同条4項は「前項の有効期間は、依頼者の申出により、更新することができる」としています。更新の起点は売主の側にあるため、申し出のないまま満了日が来れば、契約はそこで終わります。満了は「解除」と別の形なので、費用償還の条項の対象から外れます。

判断の材料は、残り日数と、待つあいだのコストです。目安として、残り2週間なら待つ方が費用の争いを避けやすく、残り2か月あって会社の義務違反が続き売却の機会を失っているなら、催告して解除する方が早く進みます。ここは読者ごとの残り日数と値下げの見込みで変わるため、自分の契約書の満了日を入れて比べます。

満了で更新しないときの伝え方と、満了までの流れは別の記事で扱っています。この記事では、満了を待てない場合の解除と、その費用を扱います。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第3項・第4項) 出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第14条)

違約金が生じる場面と生じない場面

「解除したら違約金」という言い方がよく使われますが、標準の約款で違約金が生じる場面はかなり限られています。条文で確かめます。

  • 違約金の要件は期間中に他社へ頼んで成約したときだけ
  • 専属専任媒介では自己発見取引の成約も違約金の対象になる
  • 違約金の上限は約定報酬額で見込み利益は含まれない
  • 売主都合の解除は違約金ではなく費用償還になる

違約金の要件は期間中に他社へ頼んで成約したときだけ

専任媒介契約約款第12条は、違約金の場面をこう定めています。

甲は、専任媒介契約の有効期間内に、乙以外の宅地建物取引業者に目的物件の売買又は交換の媒介又は代理を依頼することはできません。甲がこれに違反し、売買又は交換の契約を成立させたときは、乙は、甲に対して、約定報酬額に相当する金額(この媒介に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を除きます。)の違約金の支払を請求することができます。

甲は売主、乙は会社です。要件は2つあります。専任媒介の期間中に他の会社に重ねて依頼したこと。そして、それによって売買または交換の契約を成立させたこと。両方が揃って初めて違約金の場面になります。

他社に相談しただけ、査定を受けただけでは要件の外です。専任を解除して(または満了で終えて)から他社と契約し、その仲介で売れた場合も、専任の期間外なので違約金の対象から外れます。違約金は「専任の縛りの中で二重に頼んで売った」ことに対して置かれたもので、解除そのものへの制裁とは別のものです。この場面の扱いは契約書にも書かれていて、宅地建物取引業法施行規則15条の9第1号は、専任媒介契約について「依頼者が他の宅地建物取引業者の媒介又は代理によつて売買又は交換の契約を成立させたときの措置」を媒介契約書の記載事項としています。

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第12条) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の9第1号)

専属専任媒介では自己発見取引の成約も違約金の対象になる

専属専任媒介契約では、違約金の場面がもう1つ置かれています。売主が自分で見つけた買主と契約することです。専属専任媒介契約約款第12条は、1項で他社へ重ねて依頼した場合の成約、2項で「自ら発見した相手方と目的物件の売買又は交換の契約を締結すること」への違反に、いずれも約定報酬額に相当する金額の違約金を定めています。施行規則15条の9第2号も、専属専任媒介契約について「依頼者が当該相手方以外の者と売買又は交換の契約を締結したときの措置」を媒介契約書の記載事項としています。

専任と専属専任で自己発見の扱いが分かれる

専任媒介では、自分で見つけた買主との契約は専任約款第14条1項前段の費用償還の側にあり、実費と上限の枠が働きます。専属専任媒介では第12条2項の違約金の側になり、額は約定報酬額に相当する額です。専属専任約款の費用償還(第13条)が持つのは「乙の責めに帰すことができない事由によって解除されたとき」の1場面だけである点も、専任版との違いです。

親族や知人に売る可能性がある人が専属専任を結んでいる場合、解除して自己発見取引に進むのか、会社を通して契約するのかを、費用の違いで比べることになります。専属専任のまま自己発見取引をすれば違約金(約定報酬額に相当する額)、解除してからなら費用償還(立証された実費・上限は約定報酬額)、会社を通せば通常の仲介手数料、という並びです。

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専属専任媒介契約約款第12条・第13条・専任媒介契約約款第14条) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の9第2号)

違約金の上限は約定報酬額で見込み利益は含まれない

違約金の額は、契約書の報酬欄に書かれた約定報酬額に相当する額です。国土交通省の解釈・運用の考え方は、その範囲をこう書いています。

違約金は、成約した場合に当該依頼者に請求し得る約定報酬額に相当する額であり、他の顧客からも報酬を受領できる見込みがあったとしても、その分を含めて請求することはできない。

会社が買主側からも手数料を得るつもりだった(両手仲介の見込み)としても、その分を違約金に上乗せする形は、この考え方の外にあります。背景には報酬の枠組みがあります。宅地建物取引業法46条1項は、代理または媒介に関して受けることのできる報酬の額を「国土交通大臣の定めるところによる」とし、2項が「宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない」としています。約定報酬額という上限は、この枠組みの延長にあります。

さらに同じ考え方は、約定報酬額を超える違約金を請求する旨の特約など、依頼者に不利な特約は標準媒介契約約款による契約としては認められない、としています。約款の側も、専任約款第19条2項(一般約款は第20条2項)が「この約款の各条項の定めに反する特約で甲に不利なものは無効とします。」と定めています。契約書の特約欄に上限を超える違約金が書かれていても、標準の約款に基づく契約であれば効力に疑問が残ります。

出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 6(3)⑥・⑩) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第46条) 出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第19条・一般媒介契約約款第20条)

売主都合の解除は違約金ではなく費用償還になる

ここまでをまとめると、売主の都合で契約を解除する行為は、違約金の要件(期間中に他社へ重ねて依頼したこと+それによる成約)の外にあります。生じるのは費用償還です。

費用償還は、会社が実際に使った費用を、明細と領収書で立証した範囲で、約定報酬額を上限に払う形です。違約金のように「報酬額相当を定額で」請求される形とは別物です。会社が「解除なら違約金として30万円」と言ってきたら、その30万円が違約金なのか費用償還なのか、根拠の条項を確かめます。ここは例示の金額なので、自分が示された額に置き換えて読みます。

なお、一般媒介契約約款には、他社経由の成約に対する違約金の条項が置かれていない形です。一般媒介で違約金が出てくるのは、第19条3項の反社会的勢力の排除の確約に反した場合に会社が解除したときだけです。専任約款第18条3項・専属専任約款第17条3項にも同じ形の条項があります。

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(一般媒介契約約款第19条・専任媒介契約約款第18条)

費用償還で請求できる範囲と請求できない費用

売主都合の解除で会社が請求できる費用には、要件・項目・立証・上限の4つの枠があります。「広告費を払ってもらいます」と言われたとき、この枠で確かめます。

枠内容(専任媒介の場合)
要件有効期間内に自己発見の相手方と成約したとき、または会社の責めに帰すことができない事由で解除されたとき(第14条1項)
項目現地調査・権利関係等調査・販売活動・契約交渉に要した費用(交通費、写真代、謄本代、新聞・雑誌等の広告費、通信費、現地案内交通費など)
立証明細書を作成し、領収書等で金額を立証
上限約定報酬額(第14条2項)

費用償還の要件は自己発見の成約と会社の責めによらない解除

専任媒介契約約款第14条1項の費用償還は、2つの場面を定めています。一つは、有効期間内に売主が自ら発見した相手方と売買もしくは交換の契約を締結したとき。もう一つは、乙の責めに帰すことができない事由によって専任媒介契約が解除されたときです。

「乙の責めに帰すことができない事由」とは、会社に落ち度がない解除、つまり売主都合の解除を指します。会社の義務違反や背信行為を理由とする解除は、会社の責めによる事由なので、この条項の外にあります。

したがって、費用償還を請求されたら、まず「解除の理由はどちらか」を確かめます。会社がレインズ登録や報告を怠っていた事実があれば、売主都合ではなく義務違反による解除として整理でき、費用償還の要件から外れます。解除の理由を文書に残しておく意味は、ここにあります。国土交通省の解釈・運用の考え方も、依頼者への周知の項で「依頼者が契約に違反したときは、違約金又は費用の償還の請求を受ける場合もあるので、契約書を良く読み理解しておくべきこと」を挙げています。

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第14条) 出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 1(5))

請求できる費用は明細書と領収書で立証された実費

請求できる費用の項目は、国土交通省の解釈・運用の考え方に列挙されています。

宅地建物取引業者が契約の履行に要した費用を請求するに当たっては、現地調査に要する費用として、交通費、写真代、権利関係等調査に要する費用として、交通費、謄本代、販売活動に要する費用として、新聞・雑誌等の広告費、通信費、現地案内交通費、契約交渉に要する費用として、交通費、その他当該媒介契約の履行のために要した費用として明細書を作成し、領収書等で金額を立証して請求するものとする。

項目の列挙と同じ重さで置かれているのが、末尾の「明細書を作成し、領収書等で金額を立証して請求する」の部分です。会社が「広告費として30万円」と伝えるだけでは足りず、どの媒体にいくら払ったかの明細と、その領収書を示す形が求められます。ここも例示の金額なので、自分が示された額で読み替えます。

ポータルサイトの掲載料のように、会社が月額で複数物件分をまとめて払っている費用については、この物件に要した分をどう切り分けたのか、その根拠が問われます。立証のない請求に売主が応じる義務は、この枠組みの外にあります。

出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 6(3)⑦)

上限は約定報酬額で一律の定額請求は成り立たない

費用償還の額は、専任媒介契約約款第14条2項が「前項の費用の額は、約定報酬額を超えることはできません。」と定めています。約定報酬額は契約書の報酬欄に書かれた仲介手数料の額です。専属専任は第13条2項、一般は第14条2項に同じ上限が置かれています。

この上限とは別に、実費の立証という枠があります。そのため、「解除の場合は一律で30万円」「キャンセル料として報酬の半額」といった定額の請求は、標準の約款の枠から外れます。請求できるのは立証された実費で、それが約定報酬額を超えるときだけ上限で切られる、という順序です。金額はいずれも例示です。

解釈・運用の考え方は、依頼者に不利な特約は標準媒介契約約款による契約としては認められないとしています。契約書の特約欄に「解除時は30万円を支払う」と書かれていても、標準の約款に基づく契約なら効力に疑問が残ります。手元の契約書が標準の約款に基づくものかどうかは、施行規則15条の9第4号が「当該媒介契約が国土交通大臣が定める標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別」を媒介契約書の記載事項としているため、契約書の面に書かれています。

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第14条・専属専任媒介契約約款第13条・一般媒介契約約款第14条) 出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 6(3)⑩) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の9第4号)

特別に依頼した広告や出張は解除の有無にかかわらず実費

通常の広告や物件調査の費用は、会社の負担が原則です。解釈・運用の考え方は、特別の依頼に係る費用の項でこう書いています。

指定流通機構への情報登録はもちろんのこと、通常の広告、物件の調査等のための費用は、宅地建物取引業者の負担となる。

例外は、売主が特別に依頼した広告と、遠隔地への出張です。専任媒介契約約款第10条(専属専任も第10条、一般は第12条)は、甲が乙に特別に依頼した広告の料金または遠隔地への出張旅費を甲の負担とし、甲は乙の請求に基づいてその実費を支払わなければならない、としています。同じ考え方は、会社が特別の依頼を受けたときはあらかじめ請求する費用の見積りを説明してから実行すべきであるとし、この費用の請求は成約の有無に関わらずできる、としています。

つまり、新聞の全面広告や遠方の買主候補への出張を売主が頼んでいた場合、その実費は解除しても払う形になります。逆に、頼んでいない通常の広告費は、解除時の費用償還の枠(立証と上限)の中に収まります。「頼んだ覚えのない広告費」と「頼んだ広告の実費」を分けて考えます。

出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 6(3)⑤) 出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第10条・一般媒介契約約款第12条)

会社に義務違反があれば費用償還の要件から外れる

費用償還の要件は「乙の責めに帰すことができない事由」による解除です。会社に義務違反があれば、解除は会社の責めによる事由で行われたことになり、専任約款第14条1項の条項は働かない形になります。

義務違反の例は、法律と約款で決まっています。7日以内(専属専任は5日以内)のレインズ登録がされていない状態、登録証明書が引き渡されていない状態、二週間に一回の報告が届いていない状態、購入の申込みが報告されていない状態、契約書に書いた広告が実施されていない状態、取引状況が事実と違う内容で登録されている状態。

会社から費用を請求されたとき、これらの事実があれば「解除の理由は義務違反である」と文書で示します。売主専用画面の履歴、報告の有無、登録証明書の到着日は、義務違反を裏づける材料になります。義務違反による解除では、費用償還の要件から外れるうえ、催告を経れば会社の同意がなくても解除できます。

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第14条・第16条) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第5項・第6項・第8項・第9項)

解除の手続きと解除後の対応

解除の根拠と費用の枠が分かったら、手続きに進みます。文書で残す、順番を守る、解除後の処理まで確認する、の3点です。

  • 契約書の解除の欄と標準約款の表示を確認する
  • 義務違反の解除は催告と解除通知の2段階で文書に残す
  • 売主都合の解除は費用の見積りを先に求めてから合意する
  • 解除後はレインズの削除と鍵や資料の返却を確認する
  • 請求に納得できないときは免許行政庁と相談窓口に持ち込む

契約書の解除の欄と標準約款の表示を確認する

最初に、手元の媒介契約書を読みます。宅地建物取引業法34条の2第1項5号は「媒介契約の有効期間及び解除に関する事項」を書面の記載事項としています。契約書のどこに解除の条項があるか、違約金や費用償還の額がどう書かれているかを確かめます。

次に、標準の約款に基づく契約かどうかの表示です。施行規則15条の9第4号が「当該媒介契約が国土交通大臣が定める標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別」を記載事項としているため、契約書の面にどちらかが書かれています。「基づく契約です」とあれば、この記事で説明した条項(催告解除・背信行為による解除・費用償還の上限・不利な特約の無効)がそのまま当てはまります。標準の約款に基づかない旨の側に印がある契約なら、会社独自の約款を読み、解除の条件と費用の定めを確かめます。

特約欄も読みます。上限を超える違約金や定額のキャンセル料が書かれていれば、標準の約款では認められない特約にあたります。ここまで確認してから、会社への連絡に進みます。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第1項第5号) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の9第4号)

義務違反の解除は催告と解除通知の2段階で文書に残す

会社の義務違反を理由に解除する場合、専任媒介契約約款第16条の催告解除は「相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないとき」に解除できる形です。手順は2段階になります。

まず催告書です。義務の内容と期限を書きます。期限は1〜2週間が目安です。

件名: 専任媒介契約に基づく履行の催告

(会社名)(担当者名)様

6月30日付で締結した専任媒介契約について、宅地建物取引業法34条の2第5項に定める指定流通機構への登録および同条第9項に定める業務処理状況の報告が、本日時点で行われていない状況です。8月20日までの履行をお願いします。期限までに履行がない場合、約款の定めに基づき本契約を解除します。

期限を過ぎても履行がなければ、解除通知を送ります。

件名: 専任媒介契約の解除通知

8月20日を期限とする催告に対し、期限までに履行がなかったため、専任媒介契約約款第16条に基づき、6月30日付の専任媒介契約を本日をもって解除します。レインズの登録削除、ポータルサイトの掲載停止、鍵と資料の返却をお願いします。

日付は例示なので、自分の契約書の締結日と催告の期限に置き換えます。書く内容は、事実、根拠条項、解除日の3点です。背信行為を理由とする場合(専任約款第17条)は、催告を経ずに解除通知を送れますが、事実と根拠条項は同じように書きます。

どちらもメールで送り、届いたことを確かめます。会社が受け取っていないと主張する可能性があるなら、内容証明郵便で送ると到達の証拠が残ります。

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第16条・第17条) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第5項・第9項)

売主都合の解除は費用の見積りを先に求めてから合意する

売主の都合で解除する場合は、会社に解除の意思を伝えると同時に、費用償還を請求するなら明細と見積りを先に出してほしい、と求めます。特別に依頼した広告や遠隔地への出張については、解釈・運用の考え方が事前に見積りを説明してから実行すべきであるとしているので、見積りの説明を受けたかどうかも思い出しておきます。

会社が出してきた明細は、前の章の枠で確かめます。

  • 項目が解釈・運用の考え方の列挙(現地調査・権利関係等調査・販売活動・契約交渉の実費)に沿っているか
  • 各項目に領収書があるか
  • 合計が約定報酬額の範囲に収まっているか
  • 頼んでいない特別依頼の広告が混ざっていないか
  • 定額のキャンセル料が混ざっていないか

納得できる範囲であれば、解除日と費用の額を書いた合意書(メールの往復でも足ります)を残し、支払って終えます。納得できない項目があれば、その項目だけ根拠を求めます。会社が明細も領収書も出さないまま金額だけを求めてくる場合、その請求に応じる義務は、標準の約款と解釈・運用の考え方の枠組みの外にあります。

出典: 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(第34条の2関係 6(3)⑤・⑦) 出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第14条)

解除後はレインズの削除と鍵や資料の返却を確認する

解除が成立したら、会社側の後処理を確認します。中部圏不動産流通機構のレインズ利用ガイドライン(令和7年1月1日改正版)は、媒介契約の途中解約や期間満了、売却等の中止を物件削除の場面として挙げたうえで、会員である不動産会社にこう求めています。

会員は、媒介契約の内容の変更や解除があったときは、速やかに物件情報の変更・削除を行わなければなりません。

これは中部圏不動産流通機構の定めなので、他の機構の運用は各機構の規程で確かめます。売主の側で確認する項目は4つです。

  • レインズの登録が削除されたか
  • ポータルサイトの掲載が停止されたか
  • 預けた鍵が返却されたか
  • 渡した資料(登記事項証明書、管理規約、間取り図など)が返却されたか

もう一つ、解除後も残る条項があります。専任媒介契約約款第11条は、有効期間内または有効期間の満了後2年以内に、売主が会社の紹介によって知った相手方と会社を排除して契約を締結したときに、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求できる、としています。解除後に別の会社と契約して同じ買主と進める場合は、前の会社に事情を伝えておきます。次の会社との契約の結び方は、別の記事で扱っています。

出典: 中部圏不動産流通機構「レインズ利用ガイドライン(令和7年1月1日改正版)」 出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(専任媒介契約約款第11条)

請求に納得できないときは免許行政庁と相談窓口に持ち込む

会社が明細のない費用を請求し続ける、上限を超える違約金を求める、レインズの削除を先延ばしにする。こうした場合は、売主と会社の間だけで解決しようとせず、外の窓口を使います。

一つは免許行政庁です。宅地建物取引業法65条1項は、国土交通大臣または都道府県知事が、その免許を受けた宅地建物取引業者に必要な指示をすることができる場面を定めています。同条3項は、都道府県知事が、国土交通大臣または他の都道府県知事の免許を受けた業者で当該都道府県の区域内において業務を行うものに対し、その区域内における業務に関して必要な指示をすることができる、としています。窓口は都道府県の宅建業を担当する部署です。東京都の場合は、住宅政策本部の「不動産相談」が「不動産取引(売買・賃貸)のうち、宅地建物取引業法の規制対象となる内容についての相談」を不動産業課内で受け付けています。

もう一つは、業界団体の相談窓口です。全国宅地建物取引業協会連合会は「相談窓口のご案内」で、一般の方の相談窓口として「都道府県宅建協会の不動産無料相談所にてご相談(一般相談・苦情相談)を承ります。」とし、47都道府県の連絡先を並べています。

相談に行くときは、契約書、催告書と解除通知、会社からの請求書と明細、業務報告の記録、売主専用画面の履歴を揃えます。事実を時系列で並べれば、窓口の側も判断しやすくなります。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第65条第1項・第3項) 出典: 東京都住宅政策本部「不動産相談」 出典: 全国宅地建物取引業協会連合会「相談窓口のご案内」

まとめ:媒介契約はいつでも解除でき、払うのは立証された実費だけ

いちばん重いのは、解除そのものに違約金が置かれていないという点です。標準媒介契約約款で違約金が生じるのは、専任・専属専任の期間中に他社へ重ねて依頼し、それによって契約を成立させたとき(専任約款第12条)と、専属専任で自ら発見した相手方と契約したとき(専属専任約款第12条2項)です。売主都合の解除で生じるのは費用償還で、国土交通省の解釈・運用の考え方が「明細書を作成し、領収書等で金額を立証して請求するものとする」としているとおり、立証された実費に限られ、上限は約定報酬額です。通常の広告や物件の調査の費用は会社の負担が原則である点も、同じ考え方に書かれています。

次の一歩は、手元の媒介契約書を開いて、有効期間と解除の欄、報酬の額、特約欄、そして標準媒介契約約款に基づく契約かどうかの表示を確かめることです。ここを飛ばして先に「解除します」とだけ伝えると、根拠の条項がないまま会社の提示した金額で話が進み、立証のない広告費や定額のキャンセル料をそのまま払う流れになります。会社に義務違反があるなら、催告書と解除通知の2段階を文書で残すことで、費用償還の要件そのものから外れます。

そのうえで、解除の前に満了日との距離を測ります。満了で終える形は解除の外にあるため、費用償還の条項の対象から外れます。満了を待てない場合は、請求された金額が違約金なのか費用償還なのかを根拠の条項で確かめ、明細と領収書を求めます。納得できないまま話が進むときは、都道府県の宅建業担当課と業界団体の相談窓口に持ち込みます。住み替えのトビラでは、媒介契約の解除で生じる違約金と費用償還の範囲も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。