夫婦や親子で共有名義になっているマンションを売ろうとすると、単独名義にはない疑問が次々に出てきます。相手の同意はどこまで要るのか、代金と税金はどう分けるのか、相手が反対したら売る道は閉じるのか。
共有名義でも、共有者全員で合意すればマンション全体を売却できます。通常の売却に加え、各人の意思確認、受け取る代金、ローン、税金を整理します。全員で売れない場合は、持分売却や裁判所の制度などを検討します。
この記事では、売る手順、代金と税金の分け方、ローンが残っているときの進め方、共有者が反対や不在のときの選択肢を、住み替え(買い替え)を考えている方に向けて順に説明します。
共有名義のマンションを売る手順
マンション全体の売却には、原則として共有者全員の合意が必要です。査定を話し合いの材料にし、売り出す条件を決めていきます。
| 手順 | 共有名義で確認すること |
|---|---|
| 持分とローンを確認 | 誰が何割持ち、誰に返済・保証の義務があるか |
| 査定・条件の話し合い | 価格の根拠、希望期限、費用負担 |
| 媒介契約 | 全員の意思と、代表者に任せる範囲 |
| 売買契約・決済 | 各人の必要書類、本人・意思確認、入金先 |
| 分配・申告 | 各人の受取額と税務上の確認 |
査定を材料に、価格・期限・費用を合意する
最初から最低価格を決められなくても構いません。共有であることを伝えて査定を相談し、その根拠を共有者で確認します。査定額は成約の保証ではありませんが、希望額だけの話し合いを進める材料になります。
売り出す前には「いくらで」「いつまでに」「費用は誰が」を書面で共有します。価格を変更するときの相談方法も決めておきましょう。
出典: e-Gov法令検索「民法」
登記簿で持分割合を確認する
次に、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取り、各共有者の持分割合を確認します。「2分の1ずつ」と思い込んでいたら、購入時の資金負担に合わせて「夫3分の2・妻3分の1」になっていた、というケースは珍しくありません。
持分割合は代金の分配などの基準です。ただし、ローン債務や各人の取得費、税の控除まで一律に持分割合で決まるわけではありません。
登記事項証明書は、法務局の窓口か郵送、オンラインでの請求で取れます。共有者の1人が取れば足ります。
出典: 法務局「各種証明書請求手続」
媒介契約は共有者全員が当事者になる
不動産会社に売却を頼む媒介契約は、共有者全員が当事者になります。契約書に全員が署名押印するのが原則です。
共有者の1人が代表して手続きを進める場合は、他の共有者からの委任状が要ります。
価格の下限は、代理権の範囲を限定する一例です。媒介契約だけを任せるのか、売買契約や代金受領まで任せるのかも明確にします。定型の1行だけで済ませず、不動産会社・司法書士と必要な委任内容を確認しましょう。
売買契約と決済は全員の署名か委任状で進める
共有者全員が売主として契約します。出席できない人が代理人を立てる場合も、本人の意思と委任の範囲を確認します。
売買契約で求められる書類と、登記申請に必要な書類は分けて確認しましょう。登記に添付する印鑑証明書は原則として作成後3か月以内のものです。
| 各共有者の確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 本人確認書類・印鑑証明書等 | 司法書士の案内に沿った種類と取得時期 |
| 登記識別情報・権利証 | 誰のどの持分に対応するものか。紛失時の手続き |
| 登記上の住所・氏名 | 現在と違う場合に必要な住民票などの書類 |
| 代理人を立てる場合 | 委任状、本人への意思確認方法、当日の役割 |
住民票が全員に一律で必要とは限らず、権利証が1通で全員分そろうとも限りません。共有者ごとに確認します。
売却代金は持分割合どおりに分配する
決済で受け取った売却代金は、持分割合どおりに各共有者へ分けます。買主から代表者の口座に一括で振り込まれた後に分けるか、最初から各共有者の口座に持分どおりに振り込んでもらうかのどちらかです。
後者の方が、誰にいくら渡ったかが銀行の記録として残ります。不動産会社と買主に事前に頼めば、多くの場合は対応してもらえます。
持分と違う割合で分けると、税金の問題が出ます。この点は次の章で説明します。住み替えで共有者が家族なら、この分配額をもとに、住み替え先の名義と資金計画を同時に決めておきます。
売却代金と税金の分け方
売却代金の配分、手元に残る資金、税金は分けて整理します。次は当サイトが整理した確認表です。
| 項目 | 共有者ごとに確認すること |
|---|---|
| 売却代金 | 持分に対応する受取額 |
| ローン返済 | 自分が返す債務と、他の人の返済を負担していないか |
| 売却費用 | 共通費用と各人だけにかかる費用、誰が負担するか |
| 取得費 | 持分の取得時期・経緯、購入代金等、建物の減価償却 |
| 控除・申告 | 各人が要件を満たすか、必要な申告は何か |
持分と異なる分配は、理由と税務を確認する
代金は持分に応じて分けるのが基本です。理由なく別の人へ多く渡したり、その人のローンを返したりすると、贈与税の問題が生じ得ます。
当事者間の貸し借りや財産分与などがある場合は、売却代金と分けて根拠を整理し、税理士などに確認します。「生活費」という別名目にすれば問題がなくなるわけではありません。
譲渡所得は、各人の取得費と譲渡費用で計算する
基本の計算は、自分の売却代金から取得費と譲渡費用を引く形です。同時に同条件で取得した持分なら按分できる項目もありますが、相続・贈与・追加購入などで経緯が違えば確認が必要です。建物の取得費は減価償却を反映します。
ローンの返済額は、手取りの計算では引きますが、そのまま譲渡所得の経費にはできません。申告の要否を各人で確認し、特例を使う場合は各人が申告します。
3,000万円特別控除は、要件を満たす人ごとに判定する
国税庁は、共有のマイホームを売った場合、適用できる共有者1人につき最高3,000万円と案内しています。3,000万円を持分割合で分ける制度ではありません。
住んでいたことだけで自動的に使えるわけではなく、退去後の売却期限、買主との関係、他の特例との併用なども確認します。夫婦とも要件を満たせば、それぞれ最高3,000万円ですが、控除できるのは各人の譲渡所得が上限です。適用にはそれぞれの確定申告が必要です。
出典: 国税庁「No.3308 共有のマイホームを売ったとき」
共通費用と個別の費用を分ける
仲介手数料などの共通費用は持分割合を基準に整理し、各人の住所変更登記や借入れに関する費用などは別に確認します。「登記費用」という名前でも、譲渡所得から引けるかは内容によって違います。
購入時の資金負担と登記の持分が一致していないと分かった場合は、資料をそろえて税理士・司法書士へ相談します。今から何もできないと決めず、必要な対応を確認しましょう。
住み替え先の頭金は各自の手取りで計算する
住み替えでは、売却代金を次の家の頭金に充てます。共有名義の場合、頭金にできるのは「各自の手取り」です。夫の持分から出た代金は夫の資金、妻の持分から出た代金は妻の資金として扱います。
住み替え先を共有名義で買うなら、各自の頭金と各自のローンの割合で、新しい持分を決めます。夫の手取りが多いのに新しい家の持分を半分ずつにすると、差額が贈与になります。
売却の分配額が確定した時点で、住み替え先の資金計画と名義の割合を組み立てておくと、購入時の贈与の問題を避けられます。
住宅ローンが残っている共有名義マンションの売り方
通常は売却代金などでローンを完済し、担保を外して買主へ引き渡します。所有名義と債務・保証は別なので、各人のローン契約を確認します。
ペアローンか連帯債務かで完済の手続きが変わる
共有名義のマンションでローンが残っている場合、ローンの型は主に3つです。
| 型 | 確認すること |
|---|---|
| ペアローン | それぞれの借入残高・担保・保証と、2本の返済手続き |
| 連帯債務 | 1本のローンの債務者と、全額の返済・債務変更の条件 |
| 連帯保証 | 借りた人と保証人、保証がなくなる条件 |
所有持分とローンの割合は同じとは限りません。契約書と金融機関への確認で、売却後に債務や保証が残らないかを確かめます。
売却代金でローンを完済して抵当権を外す
通常の売買では、抵当権を抹消して引き渡す条件を買主と合意します。売却代金で完済する場合は、決済日に返済と抹消登記・移転登記を進められるよう準備します。
この一連の流れは、決済の日に同時に行います。
決済日の流れ: 買主からの残代金が入金 → その場で金融機関に完済分を振り込み → 金融機関が用意した抵当権抹消の書類を司法書士が受け取り → 抹消登記と所有権移転登記を同日に申請
手元に残る額は、代金からローン返済と売却費用などを引いた金額です。ペアローンなら、それぞれの金融機関で手続きが必要です。
返済資金が足りないときは、金融機関へ相談する
不足分を自己資金で補う方法などを検討します。住み替えローンは取扱条件と審査があり、任意売却には債権者の同意や残債返済の調整が必要です。収入や不足額だけで利用できるとは決まりません。査定と費用見積もりを持って、返済条件を確認しましょう。
金融機関に残高証明と完済見込み額を取る
売り出す前に、ローンを組んでいる金融機関に「売却の意向」を伝え、残高証明書と完済見込み額を取ります。完済見込み額は、決済予定日までの日割り利息と、繰り上げ返済の手数料を含んだ額です。
完済見込み額に売却費用も加えて、査定額や手持ち資金と比べます。査定の下限を上回れば必ず売れるというものではないため、成約額が下がった場合の資金も確認します。
ペアローンの場合は、2本それぞれの残高証明が要ります。共有者がそれぞれ自分のローンの分を取り、合計を出します。金融機関が同じでも別でも、手続きは各自で行います。
住み替え先のローンを共有にするか単独にするか決める
次の家の名義とローンは、各人の資金負担や借入条件をもとに考えます。共有名義にすれば自動で2人とも住宅ローン控除を使えるわけではありません。今回の売却特例との併用も含め、税務と融資条件を確認します。
共有者が反対や不在のときの選択肢
反対、連絡不能、判断能力の低下は、それぞれ必要な対応が違います。ここでは確認先だけを整理します。
| 状況 | 次に確認すること |
|---|---|
| 価格に納得できない | 複数の査定と根拠、各人の手取りを共有する |
| 一方が住み続けたい | 持分を買い取る資金、借換え・保証解除、税務 |
| 全体売却に合意できない | 持分売却や共有物分割を専門家へ相談 |
| 所在が分からない | 裁判所の制度が使えるかを弁護士などへ相談 |
| 判断能力が低下している | 本人の利益を前提に、後見等の必要性を確認 |
査定の額をそのまま唯一の相場とせず、成約事例や想定期間も共有しましょう。今いくらで売れそうかが分かると、各人に残るお金を具体的に話せます。
自分の持分だけを売る
自分の持分だけなら原則として売却できます。ただし、持分だけの買い手や価格は全体売却と異なり、ローンや担保、契約条件の確認も必要です。
共有物分割は、使える制度と見込みを確認する
協議が調わない場合には、裁判所へ共有物の分割を請求する方法があります。ただし分割しない合意や、まだ分割していない相続財産など、確認すべき例外があります。
裁判所は現物分割、金銭を支払って他の持分を取得させる方法、条件により競売などを判断します。希望する方法や価格で売れる保証はありません。費用と期間は事案ごとに弁護士へ確認します。
出典: e-Gov法令検索「民法」
所在不明や認知症の共有者には裁判所の制度を使う
不在者財産管理人の制度では、管理人の選任だけで不動産を売れるわけではなく、家庭裁判所の権限外行為許可が必要です。
所在等不明共有者の持分取得・譲渡権限付与の制度もありますが、要件や供託、相続財産に関する制限などがあります。自分の事情で使える制度を弁護士などへ確認します。
判断能力が低下した共有者については、本人の状態と利益を踏まえて後見等を検討します。後見人が本人の居住用不動産を処分するには家庭裁判所の許可が必要です。制度を使えば売却が必ず認められるわけではありません。
出典:裁判所・不在者財産管理人選任。
出典: e-Gov法令検索「民法」
出典: 法務省「新制度の概要・ポイント(所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し)」
まとめ:共有者ごとの持分・受取額・ローンを整理して売る
共有名義のマンションも、全員の合意があれば通常の売却を進められます。持分に応じた代金、各人のローンや費用、税金を分けて確認しましょう。3,000万円特別控除は持分割合で分配せず、要件を満たす人ごとに判定します。
次の一歩は、持分とローンを確認し、査定を話し合いの材料にすることです。売り出す価格・期限・費用分担を共有し、代表者に任せる範囲も明確にします。
住み替えのトビラでは、共有名義のマンションを売る手順と、代金や税金の分け方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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