高齢の親が一人で業者と売却の話を進めていたら?子どもが契約前後に打てる手

高齢の親が一人で業者と売却の話を進めていたら?子どもが契約前後に打てる手

高齢の親が一人で業者と話を進め、自宅の売却の書類に署名してしまう相談が、国民生活センターに寄せられ続けています。

親が家を売る取引はクーリングオフの対象外で、売買契約を結んだ後は、時間がたつほど打てる手が減っていきます。

親が一人で業者と家の売却の話を進めていると知った子どもに向けて、契約の前と後にすることを順に説明します。

子どもが最初に知っておきたい3つの現実:親の家の売却は契約前が勝負

子どもが親の家の売却を止めたいなら、親が売買契約を結ぶ前に動くことが大切です。

親が家を売る側の取引では、クーリングオフで契約を取り消すことも、子どもの反対で契約を止めることも難しいからです。

クーリングオフで守られるのは、業者から家を買う人

親が自分の家を売る取引は、不動産のクーリングオフの対象外です。

不動産のクーリングオフは、業者から家を買う一般の人を守るために、宅地建物取引業法(宅建業法)という法律で決められています。

対象になるのは、不動産会社などの業者が売主で、一般の人が事務所以外の場所で買う契約をした取引です。親が売主なら、買主が業者でも個人でも対象外になります。

国民生活センターも、自宅を業者に売った場合はクーリングオフの対象外だと、くり返し注意を呼びかけています。

家に来た業者に貴金属などを強引に買い取られる「押し買い」には、特定商取引法という別の法律のクーリングオフがあります。ただし、この法律が対象にしているのは、貴金属などの物品を買い取る取引です。

「契約しても8日以内なら取り消せる」と考えて安心していると、話を止められる時期を逃してしまいます。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第37条の2 事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等)

出典: e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」(第58条の4〜 訪問購入)

出典: 国民生活センター「高齢者の自宅の売却トラブルに注意」

親名義の家の売却は、親本人が決める

家が親の名義なら、子どもが反対しても、親は一人で家を売る契約を結べます。

法律の上で売買契約の当事者になるのは、売主の親と買主だけだからです。

子どもが業者に電話で「売らせないで」と頼んでも、契約の話は親と業者のあいだで進みます。業者が取引の中身を説明する相手も、当事者である親です。

例外は、子どもも家の名義人の一人になっている「共有」の場合です。

共有の家では、親が一人で売れるのは自分の持ち分までです。家全体を売るには、子どもを含む名義人全員の同意が要ります。

家の名義人は、法務局で「登記事項証明書」を取るとわかります。登記事項証明書は家の持ち主などが書かれた公的な書類で、誰でも取れます。

オンラインでも請求できるので、まずは登記事項証明書を取り、名義人の欄に子どもの名前があるかを確かめておきましょう。

出典: 法務局「登記事項証明書(土地・建物)、地図・図面証明書を取得したい方」

相手が仲介か買取かで、契約後に使える手が変わる

業者が自分で家を買う買取やリースバックなら、契約した後でも、消費者契約法を使って契約を取り消せる場合があります。

親が話を進めている相手は、大きく分けて次の3つです。

相手家を買う人契約後に使える主な手
仲介(業者が買主を探す)一般の個人・手付金を使った解除
・判断力や値段を理由にした無効
買取(業者がそのまま買う)不動産業者・手付金を使った解除
・判断力や値段を理由にした無効
・消費者契約法による取り消し
リースバック(業者が買い、親は家賃を払って住み続ける)不動産業者・手付金を使った解除
・判断力や値段を理由にした無効
・消費者契約法による取り消し

消費者契約法は、一般の人(消費者)が業者と結んだ契約で、消費者を守るための法律です。業者が強引な勧誘をしていたら、消費者はこの法律で契約を取り消せます。

買取やリースバックでは買主が業者なので、売主の親はこの法律を使えます。仲介で一般の個人に売る場合、売買契約は消費者契約法の対象外です。

出典: e-Gov法令検索「消費者契約法」(第2条 定義・第4条 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)

売買契約の前なら断るだけで済む。契約後は時間がたつほど打てる手が減る

売買契約の前なら、親が業者に「やめます」と伝えるだけで話は終わります。

業者に売却を頼む契約(媒介契約)を結んでいても、親が払うのは広告費などの実費くらいです。

売買契約を結んだ後は、契約をやめるのにお金がかかります。時間がたつほど、使える手そのものも減っていきます。

売買契約の時期ごとのやめ方と負担は、次のとおりです。

時期やめる方法負担
売買契約の前断るほぼなし
契約後〜代金の受け取りの前受け取った手付金の倍の額を払って解除する など手付金と同じ額の損
代金の受け取り・引き渡しの後取り消しや無効を主張する弁護士費用と時間
業者が別の人に転売した後転売先とも争う弁護士費用と、さらに長い時間

代金を受け取った後や家が転売された後は、弁護士に頼んで争うことになり、費用も時間もかかります。

買取・リースバックで何が起きているか:トラブルの手口と業者の儲け方

買取やリースバックでは、業者の長い勧誘に押されて、相場より安い値段で家を売ってしまう高齢者がいます。

親が仲介業者に「買ってくれる人を探して」と頼んでいるだけなら、この章は読み飛ばしても大丈夫です。

電話から契約まで:相談によく出てくる業者の動き

国民生活センターに寄せられた相談を見ると、業者の勧誘は次のような順で進むことが多いです。

  1. 電話やはがきで「ご自宅を買いたい」と連絡してくる
  2. 家に来て、朝から夜まで話し続ける
  3. 「買い手が待っている」「施設も探してあげる」と、すぐに決めさせようとする
  4. その場で書類に署名させ、ハンコを押させる
  5. 親が解約を申し出ると、違約金を求める

はがきの中には、家の持ち主が載った登記の情報を見て送ったと書かれたものもあります。契約書の控えを渡さずに、パンフレットだけを残していく業者もいます。

国民生活センターに寄せられた相談(2021年6月公表)

一人暮らしの高齢者の自宅マンションに、不動産業者が2人で突然やってきました。

業者は、1日目は夜9時半まで、翌日は朝10時から夜7時ごろまで家に居座りました。

「マンションを売ったら、入所できる施設は探してあげる」と言われ、高齢者は書類に署名し、ハンコを押しました。

手元に残ったのは、会社案内のパンフレットだけでした。

国民生活センターが2026年10月に紹介した例

80歳代の人が自宅マンションを1,200万円で業者に売り、家賃を払って住み続けるリースバックの契約をしました。

朝から夜遅くまで、長い時間しつこく勧誘された末の契約でした。

親族に「売却価格が安い」と言われて解約を申し出ると、業者は手付金50万円の返金に加えて、違約金50万円を求めました。

違約金は契約書に書かれていましたが、本人は勧誘のときに一切説明されていなかったと話しています。

売買契約の後にやめようとすると、この例のように、手付金を返したうえに同じ額の違約金まで求められることがあります。

出典: 国民生活センター「高齢者の自宅の売却トラブルに注意」

出典: 国民生活センター 見守り新鮮情報 第552号「リースバック契約は慎重に」

業者が相場より安く買いたい理由:転売とリースバックの利益の仕組み

買取をする業者は、買った家を売り直して利益を出すので、安く買うほど多く儲けられます。

多くの業者は、買った家をリフォームしてから売り出します。そのため、マンションの買取価格は、仲介で売った場合の相場の7〜8割が目安といわれます。

買取価格と相場の差には、リフォームの費用や業者の利益、売れ残ったときの備えが含まれています。

リースバックの業者は、家を売った人から毎月の家賃を受け取ります。その人が引っ越したあとには、家を売って利益を得ます。

買取やリースバックという売り方そのものは合法で、まじめな業者も扱っています。すぐに現金がほしい人や、近所に内緒で売りたい人には、買取が合う場合もあります。

問題になるのは、相場の7〜8割を大きく下回る値段で買おうとする場合と、長時間の勧誘で考える時間を奪って契約させる場合です。

国も動いた:2026年10月施行のリースバックのガイドライン

国土交通省は、リースバックで業者が守るルールを示したガイドラインを、2026年10月1日に施行しました。

国民生活センターに寄せられたリースバックの相談はここ数年で増え、2024年度の相談では、年齢がわかる人のうち約7割が70歳以上でした。

ガイドラインには、業者が売主にわざと伝えずにいると法律違反になる事項と、禁止される勧誘が書かれています。

わざと伝えずにいると違反になる主な事項は、次のとおりです。

  • 買い戻しの約束の内容
  • 契約の解除と違約金
  • 売ったあとの家賃の額と払い方
  • 賃貸の期間と更新
  • 修理代を負担する人

伝え忘れのような不注意でも、業者が守るべき誠実さの決まりに反するおそれがあるとされています。

勧誘では、断られた後も勧誘を続けることや、長い時間をかけて勧誘することが禁止されると示されました。違反した業者には、指示や業務停止、免許の取り消しといった処分で対処するとされています。

こうした強引な勧誘は、もともと宅建業法で禁じられています。判断に必要な時間を与えないことや、断られた後も勧誘を続けること、迷惑な時間に電話や訪問をすることも、禁止される勧誘にあたります。

それでもリースバックの相談が増え続けたため、国はリースバックの取引に絞って、守るべきルールを改めて示しました。

リースバックの話が出ているなら、業者から家賃や更新の条件の説明があったかを、親に聞いておくとよいでしょう。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の11 宅地建物取引業者の相手方等の保護に欠ける行為)

出典: 国土交通省「住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(リースバックに関するガイドライン)」

出典: 国民生活センター「強引に勧められる住宅のリースバック契約にご注意!」

親の気持ちを受け止めて、相手・進み具合・売りたい理由を聞き出す

親から売却の相手や進み具合を聞き出すには、まず親が安心して話せるようにすることが大切です。

この章では、親が黙っていた理由、最初にかける一言、親に聞く3つのことを順に説明します。

親が子どもに黙って話を進める3つの理由

親が子どもに黙って売却の話を進めるときは、たいてい親なりの理由があります。

「どうして相談してくれなかったの」と腹が立つ人もいるでしょう。ただ、親の側によくある理由は、次の3つです。

  • お金のことは自分で何とかしたい
  • 自分の家は自分で決めたい
  • だまされたと認めるのがつらい

お金のことを自分で何とかしたい親は、施設に入るお金やこれからの生活費を、家を売って用意しようとします。

自分で決めたい親は、子どもに口を出されると、自分の判断力を疑われたように感じることがあります。

うすうす「だまされたかも」と感じている親ほど、それを認めるのがつらくなります。業者が施設探しまで親切に手伝ってくれていれば、親はなおさら業者を信じたくなります。

こうした理由を知っておくと、親を責める一言を避けられます。

最初の一言は「心配している」から始める

親との最初の会話は、反対の気持ちより先に、心配していることを伝える言葉から始めるとよいでしょう。

最初に反対をぶつけると、親は話を打ち切ったり、書類を隠したりしがちです。そうなると、契約の前に止められたはずの話も止めにくくなります。

言ってしまいがちな一言と、言い換えの例は次のとおりです。

言ってしまいがちな一言言い換えの例
「なんで勝手に売ろうとしてるの」「業者さんが来てるって聞いて、心配になって」
「それ、だまされてるよ」「どんな条件なのか、一緒に見せてもらえる?」
「売るのは絶対に反対」「決めるのはお母さんだけど、損をしないか一緒に確かめたい」
「もう業者とは話さないで」「次に業者さんが来るときは、私も同席していい?」

言い換えるときは、決めるのは親だと認めたうえで、一緒に確かめたいと伝えるのがこつです。

話は電話で済ませるより、会って書類を一緒に見ながらするのがおすすめです。会えば、親が業者に何を言われ、何に署名したのかを、子どもがその場で確かめられます。

親に聞く3つのこと:相手は誰か、どこまで進んだか、なぜ売りたいのか

親からは、相手の業者、話の進み具合、売りたい理由の3つを聞いておきましょう。

相手が仲介と買取とリースバックのどれにあたるかは、業者からもらった書類で見分けられます。

相手書類で見分ける手がかり
仲介・「媒介契約書」がある
・売買契約書の買主の欄は個人の名前
買取売買契約書の買主の欄に、業者の会社名がある
リースバック売買契約書に加えて、「賃貸借契約書」(家を借りる契約書)がある

話の進み具合も、親の手元にある書類でわかります。段階ごとに、子どもが次にすることは次のとおりです。

段階手元にある書類など次にすること
話を聞いただけ名刺、パンフレット、査定書条件を確かめ、契約の前に止める
売却を頼む契約をした媒介契約書条件を確かめ、契約の前に止める
売買契約をした売買契約書、重要事項説明書、手付金の領収書手付解除の期日を契約書で確かめる
代金を受け取り、引き渡した代金の振込記録、鍵の受け渡しの書類弁護士や消費生活センターに相談する
業者がすでに別の人に売った名義が別の人になった登記事項証明書すぐに弁護士に相談する

売りたい理由は、親の言葉で聞いておきたいところです。施設に入るお金がほしい、家の管理がつらい、業者に言われて不安になったなど、理由は人によって違います。

理由がわかれば、仲介・買取・リースバックのどれが親に合うかを一緒に考えられます。理由によっては、家を売ること自体が親にとって正しい判断の場合もあります。

その条件で売ってよいか:値段・契約書・業者を確かめる

業者が示した条件で売ってよいかは、値段と契約書の中身、業者の免許と処分歴の3つで判断できます。

値段:仲介で売った場合の何割かを計算する

業者が示した値段は、仲介で売った場合の値段と比べて、何割にあたるかを計算しておきましょう。

仲介で売った場合の値段は、次の2つの方法で調べられます。

  • ほかの不動産会社に、仲介を前提にした査定を頼む
  • 国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で、近所の似た家が売れた値段を見る

割合は「業者の提示額÷仲介での査定額」で計算します。次の表は、仲介での査定を3,000万円と仮に置いて、業者の提示額ごとの割合を計算した例です。

仲介での査定(仮の値)業者の提示額(仮の値)割合見方
3,000万円2,300万円約77%買取として一般的な範囲
3,000万円1,800万円60%業者に理由を聞く
3,000万円1,200万円40%かなり安い。契約前ならいったん止める

実際に計算するときは、表の3,000万円をほかの会社の査定額に、提示額を業者が示した金額に置き換えます。

買取価格の目安は相場の7〜8割といわれるので、業者の提示額が6割を下回るなら注意が必要です。判断力が落ちた売主が鑑定評価額の6割程度で売った契約が、裁判で無効とされた例もあります。

出典: 国土交通省「不動産情報ライブラリ」

契約書:違約金・引き渡しの日・リースバックの家賃と更新

契約書では、値段に加えて、解約するときに払うお金と、売ったあといつまで住めるかを確かめておきましょう。

契約書で確かめる主な項目は、次のとおりです。

確かめる項目見るポイント
手付金・金額
・手付金で解除できる期日
違約金・代金の何割か
・いつから発生するか
引き渡しの日引っ越し先が決まった後の日になっているか
家賃(リースバック)年金などで払い続けられる額か
契約の期間と更新(リースバック)更新できる普通借家か、期間で終わる定期借家か
修理代(リースバック)給湯器などが壊れたときに払う人
買い戻し(リースバック)・将来買い戻せるか
・そのときの値段

リースバックで特に気をつけたいのが「定期借家」です。定期借家の契約では、決まった期間が終わったら家を出ることになります。

国土交通省のリースバックのガイドブックには、定期借家の期間が終わって再契約を断られ、家を出ることになった例が載っています。途中で家賃が上がり、払い続けるお金が足りなくなるおそれも、注意点として挙げられています。

業者に「ずっと住める」と言われていたら、契約書の期間と更新の欄も見ておくと安心です。

出典: 国土交通省「住宅のリースバックに関するガイドブック」

業者:免許番号から行政処分の履歴を調べる

業者の免許と処分歴は、名刺や契約書にある免許番号をもとに、国土交通省のサイトで調べられます。

不動産を売り買いする業者には、国か都道府県の免許が必要です。名刺や契約書には、「東京都知事(2)第○○○○○号」のような免許番号が書かれています。

かっこ内の数字は、初めて免許を取ったときが(1)で、5年ごとの更新のたびに1つ増えます。

数字が大きいほど、その業者が長く営業していることがわかります。ただし、数字が小さい業者にも、まじめに営業している会社はあります。

免許が本物かは、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で調べられます。最近5年間に業務停止などの処分を受けたかは、同じく国土交通省の「ネガティブ情報等検索サイト」で確かめられます。

一部の府県は、処分の情報を府県のサイトで公開しています。業者に免許を出している府県が載っていなければ、その府県のサイトも見ておきたいところです。

処分歴があれば、何をして処分されたのかを読んでおくとよいでしょう。

値段・契約書・業者の確かめ方を、安心できる状態と要注意の状態に分けると次のとおりです。

項目安心できる状態要注意の状態
値段仲介での相場の7〜8割前後6割を下回る
書類契約書と重要事項説明書の控えを渡すパンフレットだけを渡す
違約金金額と発生する時期の説明がある解約を言い出してから初めて聞かされた
リースバックの住まい更新できる契約で、家賃を払い続けられる定期借家で、期間が短い
業者免許番号があり、処分歴もなし・免許番号の記載なし
・処分歴あり

要注意の欄に1つでも当てはまるなら、売買契約の前に、いったん話を止めましょう。

出典: 国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」

出典: 国土交通省「ネガティブ情報等検索サイト(宅地建物取引業者)」

出典: 東京都「閲覧の手引き(窓口での閲覧)」

契約前なら:いったん止めて、家族も加わって売り方を選び直す

売買契約の前なら、いったん業者との話を止めてから、家族と一緒に売り方を選び直せます。

業者には「家族と相談してから決めます」と伝える

業者との話を止めるには、まず親本人から、家族と相談してから決めると伝えてもらいましょう。

業者に伝える言葉の例

「家族と相談してから決めます。今日のところはお引き取りください」

契約を決めるのは親なので、断る言葉も親本人から出るのが自然です。親一人では言いにくいなら、業者が次に来る日に子どもが同席したり、電話を代わったりするとよいでしょう。

業者が居座るときは、親か同席した子どもが「お帰りください」とはっきり伝えることが大切です。そう伝えた後も居座られて結んだ契約は、買主が業者なら、消費者契約法で取り消せる場合があります。

それでも業者が居座るなら、警察に連絡できます。

業者とのやりとりは、次の4つをメモに残しておきましょう。

  • 業者が来た日時と、いた時間
  • 担当者の名前
  • 言われたこと
  • 渡された書類

こうしたメモは、後で消費生活センターに相談するときや、契約を取り消すときの証拠として使えます。

出典: e-Gov法令検索「消費者契約法」(第4条第3項 不退去・退去妨害など)

媒介契約を結んでいたら、解除できるかを確かめる

親が業者と媒介契約を結んでいても、期間の途中で解除を申し出られます。

媒介契約は、業者に売却を頼む契約です。種類によって、依頼できる会社の数や契約の期間が違います。

種類依頼できる会社親が自分で見つけた買主に売ること契約の期間
一般媒介何社でもできる法律の上限はなし(国のひな形の契約書では3か月以内)
専任媒介1社だけできる3か月以内
専属専任媒介1社だけ業者を通す3か月以内

途中で解除するほかに、期間が終わるのを待って更新を断る方法もあります。

専任媒介や専属専任媒介を親の都合で途中で解除するときは、それまでにかかった広告費などを業者から請求されることがあります。国が示しているひな形の契約書では、業者が請求できるのはかかった費用で、その額も約束した仲介手数料の額が上限とされています。

業者が売れ行きの報告を怠るなど、契約の約束を破っているときは、親から解除できます。媒介契約の解除で負担するのは多くても実費までなので、売買契約の前に解除しておくと安心です。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2 媒介契約)

出典: 国土交通省「標準媒介契約約款」(令和6年4月1日施行)

ほかの会社に査定を頼み、仲介・買取・リースバックを並べて比べる

業者との話を止めたら、ほかの不動産会社2〜3社に査定を頼み、仲介・買取・リースバックで手に入るお金を比べましょう。

ほかの会社の査定で仲介での値段がわかれば、最初の業者が示した値段が相場の何割かを計算できます。

親一人で査定の説明を聞くと、また話を急がされることもあります。査定には、できれば子どもも同席するとよいでしょう。

次の表は、仲介での相場を3,000万円と仮に置いて、3つの売り方を比べた例です。

売り方手に入る金額の目安(仮の値)仲介手数料の上限お金が入るまで売ったあとの住まい
仲介3,000万円前後105.6万円(税込)3〜6か月ほど引き渡しまでに引っ越す
買取2,100万〜2,400万円なし早ければ数週間引き渡しまでに引っ越す
リースバック業者ごとに大きく違うなし早ければ数週間家賃を払って住み続ける

買取の金額は、3,000万円に目安の7〜8割をかけて出しています。仲介手数料の上限は、売れた値段が400万円を超えるとき「(売れた値段×3%+6万円)×1.1(消費税)」で計算でき、3,000万円なら105.6万円になります。

自分の家で比べるときは、3,000万円をほかの会社の査定額に置き換えます。実際の金額は、各社の査定書と、業者が示す仲介手数料の見積もりで確かめておきましょう。

どの売り方が合うかは、親が売りたい理由で変わります。

施設に入るお金をすぐに用意したいなら、買取も選択肢に入ります。時間に余裕があり、なるべく高く売りたいなら、仲介がおすすめです。仲介でも、施設に移る日に合わせて引き渡しの日を決められます。

住み続けたいなら、リースバックが候補になります。その場合も、家賃の額と更新の条件を、契約書で確かめておきたいところです。

どの売り方でも、親が自分で納得して選ぶことが大切です。

出典: 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」

しつこい勧誘が続くなら、消費者ホットライン188に相談する

断った後も業者から電話や訪問が続くときは、消費者ホットライン「188」に電話しましょう。

188にかけると近くの消費生活センターなどの相談窓口につながり、専門の相談員が話を聞いてくれます。相談員からは、業者への断り方などの助言を受けられます。

必要なときは、相談員が業者とのあいだに入って、話し合いを手伝ってくれることもあります。

電話をするときは、業者の会社名と免許番号、やりとりのメモ、渡された書類を手元に置いておくと、話が早く進みます。

あわせて、業者に免許を出している都道府県や国土交通省の窓口に、親や子どもから勧誘の様子を知らせることもできます。強引な勧誘は宅建業法で禁じられているので、窓口から業者に指導が入ることもあります。

出典: 消費者庁「消費者ホットライン」

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第65条 指示及び業務の停止)

契約した後なら:決済前・決済後・転売後で打てる手が変わる

売買契約を結んだ後でも、手付金での解除や、契約の取り消し・無効の主張で、契約をやめられる場合があります。

ここでいう「決済」は、買主が代金を払い、売主が家を引き渡して、名義を書き換える手続きです。

使える手は、いまの時期によって次のように変わります。

時期手付金を使った解除消費者契約法による取り消し(買主が業者のとき)判断力や値段を理由にした無効
決済の前期日までなら使える使える使える
決済の後期日切れ使える使える
業者が転売した後期日切れ転売先が事情を知っていたときなどに限られる転売先とも争うことになり、時間と費用が増える

どの手も時期が遅くなるほど使いにくくなるので、手付解除の期日と代金を受け取る日を、まず契約書で確かめておきましょう。

決済前なら:手付金の倍返しで、理由を問わず解除できる

決済の前なら、売主の親は受け取った手付金の倍の額を払うことで、理由を問わず契約を解除できます。

売買契約のときに、売主は買主から「手付金」を受け取るのがふつうです。例えば3,000万円の家で手付金を300万円受け取っていたら、600万円を払えば解除できます(金額は仮の値)。

受け取った300万円を返したうえで、さらに300万円を払うので、実際に損をするのは300万円です。自分の契約で計算するときは、手付金の領収書の金額がそのまま損の額になります。

国民生活センターが2026年10月に紹介したリースバックの例では、業者は手付金50万円の返金と違約金50万円を求めていました。業者に求められた額は合わせて100万円で、手付金の倍にあたります。

手付金で解除できるのは、買主が代金の一部を払うなど、契約の実行に取りかかる前までです。契約書に「手付解除の期日」が書かれていることも多いので、契約書でその日付を確かめておきましょう。

期日を過ぎると、契約書で決めた違約金を払って解除することになります。違約金の額は、契約書に代金の何割と書かれています。

法律で違約金を代金の2割までに抑えているのは、業者が売主になる取引だけです。親が売主の取引では、契約書に書かれた額をそのまま払うことになります。

出典: e-Gov法令検索「民法」(第557条 手付)

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第38条 損害賠償額の予定等の制限)

勧誘や判断力に問題があったなら:取り消し・無効を主張する

勧誘のしかたや親の判断力に問題があったときは、お金を払って解除する方法のほかに、取り消しや無効を主張する道があります。

まず、勧誘に問題があった場合です。買主が業者なら、親は消費者契約法によって、次のような勧誘を受けて結んだ契約を取り消せます。

勧誘の様子例
帰ってほしいと伝えたのに、業者が居座った「お帰りください」と言った後も、夜まで話し続けた
帰りたいと伝えたのに、業者に引き止められた業者の事務所で、夜遅くまで契約を迫られた
判断力の衰えにつけこみ、不安をあおった「このままでは生活費が足りなくなる」とくり返された
家族への相談を、脅すように妨げた「息子に電話したい」と言ったのに、強い口調で止められた

取り消せるのは、業者の居座りなどで困った状態が終わってから1年以内で、しかも契約から5年以内に限られます。

次に、契約のときに親の判断力が大きく衰えていた場合です。親が契約の意味をわかる力をなくしていたなら、その契約は無効になります。

判断力を理由にした無効は、買主が業者でも個人でも主張できます。親の判断力を示す証拠になるのは、契約したころの病院の記録や、介護認定の資料です。

親の判断力が落ちて自分で手続きをするのも難しいなら、家庭裁判所に「成年後見人」を選んでもらう方法があります。成年後見人は親に代わってお金や契約を管理する人で、親の契約を争うこともできます。

ただし、申し立てから後見人が決まるまでには、おおむね1〜2か月かかります。専門家が後見人になると、家庭裁判所が決めた報酬を、その後も親のお金から払い続けることになります。

出典: e-Gov法令検索「消費者契約法」(第4条第3項・第7条第1項)

出典: e-Gov法令検索「民法」(第3条の2 意思能力)

出典: 裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」

安すぎる契約が無効とされた裁判例

安すぎる値段の契約は、買主が売主の判断力の衰えや苦しい事情につけこんだと認められると、無効になることがあります。

裁判所は、こうした契約を「公序良俗」(社会で守るべき常識)に反すると判断しています。高齢の売主の契約が無効とされた裁判例には、次のものがあります。

裁判売った人の事情値段結果
大阪高裁 2009年8月25日判断力が落ちていた鑑定評価額の6割程度無効
東京高裁 2018年3月15日70歳で認知症。家が競売にかけられそうで追い詰められていた価値の半分以下の6,000万円無効

どちらの例でも、裁判所は値段の安さに加えて、買主の側の事情を見ています。

大阪の例では、買主が売主の判断力の低下を知りながら、自分の利益だけを図っていました。東京の2018年の例では、買主が転売して約6,000万円の利益を得ていました。

大阪の例では、売主には契約の意味がわかる程度の判断力は残っていたとされました。それでも裁判所は、値段の安さと買主のつけこみが重なったことから、契約を無効としました。

親の契約を争うなら、相場より安いことを示す査定書に加えて、親の判断力や勧誘の様子がわかる記録も集めておきましょう。

出典: e-Gov法令検索「民法」(第90条 公序良俗)

出典: 不動産適正取引推進機構「RETIO」No.127 判例紹介(大阪高判平成21年8月25日に言及)

出典: 不動産適正取引推進機構「RETIO」No.117 判例紹介(東京高判平成30年3月15日)

業者が転売する前に:処分禁止の仮処分で物件を押さえる

業者が転売する前に「処分禁止の仮処分」を申し立てておくと、その後に転売されても、親は家を取り戻す権利を主張できます。

買取をした業者は、手に入れた家を早めにリフォームして、別の人に売ることが多いです。転売されると、家を取り戻すのはさらに難しくなります。

転売先に消費者契約法による取り消しを主張できるのは、転売先が事情を知っていたときなどに限られます。判断力を理由にした無効でも、転売先とも争うことになり、手間と時間が大きく増えます。

処分禁止の仮処分を裁判所が認めると、家の登記に処分を禁じる記録が入ります。

申し立てには、裁判所に担保金を預ける必要があります。担保金の額は、物件の価格などをもとに裁判所が決めます。

預けたお金は、裁判が終わって条件がそろえば戻ってきます。

仮処分は時間との勝負なので、契約を争うと決めたら、すぐに弁護士に相談しましょう。

出典: e-Gov法令検索「消費者契約法」(第4条第6項)

出典: e-Gov法令検索「民事保全法」(第14条 担保・第53条 処分禁止の登記・第58条)

出典: 大阪地方裁判所 保全部「担保決定」

取り戻すための費用と時間を見積もる

契約を争うと、弁護士費用だけで数百万円かかることがあります。

弁護士費用の額は、事務所ごとに違います。例えば、着手金を「取り戻したい額×5%+9万円」、報酬を「取り戻せた額×10%+18万円」とする事務所があるとします。3,000万円の家を取り戻す依頼をした場合で計算すると、次のようになります(仮の計算)。

費用計算目安(税別)
着手金(依頼するときに払う)3,000万円×5%+9万円159万円
報酬(取り戻せたときに払う)3,000万円×10%+18万円318万円

実際の金額は、依頼する事務所の見積もりで確かめておきましょう。これに、仮処分の担保金や、裁判所に納める手数料が加わります。

争いが話し合いで解決すれば、数か月で終わる場合もあります。裁判になると、1年以上かかることもあります。

弁護士費用を用意するのが難しいときは、法テラス(日本司法支援センター)に費用を立て替えてもらえる制度があります。収入や資産が一定以下であることが条件です。

立て替えてもらったお金は、月5,000円〜1万円ほどずつ返します。毎月の額は審査で決まり、制度に申し込むのは家を売った親本人です。

手付金で解除したときの損と、争うための費用、取り戻せる家の価値を書き出しておくと、親とどの方法を選ぶかを話し合えます。取り消しには期限があるので、迷ったら早めに弁護士や消費生活センターに相談しましょう。

出典: 日本弁護士連合会「弁護士費用(報酬)」

出典: 法テラス「立替制度に関するよくあるご質問」

まとめ:親の家の売却は、売買契約の前に止めると負担がいちばん軽く済む

親が家を売る取引はクーリングオフの対象外で、親が名義人なら子どもが反対しても契約は進みます。売買契約の前なら親が断るだけで話は終わりますが、契約後は手付金と同じ額の損や弁護士費用がかかります。

親が業者と話していると気づいたら、まずは親から業者に「家族と相談してから決めます」と伝えてもらいましょう。この一言を後回しにすると、その場で署名した売買契約をやめるために、数百万円の負担を背負うこともあります。

業者を止めたら、もらった書類を親と一緒に見て、ほかの不動産会社の査定と値段を比べておきましょう。住み替えのトビラでは、高齢の親が一人で業者と進めた家の売却への対処も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。