荷物が多くて片付けが終わらない、遠方の実家のマンションに通えない、体調の事情で作業が難しい。「マンション 買取 現状渡し」と検索する人は、掃除も修繕も残置物の処分もせずに、今の状態のまま売りたい人です。
先に答えを書きます。買取の現状渡しでは、掃除、補修、設備の修理、リフォーム、残置物の撤去をすべて省けます。整えても買取価格にはほぼ戻らないので、省く方が手取りは増えます。ただし、知っている不具合を告げる義務は残ります。そして残置物は「置ける」だけで、処分費は買取価格から引かれています。
この記事では、現状渡しで省ける作業、それでも残る義務、残置物の扱いと処分費の真実、買取価格への影響と減額の内訳の求め方、契約書で確かめる4つの条項を順に見ていきます。
マンション買取の現状渡しで省ける作業
買取の現状渡しでは、見た目と機能を整える作業をすべて省けます。しかも、整えたとしても買取価格に戻る分はごくわずかです。仲介で売る場合との違いを表にまとめます。
| 作業 | 仲介で売る場合の標準 | 買取の現状渡し |
|---|---|---|
| 掃除・ハウスクリーニング | 引渡し時に清掃 | 省ける |
| 壁紙・床の補修 | 内覧前に軽微な補修が多い | 省ける |
| 設備の修理・交換 | 故障は修理か告知 | 省ける(告知は要る) |
| リフォーム | 原則不要 | 不要(価格に戻らない) |
| 残置物の撤去 | 原則すべて撤去 | 置いたまま引き渡せる会社が多い |
| 内覧のための片付け | 必要 | 業者の現地確認1回のみ |
掃除と片付けと補修を省ける
「現状渡し」は、今の状態のまま引き渡す取引です。契約書では「現状有姿で引き渡す」と書かれます。買取で現状渡しにすると、引渡しの前に掃除をする、床の傷を直す、壁紙のはがれを貼る、といった作業はすべて省けます。
仲介で一般の買主に売る場合、契約書には「引渡し時に清掃し、動産を撤去する」といった条項が入るのが標準です。内覧の前にも片付けと掃除が要ります。買取ではこの前提が変わります。買主は不動産会社で、買い取ったあとに自社で清掃と工事をしてから再び売るためです。
したがって、売主が引渡しの前にする作業は、自分が持ち出す物を運び出すことだけです。ハウスクリーニングを頼む手間も、傷を隠す手間も省けます。業者の現地確認のときも、片付けずにそのまま見せます。むしろ、そのままの状態を見てもらった方が、確認後に金額が下がる余地が小さくなります。
壊れた設備の修理や交換を省ける
給湯器が壊れている、エアコンが動かない、換気扇の音がうるさい。こうした設備の不具合も、買取の現状渡しでは直さずに引き渡せます。
理由は、買取業者がリフォームを前提に買うからです。業者は再販するときに、給湯器やキッチン、浴室などの設備を一式で交換することが多く、売主が古い給湯器を新品に替えても、業者はその交換費用を買取価格に上乗せせずに見積もります。再販の仕様に合わせて、また交換するためです。
つまり、壊れた設備を直す費用は、売主が払っても回収できない費用です。直す代わりに、「給湯器は故障している」と付帯設備表に書いて告げます。告げれば、あとから責任を問われる対象から外れます。直す費用を払うより、正確に告げる方が、売主にとって得な形です。
リフォームしても買取価格にはほぼ反映されない
「リフォームしてから買取に出せば高く売れるのでは」と考える人がいますが、買取ではほぼ空振りに終わります。買取業者は、買い取ったマンションを自社の仕様でリフォームし、再販する事業者です。売主がキッチンを新しくしても、業者はその仕様が自社の再販の型に合わなければ、また作り替えます。
買取価格は「再販できる価格から、業者がかける工事費と処分費と利益を引いた額」で決まります。売主がリフォームすると、業者の工事費は多少減るかもしれませんが、売主が払った費用と同じ額が価格に戻る例はごく稀です。100万円のリフォームをして、買取価格が100万円上がることはない、というのが実態です。
仲介で売る場合でも、売却前のリフォームは原則不要とされます。買取ではなおさらです。リフォームの費用は、そのまま自分の手元に残す方が手取りは増えます。仲介で売る場合の判断は、別の記事で扱っています。
残置物を置いたまま引き渡せる
現状渡しの最大の利点は、家具や家電、荷物を置いたまま引き渡せることです。多くの買取業者は、残置物がある状態での買取に応じています。買い取ったあと、業者が自社の手配で処分するためです。
これが役立つのは、荷物が多くて片付けが追いつかない人、遠方に住んでいて片付けに通えない人、相続した実家のマンションで故人の荷物が残っている人、体調や年齢の事情で作業ができない人です。仲介で売るなら、これらの荷物はすべて自分で処分してから引き渡す必要があります。
ただし、残置物は「置ける」と「無料」が別物です。業者は処分にかかる費用を見込んで、買取価格から引きます。何を残し、何を自分で処分するかで、手取りが変わります。この点は、あとの章で詳しく見ます。
現状渡しでも残る売主の義務
現状渡しで作業は省けますが、消えない義務があります。知っている不具合を告げること、管理の状態を正しく伝えること、滞納があれば精算することです。
- 現状有姿の特約だけでは契約不適合責任は消えない
- 告げなかった不具合の責任は免責特約があっても残る
- 告知書と付帯設備表は買取でも書く
- 管理費と修繕積立金の滞納は精算が要る
現状有姿の特約だけでは契約不適合責任は消えない
「現状有姿で引き渡す」という条項は、引渡しの状態を決める条項です。売主の責任を免除する条項とは別物です。ここを混同すると、思わぬ責任を負います。
民法は、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合の買主の権利を、条文で並べています。修補や代替物の引渡しを求める追完請求権が562条、追完がないときの代金減額請求権が563条、損害賠償の請求と契約の解除が564条です。これが契約不適合責任です。「現状のまま渡す」と書いてあっても、この責任はそのまま残ります。免除するには、契約書に契約不適合責任を免責する特約を別に入れる必要があります。
期間の制限もあります。566条は、買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しなければ、追完の請求、代金の減額、損害賠償、契約の解除ができなくなる形を定めています。裏を返すと、免責特約のない契約では、引渡しから年月が経っても、買主が気づいた時点から1年間は責任を問われる余地が残ります。
買取では、買主が不動産会社なので、この免責特約を付ける契約が多くなります。業者はリフォーム前提で買うため、細かな不具合を問う理由が乏しいからです。契約書に、現状有姿の条項と免責特約の両方があるかを確かめます。片方だけの契約書は、売主の責任が残る契約書です。
出典: e-Gov法令検索「民法」(第562条・第563条・第564条・第566条)
告げなかった不具合の責任は免責特約があっても残る
免責特約があれば売主は安心かというと、1つだけ例外があります。民法572条は、担保責任を負わない特約をした場合の例外を次のように定めています。
売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
たとえば、「現状渡しだから」と過去の水漏れを告げずに免責特約付きで買取に出した売主が、引渡し後に業者から床下の腐食の修理費を請求された。免責特約は「知りながら告げなかった事実」には及ばず、告げていれば買取価格が数万円下がるだけで済んでいた(例示)。
つまり、雨漏りを知っていたのに黙っていた、過去に水漏れ事故があったのに書かなかった、という場合、免責特約があっても責任を問われます。逆に言えば、知っている不具合を告げておけば、免責特約は守られます。
告げる対象は、雨漏り、水漏れ、給排水管の故障、シロアリ、床の傾き、騒音や振動、におい、近隣とのトラブル、過去の事件や事故、管理組合からの通知などです。「現状渡しだから黙っていていい」と考えるのがいちばん危険で、「現状渡しだからこそ全部告げる」が売主を守る形です。買取の免責は、正直に告げた売主のための仕組みです。
告知書と付帯設備表は買取でも書く
告げる道具が2つあります。物件状況等報告書(告知書)と付帯設備表です。告知書には、雨漏りや水漏れ、近隣の状況など、物件の状態と周辺の事情を書きます。付帯設備表には、給湯器やエアコン、キッチンなどの設備の有無と、故障の有無を書きます。
告知書の様式は、主要な不動産関係団体が提供しています。国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」は、宅地建物取引業者が売主に対して告知書への記載を求め、それを買主へ交付する形で、売主が把握している事情を伝える仕組みを説明しています。あわせて、売主が把握している事実を故意に告げなかった場合には、民事上の責任を問われる可能性がある点にも触れています。
仲介では、この2つを書くのが標準です。買取では「業者が買うから不要」と言われることもありますが、書く方が売主を守ります。書面で告げた不具合は、買主が知ったうえで買ったことになり、あとから責任を問われる対象から外れるからです。
書き方のコツは、迷ったら書くことです。「たぶん大丈夫」と思った不具合を書かずにいて、あとから問題になる例があります。書いた不具合で買取価格が下がることはありますが、その下げ幅は、あとから責任を問われる額より小さいのが通常です。告知書と付帯設備表は、契約書に添付してもらいます。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
管理費と修繕積立金の滞納は精算が要る
マンション特有の告知事項が、管理費と修繕積立金の状態です。滞納があれば、買主に告げ、決済で精算する必要があります。建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)は、管理費等の債権について次のように定めています。
前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
引用した8条の「前条第一項」は7条1項で、共用部分や建物の敷地に関して他の区分所有者に対して有する債権、規約や集会の決議に基づく債権を指します。管理費と修繕積立金はここに入ります。つまり、滞納分は、そのマンションを買った人(特定承継人)にも請求できる債権です。買主である業者は、滞納分を買取価格から引くか、決済時に精算します。
滞納がなくても、告げるべき事項があります。管理組合から届いている通知(大規模修繕の予定、修繕積立金の値上げ、一時金の徴収など)、管理規約の変更、駐車場の権利の扱いです。業者は管理会社に照会して調べますが、売主が先に伝えておく方が、確認後の減額を避けられます。
管理費と修繕積立金の残高証明や、直近の総会議事録は、管理会社に依頼すれば発行してもらえます。現状渡しでも、管理の状態は「現状」の一部として正しく伝えます。
出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第7条・第8条)
残置物の扱いと処分費用
残置物は、置いていけますが、処分費は買取価格に織り込まれます。何を残し、何を自分で処分するかで、手取りが変わります。
| 残置物の種類 | 置いていく場合(業者が織り込む費用の目安) | 自分で処分する場合の費用 |
|---|---|---|
| 大型家具(ソファ・ベッド・食器棚) | 1点数千円〜1万円程度(目安) | 自治体の粗大ごみで1点400円〜3,200円(新宿区の例) |
| 布団・衣類・食器・小物 | 量に応じて数万円(目安) | 家庭ごみとして無料〜少額 |
| 家電4品目(エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機など) | 1台数千円〜1万円超(目安・リサイクル料金+収集運搬料+取り外しの手間) | リサイクル料金550円〜4,730円(税込)+収集運搬料 |
| パソコン・自転車 | 数千円(目安) | メーカー回収や自治体で無料〜少額 |
| 貴重品・書類・思い出の品 | 置かない | 自分で持ち出す |
買取業者は残置物込みで買い取るが処分費は価格に織り込まれる
多くの買取業者は、残置物がある状態でマンションを買い取ります。「残置物の処分は無料」「そのままで大丈夫」と案内する業者もあります。ただし、無料というのは、売主が別に払わないという意味であって、費用そのものは発生しています。業者は処分にかかる費用を見込み、買取価格を決めるときに引いています。
残置物の処分を一括で業者に頼んだ場合の費用は、部屋の広さと量にもよりますが、10万〜40万円程度が目安と言われます。荷物が非常に多い場合は、それ以上になります。この額が、買取価格から引かれていると考えます。
したがって、「置いていける」ことと「置いていく方が得」は別です。自分で処分すれば安く済む物を置いていくと、その差額を買取価格で払う形になります。次の項目で、自分で処分した方が安い物を見ます。
家電4品目は自分で処分した方が安い
家電リサイクル法の対象は4品目です。環境省は品目を「家庭用エアコン」「テレビ(ブラウン管式・液晶式・有機EL式・プラズマ式)」「電気冷蔵庫・電気冷凍庫」「電気洗濯機・衣類乾燥機」と示し、廃棄する消費者が収集運搬料金とリサイクル料金を支払う仕組みを説明しています。リサイクル料金は製造業者ごとに決まっていて、家電リサイクル券センターの主要メーカー一覧(税込表記)では、エアコンが550円または990円、液晶・有機EL・プラズマ式テレビが1,870円(15V型以下)と2,970円(16V型以上)、電気冷蔵庫・電気冷凍庫が3,740円(内容量170L以下)と4,730円(171L以上)、電気洗濯機・衣類乾燥機が2,530円です。収集運搬料金は小売業者が定めるので、店ごとに違います。
たとえば、残置物の処分費を「15万円」と見積もられた売主が内訳を聞くと、エアコン2台・冷蔵庫・洗濯機・テレビの5台分で約5万円が含まれていた。引っ越しのときに量販店と運送業者に引き取ってもらい、リサイクル料金と収集運搬料で5台約2万円。見積もりを10万円に下げてもらい、差額の約3万円が手取りに残った(金額は例示)。
これらを残置物として置いていくと、業者はリサイクル料金と収集運搬料に加えて、取り外しと運び出しの手間を見込んで、1台あたり数千円から1万円を超える額を織り込みます。自分で処分するなら、買い替えのときに家電量販店に引き取ってもらうか、指定引取場所に持ち込むか、自治体が案内する方法で出す形で、リサイクル料金と収集運搬料だけで済みます。
エアコンは取り外しに工事が要るので、量販店の引き取りが現実的です。冷蔵庫と洗濯機は、引っ越しのときに運送業者や量販店に頼めば、その場で引き取ってもらえます。4品目だけでも自分で処分すれば、数万円の差が出ることがあります。
出典: 環境省「家電リサイクル法の概要」 出典: 一般財団法人家電製品協会 家電リサイクル券センター「リサイクル料金一覧(主要メーカー)」
残す物と持ち出す物のリストを契約書に添付する
残置物を置いていく場合、「何を残すか」を契約書に書きます。口頭で「全部置いていっていいですよ」と言われても、契約書に残置物の条項がなければ、引渡しのあとに「処分費用を請求します」「契約と違う」と言われる余地が残ります。
書き方は、残す物のリスト(大型家具、家電、その他の荷物)を別紙にし、「売主は別紙記載の残置物の所有権を放棄し、買主が処分する。処分費用は売買代金に含む」といった条項を入れます。持ち出す物(貴重品、書類、思い出の品、引っ越し先で使う物)は、契約の前に自分で分けておきます。
契約のあとに残置物を増やすことは避けます。「契約時の状態」が引渡しの基準になるので、契約後に荷物を増やすと、契約と違う状態での引渡しになります。逆に、契約時に残すとしていた物を持ち出すことは問題になりにくいですが、これも業者に一言伝えておきます。
無許可の回収業者に頼まない
自分で残置物を処分するとき、「無料回収」「なんでも回収」と宣伝するトラックや業者に頼むのは避けます。家庭から出るごみ(一般廃棄物)の収集運搬について、廃棄物処理法7条1項は次のように定めています。
一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては、一般廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。
環境省も、無許可の回収業者を利用しないよう注意喚起しています。
ご家庭の廃棄物を回収するには、市区町村の「一般廃棄物処理業許可」や委託が必要です。
産業廃棄物の処理業の許可や古物商の許可は、家庭から出るごみの収集運搬を行う根拠の外にあります。無許可の業者に渡したごみは、不法投棄や不適正な処理、火災につながった例が報告されていて、出した側が責任を問われることもあります。
安全な処分の道は3つです。自治体の粗大ごみ収集、自治体が案内する許可業者、そして買い替えや引っ越しのときの量販店や運送業者の引き取りです。粗大ごみの手数料は自治体ごとに違い、新宿区の粗大ごみ処理手数料一覧では400円・900円・1,300円・2,300円・3,200円の区分で、ソファ1人掛け用が900円、ベッド(シングル)が1,300円、ソファ3人掛け用が2,300円です。「無料」を強調する業者ほど、あとから高額を請求する例や、回収したものを不法に捨てる例があります。
残置物の処分は、時間があるなら自治体、時間がないなら買取業者に任せる(価格に織り込まれる)、の2択で考えます。買取の流れと即時買取の仕組みは別の記事で扱っています。
中間の「安くて早い」を求めて無許可業者に頼むのが、いちばん危ない選び方です。
出典: e-Gov法令検索「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(第7条) 出典: 環境省「廃棄物の処分に『無許可』の回収業者を利用しないでください!」 出典: 新宿区「粗大ごみの処理手数料一覧」
現状渡しの買取価格への影響
現状渡しで買取価格が下がるのは、業者がかける費用を肩代わりしてもらう分です。式で見ると、下がる項目と、自分で減らせる項目が分かります。
買取価格 = 再販できる想定価格 − リフォーム費 − 残置物処分費 − クリーニング費 − 業者の利益と経費
- 買取価格は再販想定から工事費と処分費を引いて決まる
- 減額の内訳を出してもらうと自分で片付けた方が安い項目が分かる
- 掃除では価格は上がらないが放置した水漏れや害虫は価格を下げる
- 残置物の処分体制で業者ごとの差が出る
買取価格は再販想定から工事費と処分費を引いて決まる
買取業者は、まず「このマンションをリフォームして再販したらいくらで売れるか」を想定します。そこから、リフォーム費、残置物の処分費、クリーニング費、そして自社の利益と経費を引いた額が、買取価格です。
現状渡しで下がるのは、このうちリフォーム費・処分費・クリーニング費の3つです。ただし、リフォーム費は現状渡しでなくても引かれます。業者は売主が掃除や補修をしても、自社の仕様で工事をやり直すからです。つまり、現状渡しで「追加で」下がるのは、残置物処分費と、放置による傷みの分に絞られます。
一般に、買取価格は仲介で売れる価格の7〜8割が目安と言われます。これは業界の目安で、公的な統計で確かめられた数値とは別のものです。現状渡しでこの目安からさらに大きく下がるのは、残置物が非常に多い場合か、傷みが再販想定価格そのものを下げる場合に限られます。
減額の内訳を出してもらうと自分で片付けた方が安い項目が分かる
買取の提示額を受け取ったら、内訳を聞きます。再販の想定価格はいくらか、リフォーム費はいくら見ているか、残置物の処分費はいくらか、クリーニング費はいくらか。内訳を答えられる業者は、金額に根拠があります。
内訳が分かると、自分で減らせる項目が見えます。たとえば残置物の処分費が15万円と見積もられていて、その中に家電4品目の処分で5万円が含まれているなら、4品目を自分で処分すれば、処分費の見積もりを10万円に下げる交渉ができます。自分で処分する費用が2万円なら、3万円の差が手取りに残ります。
逆に、自分で処分しても費用があまり変わらない物(大量の衣類や小物)は、置いていく方が時間の節約になります。「内訳の単価が、自分でやる費用より高い項目だけ自分でやる」が、現状渡しで手取りを守る考え方です。内訳を出さない業者の提示額は、比較の材料が足りないので、他社と並べます。
掃除では価格は上がらないが放置した水漏れや害虫は価格を下げる
現状渡しでは掃除を省けますが、逆に「掃除をしても価格は据え置き」なのも事実です。業者はクリーニングを自社で行う前提なので、売主が掃除をしても、その分が価格に戻る例はごく稀です。
ただし、放置してはいけない状態があります。水漏れの放置、異臭、害虫の発生、カビの広がりです。これらは「クリーニングで直る汚れ」ではなく、再販の想定価格そのものを下げる要因として見られます。床下や壁の内部まで傷んでいる可能性があるためです。業者によっては、買取を断ることもあります。
したがって、現状渡しの「現状」は、掃除をしない状態でよいが、悪化を放置する状態ではない、と考えます。水漏れがあるなら止水だけはしておく、生ごみは出しておく、換気はしておく。この程度の手間で、再販想定価格の下落を防げます。
残置物の処分体制で業者ごとの差が出る
同じマンションでも、買取価格は業者によって数百万円の差が出ることがあります(差の幅は目安です)。現状渡しの場合、差が出る理由の1つが、残置物の処分とリフォームの体制です。
自社で処分の車両や作業員を持つ業者、リフォーム部門を持つ業者は、処分費と工事費を安く見積もれます。外部に発注する業者は、その分を高く見積もります。同じ残置物でも、織り込む額が違うのはこのためです。
比較の方法は、複数の業者に同じ状態を見てもらい、内訳付きで提示額をもらうことです。現地確認を同じ日にまとめれば、立会いは1日で済みます。「残置物込みでいくらか」「残置物を自分で処分したらいくら上がるか」の2つを各社に聞くと、処分の単価が見えます。買取業者の選び方と、仲介との比べ方は別の記事で扱っています。
現状渡しで買取に出すときの契約の確認点
現状渡しの買取で契約書を確かめる項目は4つです。免責、残置物、減額条項、引渡しの状態です。
- 現状有姿の文言と契約不適合責任の免責特約を両方確かめる
- 残置物一覧と所有権放棄と処分費用の負担者を条項にする
- 契約後の減額条項が入っていないか確かめる
- 引渡しまでの状態と鍵とライフラインの停止時期を決める
現状有姿の文言と契約不適合責任の免責特約を両方確かめる
契約書に、「本物件を現状有姿のまま引き渡す」という条項と、契約不適合責任を免責する特約の両方があるかを確かめます。前者だけでは、引渡しの状態を決めただけで、責任は残ります。
免責特約の書き方にも注意します。雨漏りだけを免責の対象に挙げるように、特定の不具合に限定する書き方だと、挙げていない不具合について責任を問われる余地が残ります。民法562条1項は「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」という言い方で買主の権利の範囲を定めているので、その範囲をそのまま免責の対象にする書き方が、売主に有利です。
そのうえで、告知書と付帯設備表を契約書に添付します。免責特約があっても、知りながら告げなかった不具合の責任は残るので、告げた記録を契約書と一緒に残す形です。この2つが揃って、はじめて現状渡しの免責が完成します。
残置物一覧と所有権放棄と処分費用の負担者を条項にする
残置物を置いていく場合、契約書に3つを書きます。残置物の一覧(別紙でよい)、売主が残置物の所有権を放棄すること、処分の費用を誰が負担するか(買主が負担し売買代金に含む)です。
一覧は、大型家具と家電は品目ごとに、小物は「押入れの中の衣類一式」のようにまとめて書きます。写真を添付する方法もあります。所有権の放棄を書くのは、引渡し後に業者が処分するときに、「売主の物を勝手に処分した」という争いを避けるためです。
費用の負担を書くのは、「処分費用は売買代金に含む」と書いて、あとから別に請求される余地をなくすためです。口頭の「置いていっていいですよ」を、この3つの条項に変えてもらいます。応じない業者は、残置物の扱いが曖昧なまま契約する業者なので、他社と比べます。
契約後の減額条項が入っていないか確かめる
買取の契約書で注意したいのが、契約後に買取価格を下げられる条項です。「引渡し前の再確認で、契約時と異なる状態が判明した場合、買主は売買代金を減額できる」といった書き方です。
この条項があると、契約時に合意した金額が、引渡しの直前に下げられる余地が残ります。現状渡しでは、契約時から引渡しまで状態を変えないことが前提なので、通常はこの条項は不要です。もし入っていたら、削除を求めるか、「売主の責めによる変化に限る」と範囲を絞ってもらいます。
金額は契約で確定させ、引渡しまでに動かないことを確かめます。手付金の額と支払日、残代金の支払日も同じ契約書で確定します。現地確認のあとに出た金額が、契約書の金額と一致しているかも見ます。契約書は契約の前日までに受け取り、当日に初めて見る形にしないのが、自分を守る手順です。
引渡しまでの状態と鍵とライフラインの停止時期を決める
最後に、引渡しの手順を契約で決めます。まず、契約時から引渡しまで、室内の状態をそのまま保つこと(残置物を増やさず、設備を持ち出さず)を確かめます。付帯設備表に「あり」と書いた設備は、引渡し時にも残っている必要があります。
次に、鍵の本数です。玄関、メールボックス、宅配ボックス、駐輪場などの鍵をすべて引き渡します。紛失している鍵があれば告げます。
電気、水道、ガスの停止時期も決めます。引渡しの日まで自分の契約で使い、引渡しの日に停止(または業者の名義に切り替え)が通常です。荷物の整理に時間がかかる場合は、決済後も一定期間使える「引渡し猶予」の特約を入れ、その期間の光熱費の負担も決めます。これらを契約の段階で決めておけば、引渡しの日に慌てることがなく、現状渡しの利点を最後まで活かせます。
まとめ:現状渡しで省けるのは整える作業で、残るのは知っている不具合を告げる義務
いちばん重いのは、現状渡しで省けるのが「見た目と機能を整える作業」であって、「知っている不具合を告げる義務」は残る、という線引きです。買取では契約不適合責任の免責特約を付ける契約が多くなりますが、民法572条は、担保責任を負わない特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については責任を免れることができないと定めています。掃除も補修も設備の修理もリフォームも省いてよく、省いた分が手取りに残ります。省けないのは、告知書と付帯設備表に正直に書くことだけです。
次の一歩は、買取の提示額を受け取ったときに、内訳を出してもらうことです。再販の想定価格、リフォーム費、残置物の処分費、クリーニング費を分けて聞き、そのうち自分で処分した方が安い物を選び出します。ここを飛ばすと、家電4品目のように、リサイクル料金が税込550円から4,730円で済む物を、1台あたり数千円から1万円を超える織り込み額のまま買取価格から引かれる形になります。残置物の一覧と所有権の放棄と処分費用の負担者を契約書に書いておくことも、同じ場面で頼みます。
そのうえで確かめたいのは、自分が置いていく荷物のうち、どこまでが「時間を買う分」で、どこからが「払わなくてよい分」なのかという点です。粗大ごみの手数料は自治体ごとに違い、新宿区の例では1点400円から3,200円です。時間があるなら自治体の収集や量販店の引き取り、時間がないなら買取業者へ、と分けて決めます。住み替えのトビラでは、マンション買取の現状渡しで省ける作業と残置物の処分費の扱いも含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
住み替えのトビラ 
