築30年を過ぎたマンションで水回りも内装も古くなり、リノベして住み続けるか、売って住み替えるかで迷っている。そんな方に向けた記事です。
先に答えを書きます。決め手は「不満が住戸の内側にあるか」と「あと何年その建物に住むか」の2つです。リノベで変えられるのは住戸の内側で、窓や玄関ドア、配管の立て管、立地は変えられる範囲の外にあります。
この記事では、国土交通省のマンション標準管理規約や住宅市場動向調査、国税庁の資料で確かめながら、判断基準、リノベでできない工事、費用と制度、売る前のリノベで損をしやすい理由、築古を買って直す住み替えの注意点を順に解説します。
築古マンションをリノベするか住み替えるかの判断基準
判断は、不満の切り分けから始めます。リノベで解消できる不満なのか、建物や立地への不満なのかで、選ぶ道が分かれます。そのうえで建物の状態とお金を比べると、迷う時間を短くできます。
不満が専有部分の中か建物や立地か
マンションで自分の判断で直せるのは、「専有部分」と呼ばれる住戸の内側です。国土交通省のマンション標準管理規約では、天井・床・壁は躯体(建物の骨組みのコンクリート)を除く部分が専有部分とされています。壁紙や床材、キッチンや浴室、間取りの一部は、管理組合への申請などの手続きを経て変えられます。
不満ごとに、リノベで解消できるかを並べると次のとおりです。
| 不満の例 | リノベで解消できるか | 理由 |
|---|---|---|
| 水回りが古い・使いにくい | できる | 設備は住戸の内側にある |
| 間取りが家族に合わない | 一部できる | 構造の壁や柱は躯体のまま残る |
| 冬が寒い・結露する | 一部できる | 窓は共用部分。内窓などで手当てする |
| 駅から遠い・坂がつらい | 住み替えで解消 | 立地は変えられる範囲の外 |
| 面積そのものが足りない | 住み替えで解消 | 住戸の広さは決まっている |
| 外観・エレベーターなど共用部分が古い | 管理組合の工事 | 共用部分は管理組合が管理する |
| 修繕積立金が上がり続ける | 住み替えで解消 | 管理組合の長期修繕計画で決まる |
表の下の4行に当てはまる不満が強いなら、リノベより先に住み替えを考える方が、大きなお金をかけた後の後悔を防げます。
出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」第7条
建物の管理状態と長期修繕計画
住戸の中を新しくしても、その先の暮らしは建物の状態に左右されます。リノベを決める前に、管理組合の資料を3つ確かめます。
- 長期修繕計画
- 修繕積立金の残高
- 過去の修繕の履歴
特に見ておきたいのが、次の大規模修繕の時期と、そのときに一時金や値上げの予定があるかです。
もう一つ大事なのが、給水管や排水管の更新です。標準管理規約では、給水管は本管から各住戸のメーターまで、排水管は「配管継手及び立て管」が共用部分とされています。立て管(たてかん。竪管とも書く)は各住戸を縦に貫く配管で、更新の工事は管理組合が計画します。
立て管が古いまま住戸の中の配管だけ新しくすると、工事の内容によっては、仕上げた床や壁をもう一度開けることになります。管理組合の配管の更新予定を聞き、住戸の中の配管を同じ時期に替えられるかを管理会社に相談しておくと、二度手間を減らせます。
管理状態の詳しい見方は、築30年マンションの住み替え|住み続けるか売るかの判断基準と売るコツでまとめています。
出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」別表第2
あと何年住むかで割ったリノベ費用
リノベ費用が高いか安いかは、金額そのものより「あと何年住むか」で割ると見えてきます。
仮定の例(数字は説明のための仮の値)
- リノベに800万円かけて20年住む: 800万円÷20年=1年あたり40万円、÷12か月=月に約3万3千円
- 同じ800万円で10年後に住み替える: 800万円÷10年=1年あたり80万円、÷12か月=月に約6万7千円
自分の場合の式: リノベ費用÷あと何年住むか÷12か月=1か月あたりの負担
この月額を、住み替えた場合に増える住居費(ローンの返済や管理費の差)と並べると、どちらが割高かが分かります。
ここで大切なのは、売るときに戻ってくるリノベ費用をゼロと置いて割り算をすることです。理由は後の章で説明します。「いずれ高く売れるはず」という期待を外して計算すると、判断を誤りにくくなります。
リノベ費用と住み替え費用の総額
最後に、リノベして住み続ける場合と住み替える場合の総額を並べます。
| 比べる項目 | リノベして住み続ける | 住み替える |
|---|---|---|
| 主な出費 | リノベ費用 | 新居の購入費・諸費用 |
| 入ってくるお金 | なし | 今の家の売却の手取り |
| これからの負担 | 修繕積立金の値上がり・一時金 | 新居の管理費・修繕積立金 |
比べるときは、同じ年数で次の式に自分の数字を入れます。
- 住み続ける場合の負担=リノベ費用+これから払う修繕積立金の値上がり分+一時金
- 住み替える場合の負担=新居の購入費+諸費用−今の家を売った手取り
住み替えの負担は、今の家がいくらで売れるかで大きく変わります。リノベを決める前に一度査定を取り、売った場合の手取りを知っておくと、比べる材料がそろいます。
築古マンションのリノベでできない工事
マンションのリノベで手を入れられるのは、専有部分の内側です。窓や玄関ドア、配管の立て管、床や壁のコンクリート(躯体)は共用部分で、個人の判断の外にあります。工事の前に確かめたいのは次の4つです。
- 窓・玄関ドア・バルコニーなど共用部分の工事
- 水回りの移動を左右する床下の高さと排水管
- 電気容量とガス給湯器の制約
- 管理規約の工事申請と床材の遮音等級
変えられる範囲を工事の前に知っておくと、「思っていたリノベができなかった」という後悔を防げます。
窓・玄関ドア・バルコニーなど共用部分の工事
国土交通省のマンション標準管理規約では、窓枠と窓ガラスは専有部分に含まれず、玄関扉は錠と内部の塗装の部分だけが専有部分です。サッシや玄関ドアそのもの、バルコニーは共用部分で、各住戸はバルコニーなどを専用に使う権利(専用使用権)を持つ形です。
窓や玄関扉の断熱・防音・防犯の性能を上げる改良工事は、標準管理規約の第22条第1項で、管理組合が計画修繕として行うものとされています。コメントでは、その工事の例として「既設のサッシへの内窓又は外窓の増設」が挙がっています。
そのうえで、第22条第2項は次のように定めています。
区分所有者は、管理組合が前項の工事を速やかに実施できない場合には、あらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けることにより、当該工事を当該区分所有者の責任と負担において実施することができる。
(国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」第22条第2項。電磁的方法が利用可能ではない場合の規定)
電磁的方法が使える管理組合向けの規定では、承認の方法が「書面又は電磁的方法」になります。承認するかどうかは理事会の決議で決まり、申請には専有部分の工事と同じく設計図などを付けます。
管理組合の計画修繕を待たずに、自分の費用で窓を改良できる道が用意されているわけです。標準管理規約は国が示すひな形なので、実際の扱いは各マンションの管理規約と細則で確かめます。
出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」第7条・第14条・第22条
水回りの移動を左右する床下の高さと排水管
キッチンや浴室、トイレの位置を動かせるかは、床下の高さと排水の立て管の位置に左右されます。
排水は、水が自然に流れるように配管に傾き(勾配)をつけて、立て管までつなぎます。水回りを立て管から遠くへ動かすほど、傾きを取るための高さが要ります。
床のコンクリートに直接床材を貼る「直床(じかゆか)」は床下のすき間が小さく、水回りを動かせる範囲が限られやすくなります。床を脚で支えて床下に空間をつくる「二重床」なら、動かせる範囲が広がりやすくなります。
標準管理規約のコメントの別添でも、給排水管を改修する工事は理事会の承認が要る工事の例に挙がり、承認の条件として「排水勾配が確保されていることを確認する」ことや、立て管との接続位置を変えるときの確認が示されています。水回りを動かしたいなら、図面と現地調査で、床下の高さと立て管の位置を先に確かめます。
例えば、壁付けのキッチンを対面式に変えたくても、立て管から離れすぎて排水の傾きが取れない場合は、キッチンの位置はそのままで向きだけ変える、といった計画の手直しが要ります。
出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」別添2
電気容量とガス給湯器の制約
古いマンションでは、各住戸で使える電気の量に上限があることがあります。標準管理規約のコメントの別添は、電気・ガス・水道は建物の共用設備(管や配線)の仕様で使える量に制限があり、超えて使うと停電やガス圧の低下などが起こり得ると説明しています。
そのため、電気の契約量を一定以上に増やす工事や、一定以上の能力の給湯器を付ける工事は、理事会の承認が要る工事の例に挙がっています。建物の状況によっては、管理組合が幹線などを改修する必要がある、とも書かれています。
IHクッキングヒーターや食器洗い乾燥機、浴室乾燥機を一度に増やすと、住戸の契約容量を上げる必要が出ることがあります。リノベの計画を立てる前に、管理会社に「この住戸は何アンペアまで上げられるか」を聞いておくと安心です。
ガス給湯器も同じです。標準管理規約では、メーターボックスは共用部分でも、給湯器などの設備はそこから除かれています。追いだき機能を付けたい、能力の大きい機種に替えたいといった希望は、置き場所と排気の向き、管理組合が決めた承認の基準しだいです。
出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」別表第2・別添2
管理規約の工事申請と床材の遮音等級
マンションのリノベは、工事の前に管理組合へ申請し、承認を受けて始めます。標準管理規約の第17条では、共用部分や他の住戸に影響を与えるおそれのある工事について、設計図、仕様書、工程表を付けて理事長に申請し、理事会の決議で承認を受ける流れです。コメントは、承認が要る工事の例に、床のフローリング、ユニットバスの設置、配管の枝管の取り替え、間取りの変更を挙げています。
承認は理事会の決議で決まるので、理事会の開催の予定によって待つ期間が変わります。申請から承認までの目安を管理会社に聞き、工事の日程に組み込みます。
特に気をつけたいのが床材です。カーペットや畳の部屋をフローリングに替えると、下の階に足音が響きやすくなります。標準管理規約のコメントの別添は、新築時にカーペット敷きだった築年数の古いマンションで、床のコンクリートが薄く遮音の問題が起こり得ると管理組合が決めた場合に、フローリングの承認条件として遮音等級を示す例を挙げています。使える床材の遮音等級を、細則で決めているマンションがあるわけです。
工事できる時間や曜日も、細則で決まっていることがあります。リノベ会社に見積もりを頼む前に、管理規約と細則を一式取り寄せて渡しておくと、計画のやり直しを防げます。
出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」第17条・別添2
築古マンションをリノベする費用と使える制度
リノベの費用は、どこまで手を入れるかで大きく変わります。水回りだけ替えるリフォームと、内装をすべて取り払って作り直すフルリノベでは、費用の桁が違います。借り方と補助金・減税を組み合わせて、負担を抑えます。
部分リフォームとフルリノベの費用の目安
マンションの改修は、大きく次の2つに分かれます。
- 部分リフォーム: キッチン、浴室、トイレ、洗面台など設備の交換、壁紙や床の張り替え
- フルリノベ: 内装と設備をすべて解体し、間取りから作り直す(スケルトンリノベとも呼ぶ)
国土交通省の住宅市場動向調査(令和7年度)では、三大都市圏で2024年4月〜2025年3月に自宅をリフォームした世帯のリフォーム資金は、平均170万円、中央値70万円でした。同じ調査で工事期間は「1週間以内」が58.9%と最も多く、設備の交換や模様替えなど小さな工事を多く含む数字です。
フルリノベは面積と内容で大きく変わり、1,000万円前後になることもあると言われます(業界の目安で、公的な統計の値とは別物です)。見積もりは、同じ内容で2〜3社から取って比べます。
築古で気をつけたいのが、解体してから見つかる劣化です。床や壁を開けて初めて配管の傷みが分かることもあるので、見積もりとは別に、予備のお金を残しておくと安心です。
出典: 国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査 報告書」(p.47・p.335)
リフォームローンと住宅ローンの借り方の違い
リノベのお金を借りる方法は、今の家を直すか、住み替え先を直すかで変わります。一般的な違いは次のとおりです。
| 借り方 | 使う場面 | 特徴 |
|---|---|---|
| リフォームローン(無担保型) | 今の家を直す | 手続きが早め・金利は高め・借入額は少なめ |
| リフォームローン(有担保型) | 今の家を直す | 金利は低め・家に抵当権を付ける |
| リフォーム一体型の住宅ローン | 築古を買って直す | 物件代と工事代をまとめて借りる |
今の家に住宅ローンが残っているなら、リフォームローンを足すと返済が二重になります。
住み替え先の築古を買ってリノベするなら、物件代と工事費をまとめて借りられる一体型の住宅ローンが選択肢になります。審査に工事の見積もりが要ることがあるので、物件探しとリノベ会社選びを同時に進めます。
省エネ改修の補助金と減税
断熱や省エネの工事を組み込むと、補助金や減税を使える場合があります。
代表的なのが、国の「住宅省エネ2026キャンペーン」の一つ、環境省の「先進的窓リノベ2026事業」です。内窓の設置、ガラスの交換、外窓の交換が補助の対象で、窓と同じ契約で同時に行うドアの交換も含まれます。
- 補助の上限: 1戸あたり100万円
- 申請: 登録された「窓リノベ事業者」と工事の契約を結び、事業者が申請して補助金を還元する
- 工事に着手できる期間: 2025年11月28日〜遅くとも2026年12月31日(予算の上限に達した時点で終了)
- 補助額が5万円以上の申請が対象
補助の対象者には、住宅を持つ個人のほか、集合住宅の管理組合も含まれます。内窓も標準管理規約では開口部の改良工事の例に挙がっているので、申請や承認の手続きが要るかを管理組合に確かめてから契約します。
減税では、窓の断熱改修を含む省エネ改修をすると、次の2つを受けられる場合があります。
| 制度 | 主な条件 | 内容 |
|---|---|---|
| 所得税の控除(リフォーム促進税制) | 工事の標準的な費用の額が50万円超・令和10年12月31日までに住む | その年分の所得税から一定額を差し引く。住宅ローンを使わなくても対象 |
| 固定資産税の減額 | 平成26年4月1日以前からある住宅・費用から補助金を引いた額が60万円超・床面積40〜240㎡・令和13年3月31日までの工事 | 翌年度分の固定資産税の3分の1を減額。工事完了から3か月以内に市区町村へ申告 |
ただ、実際に使っている世帯は一部にとどまります。住宅市場動向調査(令和7年度)では、三大都市圏で中古マンションを買ってリフォームした世帯のうち、リフォーム促進税制を受けた・受ける予定の世帯は12.2%でした。工事の契約前に、使える制度をリノベ会社と一緒に洗い出しておきます。
出典: 国税庁「No.1219 省エネ改修工事をした場合(住宅特定改修特別税額控除)」
出典: 国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査 報告書」(p.275)
築古マンションを売る前のリノベで損をしやすい理由
「リフォームしてから売った方が高く売れるのでは」と考える人は多いです。リノベ済みの物件を求める買主はたしかに大勢います。それでも、個人の売主がリノベ費用を売却価格で取り戻すのは難しいことが多く、直すなら自分が住むため、と考えるのが基本です。
リノベ済みを選ぶ買主と自分で直す買主の割合
国土交通省の住宅市場動向調査(令和7年度)で、三大都市圏で2024年4月〜2025年3月に中古マンションを買った世帯の、購入前後のリフォームは次のとおりでした。
| 購入前後のリフォーム | 中古マンション全体 | うち築26年以上 |
|---|---|---|
| 売主によるリフォームのみ | 44.6% | 52.2% |
| 売主によるリフォームと購入後のリフォームの両方 | 11.6% | 10.3% |
| 購入後のリフォームのみ | 15.0% | 14.0% |
| リフォームなし | 28.8% | 23.5% |
売主が直した物件を買った世帯は合わせて56.2%、築26年以上では62.5%です。数字だけを見ると、売る前に直した方が売れやすいように見えます。
ただし、この調査の「売主」は、個人と不動産会社をまとめた数字です。リノベ済みの中古マンションには、不動産会社が買い取って直した「買取再販」の物件が含まれます。リノベ済みの物件の需要が大きいことと、個人の売主が工事費を価格で取り戻せることは、別の話です。
一方で、買ってから自分で直した世帯も4分の1ほど(15.0%+11.6%=26.6%)、そのまま住む世帯も約3割います。売る前に自分の好みでリノベすると、自分で直したい買主には選ばれにくくなります。
出典: 国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査 報告書」(p.236・p.237・p.443)
リノベ費用が査定額に上乗せされにくい
不動産会社の査定は、同じマンションや近くの似た物件が実際にいくらで売れたか(成約事例)を基に、立地や築年数、面積を比べて出します。室内の状態も見ますが、リノベ費用がそのまま足される計算とは別物です。
リノベの好みも人によって違います。売主が選んだ床の色やキッチンの形は、買主の好みと外れることもあります。
さらに、工事の間は売り出しを待つことになります。工事の数か月分、住宅ローンの返済、管理費、修繕積立金を払い続けることになり、そのぶん手取りが減ります。
迷ったら、リノベした場合としない場合の査定額を両方、不動産会社に出してもらいます。その差から工事費と工事中の支払いを引いて、残るかどうかが判断の目安です。
買取再販業者は直す前提で価格を決める
リノベ済みの中古マンションには、不動産会社が古い物件を買い取り、リノベして売り出す「買取再販」の物件が多く含まれます。
買取再販の会社は、自社の仕様で直す前提で物件を仕入れます。買い取る価格の考え方は、次の式で表せます。
- 買取価格の目安=再販で売れる見込みの価格−工事費−会社の経費と利益
個人の売主が先に同じようなリノベをしても、会社は自社の仕様でやり直すことがあり、かけた費用がそのまま価格に返る場面は限られます。
裏を返せば、築古のマンションは「直さずにそのまま売る」ことで、自分で直したい買主と買取再販の会社という、2種類の買い手に届きます。
売る前に手を入れてよい範囲
売る前にお金をかけてよいのは、少ない費用で印象が大きく変わるものに限られます。
- ハウスクリーニング(特に水回りと換気扇)
- 壊れている設備の修理(給湯器、水栓、換気扇など)
- 小さな補修(壁紙の破れ、ドアの建て付け)
壊れた設備を直さずに売るなら、その状態を付帯設備表や物件状況報告書などの書類に書いて買主に伝え、契約の内容に入れておきます。民法では、引き渡した物が契約の内容に合っていないとき、買主は修補を求めたり、代金の減額を求めたりできます(第562条・第563条)。直すか、そのまま伝えて価格に反映させるかは、修理費と査定額の差で決めます。
内覧の前に部屋を片付け、明るく見せるだけでも印象は変わります。
築古マンションを買ってリノベして住み替えるときの注意点
今の家を売り、築古のマンションを買って、自分好みにリノベして住む住み替えもあります。新築や築浅より価格を抑えやすい一方で、税金、建物の確認、住み替えの段取りに、築古ならではの注意点があります。
住宅ローン控除の築年要件と新耐震基準
築古のマンションを買って住宅ローン控除を使うには、建物の古さの条件があります。
国税庁によると、令和4年以降に住み始める中古住宅は、昭和57年(1982年)1月1日以後に建築された住宅が対象です。この場合の添付書類は登記事項証明書で、記載された建築の日付で確かめます。それより前の建物は、取得の日前2年以内の次のいずれかで、耐震基準を満たすと証明できれば対象になります。
- 耐震基準適合証明書
- 建設住宅性能評価書の写し(耐震等級1〜3)
- 既存住宅売買瑕疵担保責任保険の付保証明書
以前は条件が違いました。令和3年までに住み始めた場合は、マンションなどの耐火建築物は築25年以下(それ以外は築20年以下)という築年数の条件でした。この条件を覚えている方もいますが、令和4年以降に住み始める場合は建築の日付で判断します。
控除の額は、年末のローン残高などに0.7%をかけた額で、各年の上限があります。令和8年以降に住み始める中古住宅で、省エネ性能の証明がある住宅に当たらない「その他の住宅」なら、上限は各年14万円、控除期間は10年です。上限どおり控除できても合計140万円(14万円×10年)が上限の目安になります。
買う前に登記事項証明書で建築の日付を確かめ、1982年より前なら、耐震基準適合証明書などが取れるかを売主側の不動産会社に聞いておきます。
出典: 国税庁「No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
出典: 国税庁「No.1214 中古住宅を取得し、令和3年までに居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」第16条の4の3
購入前に確かめる管理規約と配管の更新履歴
築古を買ってリノベするなら、物件を決める前に、思いどおりのリノベができるかを確かめます。確かめる書類は次の3つです。
- 管理規約と使用細則: 床材の遮音等級、工事の申請手続き、工事できる時間、電気容量や給湯器の上限
- 長期修繕計画と修繕の履歴: 立て管の更新の有無、窓やサッシの改修の予定、次の大規模修繕の時期
- 重要事項調査報告書: 修繕積立金の残高、滞納の有無、値上げの予定
重要事項調査報告書は、管理会社が作る書類で、売主側の不動産会社が取り寄せるのが一般的です。購入の申し込みの前に見せてもらえるよう頼んでおきます。
あわせて、リノベ会社に内見へ同行してもらい、床下の高さや立て管の位置を見てもらうと、水回りを動かせるかの見当がその場でつきます。
工事期間中の仮住まいと住居費の重なり
築古リノベで住み替えるときは、「今の家を売る→築古を買う→工事→入居」の順に進みます。
フルリノベの工事には2〜3か月ほどかかると言われます(業界の目安)。管理組合の承認や設計の期間を含めると、購入から入居まで半年近くかかることもあります。
この間に今の家を引き渡していれば、仮住まいが要ります。重なる住居費は、次の式で見積もれます。
- 重なる住居費=(仮住まいの家賃+新居のローン返済+新居の管理費・修繕積立金)×重なる月数+引っ越し2回分の費用
重なりを短くする手
- 今の家の売買契約で、引き渡しの時期を遅らせる「引き渡し猶予」を買主と相談する
- 物件代と工事費の融資が実行される時期と、返済が始まる時期を、借りる前に金融機関に確かめる
- 売却の時期と新居の工事の時期を合わせて計画する
リノベ済み物件と自分でリノベする場合の違い
築古で住み替えるなら、不動産会社がリノベした物件を買う方法と、そのままの物件を買って自分でリノベする方法があります。
| 比べる点 | リノベ済み物件を買う | 自分でリノベする |
|---|---|---|
| 間取り・内装 | 決まっている | 好みどおり |
| 入居までの期間 | すぐ住める | 工事の期間が要る |
| 費用の内訳 | 工事費が価格に含まれる | 物件代と工事費が分かれて見える |
| 登録免許税(所有権の移転) | 買取再販の特例を満たせば0.1% | 住宅用の軽減を満たせば0.3%(本則2%) |
| ローン | 通常の住宅ローン | 一体型ローンでまとめて借りる |
不動産会社が買い取ってリノベした住宅を買う場合、国土交通省の「買取再販で扱われる住宅の取得に係る登録免許税の特例措置」の要件を満たすと、所有権の移転登記の税率が0.1%になります(適用期限は令和9年3月31日)。主な要件は次のとおりです。
- 不動産会社(宅地建物取引業者)が住宅を取得してから、リフォームして再販売するまでが2年以内
- 取得の時点で、新築から10年を経過した住宅
- 床面積50㎡以上で、昭和57年1月1日以後の新築か、耐震基準を満たす証明がある
- リフォーム工事の総額が建物価格(税込)の20%以上、または300万円(税込)以上
登記の申請には市区町村などの住宅用家屋証明書が要るので、特例の対象になるかを契約前に売主の会社に確かめておきます。住宅ローン控除も、買取再販の住宅は国税庁の区分が中古住宅とは別に定められています。
すぐ住めて手間が少ないのはリノベ済み、好みと費用の中身を自分で決めたいなら自分でリノベ、という分け方です。同じ予算なら、自分でリノベする方が、立地や広さを優先した物件を選べる場合もあります。
出典: 国土交通省「買取再販で扱われる住宅の取得に係る特例措置」
出典: 国土交通省「買取再販で扱われる住宅の取得に係る登録免許税の特例措置について」
出典: 国税庁「No.1211-2 買取再販住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
まとめ:築古のリノベは変えられる範囲と住む年数で住み替えと比べる
いちばん重いのは、リノベで変えられるのは住戸の内側だという点です。窓や玄関ドア、配管の立て管、床のコンクリート、立地は変えられる範囲の外にあるので、不満がそこにあるなら住み替えを先に考え、住戸の内側にあるなら「リノベ費用÷あと何年住むか」と住み替えの総額を比べて決めます。
次の一歩は、管理規約と使用細則、長期修繕計画を取り寄せ、自分の住戸で変えられる範囲を確かめることです。ここを飛ばしてリノベ会社と計画を進めると、床材の遮音等級や排水の勾配、電気の容量といった承認の条件に合わず、設計のやり直しや、思っていた間取りをあきらめる後悔につながります。
売るか迷っているなら、リノベした場合としない場合の査定と手取りを、築古を買うなら登記の建築の日付と管理組合の配管の更新予定を、契約の前に確かめましょう。住み替えのトビラでは、築古マンションのリノベで変えられる範囲や売る前のリノベの損得も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
住み替えのトビラ 
