修繕積立金を払えないときの売却|滞納分の精算と先取特権、動く期限

修繕積立金を払えないときの売却|滞納分の精算と先取特権、動く期限

管理会社から「管理費等の未納について」という封書が届いた。口座の残高が足りず、修繕積立金と管理費が引き落とされないまま戻ってきた。そのとき頭に浮かぶのは、「このまま払えなかったらどうなるのか」「滞納したままでも売れるのか」という2つです。

先に答えを書きます。滞納があっても、マンションは売れます。法律上、滞納は所有権の移転を妨げず、滞納分は決済の日に売却代金から管理組合へ支払う形で精算するのが基本です。ただし、管理組合の先取特権は住宅ローンの抵当権より後ろに並ぶので、残債が売却価格に近い人は滞納分を別に用意する必要があります。そして、督促が法的措置に進む前に動くほど、手取りが残ります。

この記事では、払えないときに起きる流れ、滞納していても売れる理由、精算の仕組み、払えないときの選択肢、そして動くべき期限まで、売主の立場で順に見ていきます。

修繕積立金を払えないときに起きる流れ

修繕積立金の支払いが苦しくなったとき、多くの人は「滞納するとすぐ競売になるのでは」と怖くなります。実際には段階があり、管理組合は規約と法律で決まった順番で動きます。

段階起きること根拠
1口座振替の不能と管理会社からの連絡標準管理規約60条1項
2督促(電話・請求書・催告書・自宅訪問・内容証明郵便)標準管理規約60条3項・別添3
3遅延損害金・弁護士費用等・督促及び徴収の諸費用の加算標準管理規約60条2項
4滞納者の保有財産の調査別添3
5理事会の決議による訴訟その他の法的措置標準管理規約60条4項
6先取特権の実行としての担保不動産競売・強制執行区分所有法7条・民事執行法180条
7区分所有権の競売請求区分所有法59条

その順番を知ると、どこまでに何をすればよいかが見えてきます。

口座振替の不能から督促までの流れ

修繕積立金は、管理費と一緒に毎月の口座振替で集めるのが基本です。国土交通省のマンション標準管理規約も、管理費等は組合員の預金口座から口座振替の方法で受け入れると定めています(60条1項)。残高が足りず振替ができないと、管理会社からまず連絡が届きます。

その後の進み方は、標準管理規約の別添3「滞納管理費等回収のための管理組合による措置に係るフローチャート」に、督促の手順の例として示されています。

  • 1ヶ月目: 電話、書面(未納のお知らせ文)による連絡
  • 2ヶ月目: 電話、書面(請求書)による確認
  • 3ヶ月目: 電話、書面(催告書)
  • 4ヶ月目: 電話、書面、自宅訪問
  • 5ヶ月目: 電話、書面(内容証明郵便(配達記録付)で督促)

同じ資料は、3ヶ月目のところに「過去の実績によれば、失念していたなど一時的な要因で滞納した者は、3か月以内に滞納を解消する」と添えています。逆に言えば、3か月を超えて残る滞納は、うっかりとは別の扱いに移っていきます。標準管理規約は、納入すべき金額を納入しない組合員に対し、管理組合は督促を行うなど必要な措置を講ずるものとしています(60条3項)。

督促の段階で管理会社に連絡し、事情を伝えて支払いの見通しを示せば、多くの管理組合は分割などの相談に応じます。連絡を控えたまま放置すると、次の段階に進みます。

出典: 国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約コメント

遅延損害金と弁護士費用が加算される

滞納が続くと、元の金額に上乗せが付きます。標準管理規約は、期日までに納入しない組合員に対して、次のように定めています。

組合員が前項の期日までに納入すべき金額を納入しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用等並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。

年利は各マンションの規約で定めます。自分の規約の該当条文(標準管理規約では60条)を見ると、何%かが書いてあります。年利が高い規約では、滞納が長引くほど元金より上乗せの方が大きくなることもあります。

売却を考える人にとって大事なのは、この上乗せ分も売却時の精算に含まれる、という点です。滞納を放置した期間が長いほど、手取りから引かれる額が増えます。早く動くほど手元に残る、という単純な話です。

出典: 国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約コメント

理事会の決議で支払督促や訴訟に進む

督促に応じない場合、管理組合は法的な手続きに進みます。標準管理規約は、法的措置の進め方を次のように定めています。

理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる。

総会を開かなくても理事会の決議で進む点が、売主にとっての要点です。裁判所への支払督促の申立て、少額訴訟、通常の訴訟という手順で、確定判決などの債務名義を得ると、管理組合は預金や給与の差押えといった強制執行を申し立てられます。別添3は、この前段として滞納者の専有部分の抵当権の設定の有無や、金融資産・不動産の調査を行うものとしています。

管理組合がここまで進める背景には、時効があります。修繕積立金の請求権は、権利を行使することができることを知った時から5年で時効によって消滅します(民法166条1項1号)。管理組合は5年を超えて取りこぼさないよう、その前に法的措置で時効を止めに来ます。「放っておけばそのうち消える」という展開は、管理組合が時効を止めに来る以上、まず起きにくいです。

出典: e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)

長期滞納は競売の申立てに至る

競売には、性質の違う2つのルートがあります。1つ目は、区分所有法7条の先取特権を使う担保不動産競売です。別添3は「債務名義(確定判決等)を取得せずとも、先取特権の実行としての担保不動産競売を申し立てることにより、他の一般債権者に優先して弁済を受けることができる」としています。訴訟を経ずに申し立てられる分、手続きは速く進みます。競売の方法そのものは民事執行法180条1号の担保不動産競売です。

ただし、このルートには限界があります。同じ資料は「区分所有法第7条の先取特権は公租公課及び抵当権等の登記された担保権に劣後する」と述べ、優先する債権の見込額に買受可能価額が届かない場合は「担保不動産競売手続は民事執行法第188条の準用する第63条により取り消される(いわゆる無剰余取消し)」としています。住宅ローンの残債が大きい部屋では、このルートは空振りに終わります。

2つ目は、区分所有法59条による区分所有権の競売請求です。59条は、共同生活上の障害が著しく、他の方法ではその障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときに、集会の決議に基づいて訴えをもって競売を請求できると定めています。別添3は、管理費等の著しい滞納は共同利益背反行為に該当すると解されるとしたうえで、3つ目の要件については「先取特権の実行やその他滞納者の財産に対する強制執行によっても滞納管理費等の回収を図ることができない場合であることを要し」としています。つまり、滞納の月数だけで自動的に進む手続きとは別物で、集会の決議と裁判を経る重い段階です。それでも、そこまで進むと売却の主導権は自分の手を離れます。

出典: e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律(昭和三十七年法律第六十九号)

出典: 国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約コメント

滞納は3か月以上の住戸がある棟が30.1%ある

滞納は、実はよくある出来事です。国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、管理費・修繕積立金を3ヶ月以上滞納している住戸があるマンションは30.1%です。完成年次別では、築年数が古いマンションの方が割合は高くなる傾向にあります。この調査は管理組合向けに4,270組合へ配布し、1,589組合から有効回収した結果です。

10棟のうち3棟ほどには、3か月以上滞納している住戸があります。管理組合にとって滞納の対応は日常の業務の一部で、相談を持ちかけられることにも慣れています。

「珍しくない」は「放置してよい」とは別

同じ調査では、管理組合のトラブルのうち「費用負担に係るもの」の具体的内容は「管理費等の滞納」が20.2%です。滞納は棟全体の問題として総会の議題になり、収支報告の未収金の欄で棟の全員の目に触れます。早く相談するほど、穏やかに解決できます。

出典: 国土交通省 令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕

修繕積立金を滞納していても売却できる理由

「滞納があるとマンションは売れない」と聞いた人は多いです。けれども法律の上で、滞納と売却は別の話です。

売れないと言われる正体は別のところにあり、そこを先に片付ければ普通に売れます。

滞納は所有権の移転を妨げない

マンションの所有権を買主に移すのに要るのは、売主と買主の合意と登記で、管理組合の承諾は手続きの外にあります。滞納があっても、売買契約を結び、登記を移し、代金を受け取ることは法律上できます。管理組合が持つのは滞納分を請求する権利で、その権利は後で見るように売主に加えて買主にも及びますが、売買そのものを止める力とは別です。

売主が最初に知っておくべきなのはこの点です。「滞納しているから売れない」のではなく、「滞納分の扱いを決めないと売買の話が前に進まない」のです。扱いを決めれば、売却は進みます。

滞納額は重要事項調査報告書で買主に伝わる

滞納の事実を隠して売る道は、仕組みの上で閉じています。売却時に仲介会社が管理会社から取り寄せる「管理に係る重要事項調査報告書」には、滞納額を書く欄があります。国土交通省のマンション標準管理規約の別添4「管理情報提供様式に記載のある項目例」には、管理組合収支関係の項目として「(2)管理費等滞納及び借入の状況 ①管理費滞納額 ②修繕積立金滞納額」が挙げられています。

売主個人の滞納については、同じ様式に次の欄があります。

5 売主たる組合員が負担する管理費等関係(①~⑰の項目毎に金額を記載(滞納がある場合は滞納額も併せて記載))

この⑰までの項目には、管理費と修繕積立金に加えて「⑮遅延損害金の有無とその額」が並び、続けて管理費等の支払方法と支払手続きを書く欄が置かれています。買主側の仲介会社はこの報告書を確認し、買主に説明します。

つまり、買主は契約前に滞納額を金額で知ります。隠せない以上、売主が先に「滞納額はいくらで、決済時にこう精算する」と提示するほうが、買主の不安を小さくできます。

出典: 国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約コメント

買主は特定承継人として滞納分を引き継ぐ

区分所有法8条は、管理組合が区分所有者に対して持つ管理費等の債権について、次のように定めています。

前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

特定承継人とは、売買でその部屋を買った人のことです。売主が滞納したまま売ると、管理組合は買主に滞納分を請求できます。買主は「自分が住む前の滞納」を肩代わりして払う義務を負います。

これが「滞納があると売りにくい」の本当の理由です。買主にとって、滞納分は購入後に降ってくる負担です。当然、買主は「その分を価格から引いてほしい」か「決済までに売主が完済してほしい」と求めます。売主がこの求めに先に応える形を用意しておけば、買主は安心して契約に進めます。

出典: e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律(昭和三十七年法律第六十九号)

精算の段取りを先に組めば売れる

滞納があるマンションが売れにくいのは、法律上の問題ではなく、精算の段取りを買主側に丸投げすると敬遠されるからです。売主が先に段取りを組めば、通常の売却と同じ流れで進みます。

段取りは次のとおりです。

  • 管理会社に、決済予定日時点の滞納額(遅延損害金・諸費用を含む)の確定を依頼する
  • 仲介会社に、滞納分を決済時に売却代金から管理組合へ支払う形で契約書に明記してもらう
  • 買主側の仲介会社に、精算の方法を事前に伝えてもらう

この3つが決まっていれば、買主は引き継ぐ負担がないと分かり、価格交渉の材料にもなりにくくなります。滞納の事実を最初から仲介会社に伝えることが、段取りの出発点です。

滞納した修繕積立金の売却時の精算方法

滞納分は、売却のどの時点で、誰が、どう払うのか。ここが読者の一番知りたい点です。

内容向く場合
代金から精算決済日に売却代金から滞納分を管理組合へ支払う売却代金がローン残債+滞納分を上回る
買主が引き継ぎ買主が滞納分を払い、その分価格を下げる買主の合意がある場合(まれ)
事前完済売主が決済前に自己資金で払う手元資金がある

基本の型と、住宅ローンの抵当権との優先関係を知ると、自分の場合にどうなるかが分かります。

決済時に売却代金から管理組合へ支払う

一般に多いのは、決済の日に、買主から受け取る売却代金の中から滞納分を管理組合の口座へ振り込む形です。司法書士と仲介会社が段取りし、決済当日に住宅ローンの返済、仲介手数料の支払いと並んで、管理組合への支払いが行われます。

この形なら、買主は滞納分を引き継がずに済み、管理組合は滞納を回収でき、売主は手取りから差し引かれるだけで済みます。三者にとって最も分かりやすい方法です。

必要なのは、決済日時点の滞納額の確定です。管理会社に決済予定日を伝えて滞納額の確認書面を出してもらい、遅延損害金や督促費用を含めた総額を決めます。決済日がずれると額も変わるので、日程が固まってから依頼します。

買主が引き継ぐ場合は価格で調整する

買主が滞納分を引き継ぐ形もあります。この場合、買主は購入後に管理組合へ滞納分を払うことになるので、その分だけ売買価格を下げるのが通例です。

売主にとっては、代金から精算する場合と手取りは同じです。違いは、精算のタイミングと契約書の書き方だけです。買主にとっては、引き継いだ後の手続きが増えるので、この形を好む買主は少数です。

売主が知っておくべきなのは、「買主が引き継ぐ」と「売主が払わなくてよい」は別だ、という点です。区分所有法8条は管理組合が買主にも請求できると定めているだけで、売主の債務はそのまま残ります。買主が払った後に売主へ求償することもあるので、契約書で誰が最終的に負担するかを書き込みます。

管理組合の先取特権は住宅ローンの抵当権に劣後する

区分所有法7条は、管理組合の管理費等の債権について、滞納者の区分所有権と敷地利用権、建物に備え付けた動産の上に「先取特権」があると定めています。先取特権とは、他の債権者より先に弁済を受けられる権利です。同条2項は、この先取特権を優先権の順位と効力については「共益費用の先取特権」とみなすとしています。

共益費用の先取特権は、民法上の一般の先取特権です(民法306条1号)。その順位は民法336条が定めています。

一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。

このただし書が効きます。抵当権を登記した銀行は「登記をした第三者」に当たるため、先に並びます。国土交通省の標準管理規約の別添3も、この順位をはっきり書いています。

区分所有法第7条の先取特権は公租公課及び抵当権等の登記された担保権に劣後する

銀行が先、管理組合が後

住宅ローンの抵当権が登記されているマンションでは、銀行の抵当権が管理組合の先取特権より優先します。売却代金が住宅ローンの残債でほぼ消える場合、管理組合は代金から回収できず、買主(特定承継人)に請求が向きます。買主はその分を価格に乗せるか、契約で売主負担を明記するよう求めます。

同じ別添3は、優先する債権の見込額に買受可能価額が届かないときは担保不動産競売が無剰余取消しになるとしています。管理組合の側から見ると、残債の大きい部屋は先取特権で回収する道が細く、買主から回収する道が太くなります。残債が売却価格に近い人は、滞納分を別に用意する必要があると、この段階で分かります。

出典: e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)

出典: 国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約コメント

遅延損害金と諸費用も精算の対象になる

精算の対象は、滞納した元金より広いです。規約で定めた遅延損害金、督促や徴収にかかった費用、管理組合が弁護士に依頼していればその費用も、管理組合は請求できます(標準管理規約60条2項)。重要事項調査報告書の様式に「⑮遅延損害金の有無とその額」の欄があるのも、これが買主に伝わる情報だからです。

決済時の精算では、これらを含めた総額を管理会社に確定してもらいます。滞納期間が長いほど上乗せは増え、法的措置に進んでいれば弁護士費用が加わります。

売主にとっての要点は、精算額は「今の滞納額」ではなく「決済日時点の総額」だという点です。売り出しから決済まで数か月かかるので、その間の遅延損害金も乗ります。売却を決めたら、滞納をこれ以上増やさないことが、手取りを守る第一歩です。

出典: 国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約コメント

管理費等の日割り精算と滞納分の精算は別

売却時には、滞納の有無に関係なく、管理費と修繕積立金の日割り精算があります。標準管理規約は当月分を別に定める徴収日までに一括して徴収するとしており、一般に当月分を前月末に引き落とす棟が多いため、引渡日の属する月の分はすでに売主が払っている状態です。その月の引渡日以降の分を、買主から売主へ日割りで返す形になります。

この日割り精算と、滞納分の精算は別の計算です。日割り精算は買主と売主の間の調整で、滞納分の精算は売主と管理組合の間の支払いです。決済の明細でも別の行に分けて書かれます。

混同しやすいのは、日割りで「買主から受け取る分」があるので、滞納分がそれで相殺されると思い込むことです。日割り分は一般に数千円から数万円で、滞納分とは桁が違います。両方を分けて把握しておきましょう。

修繕積立金を払えないときの選択肢

払えない状態が続くなら、選択肢は限られますが、順番があります。

選択肢向く人注意点
分割払いの相談一時的な収入減減額は原則ない・理事会の判断
賃貸に出す他に住む場所がある住宅ローンの金融機関の承諾が要る
売却して住み替え収入の回復が見込めない滞納が浅いうちに
任意売却住宅ローンも払えない金融機関の同意が要る

分割の相談から売却まで、自分の状況に合うものを選びます。

管理組合に分割払いを相談する

一時的に収入が減って払えない場合は、滞納が積み上がる前に管理会社を通じて管理組合に相談します。「いつまでに、いくらずつ払う」という計画を示せば、一般に理事会が分割払いを認める例は多いです。

管理組合にとっても、法的措置には費用と手間がかかります。標準管理規約の別添3が示す手順では、督促の次に滞納者の財産調査、そして訴訟へと進みます。滞納者が自ら連絡し、支払う意思と計画を示せば、督促の段階で止めるほうが管理組合にとっても軽く済みます。

相談のときは、口座振替の再開時期、滞納分の分割回数、遅延損害金の扱い(免除を求めるなら理由を添える)の3点を具体的に伝えます。書面で合意しておくと、後で理事が交代しても話が引き継がれます。

修繕積立金の減額は原則認められない

「払えないので減らしてほしい」という要望は、原則として退けられます。修繕積立金は、全区分所有者が専有面積などに応じて公平に負担するものだからです。特定の人だけ減額すると、その分を他の区分所有者が負担することになります。

国土交通省の標準管理規約を見ても、個人の事情による減額や免除の規定は見当たらず、負担は全員に同じ基準で課されています。別添4「管理情報提供様式に記載のある項目例」には「(5)特定の組合員に対する管理費等の減免措置の有無(規定している規約条項、別表名)」という欄がありますが、これは減免が規約に根拠を要する例外的な扱いであることを示しています。

減額の代わりにできるのは、支払い時期の調整(分割・猶予)です。額を減らすのではなく、時間を延ばす方向で相談するのが現実的です。

出典: 国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約コメント

賃貸に出して家賃で払う

他に住む場所がある人は、部屋を賃貸に出し、家賃から管理費と修繕積立金を払う方法があります。家賃収入が月額の維持費を上回れば、滞納を止められます。

ただし、住宅ローンが残っている場合は、金融機関への確認が先です。住宅金融支援機構の【フラット35】ご利用条件は「フラット35は第三者に賃貸する目的の物件などの投資用物件の取得資金にはご利用いただけません。」と定めており、返済中についても「確認の結果、第三者に賃貸するなどの投資用住宅としての利用や店舗・事務所などの目的外の利用が判明した場合は、お借入れの全額を一括して返済していただきますのでご注意ください。」としています。民間の住宅ローンでも、自分が住むことを前提にした融資である点は共通で、扱いは金融機関ごとに違います。転勤などの事情なら承諾が出ることも一般にあるので、先に金融機関へ相談します。

賃貸に出しても、管理費と修繕積立金を払うのは所有者です。家賃に上乗せはできても、空室の間は自分で払い続けます。空室リスクを含めて、家賃で本当に維持費をまかなえるかを計算してから決めます。

出典: 住宅金融支援機構 【フラット35】ご利用条件

滞納が浅いうちに売却して住み替える

収入の回復が見込めず、分割払いでも追いつかないなら、売却して維持費の安い住まいへ移るのが現実的です。この判断は早いほど有利です。

理由は3つあります。滞納が浅いほど精算額が小さく、遅延損害金や弁護士費用が乗る前に売れること。法的措置に進む前なら、通常の売却として買主を探せること。そして、売却代金で住宅ローンと滞納分を精算した後に、手取りが残る可能性が高いことです。

住み替え先は、管理費と修繕積立金の合計が今より低い中古マンション、または維持費の構造が違う賃貸や戸建てが候補になります。「払えなくなってから」ではなく「払えなくなりそう」で動くと、選べる住み替え先が広がります。

住宅ローンも払えないなら任意売却を検討する

修繕積立金に加えて住宅ローンの返済も苦しい場合、通常の売却では代金が残債に届かないことがあります。このときは、金融機関の同意を得て、残債を下回る価格で売る「任意売却」が選択肢になります。

任意売却では、売却代金の配分を金融機関が握ります。管理組合の滞納分は、金融機関が同意すれば代金から支払われることもありますが、抵当権が先取特権に優先するため、認められないこともあります。その場合、滞納分は買主が引き継ぐ形になり、買主側の交渉で価格に反映されます。

任意売却の進め方と競売との違いは、別の記事で詳しく扱っています。修繕積立金の滞納がある場合は、任意売却の相談先に滞納額を最初から伝えることが、配分の交渉を早める鍵です。

任意売却とは?競売を避けるための仕組み・タイミング・相談先 任意売却とは?競売を避けるための仕組み・タイミング・相談先

払えなくなる前に売るべきタイミングの判断基準

売るかどうかを決める基準は、「払えなくなってから」ではなく「払えなくなりそう」の段階にあります。

判断軸今すぐ動くまだ猶予がある
滞納の段階督促が来ている・法的措置の通知滞納なし・1〜2か月
残債と価格残債が価格に近い・上回る価格が残債を大きく上回る
今後の負担値上げ・一時金の予定あり計画の最終額に達している
収入の見通し回復の見込みがない一時的な減収

4つの軸で今の位置を確かめます。

滞納が法的措置に進む前に動く

売却で手取りを残すには、管理組合が法的措置に進む前に動くのが鉄則です。理由は、法的措置に進むと弁護士費用や訴訟費用が精算額に加わり、買主側の仲介会社も訴訟中の物件として敬遠するからです。

動く時期で変わる手取り(仮定の例)

売却価格3,000万円・住宅ローン残債2,500万円・仲介手数料など諸費用110万円の場合

  • 滞納なしで売る: 手取り 約390万円
  • 滞納30万円+遅延損害金3万円で売る: 手取り 約357万円
  • 法的措置後(滞納50万円+遅延損害金8万円+弁護士費用20万円): 手取り 約312万円

価格・残債・諸費用・滞納額はすべて仮定の値です。読者は自分の数字に置き換えて、売却価格−残債−諸費用−滞納分の総額の順で計算します。遅延損害金の年利は規約で定めた率、弁護士費用は管理組合の対応によって変わります。

督促の文書が届いた時点で、売却を選択肢に入れて仲介会社に相談すると、法的措置の前に売り出せる可能性が高くなります。

住宅ローン残債が売却価格を下回るうちに売る

売却代金で住宅ローンを完済し、滞納分も精算し、手取りが残るためには、売却価格が「残債+滞納分+諸費用」を上回っている必要があります。この状態のうちに売るのが、通常の売却で片が付く条件です。

相場が下がったり、残債の減りが遅かったりして、売却価格が残債に近づくと、滞納分を精算する原資が消えます。先取特権より抵当権が優先するため、代金は先に銀行へ渡り、管理組合への支払いは別に用意することになります。

自分のマンションの相場を調べ、残債と比べておくことは、滞納の有無に関係なく売却判断の基本です。残債が価格を上回る場合の進め方は、別の記事で扱っています。

住宅ローンの残債ありでもマンション売却はできる|仕組み・流れと損をしないコツ 住宅ローンの残債ありでもマンション売却はできる|仕組み・流れと損をしないコツ

次の値上げや一時金の前に判断する

今の額で払えないなら、値上げ後はさらに苦しくなります。長期修繕計画と直近の総会資料で、修繕積立金の引上げ予定と一時金の予定を確かめます。重要事項調査報告書の様式にも、修繕積立金の変更予定を長期修繕計画上の変更予定時期と変更予定額で書く欄があります。

段階増額積立方式の棟では、数年ごとに引上げが予定されています。次の引上げが1〜2年以内にあり、その額を払える見込みが薄いなら、引上げの前に売却の判断をするほうが、滞納を増やさずに済みます。

一時金の徴収が決まっている棟では、一時金の支払期日までに引渡しが終わるかどうかも見ます。期日をまたぐと、一時金の負担が売主に残るか、精算の対象になります。仲介会社と、総会の予定を踏まえた売却スケジュールを組みます。

出典: 国土交通省 令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約コメント

収入の回復が見込めないなら早く動く

一時的な減収なら、分割払いの相談で乗り切れます。けれども、退職や年金生活への移行、健康上の理由などで収入の回復が見込めない場合は、時間が経つほど選択肢が減ります。

滞納が積み上がるほど精算額が増え、法的措置に近づき、買主も減ります。売却価格が残債に近づけば、通常の売却から任意売却へと選択肢が狭まります。早く動くことが、最も多くの選択肢を残す方法です。

住み替え先の維持費を先に調べ、「売った後にいくらで暮らせるか」を計算してから売却に入ると、住み替え後に同じ問題を繰り返さずに済みます。年金生活での残債の扱いも、別の記事で扱っています。

年金生活で住宅ローンが残るときの選択肢と対処法 年金生活で住宅ローンが残るときの選択肢と対処法

まとめ:滞納があっても売れるが、滞納分は必ず自分に返ってくる

いちばん重いのは、滞納分が消えずに売主へ返ってくることです。区分所有法8条により管理組合は買主にも請求できるため、買主は滞納額を重要事項調査報告書で確認したうえで、価格を下げるか決済時の精算を求めます。そして区分所有法7条の先取特権は登記された抵当権に劣後するので、残債が売却価格に近い部屋では、売却代金から滞納分を払う原資が残らず、別に用意することになります。「滞納があると売れない」ではなく、「滞納分をどう払うかを決めれば売れる」が正しい理解です。

次の一歩は、管理会社に決済予定日時点の滞納額(遅延損害金と督促費用を含む)を確定してもらい、仲介会社に精算の方法を先に決めてもらうことです。ここを飛ばして売り出すと、買主側の仲介会社が重要事項調査報告書を見た時点で交渉の主導権が移り、滞納額を大きく超える値引きを求められる流れになります。

そのうえで、督促が法的措置に進む前という期限を意識します。弁護士費用や訴訟費用が精算額に乗る前に動くほど、手元に残る金額は大きくなります。住み替えのトビラでは、修繕積立金を滞納したままのマンションの売り方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。