大規模修繕の前に売るか後に売るか|買主の見え方と工事中の内覧の工夫

大規模修繕の前に売るか後に売るか|買主の見え方と工事中の内覧の工夫

管理組合の総会で「来年、大規模修繕を行います」と決まった。売却を考えている人が最初に迷うのは、工事の前に売るのか、後にするのか、それとも工事が始まってしまったらどうするのか、です。

先に答えを書きます。工事の予定も、工事後の修繕履歴も、重要事項調査報告書で買主に伝わるので、前と後で買主が知る情報は同じです。差がつくのは、内覧の環境、外観、積立残高、そして売主の説明です。

この記事では、国の調査で確かめた周期と費用から始めて、前・後・中それぞれの買主の見え方、工事中に売り出さざるを得ないときの内覧の工夫、そして時期の決め方まで、売主の立場で順に見ていきます。

大規模修繕の周期と費用と自分の棟の予定の確かめ方

管理組合から「来年、大規模修繕を行います」と知らされたとき、工事の前に売るべきか後にすべきかで迷う人は多いです。判断に入る前に、大規模修繕がどれくらいの周期で、いくらかかり、何回目かで何が違うのかを、国の調査で確かめます。

この章では次の5点を順に見ます。

  • 大規模修繕の周期は12年から15年が中心
  • 戸あたりの工事費は100万円前後が中心
  • 何回目の工事かで内容が変わる
  • 自分の棟の次の工事の時期を確かめる書類
  • 工事の1年前から売却の時期を考え始める

大規模修繕の周期は12年から15年が中心

大規模修繕は、外壁の塗装や屋上の防水など、建物全体に足場をかけて行う計画的な修繕工事です。国土交通省の長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改定)は、修繕周期の例として、共通仮設と直接仮設を12〜15年、屋上防水(保護・露出)を12〜15年の補修・修繕、外壁塗装(雨掛かり部分)を12〜15年の塗替としています。

平成30年5月に公表された国土交通省の実態調査も、同じ目安を示しています。

分譲マンションでは、12年程度の修繕周期で大規模な修繕工事(長期修繕計画に基づく計画修繕工事やグレードアップのための改修工事)を行うことが一般的(長期修繕計画作成ガイドライン等による)

実際に行われた工事を集めた令和3年度の実態調査でも、同じ幅に集まっています。

マンション大規模修繕工事の平均修繕周期としては、「13年」が最も多く、次いで「12年」「14年」「15年」と、全体の約7割が12〜15年周期での実施となっている。

この調査は、直近3年間に大規模修繕工事や設計コンサルタント業務を受注した企業814社に配布し、200社(回収率24.6%)から818件の工事事例を集めたものです。平均修繕周期の集計対象は、築年数と工事回数と実施時期の回答がそろった648件です。

回数別に見ると、平均修繕周期は1回目が15.6年、2回目が14.0年、3回目が12.9年で、回数が増えるほど周期が短くなる傾向が出ています。自分の棟が今どの段階にいるかは、築年数と修繕履歴で確かめます。

出典: 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査について」(平成30年5月11日公表)

戸あたりの工事費は100万円前後が中心

大規模修繕の費用は、国土交通省の実態調査で1戸あたりの分布が公表されています。令和3年度調査(818件)では「100〜125万円/戸」が27.0%で最も高く、次いで「75〜100万円/戸」が24.7%、「125〜150万円/戸」が17.4%でした。

工事回数別の戸あたり工事金額の中央値は、1回目が110.2万円(331件)、2回目が106.1万円(194件)、3回目以上が97.0万円(242件)です。回数が増えるほど中央値は下がっています。

平成30年に公表された初回の調査(134社944サンプル)でも、戸あたりは「75万円〜100万円;30.6%、100万円〜125万円;24.7%」、㎡あたりは「10,000円〜15,000円;41.1%、5,000円〜10,000円;31.8%」で、同じ帯に集まります。どちらの調査も、金額に共通仮設費や消費税相当額は含まれていないので、総会に出てくる見積もりのほうが大きくなる点は頭に入れておきます。

売主にとって大事なのは、この額を積立残高で賄えているかどうかです。戸数×100万円前後を工事費のおおまかな目安に置くと、70戸の棟なら7,000万円前後になります。長期修繕計画の見積もりと積立残高を並べると、値上げや一時金が来るかどうかの見当がつきます。

出典: 国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査について」(平成30年5月11日公表)

何回目の工事かで内容が変わる

大規模修繕の中身は、回数で変わります。平成30年公表の実態調査では、工事金額の内訳は外壁関係(外壁塗装及び外壁タイル)24.0%、防水関係(屋根防水及び床防水)22.0%、仮設工事19.2%が中心で、工事回数による特徴として「2回目では給水設備が増加(1回目2.1%⇒2回目10.5%⇒3回目以上4.2%)」「3回目以上では建具・金物が増加(1回目1.1%⇒2回目3.4%⇒3回目以上11.6%)」が挙げられています。令和3年度調査も「工事回数が多くなると、建築系工事、設備系工事の割合が高くなり、仮設工事の割合が低くなる傾向にある」としています。

築年数のほうは、令和3年度調査の中央値で1回目が築15年、2回目が築28年、3回目以上が築40年です。同調査は「大規模修繕工事は工事回数1回目は築15年以下、2回目は築26〜30年、3回目は築41年以上で実施されている割合が最も高い」と書いています。

回数実施が多い築年数中心となる工事買主から見えるか
1回目築15年以下外壁塗装・屋上防水・鉄部塗装外観が変わり見える
2回目築26〜30年外壁・防水に加え給水設備見えにくい工事が増える
3回目以上築41年以上建具・金物等の取替と設備の更新一部は見える

長期修繕計画作成ガイドラインの修繕周期の例でも、給水管は19〜23年で更生・30〜40年で取替、建具関係は12〜15年で点検・調整・34〜38年で取替とされていて、回数が進むほど設備と建具の出番が増える流れと重なります。令和5年度マンション総合調査では、大規模な計画修繕工事の際に行った工事項目の実施割合は「外壁塗装工事」が87.1%と最も多く、次いで「屋上防水工事」が75.0%、「床防水工事」が61.6%でした。

売却との関係で言えば、1回目の工事後は外観が新しくなって買主の目に入りますが、2回目は給水設備など見えにくい工事が増え、工事後の印象の変化は小さくなります。何回目かで、後に売る場合の評価の上がり方が変わります。

出典: 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査について」(平成30年5月11日公表)国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果(概要編)」

自分の棟の次の工事の時期を確かめる書類

次の大規模修繕がいつなのかは、3つの書類で分かります。

  • 長期修繕計画: 年度別の工事項目と費用の表に、大規模修繕の予定年度が載っている
  • 総会の議事録・議案書: 建物診断・設計・施工会社選定・工事の決議が段階ごとに議題になる
  • 重要事項調査報告書: 共用部分等の修繕工事の実施予定の欄

国土交通省のマンション標準管理規約に付く重要事項調査報告書の項目例(別添4)には、次の欄が並んでいます。

8 計画修繕・改良関係 ①長期修繕計画の有無(有( 年 月作成(見直し))、無、検討中の別) ②共用部分等の修繕工事の実施状況(工事概要、実施時期( 年 月)) ④共用部分等の修繕工事の実施予定の有無(有( 年 月予定、工事概要)、無、検討中の別)

買主側の仲介会社は、この欄で工事の実施状況と予定を確かめます。売主は売り出す前に自分で3つの書類に目を通し、「次の工事は来年の春、内容は外壁と防水、費用は積立で賄える」と言えるようにしておきます。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」 別添4

工事の1年前から売却の時期を考え始める

大規模修繕は、一般に工事の1〜2年前から準備が始まります。建物診断で劣化を調べ、設計会社が工事内容と概算を出し、総会で工事を決議し、施工会社を選んで契約する、という段取りが目安です。

この段階が進むごとに、買主に伝わる情報が細かくなります。診断の段階では「検討中」、決議の後は工事概要と時期、施工会社の選定後は費用まで固まります。

売る時期を考え始めるのは、総会で工事が議題に上がった時点が目安になります。工事の前に売るなら、決議から着工までの期間が売却にあてられる時間です。工事の後に売るなら、着工から完了までを待ちます。工事中に売り出さざるを得ないなら、後の章の工夫が要ります。

大規模修繕の前に売る場合の買主の見え方

「工事の前に売れば、値上げや一時金を避けられて得」と言われます。半分は当たっていて、半分は誤解です。

買主に何が伝わり、何が有利で、どこに限界があるのかを分けて見ます。

工事の予定は報告書と長期修繕計画で買主に伝わる

工事の前に売っても、工事の予定は買主に伝わります。重要事項調査報告書の項目例には「共用部分等の修繕工事の実施予定の有無(有( 年 月予定、工事概要)、無、検討中の別)」の欄があり、決議前でも「検討中」として載ります。長期修繕計画にも予定年度が入っています。

工事に伴う値上げや一時金の予定も、同じ報告書で伝わります。項目例の「(3)管理費等の変更予定等」は、変更予定の有無と時期と予定額を記載する欄で、対象には管理費・修繕積立金に加えて「修繕一時金」が並んでいます。買主側の仲介会社はこれらを読み、買主に「来年大規模修繕があり、積立金が上がる予定です」と伝えます。

つまり、前に売ることで得られるのは「自分が払わない」ことであって、「買主に知られずに済む」ことは別の話です。買主は工事の予定を織り込んで価格を判断します。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」 別添4

足場やシートのない状態で内覧できる

工事前に売る最大の利点は、内覧の環境です。工事が始まると、建物全体に足場が組まれ、養生シートで覆われます。室内は暗くなり、バルコニーからの眺望は隠れ、作業の音も出ます。

工事前なら、外観も眺望もいつもどおりの状態で内覧できます。買主は「この部屋で暮らす」場面を具体的に想像でき、内覧から申し込みにつながりやすくなります。

外観の古さは残りますが、買主は「来年きれいになる」と分かっているので、古さそのものは大きな減点になりにくいです。「工事の予定があり、費用は積立で賄える」と説明できれば、古い外観は「これから直る外観」に変わります。

値上げや一時金を自分が払わずに済む

大規模修繕に合わせて修繕積立金の値上げや一時金の徴収が決まる棟は多いです。工事前に引き渡せば、値上げ後の月額や一時金を売主が負担する期間は短くなります。

ただし、この利点は限られます。値上げも一時金も報告書の「(3)管理費等の変更予定等」で買主に伝わるので、買主は「購入後に上がる」「一時金が来る」として、その分を価格から引こうとします。売主が払わない代わりに、買主がその分を価格で引く、という形です。

値上げ前に売る意味と限界、一時金の徴収決議の前後で誰が払うかは、別の記事で詳しく扱っています。大規模修繕の前後の判断では、「払わずに済む」より「買主に何が伝わるか」を軸にするほうが、着地額を読みやすくなります。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」 別添4

積立残高が工事費を賄えるかで買主の不安が決まる

工事前に売る場合、買主が最も見るのは、積立残高で工事費を賄えるかどうかです。賄えるなら、買主は「工事の予定はあるが追加の負担はない」と読みます。足りないなら、「値上げか一時金か借入が来る」と読みます。

残高と工事費の関係(仮定の例)

70戸の棟・工事費の見積もり 7,000万円(戸あたり100万円で仮置き)

  • 積立残高 9,000万円 → 2,000万円の余りが出て賄える。買主の追加負担なし
  • 積立残高 5,000万円 → 2,000万円の不足。戸あたりに割ると約29万円(2,000万円÷70戸)で、値上げ・一時金・借入のいずれかが来る

残高は報告書の「6 ⑧修繕積立金会計繰越額」、借入は「(2)③借入金残高」、見積もりは総会資料で確かめます。

積立金がいくら積み上がっているかは、宅地建物取引業法施行規則16条の2第6号でも、重要事項説明の事項として「その内容及び既に積み立てられている額」と定められています。売主はこの2つの数字を先に押さえ、「賄える」なら前に売っても不安を持たれにくいと分かります。足りない場合は、不足分の埋め方(値上げ・一時金・借入)が決まっているかが次の論点です。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」 16条の2第6号/国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」 別添4

工事前は同じ棟の売り物が増える前に売れる

大規模修繕の工事中は、同じ棟の売り物が増える傾向があります。工事の負担や値上げをきっかけに売却を考える人が、同じ時期に動くからです。売り物が増えると、買主は比べて選ぶので、価格競争になりやすくなります。

工事前に売り出せば、同じ棟の競合が少ない時期に買主を探せます。仲介会社に、同じ棟の現在の売り出し件数と、過去の工事期間中の件数を聞いてみると、自分の棟の傾向が分かります。

ただし、これは一般的な傾向で、棟によって違います。売り物が少ない時期に売る利点は、価格を維持しやすいところにあります。

大規模修繕の後に売る場合の買主の見え方

「工事の後に売れば高く売れる」とも言われます。これも半分は当たっていて、条件が付きます。

外観が新しくなる利点と、積立残高が減る限界を分けて見ます。

修繕履歴が報告書と重要事項説明で買主に伝わる

工事後に売ると、その工事は修繕履歴として買主に伝わります。重要事項調査報告書には「共用部分等の修繕工事の実施状況(工事概要、実施時期( 年 月))」の欄があり、宅地建物取引業法施行規則16条の2第10号も、重要事項説明の事項としてこう定めています。

当該一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容

買主側の仲介会社は、この履歴で「外壁と防水を一昨年に実施済み」と確かめ、「当面の大きな工事はない」と買主に説明します。

売主の準備は、工事の内容(外壁・防水・給水設備など)、実施年、工事保証の有無を管理組合の資料で確かめ、買主に示せるようにしておくことです。一般に、工事の保証書は引渡し後の安心材料として買主に伝わりやすい書類です。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」 16条の2第10号/国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」 別添4

外観と共用部の印象が上がる

1回目の大規模修繕では、外壁の塗り替えやタイルの補修、屋上防水、鉄部(手すり・扉)の塗装が中心です。令和5年度マンション総合調査でも、大規模な計画修繕工事で行った工事項目は外壁塗装工事87.1%・屋上防水工事75.0%・床防水工事61.6%が上位で、同時に実施した工事は鉄部塗装等工事81.6%・建具・金物等工事35.6%・共用内部工事29.1%の順でした。工事後は外観が見違え、エントランスや廊下の印象も上がります。

内覧で買主が最初に見るのは外観と共用部です。工事直後の棟は「築年数のわりにきれい」という第一印象を作れます。これは価格交渉の場面で、値引きの理由を減らします。

ただし、印象の上がり方は工事内容で違います。外壁の色を変えた棟は変化が大きく、同じ色で塗り直した棟は「きれいになった」程度にとどまります。工事の内容と工事前後の写真を管理組合から入手し、内覧で見せると変化が伝わります。

出典: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果(概要編)」

大規模修繕済みと広告に書ける

工事後は、広告に「大規模修繕工事済み」と年を添えて書けます。中古マンションを探す買主は、この一言で「当面の大きな工事はない」「積立金の急な値上げは来にくい」と読みます。

買主側の仲介会社も、修繕履歴のある棟を「管理が機能している」と評価します。令和5年度マンション総合調査では、現在の積立額が計画に比べて不足しているマンションが36.6%、不足の割合が20%を超えるマンションが11.7%でした。計画どおりに工事を行い、履歴が残っている棟は、この中では安心材料の多い棟です。

広告に書くときは、工事の年と主な内容(外壁・防水・給水設備)を添えます。「大規模修繕済み」だけより、「昨年に外壁・屋上防水・給水設備を更新」のほうが、買主には具体的に伝わります。

出典: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果(概要編)」

積立残高が減った後の見え方

工事後の限界は、積立残高が減ることです。工事費を積立から払うので、残高は工事前より大きく目減りします。買主側の仲介会社は、報告書の繰越額を見て「次の工事まで積み立て直せるか」を計算します。

工事後の残高と次の工事(仮定の例)

工事後の残高 1,000万円・次の工事まで12年・年間の積立額 600万円

12年後の残高 = 1,000万円 + 600万円 × 12年 = 8,200万円

次の工事費の見積もりが7,000万円なら賄える計算です。9,000万円なら不足が残り、値上げが議題に上がります。

一般に、工事後は値上げが決議されることも多いです。工事で残高が減った棟は、長期修繕計画を見直し、次の工事に向けて積立額を上げるからです。売主は、工事後の残高と、長期修繕計画の次の工事の見積もりと、値上げの予定の3つを確かめ、「次の工事も賄える計画」と説明できるようにしておきます。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」 別添4

何回目の工事かで評価の上がり方が違う

「後に売れば高く売れる」が当てはまりやすいのは、1回目の大規模修繕です。外壁と防水が中心で、外観の変化が大きいからです。

2回目以降は、給水設備の更新や建具・金物等の取替など、見えにくい工事が増えます。平成30年公表の実態調査でも、2回目で給水設備の割合が増え(1回目2.1%⇒2回目10.5%)、3回目以上で建具・金物の割合が増えています(1回目1.1%⇒3回目以上11.6%)。長期修繕計画作成ガイドラインの修繕周期の例も、給水管を19〜23年で更生・30〜40年で取替としていて、2回目以降に回ってくる工事です。給水管の更新は買主にとって大切な工事ですが、外観はそのままなので、内覧の印象の上がり方は1回目より小さくなります。

「見える工事」か「見えない工事」か

売主は、自分の棟の工事が何回目で、内容が「見える工事」か「見えない工事」かを確かめます。見えない工事なら、後に売る利点は「修繕履歴」と「当面の工事なし」の説明に絞られます。外観の変化を期待して待つより、履歴を書類で示すほうが買主には伝わります。

出典: 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査について」(平成30年5月11日公表)国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」

大規模修繕の工事中に売る場合の影響と内覧の工夫

工事中の売却は、多くの記事で「避けるべき」とされます。それはそのとおりなのですが、住み替えの期限などで工事中に売り出さざるを得ない人もいます。

影響を知ったうえで、内覧の工夫で補います。

足場と養生で内覧の印象が下がる

大規模修繕の工事中は、次の状態になります。

  • 建物全体に足場が組まれ、養生シートで覆われる
  • 室内が暗くなり、窓からの眺望が隠れる
  • 作業の音と振動が日中に続く
  • バルコニーの使用が制限され、洗濯物を干せない期間がある
  • 共用廊下やエントランスの通行が制限される

買主が内覧で見るのは「この部屋で暮らす場面」です。暗い部屋、眺望のない窓、作業音の中では、その場面を思い描きにくくなります。工期は棟の規模で違い、一般に3か月から1年が目安です。

この状態で売り出すと、内覧の申し込みが減り、来ても印象が下がり、価格交渉で不利になります。だから「避けるべき」と言われます。

工程表と完了予定日を買主に示す

工事中に売り出すなら、最初に示すのは「何の工事で、いつ終わるか」です。管理組合には施工会社の工程表があり、工事の内容と完了予定日が分かります。

内覧の前に、買主側の仲介会社を通じて工程表を渡し、「外壁と防水の工事で、秋に完了予定。費用は積立で賄い済み」と伝えます。買主が最も気にするのは「いつまで続くのか」「追加費用はあるのか」なので、この2点を先に答えます。

工事中の内覧は、作業の休止日(日曜・祝日)や、作業のない時間帯に組みます。管理組合か施工会社に、工事の休止日を確かめておきます。

完成予想図と先に終わった部分を見せる

工事中の棟でも、完成した後の姿を見せる方法があります。施工会社は、外壁の色や仕様を示した完成予想図や仕様書を管理組合に提出しているのが一般的で、総会資料や掲示で入手できます。内覧のときに買主に見せます。

工事は面ごと・階ごとに進むので、先に終わった面や共用部があります。完成した部分を案内すると、買主は「工事が終わればこうなる」と具体的に思い描けます。

内覧の順番も工夫します。先に完成した共用部→室内→完成予想図、の順で見せると、暗い室内の印象を、完成後の姿で上書きできます。

引渡し時期を工事完了後に設定する

工事中に契約し、引渡しを工事完了後にする形も取れます。売買契約で引渡日を工事完了予定の後に設定すれば、買主は新しい外観で入居できることになります。

工事中の契約・工事後の引渡し(仮定の例)

売り出し 4月(工事中)・契約 6月・工事完了予定 8月・引渡し 9月

買主は契約の時点で完成予想図と工程表を見て判断し、引渡しは工事完了後になります。

売主は工事中の値引き圧力を、引渡し時期の設定で和らげます。

この形は、買主にとって「工事中に安く買えて、新しい外観で住める」に近い提案になります。売主にとっては、価格を大きく下げずに工事中の売り出しを成立させる方法です。仲介会社に、引渡し時期を工事完了後にする契約の組み方を相談します。

工事中は同じ棟の売り物が増えやすい

工事中は、同じ棟の売り物が増える傾向があります。工事の負担や値上げをきっかけに売る人が重なるからです。買主は同じ棟の複数の部屋を比べるので、価格競争になりやすくなります。

競合が多い時期に差をつけるのは、価格より「引渡し時期の柔軟さ」「工程表と完成予想図の提示」「積立残高と工事費の説明」です。同じ棟の他の売主が用意していない情報を、先に用意します。

仲介会社に、同じ棟の売り出し件数と価格を確かめ、自分の部屋の位置(階・向き・広さ)で差がつくかを見ます。差がつきにくいなら、引渡し時期の設定で買主を引きつけます。

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大規模修繕の前後どちらで売るかの判断基準

前・中・後を並べると、買主に伝わる情報は前と後で同じで、差がつくのは外観・残高・説明・内覧環境です。

時期買主の見え方自分の負担内覧環境向く人
工事予定あり・残高で賄えるか値上げ・一時金を払わない通常期限が近い・残高が十分
工事中・完了時期工事中の値下げ圧力悪い期限が工事中にある
修繕済み・残高減値上げ後の月額・一時金通常(外観が新しい)待てる・1回目の工事

判断の順序は、工事中を避け、期限で絞り、何回目かで評価上昇を見積もり、残高で不安を測る、です。

工事中を避けるのが最優先

前か後かを決める前に、工事中を避けるのが最優先です。工事中は内覧環境が悪く、同じ棟の売り物が増え、買主の目が工事に向くので、価格交渉で最も不利になります。

住み替えの期限が工事の期間と重なるなら、工事前に売り切るか、工事完了後まで待つか、どちらかに寄せます。前に売るなら着工の前に引渡しまで終える日程を組み、後に売るなら完了予定の後に売り出します。

どうしても工事中になる場合だけ、前の章の工夫(工程表・完成予想図・引渡し時期の設定)を使います。

住み替えの期限で前か後かを絞る

次に、自分の住み替えの期限で前か後かを絞ります。売却は売り出しから引渡しまで一般に3〜6か月が目安なので、工事の着工までにそれだけの期間があれば、前に売る道が残ります。

着工まで3か月を切っているなら、前に売り切るのは難しく、工事中にかかります。この場合は、工事完了後まで待つか、工事中に契約して完了後に引き渡す形を選びます。

期限が決まっていない人は、工事後まで待つ選択が取れます。ただし、工事後に値上げが決議されると、待った期間の月額が上がるので、待つ期間と負担を天秤にかけます。

何回目の工事かで後の評価上昇を見積もる

後に売る場合の利点は、外観の変化と修繕履歴です。この利点の大きさは、何回目の工事かで変わります。

令和3年度の実態調査では、1回目の工事は築15年前後、2回目は築26〜30年、3回目以上は築41年以上で行われている割合が高く、平成30年公表の調査では2回目で給水設備、3回目以上で建具・金物の割合が増えています。1回目(外壁・防水中心)なら外観の変化が大きく、後に売る利点が出やすい一方、2回目以降(給水設備・建具中心)なら外観の変化は小さく、後に売る利点は修繕履歴の説明に絞られます。

自分の棟の工事内容を総会資料で確かめ、「見える工事」なら後、「見えない工事」なら前後の差は小さい、と見積もります。見えない工事の場合、待つ期間の値上げ負担のほうが大きくなることもあります。

出典: 国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査について」(平成30年5月11日公表)

積立残高で工事費を賄えるなら前でも不安を持たれにくい

前に売る場合の買主の不安は、「工事の予定があるが、追加の負担が来るのではないか」です。積立残高が工事費の見積もりを賄えていれば、この不安は小さくなります。

賄えている棟は、前に売っても「工事の予定はあるが、費用は積立済み」と説明でき、買主は工事を減点材料にしにくくなります。足りない棟は、値上げ・一時金・借入のどれで埋めるかが決まっているかを確かめ、決まっていれば「対応済み」として説明します。

残高と見積もりの関係は、報告書の「6 ⑧修繕積立金会計繰越額」と総会資料の見積もりで確かめます。この2つの数字を並べた1枚を用意すると、前に売る場合の説明が短くて済みます。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」 別添4

自分の負担と評価上昇を比べる

最後に、後まで待った場合の自分の負担と、後に売った場合の評価上昇を比べます。

待つ負担と評価上昇の比較(仮定の例)

工事後に値上げ 月5,000円・完了まで1年待つ → 待つ負担は 5,000円 × 12か月 = 6万円と、工事中の不便

後に売った場合の評価上昇 → 1回目の外壁工事なら、外観の印象と修繕履歴で交渉が有利に

2回目の給水設備の更新なら、外観は変わらず、履歴の説明にとどまる

数字で比べにくいところは、仲介会社に「この棟の工事前後の成約事例」を聞いて補います。同じ棟で工事前と工事後に売れた部屋の価格差が分かれば、待つ価値があるかの見当がつきます。

売却の判断は、大規模修繕の前後だけで決まるものとは別です。相場、住み替え先の事情、自分の家計を合わせて決めます。大規模修繕はその一要素として、前・中・後の見え方を知ったうえで組み込みます。

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まとめ:前か後かより、工事中を避けて残高と回数で決める

いちばん重い答えは、前に売っても後に売っても、買主が知る情報は同じだということです。工事の予定は重要事項調査報告書の「修繕工事の実施予定の有無」に、工事の履歴は「修繕工事の実施状況」と重要事項説明に載ります。前に売れば値上げや一時金を自分が払わずに済みますが、その予定は買主に伝わって価格に織り込まれます。前後で本当に差がつくのは、外観、積立残高、内覧の環境、そして売主が用意した説明です。

次の一歩は、長期修繕計画と総会議事録と重要事項調査報告書の3つを取り寄せて、次の工事の時期・工事費の見積もり・修繕積立金会計の繰越額の3つの数字を並べることです。これを飛ばすと、「前に売れば得」という一般論だけで時期を決めてしまい、残高が十分なのに慌てて売ったり、足りないまま工事期間に売り出して値引きを受けたりします。

数字が並んだら、自分の棟の工事が何回目で、外観が変わる工事かどうかを確かめ、住み替えの期限と突き合わせて時期を決めます。住み替えのトビラでは、大規模修繕の前・中・後で変わる買主の見え方と売る時期の決め方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。