修繕積立一時金と売却|徴収決議の前後で誰が払うかと特約の書き方

修繕積立一時金と売却|徴収決議の前後で誰が払うかと特約の書き方

総会の議案書に「修繕積立一時金の徴収について」の一行を見つけた。1戸あたり数十万円、支払期日は数か月後。そのとき浮かぶのは「決議の前に売れば払わずに済むのか」「売却の途中で決まったら誰が払うのか」という2つの問いです。

先に答えを書きます。一時金の支払義務は、支払期日にその部屋を持っていた人にあります。だから決議前に引き渡せば、払うのは買主です。ただし、一時金の予定は決議前でも重要事項調査報告書と長期修繕計画で買主に伝わるので、「知られずに済む」とは別の話です。決議で額と期日が確定した後に、契約の特約で負担者を決めるのが、最も交渉が短く、手取りも決議前に売る場合とほぼ同じ規模に収まります。

この記事では、一時金の仕組みと決まり方、決議前後で変わる負担と契約の型、買主の見方、そして前後どちらで売るかの判断基準まで、売主の立場で順に見ていきます。

修繕積立一時金が徴収される仕組みと流れ

総会の議案書に「修繕積立一時金の徴収について」と書かれていると、「1戸いくら来るのか」「いつ払うのか」「売るなら今なのか」と一度に不安になります。

まず、一時金がどういうお金で、どう決まるのかを、規約と法律の言葉で確かめます。この章では次の5点を順に見ます。

  • 一時金は不足分を今の所有者で埋める臨時の負担金
  • 大規模修繕の直前に積立残高が工事費を下回ると発生する
  • 徴収は総会の決議で決まり持分割合で負担する
  • 一時金か借入かで払う人が変わる
  • 災害など不測の一時金と計画上の一時金は意味が違う

一時金は不足分を今の所有者で埋める臨時の負担金

修繕積立一時金(一時負担金とも呼びます)は、毎月の修繕積立金とは別に、工事の費用が足りないときに臨時で集めるお金です。国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)61条2項は、次のように定めています。

管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求めることができる。

規約のコメントも、修繕時に既存の修繕積立金の額が修繕費用に不足することなどから、一時負担金が区分所有者から徴収される場合があると説明し、これらについても修繕積立金として積み立てられ、区分経理されるべきものだとしています(28条関係②)。

つまり一時金は、規約に根拠のある正規の徴収です。毎月の積立で足りなかった分を、その時点の所有者が分担して埋める仕組みで、売主にとっては「今の所有者だから払う」お金です。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)及びマンション標準管理規約(単棟型)コメント」

大規模修繕の直前に積立残高が工事費を下回ると発生する

一時金が出てくるのは、多くの場合、大規模修繕の直前です。工事の見積もりを取ったところ、積立残高では足りないと分かる、という順番です。

国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインは、大規模修繕工事の予定年度において、修繕積立金の累計額が推定修繕工事費の累計額を一時的に下回るときは、その年度に一時金の負担、借入れ等の対応をとることが必要だと書いています。あわせて、災害や不測の事故などが生じたときも、一時金の負担等の対応に留意が必要だとしています。

長期修繕計画の標準様式(様式第5号 修繕積立金の額の設定)には、「計画期間に予定する一時金の合計額」を書く欄があり、一時金を負担する計画ではこの欄の額が収入の累計に加算されます。だから、一時金は多くの場合、前もって予定が見えています。売主が先に見るのは、自分の棟の計画にこの欄の記入があるかどうかです。

なお、国土交通省の修繕積立金に関するガイドラインは、段階増額積立方式や修繕時に一時金を徴収する方式など、将来の負担増を前提とする積立方式について、増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足する事例も生じていることに留意が必要だと書いています。一時金を予定した計画は、その時点ですでに将来の負担増を織り込んだ計画です。

出典: 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

徴収は総会の決議で決まり持分割合で負担する

一時金の徴収は、総会の決議で決まります。標準管理規約は、管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法を総会の議決事項としています(48条6号)。そして総会の議事は、規約に別段の定めがある場合を除き、出席組合員の議決権の過半数で決します(47条2項)。だから一時金の徴収は、普通決議で足りるのが原則です。自分の棟の規約が特別の定めを置いているなら、そちらが優先します。

大規模修繕の工事そのものも、区分所有法で共用部分の管理に関する事項として集会の決議で決まります(18条1項)。共用部分の変更のうち「その形状又は効用の著しい変更を伴う」ものは、出席した区分所有者及びその議決権の各4分の3以上の多数で決めることが要ります(17条1項)。裏返すと、著しい変更を伴わない修繕は、この4分の3の対象から外れ、集会の各過半数の決議で決まります(39条1項)。

負担の割合は、区分所有法19条が「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ」と定めています。標準管理規約は、管理費等の額を各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとしています(25条2項)。その共有持分は、区分所有法14条1項により専有部分の床面積の割合によるのが原則です(同条4項で規約による別段の定めも認められます)。結果として、同じ棟でも広い部屋ほど一時金は大きくなります。

一般に、議案書には1戸当たりの額、支払期日、支払方法(一括か分割か)が示されます。売主が確かめるのは、この3つと、決議の日です。支払期日と引渡日の前後で、誰が払うかが変わるからです。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)」e-Gov 建物の区分所有等に関する法律

一時金か借入かで払う人が変わる

不足を埋める方法は、一時金と借入の2つです。標準管理規約は、管理組合が28条1項に定める業務を行うため必要な範囲内において借入れをすることができると定めています(63条)。借入先としては、住宅金融支援機構の管理組合向け融資「マンションすまい・る融資」などがあります。

方法誰が払うか買主の見え方管理計画認定の基準での扱い
一時金今の所有者が一度に払う購入直後の負担・価格から引く長期修繕計画において将来の一時金の徴収を予定していないこと
借入返済を将来の積立金から(将来の所有者も)月額の上昇として見える計画期間の最終年度において、借入金の残高のない計画となっていること

一時金は今の所有者が払い、借入は返済を将来の積立金で行うので、将来の所有者も負担します。売主から見ると、一時金は自分が払う可能性のあるお金、借入は買主が月額で払うお金です。

管理組合がどちらを選ぶかは、総会の議案で分かります。売却を考える人にとって、一時金と借入は正反対の意味を持ちます。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)」国土交通省「マンションの管理計画認定の基準」住宅金融支援機構「マンションすまい・る融資」

災害など不測の一時金と計画上の一時金は意味が違う

一時金には、2つの種類があります。長期修繕計画で最初から予定していた「計画上の一時金」と、地震や台風で建物が壊れて緊急に復旧工事が要る「不測の一時金」です。

管理計画認定制度の事務ガイドラインは、認定の確認事項を「長期修繕計画において将来の一時金の徴収が予定されていないこと」としたうえで、その「将来の一時的な修繕積立金の徴収」を、大規模修繕工事を開始する事業年度の前々年度の開始日から工事を完了した事業年度の翌々年度の終了日までの修繕積立金総額の増額幅が2倍以上であり、かつその増額期間がその範囲に限られるもの、と定義しています。さらに留意点として、不測の事態が発生した場合(災害による建物破損に対して緊急的に復旧工事が必要となった場合など)に管理組合の判断によって一時金を徴収したマンションについて、これによって認定を取り消すことは想定していないと書いています。

国の物差しでも、理由で扱いが分かれる

計画上の一時金は「積立が足りない棟」の印であり、不測の一時金は避けようのない出来事です。買主の見方も同じで、一時金の理由が何かで、棟の評価は変わります。売主は、議案書に書かれた理由を、そのまま買主に説明できるようにしておきます。

出典: 国土交通省「マンションの管理計画認定に関する事務ガイドライン」

徴収決議の前後で変わる売主と買主の負担

「決議の前に売れば、一時金を払わずに済むのか」。この問いには、半分だけ「はい」と答えられます。

売る時期一時金を払う人買主に伝わる情報
決議前買主(支払期日の所有者)報告書の「変更予定有/検討中」・長期修繕計画の一時金の欄
決議後・支払期日前引渡日の所有者。特約で変えられる決議内容(額・期日)が重要事項説明で告知
支払期日後(売主が払った後)売主(返還請求はできない)一時金済み・工事予定
工事後売主(済み)大規模修繕済み・残高回復

支払義務の所在は時期で決まりますが、一時金の予定そのものは決議前でも買主に伝わるからです。

支払義務は支払期日に所有者だった人にある

管理費や修繕積立金の支払義務は、その時点の区分所有者にあります。標準管理規約も、区分所有者が管理費等を管理組合に納入しなければならないと定めています(25条1項)。一時金も管理費等の一部として扱われるので、一般に、支払期日に所有者だった人が払います。

引渡日が支払期日より前なら買主、後なら売主が払う、というのが出発点です。ただし、これは契約で何も定めなかった場合の話で、売買契約の特約で負担者を変えることができます。

売主が最初に確かめるのは、議案書に書かれた支払期日と、自分の売却スケジュールの関係です。決済・引渡しの日が支払期日をまたぐかどうかで、契約に書くべき内容が変わります。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)」

決議前に売っても一時金の予定は買主に伝わる

「決議前に売れば買主に知られずに済む」という考えは、仕組みの上で成り立ちにくいです。売却時に仲介会社が管理会社から取り寄せる重要事項調査報告書には、管理費・修繕積立金・修繕一時金などについて「変更予定有( 年 月から・変更予定額)、変更予定無、検討中の別」を書く欄があります。標準管理規約の別添4「管理情報提供様式に記載のある項目例」が、この欄を「6 管理組合収支関係(3)管理費等の変更予定等」の③修繕一時金として挙げています。理事会で一時金の検討が始まっていれば「検討中」、総会に上程が決まっていれば「変更予定有」と載ります。

同じ別添4の「5 売主たる組合員が負担する管理費等関係」にも③修繕一時金の欄があり、滞納がある場合は滞納額も併せて記載する扱いです。長期修繕計画に一時金の予定が入っていれば、それも買主側に渡る計画から読み取れます。買主側の仲介会社はこの2つを必ず見ます。

だから、決議前に売っても、買主は「一時金が来そうな棟」として価格交渉に使います。売主が得られるのは「自分が払わない」ことであって、「知られずに済む」こととは別です。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)」 別添4

決議後に売るなら特約で負担者を明記する

決議が済み、額と支払期日が確定した後に売る場合は、売買契約の特約で負担者を明記します。書き方は2つあります。

特約の型(例・文言は仲介会社や司法書士に確認する)

  • 売主負担型: 「本物件に係る修繕積立一時金(決議された額と支払期日を記載)は売主の負担とし、決済時に売買代金から精算する」
  • 買主負担型: 「本物件に係る修繕積立一時金(決議された額と支払期日を記載)は買主の負担とし、売買代金はこれを考慮した金額とする」

どちらでも、売主の手取りは同じ規模になります。売主負担なら手取りから一時金が引かれ、買主負担なら価格がその分下がるからです。違いは、買主の安心感と交渉の長さです。額が確定して特約に書かれていれば、買主は「これ以上の負担は来ない」と読めるため、交渉は短くなります。

仲介会社には、決議内容を重要事項説明で告知することと、特約の文言を契約書に入れることを依頼します。

払った後に売っても返金はない

一時金を払った後に売る場合、払った分は管理組合に残ります。標準管理規約は、次のように定めています。

組合員は、納入した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。

修繕積立金と同じく、一時金も管理組合の財産として建物に残ります。

「払った分を価格に上乗せしたい」と考える売主は多いですが、一時金の額をそのまま上乗せするのは通りにくいです。買主が評価するのは「一時金を払った事実」よりも、「工事が終わって当面の大きな工事がない」「積立残高が回復した」という結果だからです。

つまり、払った後に売るなら、一時金の額ではなく、工事の内容と残高の回復を買主に示します。工事前に払っただけで工事がまだなら、買主から見れば「これから工事中の棟」で、評価が上がるのは工事が終わってからです。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)」 60条7項

未払いのまま引き渡すと買主に請求が回る

支払期日を過ぎても一時金を払わずに引き渡すと、その一時金は滞納になります。区分所有法8条は、管理費等に関する債権を債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができると定めており、標準管理規約26条も同じ内容を置いています。買主は自分が住む前の一時金を肩代わりする形になり、売主に求償することになります。

こうした事態を避けるため、一般には、決済時に売却代金から一時金を管理組合へ支払う形で精算します。管理会社に決済日時点の未払額を確定してもらい、契約書に精算方法を書きます。

滞納分の精算の仕組みと、管理組合の先取特権が住宅ローンの抵当権に劣後する点は、別の記事で詳しく扱っています。一時金も滞納すれば同じ扱いになります。

出典: e-Gov 建物の区分所有等に関する法律 8条

一時金の予定を買主がどう見るか

一時金の予定は、買主にとって「購入直後に来る負担」です。けれども、買主が見ているのは額より広い範囲です。

一時金の理由買主の評価価格への影響
災害復旧など不測の事態避けようがない・管理の問題とは読まれにくい額の分だけ
工事費の高騰理解できる・計画の見直し済みなら安心額の分だけ
段階増額の引上げ未達・計画の見直し遅れ積立が足りない棟・また来る額以上に下がる

理由と、その後の見通しで、棟の評価が変わります。

買主は報告書と長期修繕計画で一時金の予定を確かめる

買主側の仲介会社は、重要事項調査報告書の修繕一時金の変更予定欄と、長期修繕計画の一時金の欄を必ず確認します。決議済みなら額と期日、検討中なら「検討中」、計画上の予定なら計画の年と額が分かります。

買主自身が報告書を細かく読むことはまれですが、仲介会社は「この棟は一時金の予定があります」と必ず伝えます。売主が先に同じ報告書を取り寄せ、自分の棟の記載を読んでおけば、買主側の指摘に先回りして説明できます。

一時金の予定が「変更予定無」で、長期修繕計画の一時金の欄も空なら、買主にとって安心材料です。逆に「検討中」は、額が読めないぶん買主が最も警戒する状態です。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)」 別添4/国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」 様式第5号

一時金の額はそのまま価格交渉の材料になる

一時金の額が決まっていれば、買主はその額をそのまま価格から引こうとします。1戸30万円の一時金なら、「30万円安くしてほしい」という交渉です。

一時金と価格の関係(仮定の例・金額はすべて仮の数字)

売り出し価格 3,000万円・一時金 30万円(支払期日は引渡し後)

  • 契約で何も定めない場合: 買主が払う→買主は「30万円引き」を求める→3,000万円−30万円=2,970万円
  • 売主負担の特約: 売主が決済時に30万円を精算→価格は3,000万円のまま→手取りは3,000万円−30万円=2,970万円

どちらでも売主の手取りは2,970万円で同じ。違いは交渉の手間です。

売主が知っておくべきなのは、一時金の額そのものは「引かれる」前提で価格を組む、という点です。それ以上の値引きを求められたら、「一時金は特約で精算します」と返します。

一時金の理由で買主の評価が分かれる

同じ30万円の一時金でも、理由によって買主の見方は違います。台風で外壁が壊れて緊急に補修が要る、という一時金なら、買主は「避けようがない出費」と受け止めます。工事費の高騰で計画時の見積もりを上回った、という一時金も、長期修繕計画を見直した上での対応なら理解されます。

一方、段階増額の引上げが総会で通らず積立が足りなかった、長期修繕計画を何年も見直していなかった、という理由の一時金は、「積立が足りない棟」「管理組合が動けていない棟」と読まれます。この場合、一時金の額以上に評価が下がります。

売主は、議案書に書かれた一時金の理由を、そのまま買主に伝えられるようにしておきます。理由を伏せるより、理由と管理組合の対応をセットで説明するほうが、買主の不安は小さくなります。

一時金の後に不足が続くかを買主は見る

買主が本当に警戒しているのは、「一時金の後にまた不足するか」です。一時金で今回の工事をしのいでも、長期修繕計画を見直していなければ、次の工事でまた一時金か値上げが来ます。国土交通省の修繕積立金に関するガイドラインが、将来の負担増を前提とする積立方式で合意形成ができず不足する事例を挙げているのは、この道筋です。

逆に、一時金と同時に長期修繕計画を見直し、修繕積立金の額を引き上げ、次の工事まで残高が持つ計画になっていれば、一時金は一回限りの出来事として扱われます。買主にとっては、将来の負担が読める棟です。

売主は、一時金の議案と一緒に、長期修繕計画の見直しと値上げが決まったかを確かめます。決まっていれば、それが売却の材料です。まだなら、買主は「また来る」と読みます。積立が足りているかを自分で見抜く方法は、別の記事で扱っています。

出典: 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

一時金の前後どちらで売るかの判断基準

一時金が話に出たとき、売る時期の選択肢は3つです。決議前、決議後で支払期日前、そして一時金を払って工事が終わった後です。

選択肢売主の負担買主の警戒交渉の長さ向く人
決議前に売る一時金の支払義務を負わない額が未確定で大きい長いすぐ売る事情がある
決議後・期日前に売る特約で決める額が確定して小さい短い数か月の余裕がある
払って工事後に売る一時金を払う(返還請求はできない)工事済みで小さい短い1年以上待てる

どれが有利かは、額と時期と自分の急ぎ度で決まります。

決議前に売る場合の手取りと買主の警戒

決議前に売れば、売主は一時金の支払義務を負わずに済みます。ただし、報告書の「検討中」と長期修繕計画の予定は買主に伝わり、額が確定していないぶん、買主は大きめの値引きを求めます。「30万円かもしれないし50万円かもしれない」という状態では、買主は多めに見積もるからです。

結果として、決議前に売っても、手取りは決議後に特約で精算した場合とほぼ同じ規模に収まります。むしろ交渉が長引き、額の見込みを巡って話が止まることがあります。

決議前に売るのが向くのは、住み替え先の期限が決まっていて、決議を待てない人です。その場合は、一時金の見込み額を自分で計算し、最初から価格に織り込んで売り出します。見込み額の目安は、工事費の見積もりと積立残高の差を、自分の共有持分の割合で按分した額です。正確な額は決議を待つことになるため、あくまで目安として扱います。

決議後に売るなら特約で負担者を決めて交渉を短くする

決議で額と支払期日が確定した後に売るのが、最も交渉が短い選択です。売主負担か買主負担かを特約で明記すれば、買主は「これ以上の負担は来ない」と読めます。

手取りは、売主負担なら決済時に一時金が引かれ、買主負担なら価格がその分下がるので、どちらも同じ規模です。売主が選ぶ基準は、「価格を高く見せたいか(売主負担)」「決済の手続きを簡単にしたいか(買主負担)」です。

決議の総会が1〜2か月先で、売却に3か月以上かけられるなら、決議を待ってから売り出すのが現実的です。決議前に売り出しても、契約までに決議が来れば、その時点で特約を入れることになります。

一時金を払って工事後に売る場合の評価

一時金を払い、大規模修繕が終わってから売る選択もあります。一時金は規約上、返還請求も分割請求もできない扱いですが、買主にとっては「大規模修繕済み・当面の大きな工事なし・残高回復」の棟になり、評価が上がります。

この評価の上昇が一時金の額を上回るかは、棟によります。外壁や屋上防水など、見た目と安心感に直結する工事なら上回りやすく、給排水管の更新など見えない工事なら、買主の評価に反映されにくいです。

工事後に売るのが向くのは、1年以上待てる人と、今の棟に住み続けてもよい人です。大規模修繕の前と後のどちらで売るかは、別の記事で詳しく扱っています。

支払期日と売却期間で現実的な選択肢を絞る

3つの選択肢のどれが取れるかは、支払期日と売却にかかる期間で決まります。

選択肢の絞り方(仮定の例・日程はすべて仮の数字)

総会の決議 来月・支払期日 3か月後・工事 半年後

売却にかかる期間 3〜4か月(売り出しから引渡しまでの目安)

→ 決議前の引渡しは日程の上で無理がある。決議後・支払期日前後に引渡しになるので、特約で負担者を決める選択が現実的。

→ 工事後に売るなら、引渡しは8か月以上先。

自分の棟の議案書で決議の日・支払期日・工事の時期を確かめ、仲介会社に売却期間の見込みを聞いて、この形に当てはめます。「決議前に売りたい」と思っても、日程の上で取れない選択肢を追いかけると、焦って安く売ることになります。

一時金を払えないときは分割相談と売却時の精算

一時金が払えない場合、まず管理組合に分割払いや支払時期の相談をします。一時金の支払方法も総会の議決事項(48条6号の賦課徴収方法)に含まれるので、議案の段階で分割が認められていることもあります。決議後でも、理事会が個別に相談に応じることはあります。

それでも払えず、売却で解決するなら、未払いの一時金は決済時に売却代金から管理組合へ支払う形で精算します。滞納のまま引き渡すと買主に請求が回るので、契約書に精算の方法を書きます。

滞納が長引くと遅延損害金が乗り、法的措置に進むこともあります。修繕積立金を払えないときの流れと売却時の精算は、別の記事で詳しく扱っています。一時金も、支払期日を過ぎれば同じ扱いです。

出典: 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)」 48条

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まとめ:一時金は避けるより、額と期日が確定してから特約で扱う

いちばん重いのは、「決議前に売れば一時金から逃げられる」という読み方が半分しか当たらない、という点です。支払義務は支払期日の所有者にありますが、一時金の予定そのものは、重要事項調査報告書の「修繕一時金」の変更予定欄と長期修繕計画の一時金の欄を通じて、決議前でも買主に伝わります。額が未確定なぶん買主は多めに見積もるので、決議前に売っても手取りは決議後に特約で精算した場合とほぼ同じ規模に収まります。

次の一歩は、総会の議案書で1戸当たりの額・支払期日・支払方法・決議の日を書き出し、仲介会社に売却にかかる期間の見込みを聞いて、引渡日が支払期日のどちら側に来るかを確かめることです。ここを飛ばして売り出すと、買主側の仲介会社が先に報告書を読んだ時点で交渉の主導権が移り、額の見込みだけで大きめの値引きを求められたときに返す材料を持たないまま値段を下げることになります。

そのうえで、決議を待てる時期なら待ち、待てない事情があるなら見込み額を織り込んで売り出す。そして決議後に契約するなら、負担者と精算方法を特約で書く。この2つが、同じ棟の同じ広さでも手取りを分けます。住み替えのトビラでは、修繕積立一時金が決まったマンションの売り時と契約での扱いも含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。