「今が売り時です」と言われても、決めきれないまま止まっているはずです。
今売るべきかの答えは市況の中にはなく、売れる価格と残債、税金の期限、住み替え先の予算という自分の3本の線のどこにいるかで決まります。
この記事では、今売るべき人と今は売らないほうがよい人の条件、迷ったときに並べる1枚の表、決めたあとに待つ落とし穴を、国税庁と国土交通省の一次情報で順に見ていきます。
マンションを今売るべきかを分ける3つの線
「今売るべきか、待つべきか」で止まっている方に、先に答えの形を言います。
答えは市況の中にはなく、自分の3つの線のどこにいるかで決まります。
市況が教えてくれるのは向きだけである
2026年の首都圏の中古マンション市場は、成約㎡単価が5月から下がり始めています。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の2026年8月度の月例速報では、成約㎡単価は81.60万円で前年同月比マイナス3.8%と4か月連続の下落、在庫件数は48,235件で前年同月比プラス8.2%と6か月連続の増加です。市況の読み方と月ごとの数字は、マンションの売り時を市況・築年数・税金で見極めるハブ記事にまとめています。
大切なのは、市況が教えてくれるのは「向き」だけ、という点です。向きが下向きに変わっても、今売るべき人はその中の一部です。上向きだった去年でも、売らないほうがよい人はいました。
市況は「急ぐ理由があるなら、今のうちに」と背中を押す程度の材料です。売るべきかどうかを決めるのは、次の3つの線です。
出典: 東日本不動産流通機構 月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年8月度
売れる価格と残債と諸費用の関係が1本目の線になる
1本目の線は、「売れる価格」が「ローンの残債+売却の諸費用」を上回っているかです。
ここで使う売れる価格は、査定額とは別のものです。同じ棟や同じ駅の直近の成約価格を使います。査定額は、媒介契約を結びたい会社が出す提案の金額でもあるからです。
| 線① | 見る額 | どこで確かめるか |
|---|---|---|
| 売れる価格 | 同じ棟の直近の成約価格 | 仲介会社に成約事例を出してもらう |
| 残債 | ローンの残高 | 金融機関の残高証明 |
| 諸費用 | 仲介手数料・登記費用・印紙税・引っ越し費用 | 仲介会社の見積もり |
売れる価格が残債と諸費用を上回っていれば、売却は成立します。下回っている場合は、差額を自己資金で埋めて初めて抵当権を外せます。この線の手前にいる人は、「今売るべきか」の前に、「売れるか」の段階にいます。
税金の期限と住み替え先の予算が残り2本の線になる
2本目の線は、税金の期限です。
マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除は、以前に住んでいた家屋の場合、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが条件です。所有期間が5年を超えるかどうかは、譲渡した年の1月1日で判定します。この2つの期限が今年で交差する人は、「今売るべきか」の答えがほぼ決まります。
3本目の線は、住み替え先の予算です。売る側の判断だけで決めると、買う側の金利上昇を見落とします。住み替え先を今の金利で組めるかを、売却の前に金融機関の事前審査で確かめます。
この3本を表にして、自分がどこにいるかを見るのが、この記事の全体です。次の章から、今売るべき人と今は売らないほうがよい人を、条件で分けていきます。
出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例
出典: 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)
マンションを今売るべき人の条件
今売るべき人には、共通点があります。待つと減るものを持っている人です。
含み益、税金の控除、金利の低さ。この3つは、時間が経つほど小さくなります。当てはまるかどうかを、次の4つで見ていきます。
- 同じ棟の直近成約が買った価格を上回っている
- 修繕積立金の増額や一時金の徴収が控えている
- 住まなくなって3年目の年末が今年に来る
- 住み替え先が決まっていて金利が上がる前に組みたい
同じ棟の直近成約が買った価格を上回っている
同じ棟や同じ駅で、直近に成約した価格が自分の買った価格を上回っているなら、含み益がある状態です。
2026年は、首都圏の成約㎡単価が5月から下向きに変わりました。8月度の速報では前年同月比マイナス3.8%と4か月連続の下落です。含み益は、市況が上向きのときは増え、下向きのときは減ります。「まだ上がるかもしれない」と待つのは、減る側に賭けることになります。
確かめ方は、仲介会社に同じ棟の直近1年の成約事例を出してもらうことです。ポータルサイトの売り出し価格は売り手の希望で、成約価格は買い手が実際に払った額です。比べる相手は成約価格です。
含み益がある人は、その益が減る前に動く理由があります。含み益が大きいほど、待つ費用も大きくなります。
出典: 東日本不動産流通機構 月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年8月度
修繕積立金の増額や一時金の徴収が控えている
長期修繕計画で、修繕積立金の次の増額時期や、大規模修繕の一時金の徴収が決まっているなら、今売るべき側に傾きます。
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月・令和6年6月改定)は、段階増額積立方式における適切な引上げの考え方として、次のように示しています。
段階増額積立方式における月あたりの徴収金額は、均等積立方式とした場合の月あたりの金額を基準額とし、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内とする。
この目安より低い額から始まっている積立計画は、今後の引上げ幅がそのぶん大きく残っていると読めます。買い手は、管理費と修繕積立金の額と、長期修繕計画の中身を見て価格を判断します。増額や一時金が決まったあとに売り出すと、その分が価格に織り込まれます。増額前に売り出すほうが、同じ物件でも買い手からの見え方が良くなります。
管理組合の総会議事録と長期修繕計画を先に確かめます。増額の時期と幅が書いてあれば、それが今売る理由のひとつになります。値上げそのものを住み替えの理由にするかどうかは、修繕積立金の値上げで住み替えを考えるときの記事で生涯コストから比べています。
出典: 国土交通省 マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和6年6月改定)
住まなくなって3年目の年末が今年に来る
すでに引っ越していて、前の家を空き家にしたまま持っている方には、期限があります。
マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除の対象になる資産には、「以前に住んでいた家屋(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限ります。)」が含まれます。たとえば2023年の春に引っ越した人は、2026年12月31日までに売ることがこの特例の条件になります。
この期限を過ぎると、譲渡益にそのまま税金がかかります。所有期間が5年を超えていれば税率は20.315%なので、譲渡益が1,000万円の場合は約203万円です(1,000万円×20.315%=203.15万円。譲渡益はモデルケースの仮定値で、税率は制度値です)。控除が使える間に売れば、3,000万円までの譲渡益は課税の対象から外れます。
期限が今年に来る人は、市況にかかわらず今売るべき側です。引き渡しまでに3〜5か月かかることを考えると、売り出しは秋までに始める必要があります。
出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例
住み替え先が決まっていて金利が上がる前に組みたい
住み替え先がすでに決まっていて、住宅ローンを新しく組む人は、金利の動きが直接はね返ります。
日本銀行は2026年6月16日の金融政策決定会合で、金融市場調節方針を「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、1.0%程度で推移するよう促す」に変更することを決めました。従来は0.75%程度で、あわせて基準貸付利率も1.25%になっています。住宅ローンの変動金利は、多くの銀行が4月と10月に基準の金利を見直すとされ、6月の引き上げ分は10月の見直しを経て11月以降の適用になると見られています。実際の時期と幅は銀行ごとに違うので、借りる予定の銀行の公式の発表で確かめます。
金利が0.25%上がると、4,000万円を35年・元利均等で借りた場合の総返済額は約198万円増えます(金利年1.0%なら毎月112,914円・総額約4,742万円、年1.25%なら毎月117,635円・総額約4,941万円。借入額・期間・返済方法はモデルケースの仮定値で、金利も想定値です)。住み替え先が決まっている人にとって、売却を先延ばしにすることは、購入側の金利が上がるのを待つことと同じです。
売却と購入を同じ年のうちに終えるなら、売り出しは今です。売る側の値下がりと買う側の金利上昇は、両方とも待つほど悪くなる向きにあります。
出典: 日本銀行 金融市場調節方針の変更について(2026年6月16日)
マンションを今は売らないほうがよい人の条件
今は売らないほうがよい人にも、共通点があります。
売っても手元に残らない人と、数か月待つだけで税金や費用が大きく変わる人です。次の4つのどれかに当てはまるなら、売り出しの前に確かめる順番があります。
- 残債が売れる価格を上回り差額を用意できない
- 所有期間が5年を超えるまであと数か月ある
- 住み替え先が決まらず仮住まいが2回になる
- 住宅ローン控除の残りと3,000万円控除が食い合う
残債が売れる価格を上回り差額を用意できない
売れる価格が残債を下回っている状態を、オーバーローンと呼びます。この状態では、売却代金だけではローンの完済に届かず、抵当権を外すには差額の用意が要ります。
差額を自己資金で埋められるなら、売却は可能です。埋められないなら、今は売らないほうがよい側です。無理に売り出しても、決済の段階で止まります。
この場合の選択肢は3つです。残債が減るまで住み続ける、住み替えローンを検討する、金融機関と相談して任意売却を選ぶ。それぞれの中身はオーバーローンでも売却する方法の記事にまとめています。
まず確かめるのは、金融機関の残高証明と、同じ棟の直近成約価格の差です。査定額で比べると、実際より良く見えます。
所有期間が5年を超えるまであと数か月ある
マンションを売って利益が出たときの税率は、所有期間で大きく変わります。
| 所有期間(譲渡した年の1月1日時点) | 内訳 | 税率の合計 |
|---|---|---|
| 5年以下(短期譲渡所得) | 所得税30%+住民税9%+復興特別所得税 | 39.63% |
| 5年超(長期譲渡所得) | 所得税15%+住民税5%+復興特別所得税 | 20.315% |
判定は「譲渡した年の1月1日」です。たとえば2021年10月に買った人は、2026年1月1日時点では所有期間が4年ちょっとで、2026年中に売ると短期の扱いになります。2027年1月1日を過ぎれば5年超になり、税率は半分近くまで下がります。
譲渡益が500万円なら、短期で約198万円、長期で約102万円。約97万円の差です(500万円×39.63%=198.15万円、500万円×20.315%=101.575万円、差は96.575万円。譲渡益はモデルケースの仮定値で、税率は制度値です)。市況が数か月で大きく動くことは少ないので、この差のほうが大きい人は、年をまたぐまで待つ理由があります。
ただし、3,000万円の特別控除を使えて譲渡益が3,000万円以下なら、税率の差は消えます。控除が使える人は、この条件から外れます。
出典: 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)
住み替え先が決まらず仮住まいが2回になる
住み替え先が決まっていない段階で売ると、引き渡し後に仮住まいが必要になります。仮住まいの家賃と、引っ越し2回分の費用がかかります。
さらに、仮住まいの間に住み替え先を探すことになるので、時間に追われて妥協しやすくなります。住み替えの失敗でよく聞くのは、価格ではなく「急いで決めた次の家」への後悔です。
売却先行で進める場合でも、引き渡しの時期を数か月先に設定する、買い手と引き渡し猶予を交渉する、といった方法で仮住まいを避けられることがあります。ただし、住み替え先の候補すら決まっていない段階で売り出すのは、別の話になります。
まず住み替え先の条件(エリア・広さ・予算)を決め、事前審査を受けてから、売り出しに入る順番のほうが安全です。
住宅ローン控除の残りと3,000万円控除が食い合う
住み替えで新しい家にも住宅ローンを組む人は、税金の特例の選び方で結果が変わります。
国税庁は、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)について、入居した年・その前年・前々年に3,000万円の特別控除を受けた場合は、その適用対象から外れるとしています。さらに、入居した年の翌年から3年目までのいずれかの年に、住宅ローン控除の対象となる資産以外の資産を譲渡してこの特例を受ける場合も、同じく対象から外れます。譲渡益の税金を減らす特例と、新しいローンの税金を減らす特例は、この期間の中では二者択一になります。
住宅ローン控除は、年末の借入残高の0.7%を所得税などから差し引く制度です。控除期間は住宅の区分と居住年で変わり、既存住宅なら認定住宅とZEH水準省エネ住宅が13年、省エネ基準適合住宅も13年、それ以外の住宅は10年で、最長13年です。譲渡益が小さい人は、3,000万円控除を使わずに譲渡益の税金を払い、新しい家の住宅ローン控除を取るほうが手取りで上回ることがあります。逆に譲渡益が大きい人は、3,000万円控除を使うほうが上回ります。この比較は、両方の額を実際に計算して初めて分かります。
今の家の住宅ローン控除の残り年数が長い人も、住み替えるとその控除は今の家では終わります。控除の残りが大きい人は、売る前にこの比較を済ませておきます。詳しい計算は住宅ローン控除と買換え特例の併用の記事と、住み替えで住宅ローン控除を使う条件の記事にまとめています。
出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例
出典: 国土交通省 住宅ローン減税(令和8年度税制改正後)Q&A
今売るべきか迷ったときの確かめ方
迷いの原因は、情報の不足というより、売れる価格・手取り・住み替え先の予算が別々の紙にあることです。
1枚に並べれば、答えが出ます。順番は次の4つです。
- 同じ棟の直近成約から売れる価格の幅を出す
- 残高証明と諸費用から手取りを出す
- 住み替え先の予算を今の金利で組み直す
- 今と1年後を同じ表に並べて比べる
同じ棟の直近成約から売れる価格の幅を出す
最初に出すのは、売れる価格の幅です。査定額ではなく、成約事例から作ります。
仲介会社に、同じ棟の直近1年の成約事例と、同じ駅で似た広さ・似た築年の成約事例を出してもらいます。成約価格はレインズ(不動産流通機構の物件情報システム)に登録されていて、仲介会社なら見られます。
出してもらった事例から、上限・中央・下限の3つを置きます。2026年8月度の速報のように成約㎡単価が4か月続けて下がっている局面では、下限側を基準に考えます。上限は「運が良ければ」の額として別に置きます。
この幅を先に作ると、査定額がどの位置にあるかが分かります。査定額が上限より上にあるなら、その査定額は売れる価格とは別のものです。
出典: 東日本不動産流通機構 月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年8月度
残高証明と諸費用から手取りを出す
次に、手取りを出します。売れる価格の下限から、残債と諸費用を引きます。
| 引くもの | 目安 | 確かめる先 |
|---|---|---|
| ローンの残債 | 残高証明の額 | 金融機関 |
| 仲介手数料 | 売買代金×3%+6万円+消費税が上限 | 仲介会社 |
| 抵当権抹消などの登記費用 | 数万円 | 司法書士・仲介会社 |
| 印紙税 | 売買契約書の金額による | 国税庁 |
| 引っ越し費用 | 時期と距離による | 引っ越し会社 |
仲介手数料の上限は、宅地建物取引業法にもとづく告示で決まっています。告示は売買の媒介の報酬を、代金のうち200万円以下の部分は100分の5、200万円を超え400万円以下の部分は100分の4、400万円を超える部分は100分の3として、それぞれを合計した金額以内と定めています。400万円を超える売買代金でこの3段を足すと「売買代金×3%+6万円」になり、これに消費税を加えた額が上限です。上限なので、これより低い額で受ける会社もあります。
手取りが出たら、それが住み替え先の頭金として足りるかを見ます。足りなければ、売る時期ではなく、住み替え先の予算のほうを見直します。
出典: 国土交通省 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号)
住み替え先の予算を今の金利で組み直す
3つ目は、住み替え先の予算です。売却の手取りを頭金に入れた場合と、入れない場合の2通りで、金融機関の事前審査を受けます。
事前審査は、売却を始める前に受けられます。今の金利で借りられる額と毎月の返済額が分かるので、住み替え先の予算が現実の額になります。
日本銀行は2026年6月16日に政策金利にあたる無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導水準を1.0%程度へ引き上げています。変動金利の基準は多くの銀行が10月に見直すとされるため、事前審査の結果も9月と11月では変わる可能性があります。審査の有効期限(金融機関によって3か月〜6か月程度)も確かめておきます。
ここまでで、売れる価格の幅、手取り、住み替え先の予算の3つが揃います。
出典: 日本銀行 金融市場調節方針の変更について(2026年6月16日)
今と1年後を同じ表に並べて比べる
最後に、3つを1枚の表にして、今売った場合と1年待った場合を並べます。次の表の額は、すべて読者が自分で入れる値です。
| 項目 | 今売る | 1年待つ |
|---|---|---|
| 売れる価格(下限) | 円 | 円(向きが下向きなら今より低く置く) |
| ローンの残債 | 円 | 円(1年分の元金返済で減る) |
| 諸費用 | 円 | 円 |
| 手取り | 円 | 円 |
| 待つ間の費用(管理費・修繕積立金・利息・固定資産税) | 0円 | 円 |
| 税金の期限(3,000万円控除・5年超) | 使える/使えない | 使える/使えない |
| 住み替え先の金利 | % | %(改定後の見込み) |
この表を埋めると、「今売るべきか」の答えが自分の額で出ます。仲介会社の「今が売り時です」にも、「もう少し待ちましょう」にも、この表で答えられます。
埋められない欄があるなら、そこが迷いの原因です。その欄を確かめる先は、この章の前の3つの見出しに書いたとおりです。
今売ると決めたあとの落とし穴
今売ると決めたあとの失敗は、価格の付け方と、税金の特例の選び方に集中します。
4つに絞って先に書きます。
- 査定額をそのまま売り出し価格にしてしまう
- 売却先行か購入先行かを決めずに動き出す
- 3,000万円控除を使って住宅ローン控除を失う
- 損が出たときの譲渡損失の特例を使わずに終える
査定額をそのまま売り出し価格にしてしまう
いちばん多い失敗は、いちばん高い査定額を出した会社に任せて、その額で売り出すことです。
査定額は、媒介契約を結びたい会社の提案でもあります。高い査定額を出せば任せてもらえるので、高くなりやすい構造があります。2026年8月度の首都圏の速報では、新規登録価格が6,751万円なのに対し、成約価格は5,129万円でした。査定額をそのまま売り出し価格にすると、成約できる価格帯の外側に自分の物件を置くことになります。
売り出し価格は、前の章で作った「売れる価格の幅」から決めます。査定額は、その幅のどこにあるかを見るための参考にとどめます。
任せる会社と、売り出し価格は別々に決める
高い査定額を出した会社に任せること自体は、判断としてあり得ます。問題は、その額で売り出すことです。任せる会社は提案の中身と対応で選び、売り出し価格は成約事例から自分で決めます。この2つを分けるだけで、いちばん多い失敗を避けられます。
出典: 東日本不動産流通機構 月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年8月度
売却先行か購入先行かを決めずに動き出す
住み替えには、先に売る「売却先行」と、先に買う「購入先行」があります。どちらにするかを決めずに動き出すと、途中で身動きが取れなくなります。
| 進め方 | 利点 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 売却先行 | 手取りが確定してから住み替え先を決められる | 引き渡しまでに住み替え先が決まらないと仮住まいになる |
| 購入先行 | 仮住まいがいらず、じっくり探せる | 売れるまで二重ローンになる。売却価格を下げやすい |
購入先行で進める場合、「今の家が売れなければ購入契約を白紙にできる」という買い替え特約を付ける方法があります。ただし売主側から見ると契約が流れる可能性があるため、特約付きの申し込みは敬遠されることがあります。人気の物件ほど、その傾向があります。
2026年のように在庫が増えている局面では、売却先行のほうが安全です。売れる時期が読みにくいときに購入先行で動くと、二重ローンの期間が長くなります。
3,000万円控除を使って住宅ローン控除を失う
税金の特例で、いちばん見落とされるのが、3,000万円の特別控除と住宅ローン控除の関係です。
3,000万円の特別控除を使うと、住宅ローン控除が使える期間に穴が空きます。新しい家に入居した年・その前年・前々年にこの特別控除を受けた場合は住宅ローン控除の対象から外れ、入居した年の翌年から3年目までのいずれかの年に、住宅ローン控除の対象となる資産以外の資産を譲渡してこの特例を受ける場合も同じです。住宅ローン控除は、年末の借入残高の0.7%を所得税などから差し引く制度で、控除期間は最長13年です。たとえば3,000万円を35年・元利均等・金利年1.0%で借りたと仮定すると、初年度の年末残高は約2,928万円で控除額は約20万円、13年の合計は約225万円になります(借入額・期間・返済方法・金利はいずれもモデルケースの仮定値です。実際に引ける額は、その年の所得税と住民税の範囲内にとどまります)。
譲渡益が300万円の人が3,000万円控除を使った場合に減る税金は、約61万円です(300万円×20.315%=60.945万円。譲渡益は仮定値)。この人が控除を使うと、225万円規模の住宅ローン控除を手放すことになります。この場合は、譲渡益の税金を払って住宅ローン控除を取るほうが手取りで上回ります。
逆に譲渡益が2,000万円なら、控除で減る税金は約406万円で(2,000万円×20.315%=406.3万円)、3,000万円控除を使うほうが上回ります。どちらが得かは、譲渡益の大きさで変わります。売る前に、両方の額を出して比べます。
出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例
出典: 国土交通省 住宅ローン減税(令和8年度税制改正後)Q&A
損が出たときの譲渡損失の特例を使わずに終える
買った価格より安く売ることになった方には、損を取り戻す特例があります。知らずに終える人が多いので、最後に書きます。
マイホーム(旧居宅)を令和9年12月31日までに譲渡して新しいマイホームを購入し、旧居宅の譲渡による損失が生じたときは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失を給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)できます。控除しきれなかった分は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除できます。主な要件は、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていること、新居宅の床面積が50平方メートル以上であること、新居宅を取得した年の12月31日において償還期間10年以上の住宅ローンがあることです。合計所得金額が3,000万円を超える年は、その年だけ繰越控除の対象から外れます。
この特例は、住宅ローン控除と併用できます。国税庁のページにも、次のように書かれています。
この特例と住宅借入金等特別控除制度は併用できます。
たとえば譲渡損失が800万円で、給与所得が600万円の人なら、その年の給与所得600万円が損益通算で0円まで下がり、残りの200万円は翌年以後に繰り越せます(譲渡損失と給与所得の額はモデルケースの仮定値で、実際の還付額は源泉徴収された税額や他の所得控除で変わります)。損が出たときこそ、確定申告で取り戻せる額が大きくなります。売却で損が出た人は、確定申告を忘れずに行います。
出典: 国税庁 No.3370 マイホームを買い換えた場合に、譲渡損失が生じたとき
まとめ:今売るべきかは市況ではなく自分の3本の線で決まる
いちばん重い答えは、「上がるか下がるか」ではなく「3,000万円の特別控除の期限が今年で切れるかどうか」です。以前に住んでいた家を売る場合、この控除は住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までが期限で、過ぎた後は譲渡益に20.315%(所有5年超の場合)がそのままかかります。市況の上下より、この1本のほうが金額としては大きく動きます。
次の一歩は、金融機関から残高証明を取り、仲介会社に同じ棟の直近1年の成約事例を出してもらって、売れる価格の下限から残債と諸費用を引いた手取りを1枚に書き出すことです。この一歩を飛ばして査定額だけで判断すると、売り出してから成約価格との差に気づき、値下げを重ねた末に手取りが住み替え先の頭金に届かないまま決済日を迎えます。
そのうえで、自分の所有期間が譲渡した年の1月1日で5年を超えるか、住み替え先のローンを今の金利で組めるかを、今月のうちに確かめてみましょう。住み替えのトビラでは、今売るべきかを分ける3本の線と税金の期限の確かめ方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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