親のマンションは今いくら?親とどう話す?売る時期で手取りが数百万円変わる

親のマンションは今いくら?親とどう話す?売る時期で手取りが数百万円変わる

同じ親のマンションを同じ値段で売っても、親が住んでいるうちに売るか相続してから売るかで、手取りが数百万円変わることがあります。

しかも親が認知症になると、家を売るには家庭裁判所の手続きが要り、時間も費用もかかります。

この記事では、親に知られずに相場を調べる方法から、角が立たない切り出し方、話し合いで聞く4つのことまでを、ある家族を例に解説します。

親のマンションは今いくら?上昇が一服した今、子どもが親に知られずに相場を調べる方法

親のマンションが今いくらくらいで売れるかは、親に聞かなくても、子どもがネットで調べられます。

この章では、首都圏の相場の動きを紹介したあと、親の部屋が売れそうな値段を幅で出す手順を説明します。この記事では、次の家族を例に話を進めます。

この記事で例にする家族

48歳の会社員Aさんは、家族4人で住む自宅マンションの住み替えを考えています。

Aさんの78歳の母は、1991年に夫と新築で買った首都圏郊外のマンション(約70㎡)に一人で住んでいます。

Aさんの父は、2019年に亡くなりました。

首都圏の中古マンションは6年続いた上昇が一服。古い物件ほど値段の差が開く

首都圏の中古マンションの値上がりは、2026年に入って約6年ぶりに止まりました。

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の調べによると、2026年5月に売れた部屋の値段は、1㎡あたりの平均で前の年の同じ月を下回りました。前の年を下回ったのは、73か月ぶりです。

7月に売れた部屋の平均も1㎡あたり84.17万円で、前の年の同じ月より1.5%低くなりました。下げ幅は小さいものの、値上がりが続いた時期はいったん終わったといえます。

親のマンションが地方にあるなら、首都圏と違う値動きをしていることもあります。

これから先は、古いマンションが一気に増えます。国土交通省によると、築40年を超えるマンションは2024年末で約148万戸ありました。10年後には、約2倍の約293万戸になる見込みです。

古いマンションが増えれば、買う人は多くの物件から選べるようになります。そのため同じ築年数でも、選ばれる物件と売れ残る物件の値段の差は、開いていくと考えられます。

出典: 東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年5月度」

出典: 東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年7月度」

出典: 国土交通省「マンションを巡る『2つの老い』の進行」(マンション総合対策の資料)

同じマンションの成約事例から、親の部屋が売れそうな値段の幅を出す

親の部屋の値段は、近所で実際に売れた部屋の「成約価格」から、おおよその幅で見積もれます。

成約価格とは、実際に売り買いが決まった値段のことです。ネットの広告に出ている「売り出し価格」は、売る人の希望の値段です。実際の取引では、それより下がって決まることがよくあります。

成約価格は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で、登録なしに無料で調べられます。調べる手順は次のとおりです。

  1. 「不動産情報ライブラリ」で検索し、サイトを開く
  2. 地図で親のマンションのあたりを表示する
  3. 価格の情報を表示し、種類を「中古マンション等」にしぼる
  4. 期間をここ1〜2年にする
  5. 築年数・広さ・駅からの距離が親の部屋に近い事例を5〜10件選ぶ

同じマンションの事例があれば、それが一番の手がかりになります。ライブラリには建物の名前が出ないので、建てられた年と駅からの距離が親のマンションと同じ事例を探しましょう。

選んだ事例の1㎡あたりの値段に親の部屋の広さをかけると、値段の幅が出ます。

Aさんの場合(例)

近所の築30〜40年の成約事例は、1㎡あたり38万〜46万円でした。

母の部屋は約70㎡なので、38万円×70㎡で2,660万円、46万円×70㎡で3,220万円です。

Aさんは、母のマンションの相場を「約2,700万〜3,200万円」と見積もりました。

自分の親の部屋なら「選んだ事例の1㎡あたりの値段×親の部屋の広さ」で計算できます。

不動産のポータルサイトでマンション名を検索すると、同じ建物で売り出し中の部屋が見つかることもあります。その部屋の値段は売り出し価格なので、幅の上限に近い目安として使うとよいでしょう。

出典: 国土交通省「不動産情報ライブラリ」

同じ築年数でも値段に差がつく|管理・修繕積立金・耐震の見方

築年数が同じでも、古いマンションの値段は、次の3つで差がつきます。

  • 管理の状態
  • 修繕積立金
  • 耐震の基準

親の部屋と成約事例の部屋でこの3つを比べると、親の部屋の値段が幅の中で高めになるか、低めになるかの見当がつきます。

管理の状態は、親のマンションの廊下やゴミ置き場を見るとわかります。きれいに保たれていれば、住人でつくる管理組合がきちんと動いていると考えられます。

自治体には、管理の良いマンションを認める「管理計画認定」という制度があります。認定を受けたマンションなら、買う人は住宅ローンのフラット35の金利を当初5年間、年0.25%下げてもらえます。そのぶん、売るときに買い手が見つかりやすくなります。

修繕積立金は、将来の大きな修理に備えて、住人が毎月積み立てるお金です。積立金が足りず、近く値上げや一時金の予定があるマンションでは、買う人は値下げを求めがちです。

耐震の基準では、古い基準で建てられたマンションが安くなりがちです。1981年12月31日以前に建てられた部屋を買う人は、住宅ローン減税を使うのに、耐震基準に合うことの証明などが要ります。手間が増えるぶん、買い手が限られるためです。

毎月の負担の差は、値段の差に変わる(例)

買う人は、ローンの返済に加えて、管理費と修繕積立金も毎月払い続けます。

毎月払える額が決まっている人なら、管理費と修繕積立金が月2万円高いぶん、ローンの返済に回せるお金が減ります。

金利1%・35年返済(元利均等)と仮定すると、借りられる額は約700万円少なくなります。

そのため売る人は、毎月の負担が重い部屋ほど、値段を下げて売ることになります。

親のマンションの管理費と修繕積立金が近所の事例より高いなら、親の部屋の値段は低めに見積もっておくと安心です。

出典: 青森市 管理計画認定制度の案内資料(住宅金融支援機構の金利引下げ等・2026年4月)

出典: 国税庁「No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」

正確な値段は匿名査定から|親の同意が必要になるのはどこからか

もっと正確な値段を知りたいときは、名前や電話番号を出さずに使える「匿名査定」から始めるとよいでしょう。

査定とは、不動産会社が「いくらで売れそうか」を見積もることです。値段の調べ方と、それぞれで親の同意が要るかを並べると、次の表のようになります。

調べ方・手続き親の同意わかること
不動産情報ライブラリ不要近所で実際に売れた値段
匿名査定不要不動産会社が出す目安の額
訪問査定必要部屋の状態も含めた査定額
売るための契約親本人が結ぶ―

匿名査定では、マンション名や広さを入れるだけで、目安の額がわかります。連絡先を伝えずに使えるので、営業の電話を気にせずに済みます。

部屋の中まで見てもらう訪問査定は、親の同意を得てから頼むことになります。実際に売るための契約は、名義人(登記上の持ち主)である親本人が結びます。

査定額は、「この値段で売れる」という約束とは違います。売る手続きを任せてもらうために、高めの査定額を出す不動産会社もあります。査定を頼んだ会社には、どの成約事例をもとにした額かを聞いておくと安心です。

早く売りたいときは、不動産会社に直接買い取ってもらう「買取」という方法もあります。買取の値段は、買い手を探して売る場合より低くなるのがふつうです。その代わり、内覧に来る人の対応が要らないため、高齢の親の負担を軽くできます。

値上がりしていれば、売る時期で手取りは数百万円変わる|親が住んでいるうちか、相続してからか

親のマンションが買ったときより値上がりしていれば、誰がいつ売るかで、手取りは数百万円変わります。

手取りに差がつくのは、自宅を売った人だけが使える税金の優遇があるためです。この章では、まず今の相場を親が買った値段と比べ、そのあとで売る時期ごとの手取りを計算します。

まず今の相場を、親が買った値段と比べる|バブル期に買った親と2000年代に買った親で明暗

親が買った値段より高く売れて「もうけ」が出る家では、売ったときに税金がかかります。

もうけは、売れた値段から「買った値段」と「売るときの費用」を引いて計算します。ただし建物は古くなるほど価値が減ったとみなされるため、買った値段からは建物の目減り分を引きます。こうして出した額を「取得費」といいます。

例えばAさんの母は、値段が高かったバブル期の1991年に新築で買いました。もう一人の例として、Bさんの父は、値段が落ち着いていた2003年に、東京23区で中古を買いました。

2人のマンションを今売った場合のもうけを計算すると、次の表のようになります。

Aさんの母Bさんの父
買った年1991年(新築・首都圏郊外)2003年(中古・東京23区)
買った値段5,800万円2,500万円
目減り分を引いた取得費(概算)約4,430万円約2,030万円
今売れそうな値段約3,000万円約5,000万円
売るときの費用約107万円約175万円
もうけ約1,540万円の損約2,790万円

モデルケースの計算のしかた(数字はすべて仮定)

土地と建物の内訳は、Aさんの母が半分ずつ(各2,900万円)、Bさんの父が土地1,000万円・建物1,500万円と仮定しています。

手順1 建物の目減り分=建物の値段×0.9×0.015×持っていた年数(Aさんの母は35年で約1,370万円、Bさんの父は23年で約466万円)

手順2 取得費=買った値段-建物の目減り分

手順3 もうけ=今売れそうな値段-取得費-売るときの費用

0.015は、事業に使っていない鉄筋コンクリート造の建物に国税庁が定める償却率です。

自分の親の家で計算するときは、売買契約書の土地と建物の値段と、査定額を手順1〜3に入れます。実際の税額は、税務署や税理士に確かめましょう。

Aさんの母のように損が出る家では、売ったときの税金は0円です。税金の面では、売る時期をゆっくり考えられます。

ただし、親が家を買ったときの契約書をなくしていると、損が出る家でも税金がかかることがあります。

一方、Bさんの父のように大きなもうけが出る家では、売る時期によって税金が大きく変わります。

出典: 国税庁「No.3252 取得費となるもの」

出典: 国税庁「No.3261 建物の取得費の計算」

値上がりしている場合の比較|親が住んでいるうちに売った場合と、相続後に売った場合の手取り

同じ5,000万円で売れても、父が住んでいるうちに父が売るか、相続してからBさんが売るかで、手取りは約570万円変わります。

Bさんの父のマンションを2つの時期に売った場合、手取りは次の表のようになります。

父が住んでいるうちに父が売る相続してからBさんが売る
売れた値段5,000万円5,000万円
売るときの費用約175万円約175万円
もうけ約2,790万円約2,790万円
自宅の3,000万円控除使える対象外
税金0円約567万円
手取り約4,825万円約4,258万円

※ローンは残っていないものとして計算しています。相続後の税金は、5年を超えて持っていた不動産の税率20.315%(所得税15%・住民税5%・復興特別所得税)で、約2,790万円×20.315%として計算しています。相続税を払った家族は、払った相続税の一部を取得費に足せるため、税金が少し減ります。

約570万円の差は、「自宅を売ったときの3,000万円控除」を使えるかで決まります。この控除を使えるのは、自分が住んでいた家を売った人です。そのマンションに住んでいないBさんは、相続してから売っても控除の対象外です。

つまり値上がりしている家では、親が住んでいるうちに親自身が売ると、手元に多くのお金を残せます。

出典: 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」

出典: 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」

差がつく理由は自宅の3,000万円控除|使えるのは「住まなくなって3年がたつ年の年末」まで

自宅の3,000万円控除は、親が住まなくなってから3年がたつ日を含む年の12月31日までに売れば使えます。

この控除を使うと、自宅を売ったときのもうけから、最大3,000万円を差し引けます。

10年を超えて持っていた家なら、残ったもうけにかかる税率も下がります。もうけのうち6,000万円以下の部分は、税率が20.315%から14.21%になります。

この控除の期限は、親が施設に入るなどして、家に住まなくなった日から数えます。例えば親が2026年11月に施設に入った場合、期限は次の表のようになります。

時期起きること
2026年11月親が施設に入り、マンションに住まなくなる
2029年12月31日まで売れば、3,000万円控除が使える
2030年1月1日以降控除の対象外になる

親子や夫婦の間での売り買いも、この控除の対象外です。子どもが親の家を買い取る場合も、親のもうけにはそのまま税金がかかります。

売る契約を結ぶのは、名義人である親本人です。期限内であっても、親が契約を結べるのは、自分で判断できるうちに限られます。

出典: 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」

出典: 国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」

相続した空き家の3,000万円控除は、マンションが対象外

マンションを相続した人は、「相続した空き家の3,000万円控除」の対象外です。

この控除の対象は、1981年5月31日以前に建てられた一戸建てなどに限られます。区分所有の登記がされたマンションは、どれだけ古くても対象から外れます。

「相続した実家にも3,000万円の特例がある」と聞いて、マンションにも使えると考える人もいるでしょう。一戸建ての実家と同じつもりで相続後に売ると、思わぬ税金がかかります。

相続したマンションを売るときに使える特例には、「取得費加算の特例」があります。相続税を払った人が、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売れば、払った相続税の一部を取得費に足せます。取得費が増えるぶん、税金のかかるもうけが減ります。

ただし、相続税がかかるのは、亡くなった親の財産が「3,000万円+600万円×相続人の数」を超える家族です。財産がこの額以下の家族は相続税が0円なので、この特例も対象外です。

そのため、親のマンションを売るときに大きな税金の優遇を受けられるのは、ほとんどの場合、親自身が売るときです。その期限は、親が住まなくなって3年がたつ年の年末までです。

出典: 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

出典: 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

出典: 国税庁「No.4152 相続税の計算」

購入時の契約書がないと税金が増える|手数料・ローンの残りも引いて手取りを出す

親が購入したときの売買契約書がないと、取得費は「売れた値段の5%」として計算され、税金が増えます。

取得費のもとになる「買った値段」を証明する書類が、売買契約書だからです。証明できないと、本当は損が出ている家でも、大きなもうけが出たものとして税金が計算されます。

契約書がない場合の計算(Aさんの母・数字は仮定)

3,000万円で売れた場合、取得費は3,000万円×5%で150万円とされます。

売るときの費用(約107万円)も引くと、もうけは3,000万円-150万円-107万円で約2,740万円になります。

母が住んでいるうちに母が売れば、3,000万円控除で税金は0円です。

相続してからAさんが売ると、約2,740万円×20.315%で約557万円の税金がかかります。

値下がりした家でも、契約書1枚の有無で、税金が数百万円変わることがあります。

契約書が見つからないときは、当時の通帳の記録やローンの書類を持って、税務署や税理士に相談するとよいでしょう。これらの書類で、買った値段を示せることがあります。

親の家を売ったときの手取りは、次の式で計算します。ローンが残っていれば、売ったお金から先に返します。

手取り=売れた値段-売るときの費用-ローンの残り-税金

売るときの費用の目安は、次の表のとおりです。

売るときの費用目安補足
仲介手数料上限は「売値×3%+6万円」+消費税(売値が400万円を超える場合)3,000万円なら約106万円、5,000万円なら約172万円
印紙税1万円(1,000万円超〜5,000万円以下の契約・2027年3月31日までに作る契約書の軽減後)売買契約書に貼る
抵当権を消す登記数千円+司法書士への報酬ローンが残っている場合や、消し忘れている場合
引っ越し・片付け数十万円〜荷物が多いほど増える

このうち引っ越しや片付けの費用は、荷物の量で大きく変わります。親の家の荷物を見てもらい、引っ越し会社や片付けの業者から早めに見積もりを取っておくと安心です。

出典: 国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」

出典: 国税庁「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」

出典: 国土交通省「宅地建物取引業法関係(報酬に関する告示など)」

話さないまま親が認知症になると、家を売るには家庭裁判所の手続きが要る

親が認知症で判断できなくなったあとに家を売るには、家族が家庭裁判所で成年後見の手続きをすることになります。

成年後見とは、判断する力が落ちた人に代わって財産を管理する人を、家庭裁判所が選ぶ制度です。親の判断する力は、税金の期限と違って、ある日突然落ちることもあります。

判断する力が落ちた親の売買契約は無効|成年後見を使っても家庭裁判所の許可と時間が要る

認知症が進み、判断できない状態の親が結んだ売買契約は、法律上無効になります。

家を売る契約を結ぶには、売る人が「何を、いくらで売るのか」を理解している必要があるからです。

不動産会社や司法書士は、契約や引き渡しのときに、売る人本人の意思を確かめます。子どもが代わりにハンコを押しても、親の意思が確かめられなければ手続きは止まります。委任状も、親が判断できるうちに書いたものに限って使えます。

親が判断できない状態になったら、家族が家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」を選んでもらうことになります。

後見人が親に代わって売りますが、親の住まいを売るには家庭裁判所の許可も要ります。申し立ての書類を集め始めてから許可が出るまで、数か月かかることもあります。

後見人には、弁護士や司法書士など家族以外の専門家もよく選ばれます。専門家が後見人になると、報酬がかかります。家庭裁判所の目安では、後見人が管理する財産が1,000万〜5,000万円なら、報酬は月3万〜4万円です。

後見は家を売ったあとも続くため、報酬は原則として親が亡くなるまでかかり続けます。

後見の費用の例(仮定)

月3万円の報酬が10年続くと、3万円×12か月×10年で360万円になります。

親が元気なうちに話して備えておけば、この手続きと費用をかけずに済む場合があります。

出典: e-Gov法令検索「民法」(第3条の2・第859条の3)

出典: 横浜家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」

実家のことを親と話したことがない人は7割超|元気なうちにできる備え

実家の処分について親と話したことがない人は、7割を超えています。

これは、マンションの買取を手がける「すむたす」が2025年に行った調査の結果です。実家の売却に関わる会社の調査なので、少し割り引いて見る必要はあります。それでも、実家の話を先送りにしている家族が多いことはうかがえます。

一方で、認知症は身近な病気です。厚生労働省の研究班の推計では、2022年時点で65歳以上の約8人に1人が認知症でした。認知症の手前の「軽度認知障害」を合わせると、約3.6人に1人になります。

親が元気なうちなら、次のような備えができます。

備え内容
委任状売る手続きを子どもに任せる
任意後見契約将来の後見人を親自身が選んでおく
家族信託家の管理や売る権限を、契約で子どもに移しておく

委任状は、親が自分で書いて作れます。任意後見契約は、公証役場で公正証書にして結びます。家族信託は、手続きを専門家に頼むため費用がかかります。

どの備えも、親が自分で判断できるうちに用意しておく必要があります。だからこそ、まず親と話を始めることが一番の備えになります。

出典: すむたす「実家の処分に関する親子間の意識調査」(2025年7月・リセマム掲載のプレスリリース)

出典: 厚生労働省「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(研究班の報告資料)

角が立たない切り出し方|「売ったら?」は禁句、最初の一言は「自分の住み替え」から

親との話は、自分の住み替えの話から入り、親の希望を聞く形で進めると、角が立ちにくくなります。

親にとって家は、財産である前に、長く暮らしてきた場所です。話す順番と言い方を工夫すると、親の受け止め方が変わります。

親に話す前に、兄弟姉妹で考えを合わせておく

兄弟姉妹がいるなら、親に話す前に、話す目的や代表になる人を兄弟姉妹で決めておきましょう。

兄弟姉妹の誰かが一人で先に動くと、ほかの兄弟姉妹から「財産目当てでは」と疑われやすくなります。親にとっても、子どもの意見がばらばらだと決めにくくなります。

よくある流れ

弟が一人で、母に「この家、どうするの」と聞きました。

それを後から知った姉は、「勝手に話を進めないで」と怒りました。

母は「子どもたちが家のことで揉めている」と不安になり、家の話を避けるようになりました。

兄弟姉妹で前もって決めておきたいのは、次の3つです。

決めること内容
話す目的親のこれからの暮らしを考えるため
話す人親が一番話しやすい人を代表にする
伝え方話した内容を、兄弟姉妹のグループなどで全員に伝える

話す人を1人に決めておけば、親は同じことを何人もの子どもから聞かれずに済みます。話した内容を全員に伝えておくと、ほかの兄弟姉妹も同じ情報をもとに考えられます。

兄弟姉妹の仲があまり良くない場合も、「これから母と話してみる」と一言伝えておくと、後のもめごとを防ぎやすくなります。

最初の一言は「自分の家の住み替えを考えていて」が自然

親の家の話は、自分の住み替えの話から切り出すと、自然に始められます。

いきなり親の家の話をすると、親は「財産を探られている」と身構えがちです。子ども自身の住み替えの話なら、親は聞き役として気楽に加われます。

「近くに住むならどこがいいか」「部屋数はどうするか」と相談するうちに、話は親のこれからの暮らしに自然と移っていきます。

Aさんは、お正月に帰省したとき、こんなふうに切り出しました。

Aさんの切り出し方

Aさん「実はうちのマンション、住み替えようかと思っていて」

母「あら、どこに引っ越すの?」

Aさん「これから考えるところ。お母さんの近くもいいかなと思ってる。お母さんは、この先もここに住みたい?」

このように自分の話を先にして、親の希望は最後に一つだけ聞くと、親も答えやすくなります。

自分に住み替えの予定がなければ、お盆やお正月の帰省、親の体調の変化をきっかけにするとよいでしょう。親が「階段がきつくなった」と口にしたときや、親のマンションで別の部屋が売りに出たときも、話を切り出しやすい場面です。

言い換え例|親が身構える言い方と、話が進む言い方

親に話すときは、「決めるのは親」という姿勢を最後まで保つことが大切です。

子どもが結論を言うと、親は守りに入ります。親に聞く形にすると、親は自分で考え始めます。言い換えの例は、次の表のとおりです。

親が身構える言い方話が進む言い方理由
「この家、売ったら?」「これから、どこでどう暮らしたい?」結論を押しつけず、親に決めてもらう
「一人じゃ危ないよ」「最近、買い物や階段で困っていることはある?」「危ない」と決めつけず、困りごとから聞く
「認知症になったら売れなくなるよ」「元気なうちに、お母さんの希望を聞いておきたい」病気の話から、希望を大事にする話に変える
「相続で揉めたくないから」「きょうだいで、お母さんの考えを共有しておきたい」親が元気な今の話にする
「この家、いくらで売れるか調べたよ」(希望を聞いた後で)「近所だと、このくらいで売れているみたい」値段は話の後半に、参考として出す

話が進む言い方では、子どもは家のことより、親の暮らしや希望を聞いています。親がどこでどう暮らしたいかが決まれば、家をどうするかの答えも自然に出てきます。

「認知症になったら」「相続のときに」は事実でも、親には「早くいなくなってほしいのか」と聞こえることがあります。病気や死を前提にした言い方は避け、親の希望を聞く言い方に置き換えましょう。

よくある失敗|相場の紙を最初に見せる、1回で決めようとする

親との話し合いでよくある失敗は、次の3つです。

  • 相場の紙を最初に見せる
  • 1回で決めようとする
  • 親の答えを否定する

子どもとしては、調べた相場を早く見せたくなります。ところが親は、最初に値段を見せられると「もう売る前提で話している」と受け取ります。値段は、親の希望を聞いた後に出すとよいでしょう。

親にとっては、何十年も住んだ家をどうするかという話です。答えが出るまで時間がかかるのは当たり前なので、1回目は「考えておいてね」で終え、次に話す日を決めておきましょう。

「ずっとここに住みたい」と言われても、「でも」と返さずに受け止めると、親も話を続けやすくなります。住み続けたいという気持ちも、親が出した大事な答えです。

そのうえで「住み続けるためにも、名義や書類だけは確かめておこう」と持ちかけると、親も受け入れやすくなります。

話し合いで聞く4つのことと、確かめておく書類

親との話し合いでは、次の4つを聞いておくと、売るときも相続のときも慌てずに済みます。

  • これからの住まいの希望と時期
  • 名義
  • ローン・抵当権
  • 書類のありか

このうち名義と抵当権の有無は、親に聞く前に、子どもが法務局で調べることもできます。

これからの住まいの希望と、その時期

最初の話し合いでは、親がこれからどこでどう暮らしたいかを聞きましょう。

例えば次の4つから選んでもらうと、親も答えやすくなります。

  • このまま今の家に住み続ける
  • 施設や高齢者向けの住宅に移る
  • 子どもの近くに引っ越す
  • 家を売ってお金にしておく

あわせて、住まいを変えるならいつ頃かも聞いておくとよいでしょう。値上がりしているマンションなら、住まいを変える時期が「住まなくなって3年がたつ年の年末」という税金の期限に関わります。

「今は住み続けたい」という答えでも十分です。「もし一人で暮らすのが難しくなったら、どうしたい?」と仮の話として聞いておくと、いざというときに家族が迷わずに済みます。

この段階では選択肢の損得を比べるより、親の気持ちを聞くことに集中しましょう。聞いた内容はメモに残し、兄弟姉妹とも共有しておくと安心です。

マンションの名義を確かめる|亡くなった親の名義なら、相続登記は2027年3月末が期限

父か母がすでに亡くなっている家では、法務局で「登記事項証明書」を取り、マンションの名義を確かめましょう。

名義が亡くなった親のままなら、売る前に、名義を書き換える「相続登記」を済ませる必要があります。

登記事項証明書は、法務局の窓口やオンラインで誰でも数百円で取れます。親に聞く前に、子どもが自分で確かめられます。

相続登記は、2024年4月1日から義務になりました。相続で家を受け継いだと知った日から、3年以内に登記する必要があります。2024年4月1日より前の相続も、2027年3月31日が期限です。

相続登記をせずに正当な理由なく放っておくと、10万円以下の過料(罰として払うお金)の対象になります。

Aさんの場合

Aさんの実家のマンションも、2019年に亡くなった父の名義のままでした。

期限の2027年3月31日まで、残りは半年を切っています。

母に名義を移せば、母が住んでいるうちに母自身が売れるようになります。

母が売れば、3,000万円控除も使えます。

祖父母の代から相続登記をしていない家では、手続きに関わる親族が増え、時間がかかります。両親の共有名義のマンションなら、売るときには持ち主全員の同意が要ります。

出典: 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」

ローンの残りと抵当権を確かめる

マンションに「抵当権」が残っているかは、名義と同じ登記事項証明書で確かめられます。

抵当権とは、ローンを返せなくなったときに、銀行が家を売ってお金を取り戻せる権利のことです。ローンが残っている家を売るときは、売ったお金で残りを返し、抵当権を消してから引き渡します。

ローンが残っている額によって手取りが変わるので、その額も親に聞いておきましょう。

抵当権で見落としやすいのは、ローンを返し終えたのに抵当権が残っているケースです。抵当権は、ローンを返し終えたあとも、消す手続きをするまで登記に残ります。抵当権を消す手続きには、ローンを返し終えたときに銀行から届いた書類を使います。

その書類のありかも、親に聞いておきたい点です。書類をなくしていると、銀行から取り寄せることになります。銀行が合併して名前が変わっていることもあり、取り寄せには時間がかかります。

手元にあるか確かめる書類|購入時の契約書・権利証・固定資産税の通知・管理の資料

売るときや相続のときに要る書類は、親に「どこにしまってあるか」を聞いておけば十分です。

書類使い道見つからないときの対応
権利証(登記済証)または登記識別情報売るときに、名義人本人だと示す司法書士による本人確認などで代えられる(別に費用がかかる)
購入時の売買契約書・領収書買った値段(取得費)を証明する取得費が売値の5%とされ、税金が増える
固定資産税の納税通知書税額や評価額を確かめる。相続登記の費用の計算にも使う市区町村で評価額の証明書を取る
管理規約・長期修繕計画・総会の資料管理の状態や修繕積立金を確かめる管理会社から取り寄せる(有料のこともある)
ローンを返し終えたときに銀行から届いた書類残っている抵当権を消す銀行に再発行を頼む

書類のなかで特に大切なのは、購入時の売買契約書です。契約書がないと、値下がりした家でも、相続後に売ると数百万円の税金がかかることがあります。

古い書類は、引っ越しや片付けのときに捨てられがちです。親が自分で探すのが大変そうなら、「今度一緒に整理しよう」と声をかけると、次に会うきっかけにもなります。

まとめ:親のマンションの値段は子どもが調べられる。話は自分の住み替えから切り出し、親の希望を先に聞く

いちばん重いのは、値上がりした親のマンションを相続してから売ると、自宅の3,000万円控除が使えず、手取りが数百万円減ることです。親が住んでいるうちか、住まなくなって3年がたつ年の年末までに親自身が売れば、この控除を使えます。

次の一歩は、自分の住み替えの話をきっかけに、親がこれからどこでどう暮らしたいかを聞くことです。この話を後回しにしているうちに親の判断する力が落ちると、家を売るには成年後見の手続きが要り、税金の期限にも間に合わなくなるおそれがあります。

あわせて、法務局で登記事項証明書を取り、マンションの名義と抵当権を確かめておくと安心です。住み替えのトビラでは、親のマンションの相場の調べ方と親との話し方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。