「買取なら仲介手数料がゼロ」。この一言で、買取に傾く人は多いはずです。3,000万円のマンションなら、仲介手数料の上限は105.6万円。それが消えるなら得に見えます。
先に答えを書きます。買取で仲介手数料がかからないのは事実で、理由は業者が自ら買主になるため報酬を受ける根拠が法律上ないからです。ただし、業者の取り分は買取価格の差に入っていて、その下げ幅は手数料の数倍です。手取りで買取が勝つのは、買取価格が仲介の成約見込みの96.5%を超えるときだけで、業界の目安(相場の7〜8割)はその線のはるか下です。「手数料なし」で本当に得をするのは、直接買取と仲介会社経由の買取を比べたときです。
この記事では、手数料がかからない理由、買取でも手数料がかかる例外、買取でも残る費用、仲介との手取りの比較、そして自分の物件で比べる手順を順に見ていきます。
マンション買取で仲介手数料がかからない理由
買取で仲介手数料がかからないのは事実です。ただし、それは業者が「無料にしてくれている」からではなく、請求する根拠が法律上ないからです。業者の取り分は、手数料の代わりに買取価格の差に入っています。
- 仲介手数料は媒介と代理の報酬で買取には根拠がない
- 買取業者の利益は手数料ではなく買取価格の差に入っている
- 仲介手数料の上限は売買価格の3.3%に6.6万円を足した額
仲介手数料は媒介と代理の報酬で買取には根拠がない
仲介手数料の根拠は、宅地建物取引業法46条にあります。1項は報酬の額について次のように定めています。
宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。
2項は、この額を超えて報酬を受けることを禁じています。つまり仲介手数料とは、不動産会社が売主と買主の間に立って(媒介)、または売主の代わりに(代理)契約をまとめたことへの報酬です。条文が名宛てにしているのは「代理又は媒介」に関して受ける報酬であって、それ以外の取引はこの条文の外にあります。
買取では、不動産会社が自ら買主になります。売主と業者が直接、売買契約を結ぶだけで、間に立つ人は不在です。媒介でも代理でもない取引なので、報酬を受ける根拠そのものが欠けています。
「買取なら仲介手数料が無料」という言い方をよく見ますが、正確には「請求する根拠がない取引」です。この違いを知っておくと、あとの章で扱う「買取でも手数料がかかる場合」が理解しやすくなります。手数料がかかるのは、買取の形の中に「媒介」が入り込んだときです。
買取業者の利益は手数料ではなく買取価格の差に入っている
では、買取業者は何で利益を得ているのでしょうか。答えは、買取価格と再販価格の差です。業者は、マンションを買い取り、リフォームして、一般の買主に再び売ります。再販価格から、買取価格、リフォーム費、諸経費を引いた残りが業者の利益です。
したがって、業者は再販できる価格から、自社の利益と費用を逆算して買取価格を決めます。仲介手数料を取らない代わりに、買取価格を市場より低く設定して利益を確保する、という構造です。
このため、「手数料がない分、手取りが増える」という説明は、半分だけ合っています。手数料はゼロでも、価格が低くなる分が別にあります。手数料ゼロの利点と、価格の下げ幅の大きさを比べて、はじめて手取りの判断ができます。買取の仕組みと価格が下がる理由は、別の記事で詳しく扱っています。
仲介手数料の上限は売買価格の3.3%に6.6万円を足した額
比較の前提として、仲介手数料の額を押さえます。46条1項がいう「国土交通大臣の定めるところ」が、昭和45年建設省告示第1552号(最終改正 令和6年6月21日国土交通省告示第949号)です。売買の媒介の報酬について、告示の第二は次のように定めています。
依頼者の一方につき、それぞれ、当該売買に係る代金の額……を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる割合を乗じて得た金額を合計した金額以内とする。
二百万円以下の金額 百分の五・五/二百万円を超え四百万円以下の金額 百分の四・四/四百万円を超える金額 百分の三・三
この割合には消費税等相当額が含まれます。3,000万円の売買なら、200万円×5.5%=11万円、次の200万円×4.4%=8.8万円、残る2,600万円×3.3%=85.8万円で、合計105.6万円が上限です。
この3段階をまとめて「売買価格×3.3%+6.6万円」と書かれることがありますが、これは告示の逐語ではなく、400万円を超える取引で合計額が一致するように計算を言い換えた速算式です。3,000万円なら、3,000万円×3.3%+6.6万円=105.6万円で、段階ごとに足した額と一致します。「3%+6万円」と書かれるのは、消費税相当額を除いた表記です。
上限であって固定額ではないので、会社によってはこれより低い額を提示します。ただし、上限いっぱいを請求する会社が多いのが実情です。この105.6万円が、買取で消える額です。この額を、次の章以降で、買取価格の下げ幅と比べていきます。仲介手数料そのものの早見表と値引きの考え方は、別の記事で扱っています。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第46条) 出典: 国土交通省 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号)
買取でも仲介手数料がかかる場合
買取なのに仲介手数料がかかる場合があります。共通するのは、買取の形の中に「媒介」が入り込んでいることです。申込先が「自ら買主」なのか「媒介」なのかで、手数料の有無が決まります。
| 申込先 | 契約の形 | 仲介手数料 |
|---|---|---|
| 買取業者に直接申し込む | 売買契約のみ | かからない |
| 仲介会社経由で買取業者に売る(買取仲介) | 媒介契約+売買契約 | 上限までかかることがある |
| 買取保証の期限で買い取られる | 媒介契約(仲介期間)→売買契約 | 契約による |
| 「仲介手数料無料」の仲介会社で仲介売却 | 媒介契約 | 売主は無料、買主側から報酬 |
仲介会社が買取業者を紹介する買取仲介
仲介会社に売却を相談すると、「買取業者を紹介します」と提案されることがあります。仲介会社が売主と媒介契約を結び、買取業者を買主として契約をまとめる形です。これは「買取仲介」と呼ばれ、仲介会社は売主から仲介手数料を受け取ります。
この形では、売主は二重に目減りします。買取業者に売るので価格は市場より低く、さらにその低い価格に対して仲介手数料がかかります。買取価格が2,400万円なら、2,400万円×3.3%+6.6万円=85.8万円です。手数料がかからないはずの買取で、手数料を払う形です。
たとえば、仲介会社に「手数料のかからない買取を紹介します」と言われて任せた売主が、契約の場で媒介契約書と仲介手数料の請求書を見て初めて、自分の契約が「買取仲介」だと知った。買取価格2,400万円に対して手数料は85.8万円。同じ業者に直接申し込んでいれば、この額はそのまま手取りだった(金額は例示)。
買取仲介にも利点はあります。複数の買取業者に声をかけて、最も高い会社を選んでくれることがあるからです。ただし、その手間の対価が80万円台の手数料に見合うかは、自分で買取業者に直接当たった場合の価格と比べて、はじめて分かります。「買取業者を紹介します」と言われたら、「直接契約なら手数料はかかりますか」「紹介にあたって仲介手数料はいくらですか」と、その場で聞きます。
一括査定の申込先が仲介会社で買取業者に取り次がれる場合
一括査定サイトで「買取希望」を選んで申し込んでも、連絡してくる会社が買取業者とは限らない仕組みです。多くの一括査定サイトに登録しているのは仲介会社で、「買取希望」の依頼を受けた仲介会社が、提携する買取業者に取り次ぐ形があります。
この場合、仲介会社との間に媒介契約が入り、仲介手数料の対象になります。売主は「買取を申し込んだ」つもりでも、契約の形は買取仲介です。
見分け方は簡単で、連絡してきた会社に「御社が自ら買主になるのですか、それとも媒介ですか」と聞くことです。「自社で買い取ります」と答える会社は直接買取、「提携の買取業者に」「買取会社を探します」と答える会社は媒介です。免許の種類(宅地建物取引業者であること)は同じなので、免許ではなく契約の形で区別します。
買取保証の期限で買い取られるときの報酬の扱い
買取保証は、一定期間(3か月が多い)は仲介で売り出し、期限までに売れなければ、あらかじめ決めた価格で不動産会社が買い取る仕組みです。仲介期間中に売れれば、通常の仲介手数料がかかります。
問題は、期限が来て会社が買い取る場合です。会社が自ら買主になるので、法律上は仲介手数料の根拠が欠けています。ただし、契約の形は会社によって違い、仲介期間中の活動への報酬として一定の費用を定めている会社もあります。「買取時は手数料無料」と明記する会社もあれば、明記しない会社もあります。
買取保証を使うなら、媒介契約を結ぶときに、「期限で買い取られる場合、仲介手数料や費用はかかるか」を契約書の報酬欄で確かめます。口頭の返事に頼らず、書面の記載で確認します。買取保証の仕組みと注意点は、別の記事で扱っています。
申込先が自ら買主になるかを最初に確かめる
ここまでの3つの場合に共通する対策は1つです。申込みや相談の最初に、「御社が自ら買主になりますか、それとも媒介ですか」と聞くことです。答えによって、仲介手数料の有無と、契約の形が決まります。
自ら買主になる会社なら、契約は売買契約だけで、仲介手数料はゼロです。媒介の会社なら、媒介契約を結んで仲介手数料の対象になります。どちらが悪いということではなく、形が違うだけです。ただし、「手数料はゼロ」のつもりで媒介契約を結ぶのは、避けたい形です。
なお、「仲介手数料無料」を掲げる仲介会社は、買取とは別の仕組みです。告示の第二は、上限を「依頼者の一方につき」定めているので、売主と買主の双方から依頼を受ける会社は、それぞれから上限までの報酬を受けられます。売主から取らない会社は、買主側から受ける報酬で成り立つ形で、その買主が業者(買取業者)であることもあります。この仕組みの注意点は、別の記事で扱っています。
買取でも残る費用
仲介手数料がかからなくても、他の費用は残ります。しかもそれらは、仲介で売る場合と同じ費用です。買取と仲介で違うのは、仲介手数料の有無だけです。
| 費用 | 買取 | 仲介 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 仲介手数料 | かからない | かかる | 売買価格×3.3%+6.6万円(上限) |
| 印紙税(売買契約書) | かかる | かかる | 1,000万円超5,000万円以下は1万円(軽減後) |
| 登録免許税(抵当権抹消) | かかる(ローンがあれば) | 同じ | 不動産1個につき1,000円 |
| 司法書士報酬(抵当権抹消) | かかる(ローンがあれば) | 同じ | 1万〜2万円程度(目安) |
| 住宅ローン全額繰上返済手数料 | かかる(ローンがあれば) | 同じ | 借入先による(無料〜数万円・目安) |
| 譲渡所得税 | 利益が出れば | 同じ | 3,000万円控除で多くはゼロ |
| 引っ越し費用 | かかる | 同じ | 距離と量による |
| クリーニング・修繕・残置物処分 | 省ける | 原則必要 | 数万〜数十万円(目安) |
印紙税と抵当権抹消の登録免許税は買取でもかかる
売買契約書には印紙を貼ります。印紙税は契約書に記載された契約金額で決まり、不動産の譲渡に関する契約書には軽減措置があります。国税庁は、平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成される契約書について、契約金額が1,000万円を超え5,000万円以下なら1万円、5,000万円を超え1億円以下なら3万円と示しています。買取でも仲介でも同じです。
住宅ローンが残っていれば、決済のときに抵当権を消す登記が要ります。この登記の登録免許税は、登録免許税法の別表第一が次のように定めています。
登記の抹消(土地又は建物の表題部の登記の抹消を除く。) 不動産の個数 一個につき千円(同一の申請書により二十個を超える不動産について登記の抹消を受ける場合には、申請件数一件につき二万円)
マンションは建物と敷地(敷地権)で数えるので、土地が1筆なら2,000円、土地が複数筆なら筆数分が増えます。登記を頼む司法書士の報酬は、1万〜2万円程度が目安です。
これらは数万円の範囲で、手取りの比較への影響は小さい額です。ただし、「買取は費用が安い」という印象があると、比較を誤ります。安いのは仲介手数料の分だけで、他は同じです。
出典: 国税庁 No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置(令和8年4月1日現在法令等) 出典: e-Gov法令検索「登録免許税法」(別表第一 一(十五))
住宅ローンの全額繰上返済手数料は銀行で決まる
住宅ローンを売却代金で完済する場合、全額繰上返済の手数料がかかることがあります。額は借入先によって違い、無料のところから数万円のところまであります。金額は借入先の商品概要や返済方法の案内に書かれているので、自分の借入先の現在の金額を確かめます。
この費用も、買取と仲介で同じです。売却の方法ではなく、借りている金融機関で決まります。事前に借入先に、全額繰上返済の手数料と、申込みの期限を確かめておきます。
なお、買取は決済が早いので、ローンの返済回数がその分減ります。仲介で3か月かかる場合と比べて、その間の利息と管理費、修繕積立金の負担が減る分は、買取の側の実質的な利点です。ただし数万〜十数万円の範囲で、価格の差(数百万円)を覆す額にはなりにくいです。
譲渡所得税は利益が出たときだけかかる
売却で利益が出た場合、譲渡所得税がかかります。利益とは、売却価格から取得費(買ったときの価格と費用)と譲渡費用を引いた額です。国税庁は、譲渡費用の主なものとして「土地や建物を売るために支払った仲介手数料」と「印紙税で売主が負担したもの」を挙げています。値下がりしていれば利益はゼロで、税もゼロです。
自分が住んでいたマンションなら、居住用財産の3,000万円特別控除が使えます。国税庁は、この特例について所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除できると示しています。利益が3,000万円以下なら税はゼロで、多くの居住用マンションはこの範囲に収まります。控除を使うには確定申告が必要です。
買取と仲介で、この税の仕組みは同じです。ただし、仲介手数料は譲渡費用として利益から引けるので、仲介の方が利益が小さく計算されます。買取は手数料がない分、同じ売却価格なら利益が大きく出ますが、買取価格自体が低いので、実際には買取の方が利益は小さくなるのが通常です。計算の手順は別の記事で扱っています。
出典: 国税庁 No.3255 譲渡費用となるもの(令和8年4月1日現在法令等) 出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例(令和8年4月1日現在法令等)
仲介と違うのは仲介手数料の有無だけ
表を見返すと、買取と仲介で違う費用は、仲介手数料と、現状渡しで省けるクリーニング・修繕・残置物処分の費用だけです。印紙税、登記費用、ローン返済手数料、譲渡所得税、引っ越し費用は、どちらでも同じです。
したがって、手取りを比べるときは、共通の費用を両方から引く工程を省けます。同じ額を引くので、差は変わらないからです。比べるのは、「仲介の成約価格から仲介手数料を引いた額」と「買取価格」の2つだけです。
この整理をしておくと、次の章の比較が単純になります。買取で手数料がゼロになる利点は、この2つの数字の比較の中に、すでに含まれています。手数料がかからないことを別枠の利点として足すと、二重に数える形になります。
買取と仲介の手取りの比較
手取りの比較は、2つの数字に絞れます。仲介の成約価格から仲介手数料を引いた額と、買取価格です。3,000万円で売り出す場合の例で見ます。
| 売り方 | 価格 | 仲介手数料 | 比較する手取り |
|---|---|---|---|
| 仲介(3か月以内に成約) | 2,893万円(売り出し価格から−3.57%) | 102.1万円(2,893万円×3.3%+6.6万円) | 2,790.9万円 |
| 買取(直接) | 2,100万〜2,400万円(相場の7〜8割が目安) | 0円 | 2,100万〜2,400万円 |
| 買取(仲介会社経由) | 同上 | 75.9万〜85.8万円 | 2,024.1万〜2,314.2万円 |
手取りの式は仲介手数料と価格差の比較に絞れる
仲介の手取りは、成約価格から仲介手数料と共通の費用を引いた額です。買取の手取りは、買取価格から共通の費用を引いた額です。共通の費用は両方から同じ額を引くので、比較の外に置けます。
したがって、比べる式は次の2つです。
- 仲介: 成約価格 −(成約価格×3.3%+6.6万円)
- 買取: 買取価格
成約価格は、売り出し価格から値下げした後の価格です。東京カンテイの2026年7月30日のプレスリリースによると、首都圏の2025年の価格乖離率は、売却期間1ヵ月以内で−2.32%、専属専任媒介・専任媒介契約の有効期間である3ヵ月以内の平均で−3.57%でした。価格乖離率は、売り出し価格と成約価格の差の比率です。査定額や売り出し価格に、この程度の値下げを見込んだ額が成約見込みです。
この式を使えば、買取業者の提示額を見た瞬間に、仲介と比べてどちらが手取りで多いかを判断できます。手数料の有無は、式の中にすでに入っています。
出典: 東京カンテイ「中古マンションの価格乖離率&売却期間(首都圏)」(2026年7月30日)
3,000万円の計算例では仲介の手取りが数百万円多い
3,000万円で売り出したマンションを例にします。仲介で3か月以内に成約した場合、平均の値下げ幅−3.57%を当てると、成約価格は3,000万円×(1−0.0357)=2,892.9万円で、約2,893万円です。仲介手数料は、2,892.9万円×3.3%+6.6万円=102.06万円で、約102万円です。比べる手取りは、2,892.9万円−102.06万円=2,790.8万円で、約2,791万円になります。
買取の場合、業界の目安である相場の7〜8割を当てると、相場をこの売り出し価格の3,000万円と置いたときの買取価格は2,100万〜2,400万円です。仲介手数料はゼロなので、比べる手取りは、そのまま2,100万〜2,400万円です。
差は、約390万〜690万円です。仲介手数料の102万円がかからなくても、買取価格の下げ幅の方が数倍大きいため、手取りは仲介の方が多くなります。「手数料がかからないから買取が得」という判断は、この例では崩れます。買取率はあくまで目安なので、自分の物件では実際の提示額を当てはめて計算します。
買取が手取りで勝つのは買取価格が成約見込みの96.5%超のとき
買取の手取りが仲介を上回る条件を式にすると、「買取価格 > 成約価格 −(成約価格×3.3%+6.6万円)」です。右辺を整理すると「成約価格×96.7%−6.6万円」で、成約見込みのおおむね96.5%を超えるときが分かれ目です。
3,000万円の例なら、成約見込み2,892.9万円の96.7%は2,797.4万円、そこから6.6万円を引くと2,790.8万円で、成約見込みの96.47%にあたります。買取価格がこれを超えれば、買取の方が手取りは多くなります。業界の目安である相場の7〜8割(2,100万〜2,400万円)では、この線のはるか下です。
買取が手取りで有利になるのは、仲介の成約見込み自体が低い物件です。旧耐震で住宅ローンが付きにくい、管理組合に問題がある、賃貸中で実需の買主が買えない、事故があった、といった物件は、仲介でも買主が限られ、成約見込みが下がります。この場合、買取価格との差が縮まり、逆転することがあります。また、二重ローンや仮住まいの費用が大きい人は、価格差より時間の価値が上回ることがあります。事情別の選び方は別の記事で扱っています。
手数料なしで得をするのは直接買取と買取仲介を比べたときだけ
「買取は手数料がかからないから得」が本当に成り立つ場面が1つあります。同じ買取業者に、直接売る場合と、仲介会社を経由して売る場合の比較です。
買取価格が同じ2,400万円なら、直接なら手取りは2,400万円、仲介会社経由なら仲介手数料85.8万円を引いて2,314.2万円です。差の85.8万円が、「直接当たること」で守れる額です。買取価格が3,000万円なら、差は105.6万円になります。
つまり、手数料なしの利点は、「仲介と比べて得」ではなく、「買取仲介と比べて得」です。買取を選ぶと決めたら、仲介会社を通さずに買取業者へ直接申し込むことで、この利点を確保します。仲介会社の紹介を受ける場合は、紹介の対価として手数料分を失うことを知ったうえで、それでも紹介の価値(複数社の比較を代行してくれる、など)があるかを判断します。
買取と仲介の手取りを比べる手順
比べる数字は2つだけです。仲介の成約見込みから手数料を引いた額と、買取業者の提示額です。自分の物件で、この2つを出す手順を示します。
- 仲介の査定額から成約見込みと手数料を出す
- 買取業者には仲介会社を通さず直接当たる
- 二つの手取りを並べて差額に早さと手間の価値があるかで決める
仲介の査定額から成約見込みと手数料を出す
まず、仲介会社に査定を頼み、査定額を1〜2社分取ります。机上査定なら室内を見せずに出せます。査定額は「売り出せる価格」で、成約価格ではないので、値下げの見込みを引きます。東京カンテイの3ヵ月以内の平均−3.57%を当てれば、査定額×0.9643が成約見込みの目安です。
次に、仲介手数料を計算します。成約見込み×3.3%+6.6万円です。成約見込みから手数料を引いた額が、仲介の側の「比べる手取り」です。
たとえば査定額3,100万円なら、成約見込みは3,100万円×0.9643=2,989.3万円で約2,989万円、手数料は2,989.3万円×3.3%+6.6万円=105.25万円で約105万円、比べる手取りは約2,884万円です。この数字を、買取の提示額と並べます。査定額は会社によってばらつくので、複数の査定額の中央あたりを使い、高い査定額に引っ張られないようにします。
買取業者には仲介会社を通さず直接当たる
買取の側の数字は、買取業者の提示額です。ここで、仲介会社を通さず、買取業者に直接申し込みます。仲介会社経由だと仲介手数料がかかり、「買取の手取り」が手数料分だけ減るからです。
買取業者は、自社サイトで「買取」を明記している会社、買取専門を掲げる会社、大手不動産会社の買取部門などです。申込みのときに「御社が自ら買主になりますか」と確かめます。複数社に同時に申し込み、現地確認を同じ日にまとめれば、立会いは1日で済みます。
提示額を受け取ったら、内訳(再販想定価格・リフォーム費・利益)を聞きます。内訳を答えられる業者の提示額は根拠があります。複数の提示額の中で最も高い額が、買取の側の「比べる手取り」です。1社の提示額だけで比べると、業者間の差(数百万円になることがあります)を見落とします。
二つの手取りを並べて差額に早さと手間の価値があるかで決める
仲介の「成約見込み−手数料」と、買取の「最も高い提示額」を並べます。差額が出ます。この差額が、買取の早さと手間のなさに払う代金です。
差額が100万円なら、「3か月早く現金化でき、内覧も片付けも省ける」ことに100万円を払うか、という判断になります。差額が600万円なら、同じ判断を600万円で行います。多くの人は、100万円なら払い、600万円なら払わない、と答えるはずです。
たとえば、査定額3,100万円のマンションで、最初の買取業者の提示が2,200万円。仲介の比べる手取り(約2,884万円)との差は約680万円だった。買取業者を4社に増やすと最高提示は2,450万円になり、差は約430万円まで縮んだ。それでも仲介を選び、買取保証を付けて期限だけを担保した(金額は例示)。
差額を小さくする手は2つあります。買取業者を増やして提示額を上げること、そして仲介会社を通さないことです。差額が大きいままなら、仲介で売り、早さが必要なら買取保証を付ける形も検討します。どの道でも、「手数料がゼロ」を理由に選ぶのではなく、2つの数字の差で選ぶことが、手取りを守る判断です。買取と仲介のどちらが向くかの事情別の判断は、別の記事で扱っています。
まとめ:手数料ゼロの利点は、買取価格の下げ幅の中で測る
いちばん重いのは、仲介手数料がかからないことと、手取りが増えることが別だという線引きです。宅地建物取引業法46条1項は、報酬の額を「売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額」として国土交通大臣の定めるところによると規定していて、自ら買主になる買取はこの外にあります。一方で、告示が定める上限は3,000万円で105.6万円。買取価格が相場の7〜8割という業界の目安のとおりなら、下げ幅は600万〜900万円で、手数料の数倍です。手数料ゼロは、この下げ幅の一部を埋める要素として数えます。
次の一歩は、買取業者の提示額を受け取ったら、「成約見込み×96.5%」と並べることです。仲介会社の査定額に0.9643を掛けて成約見込みを出し、その96.5%を計算して、提示額がその線を超えるかを見ます。ここを飛ばして「手数料がかからないから」で決めると、3,000万円の売り出し価格の例では、102万円の手数料を節約する代わりに390万〜690万円の差を引き受ける形になります。買取を選ぶと決めた場合も、仲介会社を通さず直接申し込めば、85.8万円から105.6万円の手数料を手元に残せます。
そのうえで確かめたいのは、申込先が自ら買主になるのか、媒介なのかという点です。一括査定サイト経由の連絡や「買取業者を紹介します」という提案は、媒介契約が入る形があるので、最初の電話で聞いておきます。住み替えのトビラでは、マンション買取で仲介手数料がかからない理由と仲介との手取りの比べ方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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