マンションが夫ひとりの名義でも、結婚してから夫婦で築いたものであれば、その価値は財産分与の対象になります。妻にも受け取る権利があります。「名義が誰か」と「財産分与で分けられるか」は、別々の問題だからです。
夫名義の登記を見て「自分は何ももらえないのでは」と不安になる方は少なくありません。けれど、名義は分与の可否をそのまま決めるものではありません。
分け方には大きく、妻が住み続ける、名義を妻へ移す、売って現金で分ける、の3つがあります。住宅ローンも夫名義だと、選べる方法は絞られます。いくら受け取れて、いつまでに求められるのかまで、順番に見ていきます。
なお、ここでは夫の単独名義を前提にします。夫婦の共有名義では持ち分の考え方が変わり、分け方の出発点も違ってきます。
夫名義のマンションでも妻は財産分与を受けられる
夫の単独名義であっても、結婚後に手に入れたマンションなら、原則として妻に取り分があります。
登記簿の名義は「その不動産の所有者が誰か」を示すものにすぎません。一方で財産分与は、夫婦が協力して築いた財産を離婚のときに分け合う手続きです。二つは見ている対象が違うため、名義が夫でも妻は分与を受けられます。
婚姻中に買ったマンションは名義に関係なく夫婦の共有財産
夫の単独名義でも、結婚している間に夫婦の協力で買ったマンションは、二人の共有財産として財産分与の対象になります。
結婚してからの収入や貯蓄で買った住まいは、たとえローンの契約者や登記の名義が夫であっても、夫婦が力を合わせて築いたものと見ます。妻が専業主婦で収入がなかった場合でも、家事や育児で家庭を支えたことが財産づくりへの貢献と見なされ、取り分は認められます。共働きか専業主婦かで、対象になるかどうかは変わりません。
令和6年の民法改正では、財産分与を決めるときに考える要素が法律の条文に書き込まれました。婚姻中に夫婦が取得・維持した財産の額や、それぞれの寄与の程度、婚姻の期間などを踏まえて分けるという考え方です。この改正は令和8年(2026年)4月1日から施行されています。
出典: 法務省 民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕
財産分与の対象にならないのはどんなマンションか
一方で、同じマンションでも財産分与の対象から外れるケースもあります。
夫が独身のときに買ったマンションや、親から相続・贈与で受け取ったマンションは、夫婦が協力して築いた財産ではないため、原則として分与の対象になりません。こうした財産は「特有財産」と呼ばれます。
ただし、線引きが分かれる部分もあります。たとえば結婚前に夫が貯めたお金を頭金に入れ、残りを結婚後に夫婦の収入から返した場合、頭金にあたる部分と結婚後に返した部分とで扱いが違ってくることがあります。個別の事情によって結果は変わるため、自分のマンションが対象になるか判断に迷うときは、司法書士や弁護士など専門家に相談すると安心です。
夫名義マンションの3つの分け方(住み続ける・名義を妻へ・売る)
夫名義のマンションの分け方は、妻が住み続ける、名義を妻へ移す、売って現金で分ける、の大きく3つです。
どれを選べるかは、住宅ローンの残りと今の価値のどちらが大きいかで変わります。売ればローンを返し切れる状態(アンダーローン)か、売っても返し切れない状態(オーバーローン)かで、採れる手が絞られてきます。まずは3つの違いを表で見比べてみます。
| 分け方 | 住むのは | 名義 | 住宅ローン(夫名義) | 向いている人 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 妻が住み続ける | 妻(と子) | 夫のまま/妻へ | 夫が返済を続ける等 | 子の生活・学区を守りたい | 夫の滞納や無断売却のリスク |
| 名義を妻へ移す | 妻 | 妻へ移す | 完済か妻名義へ借換え | 住み続けつつ名義も整理したい | 金融機関の承諾・審査が壁 |
| 売って分ける | どちらも退去 | 売却で解消 | 売却代金で完済 | 清算をすっきりさせたい | オーバーローンだと売りにくい |
名義人でない側(妻)が住み続ける
妻がこれまでのマンションに住み続ける方法は、子どもの生活環境を変えたくない家庭に向いています。
学区や友人関係、通い慣れた病院など、離婚後も暮らしを大きく変えずに済むのが利点です。ただし、名義もローンも夫のままにして住み続けると、次のようなリスクが残ります。
- 夫がローンを滞納し、金融機関から退去を求められる
- 夫が妻に無断でマンションを売ってしまう
- 妻が連帯保証人のままで、夫の返済が滞ると請求が来る
こうしたリスクを避けるには、名義やローンを夫のまま放置しないことが大切です。将来の名義変更や、住み続ける間の返済の取り決めを公正証書などの書面に残しておくと、後のトラブルを抑えやすくなります。ローンが夫名義のまま残る場合は、返済が続くことによる負担も含めて、早めに方針を決めておくと安心です。
名義を夫から妻へ移す
マンションの名義を夫から妻へ移すことはできますが、住宅ローンが残っているかどうかで難しさが大きく変わります。
離婚にともなう名義の移し方は、財産分与を原因とした所有権の移転です。ローンを返し終えていれば、比較的すすめやすい手続きになります。
問題になりやすいのは、夫名義の住宅ローンが残っている場合です。所有権(物権)を妻へ移すことと、ローンという借金(債務)を誰が背負うかは、別の問題です。ローンが残ったまま名義を妻へ移すには、原則として金融機関の承諾が必要です。承諾を得るには、ローンを完済するか、妻の名義で新たに借り換えることになり、その際は妻に安定した返済能力があるかどうかが審査されます。専業主婦だった、収入が少ないといった事情があると、この審査が壁になりがちです。
名義変更ができるかどうかや条件は、金融機関によって異なります。登記の細かな手続きや登録免許税などの費用は、名義変更そのものの流れとして別に押さえておくとよいでしょう。
売って現金で分ける
マンションを売って現金で分ける方法は、離婚後の関係をすっきり清算したい場合に分かりやすい選択です。
売却代金でまず住宅ローンを返し、残ったお金を夫婦で分けます。住み続けたい事情が特になければ、財産の分け方としては最もすっきり清算できます。
気をつけたいのは、売っても住宅ローンを返し切れないオーバーローンの状態です。この場合、通常の売却では抵当権を外せず、売ること自体が難しくなります。金融機関と話し合って進める任意売却などの方法を検討することになります。売れる金額はマンションの状態や時期によって変わる目安であり、いくらで売れそうかを知るには、複数の会社に査定を出して見比べることが役立ちます。
夫名義マンションで妻がもらえる金額の考え方
妻が受け取れる金額は、マンションを「いくらと見るか(評価額)」と「どの割合で分けるか」の掛け合わせで決まります。
そして評価額からは、残っている住宅ローンを差し引きます。この差し引き後に残る純資産が、分け合う対象です。金額を考えるときは、価値・ローン残債・割合の3つをそろえて見ていきます。
マンションの価値をいくらと見るか
分与額を考える出発点は、マンションの今の価値です。
不動産会社の査定や相場から見た時価から、残っている住宅ローンを引いた金額(純資産)が、分け合う対象になります。たとえば時価が2,500万円でローン残債が2,000万円なら、差額の500万円が分与の元になる、というイメージです。
もし残債が時価を上回っていれば、分け合える財産はほとんど残らず、マイナスになることもあります。
査定額は、依頼する会社や時期によって差が出ます。あくまで目安であり、一社の数字を絶対と考えないことが大切です。相場の水準を知りたいときは、複数の会社に査定を出し、金額に差があることを前提に見ておくと判断しやすくなります。
割合は原則2分の1
分ける割合は、夫婦の収入差にかかわらず、原則として2分の1です。
夫の収入で買ったマンションであっても、妻の家事や育児といった支えがあって維持できたと考えるため、取り分は半分ずつが基本になります。令和6年の民法改正では、夫婦それぞれの寄与の程度について「異なることが明らかでないときは相等しいものとする」という考え方が条文に書き込まれ、令和8年(2026年)4月1日から施行されています。専業主婦で収入がなかった場合でも、割合は原則2分の1で考えます。
出典: 法務省 民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕
なお、財産の形成に特別な貢献があったなど、事情によっては割合が2分の1から修正されることもあります。割合の細かな調整や、名義移転・売却にともなう税金の扱いは、財産分与全体の考え方として別に押さえておくとよいでしょう。
いつまでに財産分与を請求できるか
財産分与には、請求できる期限があります。
財産分与を請求できる期間は、2024年(令和6年)成立の改正民法で、それまでの2年から5年に延び、令和8年(2026年)4月1日から施行されています。離婚のときから5年(令和8年〔2026年〕3月31日以前に離婚した場合は2年)を過ぎると、家庭裁判所に分与を申し立てられなくなります。この5年と2年は、いつ離婚したかで分かれます。令和8年4月1日以降に離婚した場合は5年、それより前に離婚していた場合は2年が期限です。
出典: 法務省 民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕
期限を過ぎると原則として請求は難しくなるため、離婚の話し合いの段階で分与の内容を決め、公正証書などの書面に残しておくと安心です。取り決めが口約束のままだと、後から支払いを求めにくくなります。
まとめ:夫名義でも「名義と分与は別」から考える
夫の単独名義のマンションでも、結婚してから夫婦で築いたものなら財産分与の対象になり、妻に取り分があります。名義が誰かと、分与で受け取れるかは別の問題です。
分け方は、妻が住み続ける、名義を妻へ移す、売って現金で分ける、の3つが基本で、住宅ローンが夫名義だと選べる方法は絞られます。受け取る金額は、時価から住宅ローン残債を引いた純資産を、原則2分の1で分ける考え方が土台です。請求できるのは離婚から5年(2026年3月以前の離婚は2年)以内なので、早めに取り決めて書面に残しておくと安心です。
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