管理組合の総会で、建て替えの話が出た。そのとき頭に浮かぶのは、「本当に建て替わるのか」「いくらかかるのか」「参加しないなら、いつ売ればいいのか」という3つの問いです。
先に答えを書きます。建て替えは全国で累計323件しか実現しておらず、話が出てから竣工まで10年前後かかります。ただし2026年4月から決議の要件が緩和され、決まりやすくなる方向に変わりました。参加すれば1,000万円台後半の持ち出しと1〜2年の仮住まいがあり、参加しないなら「決議の前に市場で売る」か「決議の後に時価で売り渡す」かで、出口の広さが大きく違います。
この記事では、建て替えの現実、参加する場合の費用、段階ごとに残る選択肢、参加するか住み替えるかの判断基準、そして住み替え先で同じ問題を避ける見方まで、順に見ていきます。
マンションの建て替えが実現する割合と年数
管理組合で建て替えの話が出ると、多くの人は「本当に建て替わるのか」「いつ、いくらかかるのか」が分からないまま不安になります。
まず、建て替えがどれくらい実現していて、どれくらいの年数がかかるのかを、国の統計と法律の条文から見ます。
建て替えの実績は全国で累計323件にとどまる
国土交通省の集計では、マンションの建て替えの実績は2025年3月31日時点で累計323件、約26,000戸です。マンション建替円滑化法によらない建て替えが190件、同法による建て替えが133件で、これとは別に、建物と敷地を売却する「マンション敷地売却等」が17件、約1,300戸あります。震災で被災したマンションの建て替え115件は、この数字の外に置かれています。
一方、全国の分譲マンションのストックは2025年末で約723.6万戸、そのうち築40年以上は約158.8万戸です。築40年以上は10年後に約2.0倍、20年後に約3.2倍になる見通しで、旧耐震基準のストックだけでも約103万戸あります。建て替えに至った約26,000戸は、ストック全体の約0.36%にあたります。
つまり、管理組合で建て替えの話が出ても、実際に建て替えまで進んだマンションは、これまでのところごく一部です。ただし、この数字は「これまで」の実績です。次の年数と、その次の法改正を合わせて読むと、見え方が変わります。
出典: 国土交通省「マンション建替え等の実施状況(2025年3月31日現在)」 出典: 国土交通省「分譲マンションストック数の推移(2025年末現在)」 出典: 国土交通省「築40年以上の分譲マンション数の推移(2025年末現在)」
検討が始まってから竣工まで10年以上かかる
建て替えは、話が出てから完成するまでに10年単位の時間がかかります。年数の骨組みは、法律が定めた期限を足していくと見えてきます。
区分所有法では、建替え決議を議題にする集会の招集通知は会日の2か月前までに発し、会日の1か月前までに説明会を開くこととされています。決議が成立すると、賛成しなかった人へ催告があり、回答の期限は催告を受けた日から2か月、売渡請求はその期間が終わった日から2か月以内です。さらに、決議の日から2年以内に取壊しの工事へ着手しない場合、売り渡した人は代金相当額を提供して権利を買い戻すよう請求できます。法律は、決議から着工までに2年前後かかることを織り込んでいます。
ここに、勉強会と合意形成、事業者の選定、計画案の作成に要する数年と、解体から竣工までの工事期間が乗ります。検討の開始から新しい住戸への入居まで、10年前後を見込む形になります(目安)。今60歳なら、竣工時に70歳を超えている計算です。建て替えに参加するかどうかの判断は、この年数を自分の年齢に足したうえで考えることになります。
出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第62条・第63条)
2026年4月から4分の3の賛成で決議できる条件が加わった
建て替えの決議は、長く「区分所有者と議決権の各5分の4以上」が要件でした。2025年5月30日に公布された区分所有法の改正(令和7年法律第47号)で、2026年4月1日から要件が変わっています。
原則の5分の4は残したうえで、建物が次の5つのいずれかに当たる場合は、4分の3以上の賛成で建替え決議ができます。地震に対する安全性の基準に適合していないとき、火災に対する安全性の基準に適合していないとき、外壁や外装材の剥離・落下により周辺に危害を生ずるおそれがあるとき、給排水などの配管設備の損傷や腐食により著しく衛生上有害となるおそれがあるとき、バリアフリー基準に適合していないときの5つです。あわせて、裁判所が認めた所在等不明の区分所有者を、すべての決議の母数から除く制度も設けられました。
建て替え以外の道も同じ多数決で開きました。建物と敷地の一括売却、建物を取り壊したうえでの敷地売却、建物の取壊し、既存の躯体を残して全専有部分を改める一棟リノベーションが、いずれも原則5分の4、5つの事由がある場合は4分の3で決議できます。なお、2026年3月31日までに招集手続が始まった集会は、改正前の規律で進みます。
出典: 法務省「区分所有法・被災区分所有法の改正について」 出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第38条の2・第62条・第64条の5〜第64条の8)
容積率の余裕と立地で実現しやすさが決まる
同じ築年数でも、建て替えが実現しやすいマンションと、しにくいマンションがあります。分かれ目は、容積率の余裕と立地です。
建て替えでは、今より多くの床面積を建てられれば、増えた分を売って事業費に充てられます。国土交通省の集計では、建替え後のマンションの利用容積率を100としたとき、建替え前の利用容積率は1970年代に実施された事業で23.0%、2000年代で62.6%、2010年代で66.0%、2020年代で65.9%と上がってきました。新たに生み出せる床が、かつての77%分から34%分へ縮んだという意味です。容積率をすでに使い切っているマンションほど、区分所有者の持ち出しが大きくなり、合意が遠のきます。
要除却等認定を受けたマンションには、容積率と高さの制限について特例が用意されています。マンションの再生等の円滑化に関する法律で、敷地面積が政令で定める規模以上のものについて、特定行政庁が許可した範囲で建築基準法の限度を超えられる仕組みです。自分のマンションが建て替えに向いているかどうかは、容積率の余裕と立地、そして事業者が参画しているかで、ある程度読めます。
出典: 国土交通省「マンション長寿命化・再生円滑化について」(社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 資料3) 出典: e-Gov法令検索「マンションの再生等の円滑化に関する法律」(第163条の56・第163条の59)
建て替えに参加する場合の費用と仮住まい
建て替えに参加して新しいマンションに戻る場合、費用は「持ち出し」と「仮住まい」の2つに分かれます。
どちらも、区分所有者の自己負担が基本です。
- 自己負担は還元率で決まり平均で1,000万円を超える
- 仮住まいは1〜2年で家賃と引っ越し費用が要る
- 高齢でローンが組めない人は再取得しない選択になる
自己負担は還元率で決まり平均で1,000万円を超える
建て替えで新しい住戸を取得するときの持ち出しは、「還元率」で決まります。還元率は、今の住戸の面積に対して、追加の負担なしに取得できる新しい住戸の面積の割合です。還元率が100%なら同じ広さに無償で戻れ、70%なら同じ広さに戻るために残り30%分を買い足すことになります。
計算の形はこうです。今の専有面積70㎡、還元率70%、新しい住戸の販売単価が1㎡あたり90万円という仮定を置くと、無償で取得できるのは49㎡、同じ70㎡に戻るには21㎡分を買い足すので、持ち出しは21×90=1,890万円になります。還元率と単価は建て替えの計画案に示されるので、この2つを自分のマンションの数字に置き換えて計算します(面積・還元率・単価はいずれも仮定値です)。
実際にどれくらいの負担になっているかは、国の集計があります。国土交通省が把握している建替え事例139件を実施年代別に見ると、区分所有者の平均負担額は2002〜2006年で874万円、2007〜2011年で926万円、2012〜2016年で1,106万円、2017〜2021年で1,941万円と上がり続けています。容積率の余裕が減った分が、そのまま負担に乗っている形です。
出典: 国土交通省「マンション長寿命化・再生円滑化について」(社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 資料3)
仮住まいは1〜2年で家賃と引っ越し費用が要る
建て替えの間は、仮住まいが要ります。東京都は、建て替えに伴う仮住まいについて、次のように書いています。
通常1年~2年の短期間の住まいとなります
この期間の家賃、引っ越し2回分の費用、家具の保管は、建て替えの計画案の外に置かれることが多く、自分で見積もる金額です。家賃15万円で18か月なら家賃だけで270万円、これに敷金・礼金と引っ越し2回分が乗ります(家賃と期間は読者が自分の数字を入れる欄です)。
東京都は、仮住まいに使える公的住宅として、都営住宅やUR賃貸住宅などの情報を提供しています。事業者が参画する建て替えでも、仮住まいの物件をあっせんする支援が付くことがありますが、家賃そのものの補償とは別の話です。高齢の区分所有者は、1〜2年の仮住まいと2回の引っ越しの負担そのものが、参加を見送る理由になることもあります。
出典: 東京都マンションポータルサイト「仮住まい等が可能な公的住宅の情報提供」
高齢でローンが組めない人は再取得しない選択になる
持ち出しを自己資金で用意できない場合、住宅ローンを組むことになります。ここで年齢が壁になります。多くの金融機関は完済時の年齢に上限を設けているため、60代後半からの借り入れの可否と条件は、取引のある金融機関に直接確かめる話になります。
再取得しない道は、法律に用意されています。マンションの再生等の円滑化に関する法律では、建替組合の設立が認可された公告の日から30日以内に申し出れば、新しい住戸の権利への変換に代えて金銭の給付を受けられます。この場合、施行者は権利変換期日までに、評価された相当の価額に物価の変動に応じた修正と利息を加えた補償金を支払います。
注意したいのは、この申出の期限が30日という短さである点です。組合設立の認可が公告されてから考え始めると、判断に使える時間は1か月で尽きます。再取得が難しいと感じているなら、決議より前の段階で自分の答えを決めておくほうが、選択肢が広いうちに動けます。
出典: e-Gov法令検索「マンションの再生等の円滑化に関する法律」(第56条・第75条)
建て替えの検討から着工までの段階ごとに残る選択肢
建て替えは、検討、決議、売渡請求、権利変換、解体着工と段階を踏んで進みます。所有者に残る選択肢は、段階が進むほど減ります。
どの段階で何ができるかを、先に知っておきます。
| 段階 | できること | 期限 |
|---|---|---|
| 検討(勉強会・推進決議) | 市場で売る/住み続ける/議論に加わる | なし |
| 決議の招集通知 | 説明会に出る/賛否を固める | 通知は会日の2か月前まで(区分所有法62条6項) |
| 建替え決議(5分の4または4分の3) | 賛成して参加/反対して売渡請求を待つ | 決議前に売るなら決議まで |
| 催告と売渡請求 | 参加するか回答する/不参加なら時価で売り渡す | 催告から2か月以内に回答(同63条3項) |
| 権利変換・組合設立 | 再取得する/転出して補償を受ける | 転出の申出は認可の公告から30日以内(再生等円滑化法56条1項) |
| 解体着工 | 仮住まいへ移る | 明け渡し期限 |
検討段階では市場で売る選択肢が残る
建て替えの話が出たばかりの段階では、所有者の選択肢はまだ広いままです。管理組合の勉強会や、建て替えを検討する推進決議が行われても、法律上の建替え決議とは別で、住戸の権利はそのままです。
この段階なら、今のマンションを「築古の中古マンション」として市場で売れます。買い手は、リノベーションして住む人、賃貸に回す投資家、立地を買う人など、通常の中古市場の買い手です。建て替えの検討が始まっていることは、売主が知っている事実として買い手に伝える必要がありますが、買い手の中には「将来の建て替えで新しくなる」と前向きに受け取る人もいます。
住み続ける選択も、議論に加わって還元率や計画を有利にする選択も、この段階では残っています。参加しないと決めているなら、この段階が最も出口が広い時期です。
建替え決議の後は参加か時価での売渡しかの二択になる
区分所有法の建替え決議が成立すると、状況が変わります。決議に賛成した人は建て替えに参加します。反対した人、または決議に加わらなかった人には、次に書く催告と売渡請求が待っています。
決議後に住戸を第三者に売ることは制度上できますが、条文は売渡請求の相手方にも、参加する側にも「その承継人を含む」と定めています。買い手は建て替え事業の当事者としての立場をそのまま引き継ぐことになるため、通常の中古市場の買い手は付きにくくなり、買い手は建て替えを手掛ける事業者や、事業に参加する前提の人に寄っていきます。
つまり、決議後の出口は「参加する」か「時価で売り渡す」かの二択に近づきます。決議前に市場で売るのと、決議後に時価で売り渡すのとでは、買い手の広さも、価格の決まり方も違います。この違いが、売る時期の判断の中身です。
出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第63条・第64条)
売渡請求は催告から2か月で回答を求められる
建替え決議が成立すると、集会を招集した者は、遅滞なく、決議に賛成しなかった区分所有者に対して、建て替えに参加するかどうかを回答するよう書面で催告します。回答の期限は、催告を受けた日から2か月です。期限までに回答がない場合は、参加しない旨を回答したものとみなされます。
参加しないと回答した人に対しては、建て替えに参加する区分所有者や買受指定者から、区分所有権と敷地利用権を「時価」で売り渡すよう請求できます。これが売渡請求で、請求ができるのは回答期間が満了した日から2か月以内です。建物の明渡しで生活上著しい困難が生じるおそれがあるなど顕著な事由があるときは、裁判所が代金の支払いから1年を超えない範囲で明渡しの期限を延ばすことがあります。
時価は、建て替えを前提にした評価額です。
決議前の中古市場の売却価格と一致するとは限らず、算定は不動産鑑定などで行われ、争いになれば裁判で決まります。
参加しないなら、この2か月の期限と、時価の決まり方を先に知っておくことが、慌てて判断しないための備えになります。
出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第63条)
権利変換の後は再取得か転出かだけが残る
マンションの再生等の円滑化に関する法律による建て替えでは、決議のあとに組合が設立され、今の住戸の権利を新しい住戸の権利に置き換える「権利変換」の手続きに進みます。施行者は権利変換計画を定めて都道府県知事等の認可を受け、認可されると、今の住戸の権利は新しい住戸の権利に変わります。
この段階で残る選択肢は、新しい住戸を再取得するか、再取得せずに転出して補償を受けるかの2つです。市場で売る、売渡請求を待つ、といった選択肢は、この段階では消えています。前に書いたとおり、転出を選ぶ申出の期限は組合設立の認可が公告された日から30日以内なので、実際の分かれ道は権利変換計画が固まる前に来ます。
権利変換の後は、仮住まいへの引っ越しと明け渡しの期限が決まります。建て替えに参加すると決めた人も、この段階で仮住まいの費用と1〜2年の見通しを確定させることになります。段階が進むほど選択肢が減る、という構造を、検討の段階から頭に置いておきます。
出典: e-Gov法令検索「マンションの再生等の円滑化に関する法律」(第56条・第57条・第58条)
建て替えに参加するか住み替えるかの判断基準
建て替えの話が出たとき、参加するか住み替えるかは、3つの基準で決めます。
竣工までの年数を住み続けられる年齢か、持ち出しを用意できるか、売るなら決議の前か後か。そして、転出という道が制度に用意されていることを前提に置きます。
竣工までの10年を住み続けられる年齢か
最初の基準は年齢です。建て替えは、検討から竣工まで10年前後かかり、そのうち1〜2年は仮住まいです。今の年齢に10年を足して、その年齢で新しいマンションに戻って暮らす自分を想像できるかが、判断の出発点になります。
60歳なら、竣工時は70歳を超えます。65歳で仮住まいに移り、引っ越しを2回して、70代で新居に入る。この流れを無理なくこなせるかどうかは、健康と家族の状況で変わります。子どもと同居する予定、親の介護、自分の体の状態を、10年先まで見て考えます。
年齢の面で難しいと感じるなら、建て替えを待たずに、今の段階で住み替えるほうが、選択肢が広い時期に動けます。逆に40〜50代なら、竣工時も現役の年齢で、新しいマンションに長く住めるので、参加の合理性が高くなります。
持ち出しを自己資金かローンで用意できるか
2つ目は資金です。還元率が100%を下回る場合、同じ広さに戻るには持ち出しが要り、直近の集計では平均が1,900万円台に達しています。この金額を、自己資金で出せるか、住宅ローンで借りられるかを見ます。
自己資金で出せるなら、退職金や貯蓄がその分減ることを、老後の資金計画と合わせて考えます。ローンで借りるなら、完済時の年齢の上限が壁になります。60歳を過ぎてからの借り入れは、期間が短くなって月々の返済が重くなるか、審査が厳しくなるかのどちらかに向かうため、条件は取引先の金融機関で確かめます。
持ち出しが用意できない場合は、狭い住戸で再取得する、再取得せずに転出する、の2つになります。狭い住戸への再取得は、還元率の範囲で持ち出しをゼロに近づける方法で、単身や夫婦2人なら現実的な選択です。家族の人数と、持ち出しの上限を先に決めておくと、計画案を見たときに判断が早くなります。
決議前に売ると買い手が広く決議後は時価の売渡しになる
3つ目は、売る時期です。参加しないと決めたなら、決議の前に市場で売るか、決議の後に売渡請求で時価で売り渡すかの二択になります。
決議前は、通常の中古市場で売れます。買い手は広く、価格は市場で決まります。建て替えの検討が進んでいることは告知しますが、それを好材料と見る買い手もいます。決議後は、買い手が事業者や参加者に寄り、出口は売渡請求の時価になります。時価は建て替えを前提にした評価で、市場価格より高いか低いかは事例によって違います。
判断の材料は、決議前の査定額と、計画案に示される評価の見込みです。建替え決議を議題にする集会の招集通知は会日の2か月前までに届くので、通知が来た時点から決議までに2か月あります。この間に複数の不動産会社へ査定を出しておくと、時価との比較ができます。売る手順、売り先行と買い先行、費用と税制は、別の記事で書いています。
出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第62条)
再取得しない転出も制度上の選択肢に入れる
最後に、制度の形を1つ置きます。マンションの再生等の円滑化に関する法律は、権利変換を希望しない区分所有者が金銭の給付を選べる仕組みを、建て替えの手続きの中に組み込んでいます。転出は、建て替えに乗り遅れた結果ではなく、法律が正面から用意した出口です。
負担額が上がり続けている状況も、この選択を後押しします。2017〜2021年に実施された建て替えの平均負担額は1,941万円で、2012〜2016年の1,106万円から大きく増えました。年齢と資金を見て再取得が重いと感じる人が、転出を選ぶ流れは自然です。
大切なのは、転出の判断を、選択肢が広いうちにすることです。決議の前なら市場で売れ、決議の後は時価の売渡し、権利変換の段階では認可の公告から30日以内の申出が要ります。段階が進むほど、自分で価格や時期を選べる余地は狭まります。参加しない可能性が高いなら、検討の段階で動き始めるのが、いちばん有利な時期です。
出典: e-Gov法令検索「マンションの再生等の円滑化に関する法律」(第56条) 出典: 国土交通省「マンション長寿命化・再生円滑化について」(社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 資料3)
建て替えを避けて住み替え先を選ぶ見方
住み替えると決めたら、次のマンションで同じ問題を10年後に繰り返さない見方が要ります。
築年数だけでは見分けがつきにくいので、管理の状態を4つの確認先で見ます。
- 長期修繕計画と修繕積立金の残高を先に見る
- 新耐震かどうかと耐震診断の結果を確かめる
- 総会の議事録で建て替えと大規模修繕の議論を読む
- 要除却等認定と管理計画認定を不動産会社に確かめる
長期修繕計画と修繕積立金の残高を先に見る
まず見るのは、長期修繕計画と修繕積立金です。国土交通省のガイドラインでは、計画期間を「30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上」とし、5年程度ごとに調査・診断を行って計画を見直すこととされています。計画があるか、いつ見直されたか、計画に対して積立金が足りているかを確かめます。
数字の一部は、購入前の重要事項説明で説明されます。宅地建物取引業法施行規則は、マンションの売買の重要事項として、計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときはその内容と「既に積み立てられている額」、そして「維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容」を挙げています。さらに詳しい滞納状況や値上げの予定は、管理会社が発行する重要事項調査報告書を不動産会社を通じて取り寄せると分かります。
積立金が計画に対して不足しているマンションは、将来、大規模修繕ができずに劣化が進み、建て替えか売却かの議論に早く入ります。逆に、計画どおりに修繕が行われ、積立金に余裕があるマンションは、築年数が古くても長く住めます。築年数より先に、この数字を見ます。
出典: 国土交通省「長期修繕計画標準様式・長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の2)
新耐震かどうかと耐震診断の結果を確かめる
2つ目は耐震性です。建替え決議の要件が4分の3に緩和される5つの事由の1つが、地震に対する安全性の基準への不適合です。耐震性が足りていないマンションは、建て替えや敷地売却の議論に入りやすくなります。
見るのは、建築確認の日付です。国土交通省の資料は「新耐震基準の適用(昭和56年6月1日)以前に建築確認を受けている場合」という書き方をしており、1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物が新耐震基準で設計されています。全国の分譲マンションのうち、旧耐震基準のストックは2025年末で約103万戸あります。
耐震診断の結果も、購入前に説明されます。宅地建物取引業法施行規則は、昭和56年6月1日より前に新築の工事に着手した建物について、建築士などが行う耐震診断を受けているときはその内容を、重要事項として説明することとしています。旧耐震のマンションでも、診断で基準を満たしているか、耐震改修が済んでいれば、建て替えの議論に入る理由の1つが消えます。住み替え先で建て替えの話を避けたいなら、新耐震か、旧耐震でも診断と改修が済んでいる物件を選びます。
出典: 国土交通省「マンション管理の耐震性確保についてのパンフレット」(報道発表) 出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の4の3第5号)
総会の議事録で建て替えと大規模修繕の議論を読む
3つ目は、管理組合の議事録です。総会の議事録には、建て替えや大規模修繕、積立金の値上げ、耐震診断について、どんな議論があったかが残っています。
読むべき点は、区分所有法が建替え決議の招集通知に載せるよう求めている項目と重なります。建物の建替えを必要とする理由、建て替えをしない場合に建物の効用を維持・回復するのに要する費用の額とその内訳、修繕に関する計画の内容、修繕積立金として積み立てられている金額の4つです。総会資料にこの4つが並び始めていれば、そのマンションは建て替えの検討が具体化した段階にいます。
購入を検討する段階で、不動産会社を通じて管理組合に議事録の閲覧を求めます。直近3〜5年分を見ると(年数は目安です)、建て替えの勉強会が始まっているか、大規模修繕が予定どおり進んでいるか、積立金の値上げで揉めていないかが分かります。議事録は、築年数や見た目では分からない、管理組合の健康状態を映します。
出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第62条第7項)
要除却等認定と管理計画認定を不動産会社に確かめる
4つ目は、2つの認定です。マンションの再生等の円滑化に関する法律では、耐震性の不足など5つの事由のいずれかに当たるマンションについて、管理者等の申請により特定行政庁が「要除却等認定」をします。認定を受けたマンションは、容積率と高さの特例や敷地売却制度の対象になり、建て替えや売却の議論が制度の後押しを受けて進みます。
ここで注意したいのは、要除却等認定そのものは、宅地建物取引業法とその施行規則が定める重要事項説明の項目に入っていない点です(容積率と高さの特例の許可を受けている場合は、法令に基づく制限として説明の対象になります)。認定の有無は、不動産会社に調査を依頼し、管理組合にも確かめる形で押さえます。
もう1つの管理計画認定は、逆の意味を持ちます。マンションの管理の適正化の推進に関する法律に基づき、管理組合の管理者等が管理計画を作成して都道府県知事等の認定を受ける制度で、認定は5年ごとに更新します。更新が続いているマンションは、管理が機能していることの目安になります。築年数より、これらの認定と管理の状態で、次の30年を見通します。
出典: e-Gov法令検索「マンションの再生等の円滑化に関する法律」(第163条の56・第163条の59) 出典: e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(第5条の13〜第5条の16)
まとめ:建て替えは決議の前後で出口が変わるので、参加しないなら検討段階で動く
いちばん重いのは、選択肢の広さが段階で決まるという構造です。検討の段階なら通常の中古市場で売れます。建替え決議が成立すると出口は参加か時価の売渡しに絞られ、権利変換の段階では認可の公告から30日以内に転出を申し出るかどうかだけが残ります。2026年4月から5つの事由に当たれば4分の3で決議できるようになったので、「うちは決まらない」という前提で待つ時間の余裕は、以前より小さくなりました。
次の一歩は、自分のマンションが5つの事由のどれかに当たるかを、管理組合の耐震診断や劣化診断の結果で確かめることです。ここを飛ばすと、決議の招集通知が届いてから2か月で賛否を決め、決議後は催告から2か月で回答することになり、査定を取る時間も、住み替え先を探す時間も足りなくなります。
そのうえで、決議前の査定額を複数の不動産会社から取り、直近の平均負担額1,941万円という水準と並べて、参加と転出のどちらが自分に合うかを確かめます。この2つが揃えば、決議の前に動くか後に回すかを、自分の数字で選べます。住み替えのトビラでは、マンションの建て替えと住み替えの選び分けも含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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