隣の住戸の騒音が続くと、この家を出たいという気持ちがふくらみます。
分譲マンションでは賃貸のようにすぐには出られないので、記録を残して管理組合や公的な窓口へ相談するなど、打てる手を先に試すと負担を抑えられます。
動く前に踏む順序と、それでも離れるときに買主へ伝えること、そして次の住まいで繰り返さない見極め方まで説明します。
隣人トラブルで引っ越したいと感じたときにまず整理すべきこと
隣人トラブルで引っ越したいと感じたら、動く前に整理しておきたいことが2つあります。1つは、トラブルがどのくらい深刻かです。もう1つは、取れる手が所有者と賃貸入居者で違うという点です。感情がピークのまま売却へ走る前に、この2つを押さえると選択肢が見えてきます。
引っ越し(売却)は後戻りしにくい最終手段
「今すぐ出たい」と感じるのは、それだけつらい状況だからです。その気持ちは否定されるものではありません。ただ、所有者にとって「離れる」とは、家を売るか貸すかを意味します。どちらも費用と段取りがかかり、新しい住まいでも近隣との関係はゼロから始まります。
売却は一度動くと後戻りがしにくい選択です。だからこそ、取り返しがつくうちに一度立ち止まる価値があります。引っ越しを最後の選択肢として残しつつ、その前に打てる手を先に試すほうが、結果として負担の少ない道になりやすいです。
なお、賃貸にお住まいの方の場合は、違約金・原状回復・引っ越し費用が原則として自己負担で、相手や大家への費用請求は因果関係の立証が難しいのが実情です。ただし、これは賃貸入居者の話です。分譲マンションを所有する方には、そもそも違約金を払って出るという選択肢がなく、離れるには売却か賃貸に出すかの段取りが必要になります。
分譲マンション所有者と賃貸入居者で取れる手が違う
トラブルへの対処は、住まいが所有か賃貸かで根本的に変わります。分譲マンションの所有者は、管理組合・理事会・管理会社が正規の相談ルートになります。離れる場合は売却になり、その際は買主への告知が論点になります。
一方、賃貸入居者は管理会社や大家が相談先で、退去という形で離れられます。以降は、分譲マンションを所有して住む方に向けて進めます。賃貸にお住まいの方は、費用や退去に関わる部分を参考程度に読んでください。
引っ越す前にできる対処と相談窓口
多くのケースでは、引っ越しの前に打てる手があります。第一歩は、トラブルを記録に残すことと、適切な窓口に相談することです。自力で相手に直談判すると、かえって関係がこじれやすくなります。第三者を間に立てる流れをとると、感情的な衝突を避けながら状況を動かせます。
トラブルの記録の残し方(証拠化)
後の相談や交渉、売却時の告知の判断で、よりどころになるのが記録です。
騒音であれば、いつ・何時ごろ・どのくらいの時間続いたかを、日付とともにメモに残します。可能なら、スマートフォンなどで音を録音しておくと状況が伝わりやすくなります。嫌がらせやゴミの放置なら、写真を撮り、日付と気づいたことを書き添えます。
記録は、次のような場面で役立ちます。
- 管理組合や管理会社に相談するとき、状況を具体的に伝える材料になる
- 弁護士や警察に相談するとき、被害の実態を示す資料になる
- 売却の際、買主に何をどこまで伝えるかを判断する手がかりになる
その場の感情ではなく、事実を淡々と積み上げることがポイントです。単発の出来事より、継続して起きていることが分かる記録のほうが、相談相手に状況が伝わります。まずは記録から始めておくと、この先どの道に進んでも役立ちます。
管理組合・管理会社を通じて動かす(分譲マンションの正規ルート)
分譲マンションでトラブルが起きたら、個人で相手に直談判せず、管理組合・理事会・管理会社を通じて動かすのが原則です。
建物の区分所有等に関する法律第6条第1項は「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」と定めています。騒音や共用部分への私物の放置などは、この共同の利益に反する行為の例として挙げられることがあります。同条第3項により、この規定は区分所有者以外の専有部分の占有者(賃借人など)にも準用されます。迷惑行為をやめてもらう根拠は、法律の側にも用意されているということです。
多くのマンションでは、管理規約や使用細則で、生活音・楽器の演奏・ペットの飼育などについて、禁止事項や条件を定めています。国土交通省は、そのひな型として「マンション標準管理規約」を公開しています。まずは、自分のマンションの規約や細則で、該当する行為がどう扱われているかを確認するとよいです。
管理組合や管理会社を通じた対応は、掲示板での注意喚起や全戸への文書配布など、特定の住戸を名指ししない段階的な形から始めるのが通例です。誰か一人を名指しすると、逆恨みを招きかねません。全体への呼びかけで様子を見て、収まらなければ対応を強めてもらう流れが、こじれにくいやり方です。
なお、戸建てでは自治会や町内会が一次的な相談窓口になりますが、分譲マンションではこの役割を管理組合が担います。所有者にとっては、管理組合こそが最初に頼るべき正規のルートです。
自治体・警察#9110など外部の相談先
管理組合や管理会社を通じても収まらないときは、外部の公的な窓口や専門家に相談する道があります。
騒音・ごみ・悪臭などの生活環境の問題は、市区町村の生活相談窓口が受け付けています。緊急ではないものの警察に相談したいときは、全国共通の警察相談専用電話「#9110」があります。かけた地域を管轄する警察の相談窓口につながり、生活の安全に関わる悩みごとを相談できます。身の危険を感じるような緊急のときは、迷わず110番してください。
出典: 警察庁 ご意見、各種相談・情報提供等(警察相談専用電話#9110の案内)
被害が深刻で、慰謝料の請求や法的な手続きが視野に入る場合は、弁護士への相談が選択肢になります。初回相談を無料や低額で受けている事務所もあるため、まずは進め方や見通しを聞いてから判断するとよいです。
管理組合の対応でも収まらない極端な場合には、区分所有法に定められた法的手段が最終手段として存在します。具体的には、行為の停止を求める請求(第57条)、専有部分の使用禁止の請求(第58条)、区分所有権の競売の請求(第59条)、占有者に対する引渡しの請求(第60条)です。
ただし要件は厳しく設けられています。たとえば競売の請求(第59条)は、「共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」に限り、集会の決議に基づき訴えをもって請求できるとされています。実際に使われる場面は極めて限られます。あくまで、こうした制度が法律上は用意されている、という位置づけで理解しておくとよいです。
それでも売って離れる場合の告知義務
分譲マンションには、売却して離れる選択肢があります。ただし区分所有である以上、賃貸のようにすぐ出られるわけではなく、売るには買い手・価格・引渡しの段取りが要ります。そして売却では、隣人トラブルを買主に伝える告知が論点になります。ここでは、売れ方への影響と告知の考え方を順に見ていきます。
隣人トラブルを抱えた家は売却で離れられるのか(売れ方への影響)
隣人トラブルがあっても、家を売ること自体はできます。ただし、買主にどう伝えるかによって、売れ方に影響が出ることがあります。
売り方には大きく2つあります。1つは不動産会社の仲介で、一般の買主を探す通常の売却です。もう1つは、不動産会社が事情を承知のうえで直接買い取る買取です。買取は事情を織り込んだ価格になりやすい一方、早く手放しやすい面があり、どちらが向くかは急ぎ具合や希望価格によって変わります。
なお、買取価格が仲介で売れる相場の何割になるかを業者横断で集計・公表している公的機関・業界団体はありません。国土交通省の不動産系統計にも、レインズの公表統計にも買取価格の区分がないためです。業界で語られる目安は仲介相場のおおむね6〜8割ですが、出所を示せる数字ではありません。まして隣人トラブルという事情を織り込んだ価格がどれだけ下がるかは、集計値がまったくありません。
分譲マンションは区分所有のため、売る場合も買い手・価格・引渡しの段取りが必要で、賃貸のように即座に離れることはできません。大切なのは、隣人トラブルという事情を伏せて高く売ろうとすると、次に述べる告知の問題につながる点です。売れるかどうかに加えて、どう伝えて売るかまで含めて考える必要があります。
環境的瑕疵・心理的瑕疵として告知の対象になりうる考え方
建物そのものに欠陥がなくても、住み心地に影響する事情は、買主の判断を左右します。だからこそ、こうした事情をどう伝えるかが問題になります。
不動産の取引では、宅地建物取引業法にもとづき、買主の判断に重要な事実を売主側から告げる仕組みがあります。これを重要事項説明といいます。住み心地に関わる事情は心理的瑕疵、近隣に由来する事情は環境的瑕疵と呼ばれることがあり、隣人トラブルは「買主の判断に重要なら告げる」という考え方の周辺に位置します。
ここで混同しやすい点に触れておきます。国土交通省が示した「人の死の告知に関するガイドライン」は、その名のとおり物件で起きた人の死をどう告げるかを整理したもので、隣人トラブル一般を直接定めたものではありません。「隣人トラブルがあれば必ず告知義務がある」と読み替えられるものではない点に注意してください。
出典: 国土交通省 宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドラインについて
どこまでが告げるべき事情にあたるかは、トラブルの深刻さや継続性、買主の判断への影響度によって変わります。一律の線引きはなく、個別に見て判断される領域だと理解しておくとよいです。
告げずに売った場合のリスクと、判断に迷うときの相談先
自分が知っている重要な事情を告げずに売ると、後から契約解除や損害賠償に発展するおそれがあります。
買主が「知っていれば買わなかった」と言えるような重要な事情を伏せていた場合、売主が不利になる可能性があります。目先の売りやすさのために事情を隠すのは、かえってリスクを大きくします。
一方で、すべての小さな出来事を漏れなく告げる必要があるわけでもありません。どこまで告げるべきかの線引きは個別性が高く、素人判断が難しいところです。判断に迷うときは、取引を担う宅地建物取引士に相談し、必要に応じて弁護士の助言も受けるのが安全です。
次の住まいで隣人トラブルを繰り返さないための見極め
次の住まいでは、物件そのものに加えて、住民の様子や管理の状態を事前に確かめると、再発のリスクを下げられます。分譲マンションを選ぶなら、構造や部屋の位置に加えて、管理組合がきちんと機能しているかまで見ておきたいところです。ここでは、内見での確認点と、音のリスクを下げる視点を整理します。
内見・下見で確認すること(時間帯・曜日・共用部の管理状態)
一度の内見では分からないことが多いため、昼と夜、平日と休日で時間帯を変えて複数回見るのが有効です。
昼間は静かでも、夜は隣の生活音が響くことがあります。平日は落ち着いていても、休日は近隣がにぎやかになる場合もあります。壁ぎわで耳を澄ませると、生活音の伝わり方をある程度感じ取れます。
共用部には、そのマンションの管理と住民の様子が表れます。ゴミ置き場が乱れていないか、共用廊下や駐輪場が整理されているか、掲示板に騒音やマナーへの注意書きが目立っていないかを見ておきましょう。掲示や使用細則が整い、共用部が手入れされているマンションは、管理組合が機能している手がかりになります。
構造・部屋の位置で音のリスクを下げる視点
建物の構造や部屋の位置によって、音の受けにくさは変わります。
一般に、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造は、木造に比べて音が伝わりにくいとされます。ただし、足音や物を落とす音などの床衝撃音は、コンクリートの床を通じて上下階に伝わることがあり、構造だけで静かさが決まるわけではありません。隣り合う住戸が少ない角部屋や最上階は、上下左右からの音を受けにくい傾向があります。
床衝撃音には、食器を落とすような軽く硬い音(軽量床衝撃音・LL)と、子どもが飛び跳ねるような重く低い音(重量床衝撃音・LH)があります。遮音等級は、一般に数字が小さいほど性能が高いとされますが、これらはあくまで目安であり、実際の伝わり方は物件によって差が大きいです。数値だけを頼りにせず、内見で自分の耳で確かめることが大切です。
そして、構造と同じくらい住み心地を左右するのが、管理の良し悪しです。管理規約や使用細則が整い、修繕積立金がきちんと積み立てられ、共用部が手入れされているかは、管理組合の健全性を映します。物件の間取りや価格に加えて、こうした管理の状態まで含めて選ぶと、穏やかな暮らしにつながりやすくなります。
まとめ:隣人トラブルで売る前に手を尽くすなら、住み替えのトビラ
隣人トラブルで住まいを移すかどうかは、売る前に打てる手を試したかで変わります。所有している以上、出ていくにも費用と段取りがかかるためです。
出ていく前に、いつ何が起きたのかを書き留めておきます。記録が無いと、管理組合へ相談しても話が進まず、買主への説明でも根拠を示せません。
売りに出すことを考える前に、その記録を持って相談できる窓口を当たっておきましょう。住み替えのトビラでは、隣人トラブルから離れる進め方も含めて、住み替え(買い替え)で悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
住み替えのトビラ 
