管理組合の理事長を務めている途中で住み替えが決まると、「理事長のまま売っていいのか」と迷う人もいるでしょう。
実は、理事長の任期中でもマンションは売れ、理事長の役は部屋を買主に引き渡す日に自動で終わります。
理事長を務めながら住み替える人に向けて、任期満了まで待つ損得と、住民との関係を保ったまま後任へ引き継ぐ手順を説明します。
理事長の任期中でも売れる。売れば理事長の役は自動で終わる
理事長を務めている人も、ほかの住民と同じように自分の部屋を売れます。
部屋を売れば、理事長の役も、管理規約の決まりによって自動で終わります。
部屋を売るのは持ち主の自由。標準管理規約も売ることを前提にしている
理事長の任期中でも、部屋を売るかは持ち主本人が自由に決められます。
民法は、持ち主が自分の物を自由に使ったり売ったりできると定めています(第206条)。管理組合の役員を務めていても、この決まりは同じように当てはまります。
多くのマンションは、国土交通省の「マンション標準管理規約」を手本にして、自分たちの管理規約を作っています。
この手本には、役員が部屋を売ったときに役員の地位がどうなるかが書かれています。つまり手本の規約も、役員が任期中に部屋を売ることを前提にしています。
ただし、管理規約の中身は、マンションごとに総会で書き足したり変えたりできます。自分のマンションの管理規約で、役員について書かれた章を一度読んでおきましょう。
読んでいてわかりにくい書き方があれば、管理会社に「理事長の任期中に売るとどうなるか」を聞いておくと安心です。
持ち主が買主に変われば、売った人は組合員の資格と役員の地位を失う
部屋を売った理事長は、辞任届を出さなくても、組合員の資格と一緒に役員の地位も失います。
役員の地位を失うまでの流れは、標準管理規約の3つの条文に書かれています。起きる順に並べると、次の表のようになります。
| 起きること | 根拠の条文 |
|---|---|
| 部屋の持ち主(区分所有者)が買主に変わる | ー |
| 売った人が、管理組合の組合員の資格を失う | 第30条 |
| 売った人が、役員(理事)の地位を失う | 第36条第4項 |
| 理事の中から選ばれていた理事長の役も終わる | 第35条第3項 |
管理組合は、部屋の持ち主全員で作る集まりです。そのため売った人は、部屋の持ち主が買主に変わった時点で、組合員の資格を失います。
第36条第4項は、役員が組合員でなくなったときは、役員の地位も失うと定めています。役員の地位を失う日は、組合員の資格を失う日と同じです。
理事長は、理事会が理事の中から選ぶ役です。そのため、理事の地位を失った人は、同時に理事長の役も終えることになります。
理事長の役が終わる日は、本人や理事会が決めるのではなく、部屋の持ち主が買主に変わる日で決まります。
出典: 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正・単棟型の第30条・第35条・第36条)
「先に辞任すれば身軽になる」は誤解。理事長の役が終わる3つの場合
理事長の役が終わる日は、部屋を売る・先に引っ越す・自分から辞任するの3つの場合で違います。
3つの場合ごとに、役が終わる日と、それまでの務めを比べると次のようになります。
| 場合 | 理事長の役が終わる日 | 自分でする手続き | それまでの務め |
|---|---|---|---|
| 部屋を売る | 引渡しの日 | なし(自動で終わる) | 引渡しの日まで続く |
| 先に引っ越す | ・規約しだい ・住んでいることが役員の条件なら、引っ越した日 | 規約しだい | 規約しだい |
| 自分から辞任する | ・後任の理事長が決まった日 ・その前に引渡しを迎えれば、引渡しの日 | 辞任を申し出る | 後任が決まるまで続く |
3つのうち、部屋を売る前に理事長の役が終わることがあるのは、先に引っ越した場合です。自分から辞任しても、後任が決まるまでは理事長の務めが続きます。
部屋を売った場合は、引渡しの日に役が終わる。契約から引渡しまではまだ理事長
部屋を売った理事長は、売買契約の日ではなく、買主に部屋を引き渡す日に理事長の役を終えます。
部屋の持ち主が買主に変わるのは、ふつう引渡しの日だからです。引渡しの日には、売主が買主から残りの代金を受け取って鍵を渡し、部屋の名義を買主に移す手続きをします。
売り出しを始めた日や売買契約を結んだ日には、部屋の持ち主はまだ理事長本人なので、理事長の役も続きます。
売買契約から引渡しまでは、買主の住宅ローンの手続きなどで、しばらく間があくのがふつうです。その間も理事長は、理事会に出たり書類に判を押したりする務めを続けることになります。
この期間に理事長が気をつけたいのは、修繕積立金の値上げのように、住民の賛否が分かれる議案です。売る予定の理事長が値上げに反対すると、「売る前に負担が増えるのを避けたいのでは」と疑われるおそれがあります。
こうした議案を理事会で話し合う前に、売却の予定を伝えておきましょう。予定を知らせたうえで話し合えば、あとで売却を知った住民から疑われるのを防げます。
先に引っ越した場合、規約に居住の条件があれば売る前に役が終わることがある
規約に「役員はマンションに住む組合員から選ぶ」という条件があると、理事長は部屋を売る前でも、引っ越した時点で役を終えることがあります。
標準管理規約は、2011年(平成23年)に改正されるまで、役員をマンションに住んでいる組合員から選ぶとしていました。いまの手本でも、この条件をマンションごとに加えてよいとされています。
例えば、理事長を務めるAさん(架空の人物)は、新しい家を先に買って引っ越し、そのあとで今の部屋を売る「買い先行」で住み替えます。規約にこの条件があれば、Aさんは今の部屋が売れる前でも、新居に移った月に理事長の役を終えることがあります。
買い先行で住み替える人は、自分のマンションの管理規約で、役員の条文に「居住する」という言葉があるかを見ておきましょう。その言葉があれば、引っ越したあとの理事長の務めについて、管理会社に聞いておくと安心です。
出典: 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正・単棟型コメントの第35条関係)
自分から辞任した場合は、後任が決まるまで務めが続く
理事長は、自分から辞任を申し出ても、後任が決まるまで務めを続けることになります。
標準管理規約の第36条第3項が、辞任した役員にも、後任の役員が就任するまで職務を続けるよう定めているためです。売ると決めてすぐに辞任しても、身軽になれるのは後任が決まってからです。
後任がなかなか決まらなければ、務めは結局、引渡しの日まで続きます。一方、引渡しの日を迎えれば、後任が決まる前でも理事長の役は自動で終わります。
それでも辞任を申し出ておくと、理事会は後任選びを早めに始められます。売ると決めたら、売却の予定と辞任の意向を、理事会へ一緒に伝えるとよいでしょう。
出典: 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正・単棟型の第36条)
任期満了まで待つべきか。住み替えの損得で決める
部屋を売る時期は、任期満了まで待つ得と損を比べて決めましょう。
標準管理規約では、役員の任期を1〜2年の範囲で決めるとしています。任期の残りが数か月なら、任期が終わってから売ろうかと迷う人も多いでしょう。
任期満了まで売るのを待つ場合の得と損を並べると、次のとおりです。
| 比べる点 | 待つ得 | 待つ損 |
|---|---|---|
| お金 | 得は小さい | 今の部屋のローンや管理費を払う期間が延びる |
| 手間と予定 | いつもの手順で後任に引き継げる | 新居の入居日や子どもの転校の時期に遅れることがある |
| 気持ち | 任期を最後まで務められる | 売れるまでの不安が長引く |
任期の残りが短く、住み替えの予定に余裕がある人ほど、待つ損が小さく、任期満了まで待つほうが合っています。
出典: 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正・単棟型コメントの第36条関係)
待つ得は、いつもの手順で引き継げて、住民と気まずくなりにくいこと
理事長が任期の終わりまで務めれば、毎年の役員交代と同じ手順で、後任に引き継げます。
多くのマンションでは、通常総会のあとの理事会で、次の理事長がいつもどおり選ばれます。後任選びを理事会に急いで頼む手間は、途中で抜ける場合にだけかかります。
もう一つの得は、住民との関係です。売る人は引渡しの日まで、マンションの住民とエレベーターやゴミ置き場で顔を合わせます。任期を務め上げていれば、住民とも気持ちよく挨拶を交わせるでしょう。
待つ得がとくに大きいのは、大規模修繕の工事中や管理会社の見直しの最中など、理事会が大きな案件を抱えている時期です。こうした時期に理事長が代わると、業者との話し合いが途切れやすくなります。
任期の残りが2〜3か月ほどで、売るのを急ぐ事情もなければ、任期満了まで待つとよいでしょう。
待つ損は、二重の支払いが長引くことと、住み替えの予定や売値への影響
買い先行で住み替える人は、売るのを待つほど、今の部屋と新居の支払いが重なる期間が延びます。
新居のローンを払い始めたあとも、今の部屋が売れるまでは、そのローンや管理費を払い続けるからです。
今の部屋を先に売る「売り先行」でも、売るのを待てば、そのぶん住み替え全体の予定が後ろにずれます。新居への入居日や子どもの転校、転勤の日など、動かせない予定がある人は、待つのは難しいでしょう。
任期満了を待ってから売り出すと、売れるまでにさらに数か月かかることもあります。その間も建物は古くなり、一般に築年数が進むほど売値は下がりやすくなります。
任期を最後まで務めることは、住民への気づかいとして大切です。ただ、住み替えの時期を決めるときは、二重の支払いや予定のずれを先に考えるとよいでしょう。
間をとるなら、売り出しは今、引渡しは任期満了の後にする
売り出しを今すぐ始め、引渡しの日だけを任期満了のあとにすれば、理事長は任期を最後まで務めながら住み替えを進められます。
理事長の役が終わるのは引渡しの日なので、売り出しや売買契約が任期中にあっても、理事長はそのまま務めを続けられます。
引渡しの日は、毎年の通常総会のあとにしておくと安心です。多くのマンションでは、通常総会で次の役員を選びます。
標準管理規約では、通常総会を毎年1回、新しい会計年度が始まってから2か月以内に開くとしています(第42条)。
ただし、引渡しの日は売主と買主が話し合って決めます。早く引っ越したい買主からは、売主の希望より早い引渡しを求められることもあります。
売り出しの時点で、不動産会社に「引渡しは○月以降を希望」と伝えておくとよいでしょう。不動産会社は、その条件を受け入れられる買主を探してくれます。
出典: 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正・単棟型の第42条)
売ると決めてから引渡しまで。理事長がやることを時系列で
任期中に売ると決めた理事長がやることは、引渡しまでに4つあります。
| 時期 | 理事長がやること |
|---|---|
| 売り出しを決めたとき | 理事会に自分から伝える |
| 後任選びの間 | 理事会に後任の理事長を選んでもらう |
| 売買契約から引渡しまで | 預かっている物と、進んでいる案件の記録を後任に渡す |
| 引渡しの日 | 組合員の資格を失った届けを出す |
このうち後任の理事長を選ぶのは理事会で、理事長が自分で進めるのは、理事会への連絡と引き継ぎ、届出の3つです。
売り出しを決めたら、理事会に自分から伝える。売却はいずれ管理組合に伝わる
売り出しを決めたら、ほかの住民が人づてに知る前に、理事長が自分で理事会に伝えておきましょう。
「理事長が売るらしい」と人づてに聞いた住民は、理事長から先に聞きたかったと感じるでしょう。
しかも売却は、理事長が黙っていても、いずれ管理会社や管理組合に伝わります。不動産会社は、管理費や修繕の予定を買主に説明するために、「重要事項調査報告書」という書類を使います。
この書類は、売主側の不動産会社が管理会社に作成を頼むのが一般的です。管理会社は、この依頼で部屋が売りに出たことを知ります。住民だけで管理している自主管理のマンションなら、依頼は管理組合に直接届きます。
早く伝える理由は、もう一つあります。理事会が後任の理事長を選ぶまでに、時間がかかりやすいことです。
国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、調査に答えた世帯のうち、世帯主が70歳以上の割合は25.9%でした。1984年以前に完成したマンションに限ると、この割合は55.9%にのぼります。
住民の年齢が高いマンションでは、役員を引き受けられる人が限られ、後任選びに時間がかかることもあると考えられます。
理事会に売却を伝えるときは、まず副理事長に話すのが近道です。副理事長は、理事長が欠けたときに代わりに職務を行う役です。
副理事長には、次の3つをまとめて伝えるとよいでしょう。
- 部屋を売る予定
- 引渡しの見込みの時期
- 引き継ぎをきちんと行うこと
引き継ぎを約束しておけば、ほかの役員も安心して後任選びを始められます。
出典: 国土交通省「高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に~令和5年度マンション総合調査結果(とりまとめ)~」
出典: 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正・単棟型の第39条)
後任は理事の中から理事会で選ばれる。決まるまでは副理事長が代わりを務める
理事長の後任は理事会が選ぶので、売る人は後任探しを理事会に任せられます。
標準管理規約の第35条第3項は、理事長を理事会が理事の中から選ぶと定めています。理事長が抜けると理事も一人減るため、欠けた理事は総会で新しく選ぶのが基本です。
規約に定めがあれば、転出などで欠けた役員の補欠を、理事会の決議で選べる場合もあります。補欠の役員の任期は、前の役員の任期の残りと同じです(第36条第2項)。補欠の選び方は、管理規約の役員の章に書かれています。
なお、部屋を買った人は、新しい組合員として管理組合に加わります。買った人が理事長や理事になるのは、総会や理事会で選ばれたときに限られます。
後任がすぐに決まらない場合も、売却はそのまま進められます。理事長が欠けたときは副理事長がその職務を行うと、第39条で決まっているためです。
出典: 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正・単棟型の第35条・第36条・第39条と第36条関係コメント)
引渡しまでに、通帳や印鑑を渡し、進んでいる案件の経過は書面で伝える
理事長は引渡しの日までに、預かっている物と、進んでいる案件の記録を後任に引き継いでおきましょう。
通帳や印鑑が前の理事長の手元に残ると、管理組合の支払いや預金の手続きが止まります。前の理事長が業者とのやり取りを一人で抱えたまま抜けると、工事などの話し合いも途切れます。
理事長が預かっていることの多い物は、次のとおりです。
- 管理組合の通帳
- 銀行に届けている印鑑と、理事長の印鑑
- 集会室や倉庫など、共用部分の鍵
- 管理会社や工事業者との契約書
- 総会・理事会の議事録、規約や細則の原本
- 業者の連絡先や見積書
物を渡すときは、上の一覧に渡した日付を書き、後任にサインをもらっておくと安心です。あとで受け渡しの食い違いが起きるのを防げます。
進んでいる案件の経過は、メモにまとめて渡しましょう。メモに書くのは、工事の予定や住民からの苦情、業者との話し合いの途中経過などです。口で伝えるだけでは、細かい点が後任に伝わりにくくなります。
管理組合の口座の代表者を新しい理事長に変える手続きは、後任が議事録などを使って銀行で行うのが一般的です。前の理事長が議事録の写しなどを渡しておけば、後任はすぐに手続きできます。
管理組合が法人の場合は、組合を代表する理事が代わったら、2週間以内に変更の登記が必要です。
通帳や印鑑と案件のメモを引き継いでおけば、後任の理事長は、引渡しのあとも管理組合の仕事を滞りなく続けられます。
出典: e-Gov法令検索「組合等登記令」(第2条・第3条)
引渡しの日に、組合員の資格を失った届けを出せば手続きは終わり
売った人は、引渡しの日に組合員の資格を失ったことを管理組合に届け出れば、理事長としての手続きを終えられます。
標準管理規約の第31条は、組合員の資格を得た人と失った人に、すぐ書面で管理組合に届け出るよう定めています。
届出書のひな形も標準管理規約に付いていて、部屋を手に入れた人と手放した人の欄が1枚にまとまっています。届出書の出し方を管理会社や不動産会社に前もって聞いておくと、引渡しの日に落ち着いて手続きできます。
理事会への連絡は売り出しを決めた時点で済ませ、引き継ぎは引渡しの前に終えておきましょう。そうすれば理事長の任期中でも、住民との関係を保ったまま住み替えられます。
出典: 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正・単棟型の第31条)
まとめ:理事長の任期中でも売れる。理事長の役は引渡しの日に終わる
理事長の任期中でもマンションは売れ、理事長の役は部屋を買主に引き渡す日に自動で終わります。任期満了まで待つかは、二重の支払いや住み替えの予定と比べて決められます。
売り出しを決めたら、まず副理事長に売却の予定と引渡しの見込みを伝えましょう。伝えるのが遅れると、住民が人づてに売却を知ったり、後任選びが引渡しの直前にずれ込んだりするおそれがあります。
あわせて、自分のマンションの管理規約で、役員の条文に居住の条件があるかも確かめておきたい点です。住み替えのトビラでは、管理組合の理事長の任期中にマンションを売るときの段取りも含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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