マンション建替えに反対したらどうなる?2026年改正区分所有法と売り時

マンション建替えに反対したらどうなる?2026年改正区分所有法と売り時

管理組合の総会で「建替えの検討」が議題に上ったとき、反対したら自分の部屋はどうなるのでしょうか。

2026年4月の法改正で、不具合のあるマンションでは、4分の3の賛成で建替えを決められるようになりました。

建替えの話が出たマンションを持ち、住み替えも考えている人に向けて、反対と参加のお金と期限、売る時期の決め方を説明します。

2026年改正で、建替えを止めるのに必要な反対票が増えた

2026年4月に施行された改正区分所有法で、建替えに反対する人は、以前より建替えを止めにくくなりました。

区分所有法は、マンションの持ち主どうしのルールを決めた法律です。今回の改正では、建替えについて次の2つのルールが変わりました。

  • 不具合のある建物は4分の3の賛成で建替えを決められる
  • 連絡のつかない所有者を決議の数から外せる

どちらの変更でも、建替えを進めたい人は、必要な賛成の数を集めやすくなります。

100戸のマンションなら、建替えを止めるのに必要な反対が21戸から26戸に増えた

建替えに必要な賛成の割合が5分の4から4分の3に下がった建物では、建替えを止めるのに必要な人数がその分増えます。

建替えは、管理組合の総会(法律では「集会」)で決議して決めます。建替えの決議には、所有者の人数と議決権(持ち分に応じた票)の両方で、5分の4以上の賛成が必要です。

改正後も、この5分の4が原則です。ただし、地震に弱いなど5つの不具合のどれかがある建物では、4分の3以上の賛成で建替えを決められます。

この特例は2026年4月1日に始まりました。改正後のルールは、すでに建っているマンションにも当てはまります。

1戸に所有者が1人、1票ずつとして計算すると、建替えを止めるのに必要な人数は次のとおりです。

総戸数止めるのに必要な人数(改正前・5分の4)止めるのに必要な人数(改正後・4分の3)
50戸11戸13戸
100戸21戸26戸
200戸41戸51戸

止めるのに必要な人数には、反対票を入れた人に加え、欠席して賛成票を出さなかった人も含まれます。100戸のマンションなら、反対と欠席を合わせて26戸あれば、4分の3で決められる建物の建替えも止められます。

出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第62条 建替え決議)

「4分の3」で決まるのは、5つの不具合のどれかを抱えるマンション

建築士などの調査で5つの不具合のどれかが確かめられたマンションでは、所有者の4分の3の賛成で建替えを決められます。

5つの不具合の中身は、2026年3月に法務省が出した告示(法律を補う細かい決まり)で、次のように定められています。

不具合当てはまる状態(告示の要点)
地震に弱い耐震診断で、地震への安全性が基準を下回る
火事に弱い燃えにくい構造や避難階段などが、防火・避難の決まりを満たしていない
外壁がはがれ落ちるおそれ外壁・廊下・バルコニーなどで、ひび割れやコンクリートの浮き、鉄筋のむき出しが一定の割合を超える
配管の傷み床のコンクリートに埋め込まれた排水管などで、2か所以上の水漏れが確かめられた
バリアフリーが不十分入口から各住戸まで、車いすで通れる通路がない(段差があってエレベーターもない、廊下の幅が120cm未満など)

どの不具合にも、建物を調べればわかる数値や状態の基準があります。役所の認定を受ける手続きはなく、建築士などの調査で基準に当てはまれば、4分の3で決議できます。

1981年5月以前の古い耐震基準(旧耐震基準)で建てられたマンションは、国土交通省の資料で約103万戸とされています。ただし、旧耐震の建物でも、「地震に弱い」に当てはまるかは耐震診断の結果しだいです。

古いマンションの持ち主が見落としやすいのは、「バリアフリーが不十分」に当てはまる場合です。エレベーターのない5階建てや共用廊下の狭いマンションは、地震に強くても当てはまる可能性があります。

出典: 法務省「建物の区分所有等に関する法律第六十二条第二項各号の基準等を定める件」(令和8年法務省告示第21号)

出典: 国土交通省「分譲マンションストック数の推移」

連絡のつかない所有者が、事実上の「反対票」ではなくなった

改正後は、裁判所が認めれば、連絡のつかない所有者を除いた残りの所有者だけで建替えを決議できます。

古いマンションほど、相続の手続きがされないままの部屋や、持ち主と連絡がとれない部屋が増えていきます。

これまでは、こうした持ち主も決議の数に入っていました。賛成票を出せないため、結果として反対した人と同じ扱いになっていたのです。

連絡のつかない所有者を除くには、ほかの所有者や管理者が裁判所に申し立てます。裁判所が認めると、その所有者は集会での議決権を失います。

例えば、100戸のうち5戸の持ち主と連絡がとれないとします。これまでは、連絡のとれる95戸のうち80戸の賛成が必要でした。

5戸を除くと、4分の3で決められる建物なら、建替えは95戸の4分の3にあたる72戸の賛成で決まります。5分の4のままの建物でも、必要な賛成は76戸に下がります。

そのため反対する側は、連絡のつかない持ち主を当てにせず、自分たちで反対の数を集めることになります。

出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第38条の2 所在等不明区分所有者の除外)

実際に建替えまで進むマンションは一握り

法律の上で建替えを決めやすくなっても、実際に建替えまで進むマンションはごく一部です。

建替えには多額の工事費がかかり、その費用を用意できるマンションに限って工事まで進むためです。

築40年超は約159万戸、建替えの実績は累計323件

建替えが実現した戸数は、築40年を超えるマンションの戸数の2%未満です。

国土交通省によると、築40年を超えるマンションは2025年末で約158.8万戸あります。20年後の2045年末には約503.6万戸と、3倍以上に増える見込みです。

一方、2025年3月31日時点で、建替えが実現したマンションは工事中のものも含めて累計323件、約2万6,000戸です。

建替えが実現した戸数がこれほど少ない状況は、決議に必要な賛成が4分の3に下がっても、すぐには変わらないと考えられます。多くのマンションは、修繕を重ねながら今の建物を使い続けることになるでしょう。

出典: 国土交通省「築40年以上の分譲マンション数の推移」

出典: 国土交通省「マンション建替え等の実施状況」

建替えが現実になるのは「立地がよく、今より大きく建てられる」マンション

今より大きな建物を建てられて、増えた部屋が高く売れるマンションでは、建替えが進みやすくなります。

建替えの費用は、基本的に所有者が出します。ただ、建替えで部屋を増やして外の人に売れば、その代金を工事費に回せます。そうなれば、所有者の負担は大きく減ります。

増やせる部屋の数は、「容積率」の余りで決まります。容積率とは、土地の広さに対して建ててよい床面積の上限です。今の建物の床面積が上限より小さければ、その差の分だけ部屋を増やせます。

もう一つの条件は、増やした部屋が高く売れる場所にあることです。駅に近い場所ほど新築の買い手が集まりやすく、増やした部屋の代金で工事費をまかないやすいと考えられます。

反対に、駅から遠い建物や容積率を使い切っている建物では、建替えの費用を集めにくいと考えられます。この点は、決議に必要な賛成が4分の3に下がっても同じです。

自分のマンションが「本当に建替えに進むか」を点検する

次の項目に多く当てはまるマンションほど、建替えの話が現実になりやすいと考えられます。

  • 1981年5月以前に建築確認を受けた旧耐震の建物
  • 地震・火事・外壁・配管・バリアフリーのどれかに不具合がありそう
  • 敷地の容積率に余りがある
  • 駅に近い、または大通りに面している
  • 管理組合に建替えの検討委員会や勉強会がある
  • デベロッパー(マンションを開発する会社)から建替えの提案が来ている
  • 次の大規模修繕で、修繕積立金の不足が見込まれる

デベロッパーから提案が来ているなら、開発会社は建替えで利益が出ると見込んでいると考えられます。修繕積立金が足りないマンションでは、修繕と建替えを比べる話し合いが始まりやすいといえます。

建築確認の時期や検討委員会の有無は、管理会社に聞くか総会の資料を見るとわかります。容積率の余りや、新築マンションとして売れる場所かは、不動産会社に聞くと教えてもらえます。

当てはまる項目が少なければ、建替えはまだ先の話と考えられます。その場合は、長期修繕計画で修繕積立金の値上げの予定を確かめておくとよいでしょう。長期修繕計画は、何年後にどの修理をするかを決めた計画で、管理組合が持っています。

反対した人は、最後は部屋を売り渡して出ていくことになる

建替え決議のあとも反対を続けた人は、決議からおよそ4か月のうちに、部屋を売り渡すことが決まります。

この手続きは、区分所有法63条に定められています。この章では、決議のあとに選べる道、届く書類と期限、明け渡しの決まり、日程の例を順に説明します。

決議が成立すると、反対した人に残る道は「参加」と「売り渡し」の2つ

建替え決議が成立したら、反対した人は次の2つのどちらかを選ぶことになります。

  • 考え直して建替えに参加する
  • 部屋を時価で売り渡して出ていく

参加すると答えた人は、賛成した人と同じ立場で建替えに加わります。参加を選ばなかった人は、法律の手続きに沿って、最終的に部屋を手放します。

そのため、反対の意見で決議の結果を変えたいなら、決議の前に動く必要があります。建替え決議をする集会の知らせは、少なくとも2か月前に届きます。集会の1か月前までには、説明会も開かれます。

知らせには、建替えが必要な理由のほか、建替えをしない場合の修繕費の見込みや修繕積立金の額が載ります。説明会や集会では、「建替えより修繕を」と意見を言ったり、ほかの所有者に呼びかけたりできます。

知らせが届いたら、修繕費の見込みを読み、建替えと修繕のどちらが自分にとって得かを考えておくとよいでしょう。

出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第62条 建替え決議・第63条 区分所有権等の売渡し請求等)

催告の書面から売渡し請求まで、反対した人に届く書類と期限

決議のあと、反対した人は「建替えに参加しますか」という書面に、2か月以内に答えることになります。

決議から明け渡しまでの流れと期限は、次のとおりです。

できごと期限
参加するかを尋ねる書面(催告)が届く決議のあと、すぐ
書面に答える受け取った日から2か月以内
「部屋を時価で売り渡して」という請求(売渡し請求)が届く回答の期限から2か月以内
代金と引き換えに部屋を明け渡す代金の受け取りと同時

書面に答えないまま2か月がたつと、「参加しない」と答えたものとして扱われます。黙っていても手続きは進むので、書面が届いたら、書かれている回答の期限をすぐに確かめておきましょう。

売渡し請求をするのは、賛成した人や参加すると答えた人です。その人たち全員が同意すれば、建替えを進める事業者などを買い手に決めて、その買い手から請求することもできます。

売渡し請求の対象は、部屋と、その部屋の分の敷地を使う権利の両方です。売渡し請求が届いた時点で、部屋の売買は成立したことになります。反対した人が「売りません」と答えても、結果は同じです。

出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第63条 区分所有権等の売渡し請求等)

売り渡しを拒んでも、裁判で権利は移る。明け渡しの猶予は最長1年

反対した人が売渡し請求のあとも明け渡しを拒むと、最後は裁判の判決で明け渡しを命じられます。

裁判は、売渡し請求をした側が起こします。裁判で主に争われるのは、部屋の代金にあたる時価の金額です。

一方で、反対した人を守る仕組みも2つ用意されています。

  • 明け渡しの猶予(最長1年)
  • 建替えが進まなかったときの買戻し

明け渡しの猶予は、裁判所が次の2点を認めたときに受けられます。1つは、明け渡すと生活がとても苦しくなることです。もう1つは、明け渡しを待っても建替えの進み具合に大きな影響が出ないことです。

猶予の長さは、代金を受け取った日から最長1年です。高齢で次の住まいがすぐに見つからない人などは、猶予を認められる可能性があります。

決議から2年たっても取壊しの工事が始まらないときは、売り渡した人が部屋を買い戻せます。買い戻すときは、受け取った代金と同じ額を払い、2年がたった日から6か月以内に申し出ます。ただし、工事の遅れに正当な理由があるときは、買戻しの対象外です。

出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第63条 区分所有権等の売渡し請求等)

決議から売り渡しが決まるまでの日程の例(仮の日付)

法律の期限どおりに進むと、決議から売り渡しが決まるまでの期間は、およそ4か月です。

次の例は、法律の期限をそのまま当てはめた仮の日程です。

日程の例(仮の日付で計算)

建替え決議が4月1日に成立し、催告の書面が4月10日に届いたとします。

回答の期限は、書面を受け取った日から2か月後の6月10日です。

売渡し請求の期限は、回答の期限から2か月後の8月10日です。

この例では、決議から売り渡しが決まるまで、最長で4か月と10日ほどかかります。

自分の場合は、書面を受け取った日に2か月を足すと、回答の期限がわかります。そこにさらに2か月を足した日が、売渡し請求が届く最も遅い日です。実際の日付は、届いた書面に書かれた期限で確かめておきましょう。

決議のあとに考えられる時間は、数か月です。建替えの話が出たら、決議の前から、参加した場合と売り渡した場合の手元のお金を計算しておくと安心です。

出典: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(第63条 区分所有権等の売渡し請求等)

反対した人が受け取る「時価」は、今の売却相場とは別のものさしで決まる

売渡し請求の「時価」は、今の中古相場より高くなることも、安くなることもあります。

時価は、建物の古さより、土地の値打ちをもとに計算されるためです。

反対を考えている人にとって、売り渡したときに受け取る金額は大事な判断材料です。この章では、時価の決まり方と試算、手取りの計算、金額に納得できないときの対応を順に説明します。

時価は「古いマンションの値段」ではなく「建替えを前提にした値段」

売渡しの時価は、「建替え決議があった」という前提で、その部屋を売り買いしたときの値段だと考えられています。

建替えが決まった建物は、いずれ取り壊されます。そのため時価は、建物よりも土地の値打ちを中心に計算されます。

国土交通省のマニュアルでは、時価の計算の基本的な考え方が次のように説明されています。

時価の基本的な考え方

1棟全体の値段=敷地を更地にしたときの土地の値段-今の建物の取壊し費用

各部屋の値段=1棟全体の値段×その部屋の割合(広さに、階や向きの差を加えて調整)

つまり、同じ築年数の部屋でも、土地の値打ちが高い場所ほど時価は高くなります。

ただし、時価には、引っ越しや生活の立て直しにかかる費用の補償は含まれないと考えられています。また、時価の計算のしかたには決まった公式がなく、見方の違いから争いになることも多いとされています。

出典: 国土交通省「第1章 マンション建替えに係る法律上の手続き」(②売渡し請求における時価)

相場1,500万円の部屋は、売り渡すといくらになるか(試算)

仮の数字で計算すると、相場1,500万円の部屋の時価は、土地の値段しだいで550万円にも2,300万円にもなります。

この試算の数字はすべて、考え方を示すための仮の値です。試算の条件は次のとおりです。

  • 敷地の広さは1,000㎡
  • 戸数は40戸(すべて同じ広さ)
  • 今の建物の取壊し費用は8,000万円
  • 同じ建物の中古相場は1戸1,500万円

土地の値段が違う2つの場所で、1戸あたりの時価を比べると次のようになります。

駅近の都心郊外
土地1㎡の値段100万円30万円
敷地の更地の値段10億円3億円
取壊し費用-8,000万円-8,000万円
1棟全体の値段9億2,000万円2億2,000万円
1戸あたりの時価2,300万円550万円
中古相場との差+800万円-950万円

同じ古さ、同じ広さの部屋でも、土地の値段しだいで時価は4倍以上違います。反対して売り渡すと、都心の例では中古として売るより得になり、郊外の例では損になる計算です。

ただ、郊外のように土地が安い場所では、増やした部屋も高くは売れないため、そもそも建替えの話が進みにくいと考えられます。

自分のマンションで目安を計算する式

1棟全体の値段=土地1㎡の値段×敷地の広さ-取壊し費用

自分の部屋の時価の目安=1棟全体の値段×自分の部屋の割合

土地1㎡の値段は、近くの公示地価(国が毎年公表する土地の値段)で目安がわかります。

敷地の広さと自分の部屋の割合(敷地の持ち分)は、登記簿や売買契約書に書かれています。

取壊し費用は、建替えの説明会で示される見積もりの数字を使います。

実際の時価は、不動産鑑定士が土地の値段や部屋ごとの差を細かく評価して決めます。この式で出した額は目安として使い、決まった額は売渡し請求の書面や鑑定の結果で確かめておきましょう。

出典: 国土交通省「不動産情報ライブラリ」

ローンの残りと税金を引いた「手取り」で考える

売り渡したときに手元に残るお金は、時価から住宅ローンの残りや税金などを引いた額です。

時価から差し引かれるお金は、主に次の3つです。

  • 住宅ローンの残り
  • 売って出た利益にかかる税金
  • 引っ越しと次の住まいの費用

ローンが残っている部屋には、抵当権(銀行がローンの担保として部屋に設定している権利)が付いています。売り渡す前にこれを消すため、ローンの残りは一括で返すことになります。

買ったときより高く売れたら、その利益に税金がかかります。引っ越しや次の住まいの費用は時価に含まれないので、自分で用意することになります。

特に注意したいのは、ローンの残りが時価を上回る場合です。足りない分は貯金などで埋めることになるので、決議の前に、金融機関で今のローンの残高を確かめておきましょう。

自分が住んでいる家を売ったときは、条件を満たせば、売って出た利益から最高3,000万円を差し引ける特例を使えます。ただし、この特例を受けることだけを目的に入居したと認められる家は、特例の対象外です。

人に貸していた部屋へ決議のあとに移り住んでから売る場合は、特例を使えるかを税務署や税理士に確かめておくと安心です。

出典: 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」

金額に納得できなければ鑑定と裁判。ただし時間と費用がかかる

示された時価に納得できないときは、反対した人が自分で不動産鑑定士に評価を頼み、その結果をもとに話し合えます。

話し合いでまとまらなければ、最後は裁判所が金額を決めます。多くの場合、売渡し請求をした側が明け渡しを求める裁判を起こし、その裁判の中で時価の金額も決まります。

時価を争う裁判で決まるのは、受け取る金額です。部屋を明け渡すこと自体は、売渡し請求が届いた時点で決まっています。

鑑定にも裁判にも費用がかかります。裁判になれば、決着までに時間もかかります。争って時価が上がっても、鑑定や弁護士の費用を引くと、手元に残るお金はかえって減る場合もあります。

一方、示された額が土地の値打ちから見て低すぎるときは、弁護士や不動産鑑定士に相談する価値があります。土地の値打ちが高い都心のマンションほど、示された額と鑑定士の評価との差も大きくなりやすいためです。

賛成しても、1戸2,000万円規模の費用と数年の仮住まいが必要になる

建替えに参加した人には、建替えの費用、工事中の仮住まい、建替え後に増える毎月の支出という3つの負担がかかります。

参加を選ぶ前に、この3つを合わせていくら必要になるかを計算しておくと安心です。

1戸2,000万円の負担で建て替えられるマンションは約0.7%という試算

建替えに参加すると、多くのマンションでは1戸あたり2,000万円を超える費用を負担することになると考えられます。

建替え決議では、工事費の見込みと、その費用を誰がどれだけ負担するかも決めます。新しい部屋を受け取る人は、自分の分の費用を負担するのが基本です。

民間企業のスマート修繕は、1戸あたり2,000万円を負担すれば建て替えられるマンションの割合を試算しました。その割合は、関東の分譲マンションで約0.7%、関西で約0.3%でした(2024年10月公表)。

この試算は、同じ敷地に同じ大きさで建て替える前提で計算されています。残りの99%以上の関東のマンションでは、1戸あたりの負担が2,000万円を超える計算です。

年金で暮らしている人や、まだ住宅ローンが残っている人にとって、建替えのために数千万円を用意するのは大きな負担です。

出典: 株式会社スマート修繕「【マンション建て替え】1戸2,000万円負担での実現性は、関東0.7%・関西0.3%/地方はより困難に」(PR TIMES、2024年10月24日)

負担の重さは、建替えで増やした部屋を売れるかで決まる

建替えで増やした部屋を外の人に売れれば、その代金の分だけ、もとの所有者の負担は軽くなります。

建替えで増やした部屋は「保留床(ほりゅうしょう)」と呼ばれます。例えば、今40戸の建物を60戸に建て替え、増えた20戸を1戸5,000万円で売れれば、10億円を工事費に充てられます。戸数と価格は、説明のための仮の数字です。

増やせる部屋の数は、容積率(土地の広さに対して建ててよい床面積の上限)の余りで決まります。容積率を使い切っている建物では、工事費のほとんどを所有者だけで出すことになります。

古いマンションには、建てた当時の上限いっぱいに建てたものがあります。中には、その後の規制の変更で、今の建物より小さくしか建て直せないものもあります。

新しい部屋の広さにも注意が必要です。負担を抑えるために、新しい部屋が前より狭くなることがあります。前と同じ広さにするには、追加でお金を払う場合もあります。

出典: 国土交通省「第1章 マンション建替えに係る法律上の手続き」(③保留床および保留敷地の処分)

数年の仮住まいと2回の引っ越し。建替え後は毎月の支出も増える

建替えに参加すると、工事の数年間は、仮住まいの家賃と引っ越し代を負担することになります。

古い建物を壊してから新しい建物が完成するまでは、ふつう数年かかります。その間は、賃貸住宅などで暮らすことになります。

例えば仮住まいの家賃を月12万円、期間を3年と仮に置くと、家賃だけで約430万円です(12万円×36か月)。自分の場合は、近くの賃貸の家賃に、説明会で示される工事の期間の月数をかけると目安がわかります。

引っ越しも、今の部屋から仮住まいへと、仮住まいから新しい部屋への2回が必要です。建替えの計画によっては、仮住まいの費用の一部を事業費から出してもらえることもあります。出してもらえる金額は、マンションごとに違います。

新しい部屋に戻ったあとも、毎月の支出は増えやすくなります。エレベーターなどの設備が増えれば、管理費や修繕積立金が上がります。新しい建物は固定資産税の計算に使う評価額も上がるので、税金も増えるのがふつうです。

こうした負担を考えると、数年後に売るつもりなら、重い負担を払ってまで参加するメリットは小さいと考えられます。参加を決める前に、建替えの後も何年住むつもりかを家族で話し合っておくとよいでしょう。

払えない人は、参加したうえで補償金を受け取って出る道もある

建替え組合をつくって進める建替えなら、参加した人も、補償金を受け取って出ていく道を選べます。

建替え組合は、建替えを進めるために所有者がつくる組合です。

この組合と補償金の仕組みは、「マンションの再生等の円滑化に関する法律」の56条などに定められています。この法律は、2026年4月に「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」から今の名前に変わりました。

参加した人も、組合の設立のお知らせ(公告)から30日以内に申し出れば、新しい部屋の代わりに補償金を受け取れます。

反対して売り渡す場合と比べると、手続きの時期と、誰が言い出すかが違います。売渡し請求は、決議の直後に、建替えを進める側が参加しなかった人に対して行います。補償金の申出は、組合ができたあとに、参加した人が自分で行います。

ただし、建替えの中には、この法律の組合をつくらずに進めるものもあります。自分のマンションの建替えで補償金を受け取れるかを、説明会で聞いておくとよいでしょう。

出典: e-Gov法令検索「マンションの再生等の円滑化に関する法律」(第56条 権利変換を希望しない旨の申出等)

出典: 国土交通省「報道発表資料(マンションの再生等の円滑化に関する法律の施行について)」

今売るか決議を待つかの分かれ目は「建替えまで住むか」と「何年待てるか」

建替えの話が出たマンションをいつ売るかは、建替え後の住まいの予定と、待てる年数をもとに決めるとよいでしょう。

建替えは、話が出てから決まるまでに何年もかかることがあり、その間にも建物は古くなっていくためです。

話が出てから新しい部屋に入るまで、検討だけで10年を超える例もある

建替えの話が出てから決議までの検討には、長い時間がかかります。

建替えの段階ごとの出来事と、住み替えへの影響は次のとおりです。

段階主な出来事住み替えへの影響
検討勉強会や委員会で、修繕と建替えを比べるふつうに売れる
推進決議建替えの計画づくりを進めると決める(建替えそのものは未決定)売れるが、買主への説明が必要
建替え決議5分の4(または4分の3)の賛成で建替えを決める売れるが、買主は「参加か売り渡しか」を選ぶ立場を引き継ぐ
催告・売渡し請求決議からおよそ4か月で、参加か売り渡しかが決まる参加しないなら売り渡す
組合の設立・権利変換建替え組合をつくり、新しい部屋の割り当てを決める公告から30日以内なら、補償金を受け取って出られる
工事解体と新築。この間は仮住まい仮住まいの費用がかかる
入居新しい部屋に戻る管理費などが上がる

横浜市の資料によると、市内で建替えた7件のマンションでは、建替えの検討に平均で約11年かかりました。

反対に、決議が通れば催告から先は早く進みます。建替えを進める側は、決議から2年以内に取壊しの工事を始めないと、売り渡した人に部屋を買い戻されるおそれがあるためです。

つまり、話が出てからの長い期間は、建替えが決まるかがはっきりしないまま待つ時間になります。決議が通ったあと、参加と売り渡しのどちらを選ぶかを考えられる時間は、数か月です。

出典: 横浜市建築局「マンション建替の現状と将来検討の必要性」(マンション管理セミナー資料)

待っても、建替えが立ち消えになり、古いまま値が下がることもある

決議まで待っても建替えが立ち消えになれば、さらに古くなったマンションを、待つ前より安い値段で売るおそれがあります。

「建替えになれば、土地の値打ちで高く売れるかもしれない」と考え、決議まで待つ人もいるでしょう。

ところが、建替えが実現した戸数は、築40年を超えるマンションの戸数の2%未満です。検討が始まっても、費用の折り合いがつかなかったり賛成が集まらなかったりして、話が立ち消えになることは十分ありえます。

待っている間にも、建物は古くなっていきます。持ち主は、修繕積立金の値上げや、大規模修繕のための一時金を求められることもあるでしょう。

建替えの話が立ち消えになったマンションは、買い手から古さや修繕費の負担を心配されやすくなります。待った年数の分だけ、売りにくくなるおそれがあります。

決議を待つなら、建替えが立ち消えになったときに売り出す時期も、あわせて決めておきましょう。

出典: 国土交通省「マンション建替え等の実施状況」

4つの道の損得(決議の前に売る/参加する/決議を待って売り渡す/待ったが立ち消え)

早く住み替えたい人には、決議の前に売る道がおすすめです。

4つの道を比べると、次のとおりです。

道受け取るお金・払うお金動ける時期おすすめの人
決議の前に売る中古の相場で売れる自分で決められる・建替えまで住むつもりがない人<br>・早く住み替えたい人
参加する新しい部屋の代わりに建替え費用を払う(2,000万円を超えることが多い)決議から入居まで数年建替え後も長く住み、費用を出せる人
決議を待って売り渡す土地の値打ちで決まる時価(相場より高くも安くもなる)決議からおよそ4か月で決まるが、決議の時期は読みにくい土地の値打ちが高い場所で、何年でも待てる人
待ったが立ち消え古くなった状態の中古相場で売る自分で決められるが、売りにくくなる(できれば避けたい結果)

決議の前に売れば、値段と売る時期を自分で決められます。売るときの手間も、ふつうの売却と同じです。

建替えの後も長く住むつもりで、費用も出せる人なら、参加する道を考えてよいでしょう。駅に近く土地の値打ちが高いマンションを持ち、何年でも待てる人なら、決議を待って売り渡す道も考えられます。

建替えの話が出ているマンションを売るときの注意点

建替えの話が出ているマンションを売り出すと、買い手は、建替えを見込んで買いたい人と避けたい人に分かれます。

駅に近く土地の値打ちが高い建物では、建替え後の新しい部屋や時価を見込んで買いたい人が出てきます。一方で、将来の費用の負担や仮住まいを嫌う人は、購入の候補から外します。

建替えの検討や決議は、買主の判断に大きく関わる事実です。売り出す前に、建替えの話が出ていることを仲介する不動産会社に伝えておきましょう。隠して売ると、後で買主から契約の解除や損害賠償を求められるおそれがあります。

決議のあとでも、部屋を売ることはできます。ただし、決議のあとに買う人は、「参加するか、売り渡すか」を選ぶ立場をそのまま引き継ぎます。そのため買い手は、建替えを見込んだ投資家や事業者に限られやすくなります。

今日のうちに集めておきたい4つの資料

次の4つの資料を集めると、今売るか待つかを実際の金額をもとに決められます。

資料わかること手に入れる先
総会の議事録建替えの話がどの段階まで進んでいるか管理組合・管理会社
建物の調査結果4分の3で決議できる不具合に当てはまりそうか管理組合・管理会社
ローンの残高証明今残っているローンの額金融機関
不動産会社の査定中古として売れそうな価格不動産会社

議事録と建物の調査結果は、多くの場合、管理組合や管理会社に頼めば見せてもらえます。議事録を読むと、建替えの話が検討・推進決議・建替え決議のどの段階にあるかがわかります。

ローンの残高と査定額がわかれば、今売ったときの手取りを計算できます。その手取りの額を、決議を待って売り渡した場合の時価の目安と比べておくとよいでしょう。

まとめ:建替え決議のあとも反対を続けると、部屋は時価で売り渡すことになる

建替え決議が成立したあとも反対を続けると、決議からおよそ4か月のうちに、部屋を時価で売り渡すことが決まります。時価は土地の値打ちをもとに計算されるため、今の中古相場より高くなることも安くなることもあります。

建替えの話が出たら、まず総会の議事録で、話が検討・推進決議・建替え決議のどの段階にあるかを確かめておきましょう。決議のあとに気づくと、参加と売り渡しのどちらを選ぶかを、数か月のうちに決めることになります。

次は、ローンの残高と査定額から、今売ったときの手取りを計算しておきましょう。住み替えのトビラでは、建替えの話が出たマンションをいつ売るかも含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。