親が住んでいた遠くのマンションを相続すると、売るために現地へ何度も通わないといけないのかと悩む人もいるでしょう。
実際には、郵送・オンライン・代理を手続きごとに使い分ければ、一度も現地に行かずに売ることができます。
この記事では、東京に住むAさんが福岡のマンションを売った例をたどりながら、行かずに売る手順と、遠くの売主が損をしやすい3つの場面の防ぎ方を説明します。
遠方の相続マンションは一度も行かずに売れる。この4年で変わったこと
遠方の相続マンションは、ここ数年の制度の変化によって、一度も行かずに売れるようになりました。
この章では、行かずに売るための方法と流れを、相続人の事情や制度の変化とあわせて説明します。この記事では、次のAさんを例に説明します。
仕事を休んで福岡へ何度も通うのは、Aさんには難しいことです。
郵送・オンライン・代理を組み合わせれば、現地に行かずに売却まで進められる
相続の書類集めから売買の契約まで、ほとんどの手続きは、郵送・オンライン・代理のどれかで済ませられます。
ひと昔前は、契約の日や代金を受け取る日に、売主が現地へ出向くのが当たり前でした。2022年からは契約書を電子データでやり取りできるようになるなど、国の制度が変わってきています。
例えば、相続の書類は郵送で集められます。不動産会社との相談はビデオ通話で済み、売買の契約書は電子データでやり取りできます。
部屋の査定や内覧(買いたい人が部屋を見に来ること)は、鍵を不動産会社に預ければ、担当者に任せられます。
契約や決済の場に行けないときは、家族や司法書士に代理を頼む方法もあります。
相続人の事情によっては、売る前の手続きに数か月かかる
相続人の中に、自分で判断するのが難しい人や連絡が取れない人がいると、売る前の手続きに数か月かかることがあります。
時間がかかる相続人の事情と、そのとき必要になる手続きは、次の表のとおりです。
| 相続人の事情 | 必要になる手続き | 時間の目安 |
|---|---|---|
| 認知症などで、自分で判断するのが難しい人がいる | 家庭裁判所に「成年後見人」(本人に代わって手続きをする人)を選んでもらう | 申し立てから2か月以内に決まる例が約7割(準備の期間は別) |
| 海外に住んでいる人がいる | 印鑑証明書の代わりに、現地の日本大使館や領事館で「署名証明(サイン証明)」を取る | 大使館の予約や国際郵便の往復で、数週間から1か月以上 |
| 連絡が取れない人がいる | 家庭裁判所に、その人の財産を管理する「不在者財産管理人」を選んでもらう | 本人を探す期間も含めて長くなりやすい |
どの事情でも、相続人全員で遺産の分け方を決める「遺産分割協議」に、家庭裁判所や大使館での手続きが加わります。
例えば母親が亡くなり、認知症の父親が施設にいる場合は、父親も相続人です。この場合、父親の成年後見人が決まってから、遺産分割協議を始めることになります。
当てはまる事情がある人は、早めに司法書士や弁護士に相談しておくと安心です。どれにも当てはまらなければ、この記事の手順で、行かずに売る準備を進められます。
出典: 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月~12月)」
出典: 法務省「外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合の取扱いについて」
出典: 裁判所「不在者財産管理人選任」
2022年から2025年に何が変わったのか
2022年から2025年にかけて、契約の電子化や相続登記の義務化など、遠方の売主に関わる4つの制度が変わりました。
変わった時期と中身は、次の表のとおりです。
| 時期 | 変わったこと | 遠方の売主にとっての意味 |
|---|---|---|
| 2022年5月 | 不動産の契約書を、紙でなく電子データでやり取りできるようになった | 契約を遠くから結べる |
| 2024年3月 | 遠くの本籍地の戸籍も、近くの市区町村の窓口で取れるようになった(戸籍の広域交付) | 相続の書類を近所で集められる |
| 2024年4月 | 相続登記が義務になった | 期限までに名義を移す必要がある |
| 2025年1月 | 不動産会社が、売り出し中の物件の取引状況を業者向けのシステム(レインズ)に正しく登録する義務ができた | 売主がレインズの画面で、売り出しの様子を正しく確かめられる |
契約の電子化と戸籍の広域交付によって、遠方の売主が現地へ出向く場面や、書類を何度も郵送する手間が減りました。
Aさんも、東京の区役所の窓口で、母親の戸籍をまとめて取れました。
一方で、相続登記は義務になりました。遠いからと名義の変更を後回しにすると、期限に追われることになります。
出典: 国土交通省「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。」
出典: 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」
出典: 国土交通省「レインズの機能強化について、物件の売主向けのリーフレットを作成しました!」
行かずに売るときの全工程と期間の目安
行かずに売るときは、相続から売却を終えるまでに、早くて半年、長ければ1年ほどを見込んでおくと安心です。
工程ごとに行かずに済ませる方法と期間の目安は、次の表のとおりです。期間は、相続人の人数や部屋の状態によって前後します。
| 工程 | 行かずに済ませる方法 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 遺産分割と相続登記 | 協議書を郵送で回し、登記は郵送で申請するか司法書士に頼む | 1〜3か月 |
| 相場の確認と依頼先選び | 国のサイトで相場を調べ、査定はインターネットで申し込む | 2週間〜1か月 |
| 鍵の受け渡しと訪問査定 | 鍵を不動産会社に送り、査定は担当者に任せる | 1〜2週間 |
| 室内の片付け | 遺品整理業者に任せ、写真で仕上がりを確かめる | 作業は1日〜数日 |
| 売り出しと内覧 | 内覧は不動産会社の担当者が立ち会う | 3〜6か月 |
| 売買契約 | 郵送の「持ち回り契約」か電子契約で結ぶ | 数日〜1週間 |
| 決済と引き渡し | 書類を前もって司法書士に送り、当日は入金を確かめる | 契約から1〜2か月 |
| 確定申告(利益が出た場合) | 住んでいる地域の税務署へ、郵送かe-Taxで出す | 売った翌年の2月16日〜3月15日(3月15日が土日なら次の平日まで) |
工程の中でいちばん長いのは売り出しと内覧の期間で、買う人が見つかるまで待つことになります。
マンションを売って利益が出た人は、売った翌年に確定申告をする必要があります。申告書の出し先は、マンションのある地域ではなく、自分が住んでいる地域の税務署です。
申告書は郵送やe-Taxでも出せるので、ここでも現地へ行かずに済みます。
それでも売主本人がやる作業と、遠方の売主が損をしやすい3つの場面
行かずに売る場合も、次の3つの作業は売主本人が行います。
- 司法書士(登記の専門家)による本人確認と、売る意思の確認を受ける
- 契約書や登記の書類に署名し、実印を押す
- 印鑑証明書や住民票を、住んでいる市区町村で取る
どの作業も、ふつうは自宅の近くで済ませられます。
遠くに住む売主には、損をしやすい場面も3つあります。近くに住んでいれば部屋や店に立ち寄って気づけることも、遠くにいると気づくのが遅れるためです。
- 相場より安く売られたり、売り出しを止められたりする
- 鍵を預けたあと、部屋で起きていることを確かめにくい
- 委任状の悪用やなりすましで、望まない契約を結ばれる
1つめは、不動産会社の選び方と、売り出しの状況の確かめ方で防げます。2つめは鍵の預け方で、3つめは契約と決済の進め方で防げます。
どの防ぎ方も、この記事の中で売却の手順に沿って説明します。
まず名義を移す。2024年4月より前の相続は、2027年3月末が登記の期限
相続したマンションを売る準備は、相続登記で名義を親から相続人へ移すことから始まります。
この章では、相続登記が必要な理由と期限、遠くから手続きを済ませる方法を説明します。
相続登記を終えてから売り出す理由
相続登記で登記簿の持ち主が相続人に変わると、相続人はそのマンションを売り出せます。
マンションの持ち主は、法務局にある「登記簿」という記録に書かれています。親が亡くなったあとも、相続登記をするまで、登記簿の持ち主は親のままです。
売買のときは、名義を売主から買う人へ移す登記もします。この登記では登記簿の持ち主から買う人へ名義を移すので、先に相続人が持ち主として登記簿に載っている必要があります。
買う人も、登記簿を見て、売主が本当の持ち主だと確かめてから買います。
不動産会社への査定の依頼は、相続登記の前でもできます。売り出しと契約に間に合うよう、相続登記を最初に進めておきましょう。
相続登記の期限は相続を知った日から3年。間に合わないときは相続人申告登記を使う
相続した人は、不動産を受け継いだと知った日から3年以内に、相続登記を申請する義務があります。
この義務は2024年4月に始まりました。それより前は、相続登記は任意でした。2024年4月より前に相続を知った不動産も対象で、期限は2027年3月31日です。
正当な理由がないまま登記をしない人は、10万円以下の過料(決まりを守らなかったときに払うお金)を科されることがあります。
兄弟で遺産の分け方がまとまらず、期限に間に合わない場合もあるでしょう。そのときは、自分が相続人であることを法務局に申し出る「相続人申告登記」が使えます。
相続人申告登記と相続登記では、できることが次のように違います。
| 手続き | できること | 申請の期限 |
|---|---|---|
| 相続人申告登記 | 申し出た本人が、相続登記の義務を果たしたとみなされる | 相続を知った日から3年以内 |
| 相続登記 | 名義が相続人に移り、売り出せるようになる | ・相続を知った日から3年以内<br>・相続人申告登記をした人は、遺産分割の日から3年以内 |
相続人申告登記で登記簿に記録されるのは、申し出た人が相続人であることまでです。持ち主の名義は親のままなので、売るには遺産分割を終えてからの相続登記が必要です。
兄弟それぞれが期限を守るには、各自が相続人申告登記をするか、相続登記まで済ませることになります。
遺産分割協議書は郵送の持ち回りで作れるが、共有のまま売ると手間が人数分になる
遺産分割協議書は、相続人が離れて暮らしていても、1通の書類を郵送で順に回して作れます。
相続人が2人以上いると、誰がマンションを受け継ぐのかを話し合って決めます。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
話し合って決めた内容を書類にしたものが、遺産分割協議書です。回ってきた協議書に各自が署名し、実印を押していく作り方を「持ち回り」といいます。
話し合いそのものも、電話やビデオ通話で進められます。
気をつけたいのは、兄弟の共有名義のまま売る場合です。売買契約でも決済でも、共有している全員の署名・押印と本人確認が必要になり、手間が人数分に増えます。
国税庁は、売るためだけに1人の名義にし、売れたお金を決めたとおりに分けた例について、贈与税の問題は生じないとしています。そのため、「売ったお金を分ける」ことを協議書に書き、分けた記録を残しておくことが大切です。
協議書の書き方は、分け方を決める前に、税理士や司法書士に確かめておきましょう。
相続登記は物件のある地域の法務局へ郵送で申請できる。戸籍は近くの役所で集められる
相続登記は、マンションのある地域を担当する法務局へ、申請書と書類を郵送して申請できます。
例えばAさんは、東京から福岡の法務局へ書類を郵送して申請できます。
相続登記に必要な書類の中心は、亡くなった親が生まれてから亡くなるまでの戸籍です。以前は、本籍があった役所ごとに戸籍を請求していました。
2024年3月からは「戸籍の広域交付」によって、こうした戸籍を近くの市区町村の窓口でまとめて取れるようになりました。
広域交付は、本人が窓口で請求する場合に使えます。郵送や代理人による請求は対象外で、取れる戸籍も自分・配偶者・親や祖父母・子や孫のものに限られます。
書類集めや申請書づくりは、司法書士に頼むこともできます。自分で申請しても司法書士に頼んでも、登録免許税という税金がかかります。
相続登記の登録免許税は「固定資産税評価額×0.4%」で計算します。固定資産税評価額は、毎年届く固定資産税の納税通知書に付いた課税明細書で確かめられます。
登記が終わると、「登記識別情報」という12けたの英数字を書いた書類が届きます。登記識別情報は昔の権利証にあたり、売るときの決済で使うので、大切に保管しておきましょう。
出典: 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」
出典: 法務省「新不動産登記法Q&A」
遠方の売主は売り出しの様子が見えにくい。依頼先の選び方と売り出し状況の確かめ方
遠くに住む売主は、相場より安く売られても、売り出しを止められても、気づくのが遅れがちです。
安く売られる損は、相場を自分で調べておけば防げます。売り出しを止められる損は、レインズで取引状況を見れば気づけます。
まず相場を自分で確かめる。実際に取引された価格は遠くからでも調べられる
不動産会社に連絡する前に、近くのマンションが実際にいくらで売れたかを、国のサイトなどで調べておきましょう。
遠くに住む売主は地元の相場を知る機会が少なく、不動産会社が出した査定額をそのまま信じてしまいがちです。相場を調べるのに使える無料のサイトは、次の2つです。
- 不動産情報ライブラリ(国土交通省)
- レインズ・マーケット・インフォメーション
不動産情報ライブラリは、国土交通省が2024年4月に始めたサイトです。地図の上で、実際に取引された価格を調べられます。
レインズ・マーケット・インフォメーションでは、不動産会社どうしが使うシステム(レインズ)に集まった成約価格を検索できます。
相場を調べるときは、同じマンションの別の部屋や、近くにある築年数の近いマンションの価格を見るとよいでしょう。1平方メートルあたりの価格に直すと、広さの違う部屋どうしでも比べられます。
自分の部屋の目安は、「近くの似たマンションの1平方メートルあたりの成約価格×自分の部屋の広さ」で計算できます。例えば、1平方メートルあたり30万円で売れていれば、70平方メートルの部屋は2,100万円前後が目安です(数字は説明のための仮の例)。
この目安があれば、不動産会社が出した査定額が相場から大きく離れていても、自分で気づけます。
出典: 国土交通省「「不動産情報ライブラリ」の運用を開始します」
仲介か買取かは、手間・期間・価格で選ぶ
売る価格を優先するなら仲介を、手間と期間を減らしたいなら買取を選ぶとよいでしょう。
仲介は、不動産会社に買う人を探してもらう売り方です。買取は、不動産会社にそのまま買い取ってもらう売り方です。
2つの売り方の違いは、次の表のとおりです。
| 比べる点 | 仲介 | 買取 |
|---|---|---|
| 売れるまでの期間 | 3〜6か月が目安 | 早ければ数週間 |
| 価格 | 相場に近い価格をめざせる | 相場の7〜8割ほどが目安 |
| 内覧 | あり(不動産会社が立ち会う) | なし |
| 片付け | 必要なことが多い | 家財を残したままでよい場合もある |
| 売ったあとの責任 | 雨もりなどの欠陥が見つかると、責任を負うことがある(契約不適合責任) | 責任を負わない約束にできることが多い |
| おすすめの人 | 時間がかかっても高く売りたい人 | 早く、手間をかけずに売りたい人 |
買取を選ぶと、遠方の売主が不動産会社とやり取りする回数は、仲介より少なくなります。そのかわり、売れる価格は下がります。
買取の価格の目安は「相場×0.7〜0.8」です。例えば相場が2,000万円のマンションなら、買取の価格は1,400万〜1,600万円ほどになります。この割合は会社や物件によって違うので、実際の金額は買取の査定で確かめましょう。
買取の価格が低くなるのは、不動産会社が買い取ったあとにリフォームして売り直すためです。その費用や売れ残ったときの備え、会社の利益が、買取の価格から差し引かれます。
迷ったときの決め手は、部屋に残る家財の量と、売るまでに待てる期間です。家財が多くて片付けが大変なら、買取がおすすめです。半年ほど待てるなら、まず仲介で売り出してみる価値があります。
物件のある地域の会社か、全国展開の会社か
売却の依頼先は、地元の会社と全国展開の大手の会社の両方に査定を頼み、比べて決めるのがおすすめです。
地元の会社と大手の会社では、得意なことが違います。地元の会社の強みは、その地域の相場や、買いたい人の事情をよく知っていることです。
例えば「この駅の近くなら、子育て中の家族がよく探している」といった細かい情報は、地元の会社が持っています。
大手の会社の多くは、オンラインでの相談や電子契約に対応しています。売主は、東京の店で相談しながら、福岡の物件を売ることもできます。
査定を頼んだら、各社にその金額になった理由と、遠くにいる売主への連絡の方法を聞いておきましょう。説明の筋が通り、連絡の方法まで具体的に答えられる会社なら、安心して任せられます。
売主はレインズで取引状況を確かめられる。2025年からは正しい登録が義務に
専任媒介か専属専任媒介(どちらも1社だけに売却を任せる契約)で頼むと、売主はレインズで、自分の物件の取引状況を見られます。
遠方の売主が気づきにくい損の一つに、「囲い込み」があります。囲い込みとは、不動産会社が売主と買主の両方から手数料をもらうために、ほかの会社からの購入の問い合わせを断ることです。
囲い込みにあうと、売主は買い手を逃し、値下げをすすめられることもあります。
売却を頼まれた不動産会社は、物件をレインズに登録し、売主に「登録証明書」を渡します。証明書に書かれた方法でログインすると、売主も自分の物件の画面を見られます。
画面には、次の3つのうち1つが表示されます。
- 公開中
- 書面による購入申込みあり
- 売主都合で一時停止中
止めるよう頼んだ覚えがないのに「売主都合で一時停止中」と表示されていたら、囲い込みが疑われます。
取引状況を登録する機能は、2016年からレインズにありました。2025年1月からは、国の決まり(宅地建物取引業法施行規則)の改正で、不動産会社が取引状況を登録することが義務になりました。実際と違う登録をした不動産会社は、行政の指示処分の対象になります。
出典: 国土交通省「レインズの機能強化について、物件の売主向けのリーフレットを作成しました!」
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則 第15条の11」
売却を任せる前に、不動産会社の担当者へ聞いておきたい5つの質問
不動産会社を決める前に、担当者へ次の5つを聞いておくと、遠くにいても安心して任せられる会社がわかります。
- 遠くに住む売主を担当したことはありますか
- 報告は、いつ、どんな方法でもらえますか
- レインズの登録証明書は、いつもらえますか
- 鍵はどのように管理しますか
- この査定額の根拠は何ですか
どの質問にもその場で具体的に答えられる担当者は、遠方の売主とのやり取りに慣れていると考えられます。
遠方の売主にとって特に大切なのは、報告と登録証明書についての答えです。どちらの答えからも、その会社が売り出しの様子をどう知らせてくれるのかがわかります。
報告の回数は、法律で最低限が決まっています。専属専任媒介なら1週間に1回以上、専任媒介なら2週間に1回以上です。登録証明書も、不動産会社が売主に渡す義務のある書類です。
報告の回数をこれより少なく示す会社や、登録証明書を渡すのを渋る会社は、決まりを軽く見ているおそれがあります。こうした会社は避けたほうが安心です。
鍵については、保管する場所と、持ち出せる人を聞いておきたいところです。査定額の根拠を聞いたら、自分で調べた相場と比べて、説明の筋が通っていることを確かめておきましょう。
担当者の答えはメールなどで残してもらうと、あとで話が食い違ったときにも見返せます。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法 第34条の2」
鍵を預けて、査定・片付け・内覧を立ち会わずに進める
査定・片付け・内覧は、鍵を預けた不動産会社や業者に任せれば、立ち会わずに進められます。
遠くに住む売主にとって気がかりなのは、鍵を預けたあとの部屋の様子です。この章では鍵の預け方から始めて、査定・片付け・内覧の順に、部屋の様子を知る方法を説明します。
鍵は「誰が、いつ部屋に入ったか」を報告してもらう約束をして預ける
鍵を預けるときは、「誰が、いつ、何のために部屋に入ったか」を毎回報告してもらう約束もしておきましょう。
鍵を預けると、査定の担当者や片付けの業者、内覧に来る人など、何人もが部屋に入ります。誰かが入るたびに報告があれば、遠くにいても部屋の様子がわかります。
鍵を預ける前には、次の点を確かめておくと安心です。
- 鍵の本数(オートロック用の鍵やカードも含む)
- 管理会社や親せきが持っている鍵
- 不動産会社に預ける本数
預けた本数を書いた「預かり証」を不動産会社からもらっておくと、鍵を返してもらうときに本数を照らし合わせられます。
鍵を郵送するなら、書留のように配達の記録が追えて、なくしたときに補償がある送り方を選ぶとよいでしょう。
売れたあとや依頼をやめたときの鍵の返し方も、預けるときに決めておくと、最後まで鍵の行方がわかります。
訪問査定は立ち会わずに受け、室内の様子は写真と動画で送ってもらう
訪問査定は、鍵を預けておけば、売主が立ち会わずに受けられます。
査定には、書類やデータで出す「机上査定」と、担当者が部屋を見て出す「訪問査定」があります。机上査定で数社を比べて依頼先を決めておけば、訪問査定で部屋に入る会社を1社に絞れます。
担当者には、部屋の様子がわかるように、次の場所の写真や動画を撮ってもらいましょう。
- キッチン・浴室・トイレなどの水回り
- 壁や床の傷み
- 窓からの眺め
マンションの価格には、部屋の中に加えて建物全体の状態も関わります。管理費や修繕積立金の滞納、大きな修繕の予定といった建物の情報は、不動産会社が管理会社から取り寄せてくれます。
査定額が出たら、担当者にその金額になった理由を説明してもらうとよいでしょう。
片付けは遺品整理業者に頼む。権利証・通帳・実印を先に探してもらう
遠くから部屋を片付けるときは、遺品整理業者に頼むと、立ち会わずに作業を終えられます。
親が暮らしていた部屋には、家具や家電、思い出の品が多く残っています。業者の中には、ビデオ通話や写真で見積もりを出すところもあります。
作業の前と後に部屋の写真を送ってもらえば、仕上がりも遠くから確かめられます。
業者に頼むときは、次の物を「捨てる前に探してほしい物」として伝えておくと安心です。
- 親名義の権利証・実印・通帳・キャッシュカード
- マンションを買ったときの売買契約書や領収書
- マンションの管理規約や、管理組合からのお知らせ
- 年金や保険の書類
中でも大切なのが、マンションを買ったときの売買契約書です。マンションを売って利益が出たときの税金は、親が買ったときの値段をもとに計算するためです。
契約書が見つからないと、買った値段は「売った値段の5%」とみなされ、税金が高くなることがあります。
家財が多くて片付けが大変なときは、買取を選ぶ方法もあります。買取なら、家財を残したままで売れる場合があります。
内覧は不動産会社に任せ、空き室の状態を保ってもらう
売り出したあとの内覧は、鍵を預けた不動産会社の担当者が立ち会って進めます。
人が住んでいない部屋は傷みやすいため、内覧の日までは次のような手入れが必要です。
- 電気と水道を止めずにおく
- ときどき窓を開けて換気し、水を流す
- 郵便受けの中身を取り出す
電気と水道が使えれば、内覧に来た人が照明や水回りを確かめられます。ときどき換気して水を流しておくと、においや排水管の傷みを防げます。
こうした手入れを、見回りとして引き受ける不動産会社もあります。見回りの有無と費用は、売却を依頼する前に担当者に確かめておきましょう。
内覧のたびに、見に来た人の反応も報告してもらうとよいでしょう。「駅からの道が暗い」「水回りが古い」といった声を聞けば、値下げが必要なときも遠くから判断できます。
1回だけ現地に行くなら、片付けの前に行く
一度だけ現地に行くなら、遺品整理業者が片付けを始める前がおすすめです。
片付けが始まると、部屋の物はほとんど処分されます。形見を自分の目で選んで持ち帰れるのは、片付けの前に限られます。
物が残っているうちなら、部屋の傷み具合も自分の目で確かめられます。現地での用事は、次のようにまとめれば1日で済ませられます。
| 時間 | すること |
|---|---|
| 午前 | 部屋で形見を選び、遺品整理業者に残す物と捨てる物を直接伝える |
| 昼 | マンションの管理人や管理会社にあいさつし、自分の連絡先を伝える |
| 午後 | 依頼する不動産会社の担当者と会い、鍵を手渡しする |
不動産会社の担当者と一度顔を合わせておくと、その後の電話やメールのやり取りがぐっと楽になります。
司法書士の本人確認を受ければ、契約と決済は立ち会わずに終えられる
売主が立ち会わずに売買契約と決済を終えるには、決済の前に司法書士の本人確認を受けておく必要があります。
決済とは、代金を受け取ると同時に、名義を買う人へ移す手続きです。この章では、委任状の悪用やなりすましで望まない契約を結ばれないための備えもあわせて説明します。
司法書士の本人確認で、なりすましによる売却を防ぐ。55億円あまりがだまし取られた地面師事件の例
司法書士が売主本人と会って確かめることで、知らない間にマンションを売られる被害を防げます。
この事件からわかるのは、持ち主がその場にいない取引ほど、なりすましに狙われやすいことです。遠くに住み、マンションに何年も行っていない売主は、まさにその立場にあります。
契約や決済の手続きの多くは遠くから進められますが、本人確認は売主本人が受けます。手間に感じても、本人確認は遠方の売主ほど大切な手続きといえます。
契約に立ち会わずに済む4つの方法
売買契約は、持ち回り契約・電子契約・家族の代理・専門家の代理のうち1つを使えば、立ち会わずに結べます。
契約の場には、売主・買主・不動産会社が集まるのが基本です。集まれないときに使える方法は、次の4つです。
| 方法 | 進め方 | おすすめの人 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 持ち回り契約 | 契約書を郵送で回し、売主と買主がそれぞれ署名・押印する | 郵送でのやり取りに抵抗がない人 | 郵送の往復で数日かかる |
| 電子契約 | 契約書を電子データで受け取り、パソコンやスマホで電子署名する | パソコンやスマホの操作に慣れている人 | 不動産会社と買主の両方の対応が必要 |
| 家族などの代理人 | 委任状を渡し、家族に契約の場へ行ってもらう | 物件の近くに頼れる家族がいる人 | 委任状に任せる範囲を書く |
| 司法書士などへの依頼 | 専門家に代理人として契約してもらう | 近くに頼れる家族がいない人 | 報酬や交通費がかかる |
費用を抑えたいなら、持ち回り契約か電子契約がおすすめです。どちらも、追加でかかる費用はわずかです。電子契約なら、紙の契約書に貼る収入印紙の代金も節約できます。
家族や専門家に代理を頼むと、報酬などはかかりますが、売主の手間はいちばん少なくなります。
例えば東京から福岡へ行けば、往復の飛行機代と宿泊費で数万円かかります(時期や予約の方法で変わる目安)。代理の費用がそれと同じくらいなら、頼む価値は十分にあります。
出典: 国税庁「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」
本人確認は決済の前に受ける。遠方からの受け方と必要書類
司法書士の本人確認を決済の日より前に済ませておけば、当日は現地に行かずに決済を終えられます。
本人確認は、司法書士が直接会って行う「面談」が原則です。司法書士は身分証明書で本人だと確かめるほか、本当に売るつもりがあるのかを本人に直接聞きます。
遠くに住む売主は、おもに次の2つの方法で面談を受けます。
- 司法書士に、売主の住む地域まで来てもらう
- 売主の家の近くの司法書士に面談を頼み、結果を引き継いでもらう
ビデオ通話や、本人しか受け取れない郵便を組み合わせて確認する事務所もあります。ただ、ビデオ通話は面談を補う方法として使われることが多いようです。
どの方法を使えるかは、事務所によって違います。買い手が決まったら、不動産会社を通じて、司法書士に面談の方法を早めに確かめておきましょう。
決済の前に司法書士へ送るか、手元に用意しておく書類は、次のとおりです。
- 運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類
- 印鑑証明書(発行から3か月以内)
- 実印
- 登記識別情報(相続登記のあとに届いた書類)
- 住民票(登記簿の住所と今の住所が違う場合)
印鑑証明書は発行から3か月以内のものに限られるため、決済の日から逆算して取るとよいでしょう。
決済当日は立ち会わず、入金を確かめるだけで終わる
本人確認と書類の準備を前もって済ませておけば、決済の当日に売主がするのは、自分の口座で入金を確かめることくらいです。
決済には、ふつう売主・買主・不動産会社・司法書士が銀行などに集まります。売主が立ち会わない場合の流れは、次のとおりです。
| 時期 | する人 | すること |
|---|---|---|
| 決済の前 | 売主 | 署名・押印した書類と登記識別情報を、司法書士へ送る |
| 当日 | 司法書士 | 書類を確かめ、名義を移す準備ができたことを確認する |
| 当日 | 買主 | 残りの代金を、売主の口座へ振り込む |
| 当日 | 売主 | 口座で入金を確かめ、不動産会社の担当者に連絡する |
| 当日 | 司法書士 | 名義を移す登記を、法務局に申請する |
振込先の口座は、前もって不動産会社に伝えておきましょう。ネットバンキングを使えば、仕事の合間にスマホで入金を確かめられます。
固定資産税や管理費のうち引き渡し後の日数分は、日割りで計算した額を、買主が代金と一緒に売主へ払います。
鍵は、決済が終わってから不動産会社が買主へ渡します。売主の手元に鍵が残っていないかも、このときに改めて確かめておくと安心です。
代理を頼むなら、委任状に価格の下限と期限を書く
家族や専門家に契約を任せるときは、委任状に、売る価格の下限と委任状の期限を書いておきましょう。
委任状は、「この人に、ここまでを任せます」と示す書類です。書き方があいまいだと、望まない内容で契約を結ばれるおそれがあります。
委任状に次の4つを書き入れると、任せる範囲がはっきりします。
- 売るマンション(登記簿どおりの所在地と部屋番号)
- 任せること(売買契約を結ぶ、手付金を受け取るなど)
- 売買価格の下限
- 委任状の有効期限
中でも避けたいのが、内容を空欄にしたまま署名・押印して渡す「白紙委任」です。白紙の委任状には、あとから誰でも好きな内容を書き込めてしまいます。
相続人どうしの共有名義なら、委任状は全員分が必要です。
任せる範囲を書面で決めておけば、人に手続きを任せても、売る価格や期限を決めるのは売主自身です。
まとめ:遠方の相続マンションは、郵送・オンライン・代理を使えば一度も行かずに売れる
遠方の相続マンションは、郵送・オンライン・代理を手続きごとに使い分ければ、一度も現地に行かずに売れます。ただし、司法書士の本人確認だけは売主本人が受けるので、決済の日より前に済ませておく必要があります。
最初の一歩は、相続登記で名義を親から自分たちへ移すことです。名義が親のままだと売り出しの準備が進まず、期限の2027年3月31日を過ぎると、10万円以下の過料を科されることもあります。
次は、不動産情報ライブラリで近くのマンションの取引価格を調べ、査定を頼む前に相場の目安を持っておきましょう。住み替えのトビラでは、遠方の相続マンションを現地に行かずに売る手順も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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