相続した親のマンションが空き家。このまま持つと維持費は10年で400万円超

相続した親のマンションが空き家。このまま持つと維持費は10年で400万円超

相続した親のマンションを空き家のまま持っていると、管理費や税金だけで、10年間に400万円を超えるお金が出ていきます。

しかも首都圏の中古マンション価格は2026年5月から前の年を下回り、「待てば高く売れる」とは言い切れなくなりました。

この記事では、持ち続けたときの費用と税金のルールを確かめたうえで、住む・貸す・売るのどれを選ぶかを3つの質問で決める方法を紹介します。

空室の親のマンション、10年持つと400万円超が消える

親のマンションを空室のまま10年持つと、管理費や税金だけで400万円を超えるお金がかかります。

よくある例

築42年・広さ65㎡の父のマンションには、父が亡くなって2年たった今も、家具や服がそのまま残っています。

誰も住んでいないこの部屋のために、管理費と修繕積立金として月2万4,500円が口座から引き落とされています。

※この記事の例は、説明のために作った架空の話です。

住んでいない部屋にも、請求は満額で届く

マンションの管理費と修繕積立金は、部屋を使っていなくても、持ち主が毎月満額を払います。

どちらも、建物全体の管理と修繕のために、持ち主全員で分けて負担するお金だからです。

国の調査によると、1戸あたりの月の平均額は、管理費が1万1,503円、修繕積立金が1万3,054円です(駐車場代などを除いた額)。管理費と修繕積立金を合わせると、月2万円を超えます。

空室の部屋には、このほかに固定資産税・都市計画税や火災保険料、電気や水道の基本料金もかかります。築40年ほど・広さ65㎡の部屋を仮に想定して、1年にかかる費用を試算すると次のようになります。

費用1年あたり試算の前提
管理費13.8万円月1万1,500円(国の調査の平均に近い額)
修繕積立金15.6万円月1万3,000円(国の調査の平均に近い額)
固定資産税・都市計画税10万円仮の額(地域や広さで大きく変わる)
火災保険料1.5万円仮の額
電気・水道の基本料金2.4万円仮の額(月2,000円)
合計約43万円

持ち続ける年数ごとに、この約43万円を積み上げると次のとおりです。

持ち続けた年数出ていくお金の合計
1年約43万円
3年約130万円
5年約217万円
10年約433万円

この試算では、今の請求額が10年間変わらないとしています。積立金などが値上がりすれば、10年間の合計はさらに増えます。

親のマンションの数字で計算する式

1年の維持費=(管理費+修繕積立金+電気・水道の基本料金)×12か月+固定資産税・都市計画税+火災保険料

持ち続けたときの合計=1年の維持費×持ち続ける年数

管理費と修繕積立金は管理会社からの請求書や引き落としの明細で、固定資産税・都市計画税は毎年届く納税通知書で、火災保険料は保険証券で確かめられます。

親のマンションの実際の数字を式に入れると、空室のまま持ち続けたときに出ていくお金がわかります。

出典: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」

修繕積立金は、この先上がる計画になっていることが多い

半数近くのマンションでは、修繕積立金が段階的に上がる計画になっています。

修繕積立金は、外壁の塗り直しや屋上の防水工事など、十数年おきの大きな工事のために貯めるお金です。

貯め方には、毎月同じ額を払う「均等積立方式」と、最初は安くしてあとから段階的に上げる「段階増額積立方式」があります。国の調査では、段階的に上げる方式を採るマンションの割合が47.1%で、同じ額を払う方式(40.5%)を上回っています。

積立金が計画どおりに貯まっていないマンションの割合も、36.6%にのぼります。計画より2割を超えて足りないマンションも、全体の11.7%あります。

足りない分は、管理組合が積立金を値上げするか、工事のときに各戸から「一時金」を集めて補います。

そのため、親のマンションの積立金も、この先10年のうちに上がる可能性があります。例えば6年目から積立金が1.5倍になると、10年間に払う維持費の合計は、約433万円から約472万円に増えます。

値上げの予定を確かめる方法

マンションには、今後30年ほどの工事と費用の見通しをまとめた「長期修繕計画」があります。

管理会社に頼めば、持ち主はこの計画を見せてもらえます。

「◯年度から月◯円に変更」「一時金◯万円」といった予定が書かれていないか、確かめておきましょう。

値上げの予定が見つかったら、その金額で10年間の維持費を計算し直すと、親のマンションで実際にかかるお金がわかります。

出典: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」

空室ならではの事故:水漏れで下の階に賠償することも

人が住んでいない部屋では、排水口からの臭いや水漏れが起きても、気づくのが遅れます。

キッチンや浴室の排水管には、下水の臭いを止めるために水がたまる部分があります。長く水を流さずにいるとこの水が蒸発し、下水の臭いや虫が部屋に上がってきます。

もっと怖いのが水漏れです。古いマンションでは、床下の給水管や排水管が傷んでいることがあります。

誰もいない部屋で水が漏れ続けると、下の階の天井や家具までぬれてしまいます。部屋の中の配管から漏れた場合、修理代や下の階への賠償は、その部屋の持ち主が負うのが原則です。

空室になると、火災保険の扱いが変わることもあります。保険会社によっては、人が住んでいない部屋を、住宅ではなく店舗などと同じ「一般物件」として扱うためです。

保険会社に空室になったことを伝え、下の階への賠償に使う特約が、今の契約のままで使えるかを確かめておきましょう。

すぐに決められない間の、最低限の管理
  • 月に1回ほど部屋に行き、窓を開けて換気する
  • すべての蛇口を開け、排水口に水を流す
  • しばらく行けないときは、水道の元栓を閉める
  • 遠くて通えないときは、有料の見回りサービスを使う

管理会社や警備会社に見回りを頼めば、遠くに住んでいても、換気と通水を代わりにしてもらえます。部屋で異常を見つけたときに知らせてくれるサービスもあります。

出典: e-Gov法令検索「民法」(第717条 土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

戸建ての常識はマンションでは通じない:知らないと損する2つの誤解

空き家の税金の話でよく見かける2つの説明は、どちらも戸建てを前提にしています。あわせて、相続したマンションで守りたい2つの期限も確かめます。

誤解1「空き家は固定資産税が6倍」:マンションの1室は原則として対象外

固定資産税が最大6倍になるという話は、主に戸建ての空き家に当てはまります。

家が建っている土地には、固定資産税を最大6分の1まで軽くする特例があります。ところが、手入れされずに危ない状態になった空き家が市区町村から「勧告」を受けると、この特例が外れます。特例が外れると、土地の税金は大きく上がります。

勧告の対象を決めているのは、「空家等対策特別措置法(空家法)」です。この法律では、建物が使われていない状態が続いているものを「空き家」としています。

マンションは1棟で1つの建物なので、ほかの部屋に人が住んでいれば、建物としては使われていることになります。そのため、親の部屋だけが空いている間は、この特例が外れて固定資産税が上がる心配は小さいと考えられます。

ただ、税金が上がる心配がないぶん、マンションの空室はとりあえずそのままにされがちです。その間も、管理費や税金などで年43万円ほどが持ち主の口座から出ていきます。

出典: e-Gov法令検索「空家等対策の推進に関する特別措置法」(第2条)

出典: e-Gov法令検索「地方税法」(第349条の3の2 住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例)

誤解2「相続した空き家は3,000万円控除で税金が軽くなる」:マンションは対象外

相続した空き家を売ったときの3,000万円控除は、戸建てを対象にした特例です。

この特例を使うと、売って得たもうけから最大3,000万円を差し引けます。正式な名前は「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」です。

マンションが対象から外れるのは、国税庁が示す条件の中に、次の1項目があるからです。

区分所有建物登記がされている建物でないこと

(国税庁 タックスアンサー No.3306 より)

区分所有建物とは、マンションのように、1つの建物の中が部屋ごとに分かれて登記されている建物のことです。このほかにも、1981年5月31日以前に建てられた家であることや、親が亡くなってから3年たつ年の12月31日までに売ることなどの条件があります。

戸建て向けの記事を読むときの注意

「空き家 3,000万円」で調べて出てくる記事の多くは、戸建てを前提にしています。

マンションの売却を考えるときは、この特例を使わない前提で税金を計算しておきましょう。

今の特例は、2027年12月31日までに売った場合が対象です。国土交通省は令和9年度の税制改正要望で、期限を2031年12月31日まで4年延ばすことや、建てられた年の条件をゆるめることなどを求めています。

要望への答えは、2026年12月にまとまる税制改正大綱で示されます。ただ、要望の中身は期限の延長と建てられた年の条件の見直しなどで、マンション(区分所有の建物)を対象から外す条件は残ったままです。

出典: 国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

出典: 財務省「令和9年度税制改正要望(国土交通省)」空き家の発生を抑制するための特例措置の拡充及び延長

相続したマンションで知っておきたい期限は2つ:取得費加算の3年10か月と相続登記

マンションを相続した人には、税金を軽くする特例を使える期限と、相続登記を済ませる期限があります。

1つ目は、取得費加算の特例を使える期限です。この特例を使うと、払った相続税のうち、その物件にかかった分を「取得費」(買ったときの値段)に足せます。

取得費が大きくなるほど売って得たもうけが小さくなり、売ったときの税金が減ります。相続税がかからなかった人は、この特例の対象外です。

特例を使えるのは、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売った場合です。相続税の申告期限は、親が亡くなったことを知った日(通常は亡くなった日)の翌日から10か月以内です。そのため、亡くなった日から数えると約3年10か月になります。

売る前に、親が買ったときの契約書を探す

売ったときの税金は「売った値段-取得費-売るときの費用」にかかります。

相続した部屋の取得費には、親が買ったときの値段をそのまま使います。

契約書などで値段がわからないときは、売った値段の5%が取得費になります。

1,500万円で売る場合契約書がある契約書がない
取得費約2,044万円(※)75万円(売値の5%)
もうけ(売値-取得費-仲介手数料など約60万円)なし約1,365万円
税金(所得税・住民税など 20.315%)0円約277万円

※モデルケースの仮定:親が1986年に2,800万円(土地1,400万円・建物1,400万円)で買い、2026年に売る。

建物の取得費は、古くなった分を差し引いて計算します(鉄筋コンクリート造の住まいの場合、1,400万円-1,400万円×0.9×0.015×40年=約644万円)。土地1,400万円と合わせて約2,044万円です。

相続した人は親が持っていた期間を引き継ぐため、親が5年を超えて持っていれば、税率は20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)です。

契約書1枚の有無で、税金が280万円近く変わることがあります。

親のマンションに残った書類の中から、早めに探しておきましょう。

2つ目は、相続登記の期限です。2024年4月から相続登記が義務になり、相続で不動産を受け取ったと知った日から3年以内に登記する決まりになりました。それまでは、相続登記に申請の期限はありませんでした。

正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料(行政上の罰金)の対象になります。2024年4月より前に相続した人も対象で、期限は原則2027年3月31日です。

例えば親が2025年3月10日に亡くなった場合、それぞれの期限は次のとおりです。

親が2025年3月10日に亡くなった場合期限
相続税の申告期限2026年1月10日
取得費加算の特例を使って売る期限2029年1月10日
相続登記の期限(亡くなった日に相続を知った場合)2028年3月10日

相続税がかからなかった人にとって、税金の面で売り急ぐ理由は小さくなります。それでも早めに動いたほうがよいのは、中古マンションの値段が下がり始めているためです。

出典: 国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

出典: 国税庁 タックスアンサー No.4205 相続税の申告と納税

出典: 国税庁 タックスアンサー No.3258 取得費が分からないとき

出典: 国税庁 タックスアンサー No.3261 建物の取得費の計算

出典: 国税庁 タックスアンサー No.3208 長期譲渡所得の税額の計算

出典: 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」

中古マンションは「待てば上がる」のか:市場の動きと古いマンションの行方

中古マンションを「待てば高く売れる」と考えるのは、2026年に入って難しくなりました。

上がり続けた中古マンション価格が、6年ぶりに前の年を下回った

首都圏の中古マンション価格は、2026年5月に、約6年ぶりに前の年を下回りました。

東日本不動産流通機構によると、首都圏で実際に売れた中古マンションの1㎡あたりの価格は、5月に前の年の同じ月より3.9%下がりました。前の年を下回ったのは、2020年4月以来73か月ぶりです。

その後も9月まで、5か月続けて前の年を下回っています。

2026年実際に売れた価格(1㎡あたり)前の年の同じ月と比べて
1月86.99万円6.3%上昇
3月86.34万円9.3%上昇
5月80.78万円3.9%下落
7月84.17万円1.5%下落
9月81.07万円4.8%下落

首都圏で売れた中古マンションの件数も、9月は前の年より22.7%少なく、6か月続けて減りました。一方、売りに出たまま買い手が決まっていない物件は約5万件で、前の年より15.1%増えています。

売りに出る物件が増えて買い手が減ると、売る人どうしで値下げを競うことになります。

ただし、ここまでの数字は首都圏のもので、ほかの地域では動きが違うこともあります。下げ幅はまだ数%ですが、待っていれば値上がりするとは言い切れなくなっています。

出典: 東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート」2026年1月度・3月度・5月度・7月度・9月度

築40年超のマンションは20年で3.2倍に:古い部屋どうしで買い手を取り合う

築40年を超えるマンションは、この先20年で今の約3.2倍に増える見込みです。

国土交通省によると、築40年以上のマンションは2025年末で約159万戸です。10年後には約313万戸、20年後には約504万戸になると見込まれています。

1980年代にたくさん建てられたマンションが、これから次々に築40年を超えるためです。

古いマンションでは、住んでいる人の高齢化も進んでいます。1984年以前に完成したマンションでは、世帯主の55.9%が70歳以上です。

同じ年代のマンションの約6割には、3か月以上空いている部屋があります。

この先は、親のマンションと同じ年代の部屋が、相続などで次々に売りに出ると考えられます。買う人はもっと新しい部屋も選べるため、古い部屋を売る人どうしで、限られた買い手を取り合うことになります。

出典: 国土交通省「築40年以上の分譲マンション数の推移」(2025年末現在)

出典: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」

それでも値下がりしにくいマンション、しやすいマンション

同じ築40年でも、立地・管理・耐震基準の3つで、値下がりしにくい部屋としやすい部屋に分かれます。

見るところ値下がりしにくい値下がりしやすい
立地駅から歩ける、周りに店が多い駅からバスを使う、周りの人口が減っている
管理計画が数年ごとに見直され、積立金が足りている計画が古い、積立金不足や滞納が多い
耐震1981年6月以降の基準(新耐震)それより前の基準(旧耐震)

マンションを買う人がまず気にするのは、立地です。国の調査では、買うときに重視した点として「駅からの距離などの交通の便利さ」を挙げた人の割合が71.6%で、一番高くなっています。

駅に近い部屋は、古くても買い手や借り手が見つかりやすくなります。

マンションの管理の状態は、長期修繕計画と積立金の残高でわかります。計画が見直され、積立金が十分に貯まっているマンションなら、買う人は将来の値上げや一時金を心配せずに済みます。

耐震基準は、建築の許可を受けた時期で決まります。1981年6月より前に許可を受けた建物は、古い耐震基準(旧耐震)で建てられています。

旧耐震の部屋は、売れるまでに時間がかかりがちです。買う人が、住宅ローンや住宅ローン控除を使いにくいためです。

管理の状態を確かめる資料
資料わかること
重要事項調査報告書積立金の残高や滞納、今後の値上げ予定
長期修繕計画これからの工事と費用の見通し
総会の議事録積立金の値上げや大きな工事をめぐる話し合いの様子

重要事項調査報告書は、管理会社に頼むと出してもらえます(有料の場合もあります)。

立地・管理・耐震の3つを親のマンションに当てはめると、この先も値下がりしにくい部屋なのかがわかります。

出典: 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」

出典: 国税庁 タックスアンサー No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)

親のマンションの「今の値段」は、実際に売れた価格で調べられる

親のマンションの今の値段は、実際に売れた価格(成約価格)を使えば、自分で見積もれます。

物件サイトに並ぶ売り出し価格は、売る人の希望の値段です。実際に売れる価格より高めに出ていることが多く、見積もりに使うと値段を高く見込みすぎてしまいます。

例えば2026年9月の首都圏では、売りに出ている中古マンションの1㎡あたりの平均が約120万円だったのに対し、9月に実際に売れた部屋の平均は約81万円でした。

場所や築年数が違う物件どうしの平均ですが、2つの値段には大きな開きがあります。成約価格は、次の2つのサイトで誰でも調べられます。

サイト調べられること
レインズ・マーケット・インフォメーション不動産会社が報告した成約価格(沿線・駅・築年・広さなどで探せる)
不動産情報ライブラリ(国土交通省)不動産の取引価格・成約価格(地域ごとに探せる)

レインズ・マーケット・インフォメーションの成約例は、所在地が町名までの表示で、個別の取引を特定できないように加工されています。親のマンションと所在地・築年数・広さが近い例を選ぶと、値段の目安がわかります。

今の手取りを出す手順
  1. 近くのマンションで、築年数と広さが近い成約例を3〜5件探す
  2. 1㎡あたりの価格の平均に、親の部屋の広さをかける
  3. 仲介手数料(上限は売値×3%+6万円に消費税)と、印紙代などの費用を引く

例えば近い成約例の平均が1㎡あたり23万円で、広さが65㎡なら、売値の目安は約1,500万円です。

仲介手数料の上限の約56万円と、印紙代などの費用として仮に約4万円を引くと、手取りは約1,440万円になります(親が買ったときの契約書があり、税金がかからない場合)。

不動産会社に査定を頼むときも、自分で出したこの目安と比べると、査定額が高すぎないかを確かめられます。

出典: 東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年9月度」

出典: 国土交通省「レインズ・マーケット・インフォメーション(RMI)の見直しについて」、国土交通省「不動産情報ライブラリ」

出典: 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」

持つか売るか、3つの質問で答えが出る

住む予定、貸したときの手取り、今売ったときの手取りの3つを順に確かめると、親のマンションをどうするかを決められます。

質問1:5年以内に、自分か家族が住む予定はあるか

5年以内に自分か家族が住む予定があれば、その部屋には持ち続ける理由があります。

住む予定の部屋をいったん売り、あとで別の家を買い直すと、仲介手数料や税金が二重にかかるからです。

期間を5年で区切ったのは、維持費の重さを考えたためです。空室のまま持つと、維持費は5年で約217万円になります。

5年より先の予定は、途中で変わることも多くなります。その予定のために維持費を払い続けると、予定が変わったときに損が大きくなります。

例:「いつか子どもが住むかもしれない」と考えている場合

子どもに、本当に住むつもりがあるのか、住むならいつごろなのかを一度聞いておきましょう。

答えがあいまいなら、「住む予定はない」として質問2へ進むとよいでしょう。

兄弟などと共同で相続している場合は、売るにも貸すにも、ほかの相続人の同意が必要です。

住む予定がある人は、住むまでの間、空室のまま管理するか、期間を決めて貸す「定期借家」を使えます。自宅を売って親のマンションに移る場合は、自宅を売ったときの3,000万円控除と、その期限も確かめておきたい点です。

出典: e-Gov法令検索「民法」(第251条・第252条 共有物の変更・管理)

質問2:貸したら、維持費を引いても手取りは残るか

住む予定がないなら、次は貸したときの手取りを、家賃と維持費から計算しておきましょう。

管理費や税金は貸している間も持ち主が払うので、家賃からそれらを引いた額が手取りになります。築40年ほど・65㎡の部屋を家賃月8万円で貸すと仮定すると、1年の手取りは次のようになります。

項目1年あたり
家賃収入(仮定:月8万円、1年のうち1か月は空室)+88万円
管理会社に払う手数料(仮定:家賃の5%)-4.4万円
管理費・修繕積立金-29.4万円
固定資産税・都市計画税(仮の額)-10万円
火災保険料(仮の額)-1.5万円
設備の修理や、入居者が入れ替わるときの費用(仮の額)-8万円
手取り(税金を払う前)約35万円
親のマンションの数字で計算する式

1年の手取り=家賃×(12か月-空室の月数)-管理会社の手数料-管理費・修繕積立金-固定資産税・都市計画税-火災保険料-修理などの費用

家賃の相場は、近くで貸し出されている同じくらいの広さの部屋の家賃や、不動産会社の査定で確かめられます。

この例では、1年に約35万円が手元に残ります。ただ、親が長く住んでいた部屋を貸すときは、水回りなどのリフォームが必要になることが多いです。

リフォームに150万円(仮の額)かかると、その分を家賃の手取りで取り戻すまでに4年以上かかります。

家賃収入には所得税と住民税がかかるため、貸している間は毎年の確定申告も必要です。

貸している部屋は、あとで売るときの値段にも響きます。入居者がいる部屋の買い手は、投資用に買う人に限られます。買い手が少ないぶん、値段が下がりやすくなります。

いつごろ売るかが決まっているなら、期間を決めて貸す「定期借家」にしておくと、その時期に入居者のいない状態で売りに出せます。

出典: 国土交通省「定期借家制度」、e-Gov法令検索「借地借家法」(第38条)

質問3:今売った手取りは、10年持ってから売るより多いか

空室のまま10年持って今より得をするには、10年で値段が約3割上がる必要があります。

今売ったときの手取りを約1,440万円、空室のまま10年持つ間の維持費を約433万円として、10年後の値段ごとに比べると次のようになります。

10年後の値段10年後の手取り維持費を引いた額今売った場合(約1,440万円)との差
1割上がる(1,650万円)約1,585万円約1,152万円約290万円少ない
変わらない(1,500万円)約1,440万円約1,007万円約430万円少ない
2割下がる(1,200万円)約1,150万円約717万円約720万円少ない
4割下がる(900万円)約860万円約427万円約1,010万円少ない

※手取りは、売値から仲介手数料の上限(売値×3%+6万円に消費税)と、仮の費用約4万円を引いた額です。親が買ったときの契約書があり、税金がかからない場合で計算しています。

親のマンションの数字で比べる式

今売った手取り=今の売値の目安-仲介手数料-売るときの費用

10年持ってから売った場合に残る額=10年後の売値-仲介手数料-売るときの費用-10年分の維持費

2つ目が1つ目を上回るときだけ、空室のまま持つほうが多く残ります。

値段が1割上がった場合でも、10年後に手元に残るお金は、今売るより約290万円少なくなります。駅に近く管理の行き届いたマンションなら差は縮み、駅から遠いマンションや旧耐震のマンションなら差は広がると考えられます。

貸した場合は、10年分の家賃の手取り約350万円から、リフォーム代150万円を引いた約200万円が手元に増えます。値段が変わらなければ、10年後に売った手取りとの合計は約1,640万円で、今売った手取りを約200万円上回ります。

一方、値段が2割下がると合計は約1,350万円になり、今売るほうが多く残ります。家賃にかかる税金や、入居者がいるまま売るときの値下がりを差し引くと、貸したほうが多く残る額はさらに小さくなります。

出典: 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」

答えごとの選び方:住む・貸す・売る、空室のまま持ってよい場合

3つの質問に答えると、親のマンションを住む・貸す・売るのどれにするかが決まります。

質問の答え選ぶ道次にすること
質問1で「5年以内に住む」住む住む時期を決め、それまで換気と通水を続ける
質問2で「手取りがマイナス」売る成約価格で手取りを出し、親が買ったときの契約書を探す
質問2で「手取りが残る」、質問3で「貸すほうが多く残る」貸すリフォーム費用を見積もり、定期借家で貸す
質問2で「手取りが残る」、質問3で「今売るほうが多く残る」売る成約価格で手取りを出し、親が買ったときの契約書を探す

表の中に「空室のまま持つ」がないのは、使う予定のない部屋に、年43万円ほどを払い続けることになるためです。

空室のまま持ってよいのは、住む理由と時期がはっきりしている場合です。

空室のまま持ってよい例

子どもが、2年後に就職したら親のマンションに住む予定になっている。

この場合、2年分の維持費約87万円は、子どもが住むための準備にかかるお金と考えられます。

大切なのは、「2年後まで」のように、空室のまま持つ期限を先に決めることです。住むまでの間は、月1回の換気と通水を続けておきましょう。期限が来ても予定が固まっていなければ、3つの質問にもう一度答え直すと、次に選ぶ道を決められます。

売ると決めても買い手がつかないときに打てる手

買い手がつかないときも、売り出し価格の見直しや不動産会社の買取で、売れる見込みを高められます。

  • 売り出し価格を成約価格に合わせて見直す
  • 不動産会社に直接買い取ってもらう
  • 管理会社を通じて、同じマンションの人に声をかける

売り出し価格を見直す目安は、売り出してからの期間です。首都圏の中古マンションがレインズに登録されてから成約するまでの日数は、2025年の平均で82.5日でした。3か月ほどたっても問い合わせが少ないなら、売り出し価格が近くの成約価格より高すぎる可能性があります。

不動産会社に買い取ってもらうと、値段は、市場で買い手を探して売る場合より低くなるのがふつうです。その代わり、買い手を探す期間がかからず、早く売却を終えられます。

管理会社を通じて声をかけると、同じマンションの中で住み替えたい人などが、買い手になることもあります。

2024年7月からは、売値800万円以下の物件でも、不動産会社が最大30万円(税別)の仲介手数料を受け取れるようになりました。そのため、値段の安い部屋でも不動産会社に扱ってもらいやすくなっています。ただし、この手数料を受け取るには、不動産会社が前もって説明し、売主の合意を得る必要があります。

国の制度を使って手放すことは、マンションでは難しいといえます。「相続土地国庫帰属制度」は建物がある土地を申請できないため、マンションは対象外です。相続放棄ができる期間も、原則として相続を知ってから3か月以内なので、相続してから時間がたった部屋を手放す方法にはなりにくいといえます。

値段がつくうちに動くほど、選べる方法は多くなります。

出典: 東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2025年)」

出典: 国土交通省「<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」

出典: 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」

出典: 裁判所「相続の放棄の申述」

自宅と親のマンション、2戸のどちらを残すか

自分のマンションから住み替えを考えている人は、自宅と親のマンションのどちらを残すかも決めることになります。

2戸を同じ物差しで比べる:立地・築年数・管理・ローン残高

自宅と親のマンションのうち、次の住まいの条件に合い、この先も値下がりしにくいほうを残すとよいでしょう。

親の思い出があるから、今住んでいるからという理由で決めると、値下がりしやすいほうを残してしまうことがあります。例えば、親のマンションは駅に近いけれど古く、自宅は新しいけれど駅から遠いという組み合わせもあります。

次の表に2戸の情報を書き込むと、同じ物差しで比べられます。

比べるところ自宅親のマンション
今の値段(成約価格から出した目安)
立地(駅からの距離、買い物、通勤・通学)
築年数と耐震基準
管理の状態(積立金の残高、値上げ予定)
住宅ローンの残りなし(多くの場合)
次の住まいの条件(広さ・間取り)に合うか
売るときに使える税金の特例自分が住んでいた家の3,000万円控除取得費加算(相続税を払った人のみ)

自宅の今の値段も、親のマンションと同じく成約価格から出しておきましょう。売り出し価格と成約価格を混ぜて比べると、どちらか一方を高く見積もることになります。

出典: 国税庁 タックスアンサー No.3302 マイホームを売ったときの特例、国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

親のマンションに移って自宅を売る:3,000万円控除の期限に注意

親のマンションが次の住まいの条件に合うなら、そこへ移り住み、自宅を売る方法があります。

自宅を売るときは、「自分が住んでいた家を売ったときの3,000万円控除」を使えます。この控除を使うと、売って得たもうけから最大3,000万円を差し引けます。

相続した空き家の特例と違い、この控除はマンションの自宅でも使えます。ただし、住まなくなった日から3年がたつ年の12月31日までに売る必要があります。

例えば2027年4月に親のマンションへ移ったなら、期限は2030年12月31日です。

また、この控除を使えるのは、親子や夫婦以外の人に売った場合です。

移る前に見ておきたいことは、次の3つです。

移る前に見ておくこと内容
自宅の住宅ローン売ったお金で残りを返しきれるか
親の部屋のリフォーム費用水回りや配管の交換にいくらかかるか
住宅ローン控除家を買う借り入れがない相続では、通常は使う場面がない

自宅を売ったお金でローンを返しきれないと、足りない分を手元の資金で埋めることになります。

親が長く住んだ部屋は、水回りや配管の交換が必要になることがあります。移る前にリフォーム会社に頼んで、費用を見積もってもらうと安心です。

住宅ローン控除は、お金を借りて家を買ったときに税金が戻る制度です。相続した部屋に移った場合、家を買うための借り入れはゼロなので、この控除で戻る税金も通常はゼロです。

一方で、親のマンションに実際に住めば、そこが自分の住まいになります。そのため、将来その部屋を売るときにも、3,000万円控除を使える可能性があります。ただし、控除を使うためだけに一時的に住んだ場合は、対象から外れます。

出典: 国税庁 タックスアンサー No.3302 マイホームを売ったときの特例

出典: 国税庁 タックスアンサー No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)

親のマンションを売って住み替えの資金にする:売る順番と、翌年の税金への備え

親のマンションを売って住み替えの資金にするなら、親のマンションから先に売るとよいでしょう。

親のマンションの手取りが決まってから自宅の売り買いを考えると、無理のない資金計画を立てられます。自宅を売る時期や新しい家を買う時期も、急がずに決められます。

相続税を払った人は、期限を日程に入れる

取得費加算の特例を使えるのは、親が亡くなってから約3年10か月以内に売った場合です。

自宅の住み替えに合わせて親のマンションを売る時期を遅らせると、この期限を過ぎてしまうことがあります。

住み替えの計画を立てる前に、親が亡くなった日から期限の日付を出しておきましょう。

資金計画で気をつけたいのは、親のマンションを売ったときの税金を払う時期です。もうけが出た場合、所得税と住民税は売った翌年に払います。

所得税は翌年2月16日から3月15日までの確定申告で納め、住民税は翌年6月ごろから払います。売ったお金をすべて住み替えに使うと、翌年の税金を払えなくなるおそれがあります。

例えば親が買ったときの契約書がないと、1,500万円で売った場合でも、280万円近い税金がかかることがあります。売ったら、まず税金の分を別の口座に分けておくと安心です。

出典: 国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

出典: 国税庁 タックスアンサー No.3102 譲渡所得の申告期限

まとめ:持ち続ける理由を言えないなら、値段がつくうちに売るか貸すかを決める

親のマンションを空室のまま持つと、管理費や税金だけで10年間に400万円を超えるお金が出ていきます。今より得をするには10年で約3割の値上がりが必要で、中古マンション価格が下がり始めた今、それを当てにするのは難しいといえます。

まずは、近くの成約価格から、親のマンションを今売ったときの手取りを出しておきましょう。この数字を出さずに「とりあえず」持ち続けると、毎年40万円ほどを払いながら、売るか貸すかを決める時期を逃してしまいます。

相続税を払った人は、取得費加算の特例を使える期限(親が亡くなってから約3年10か月)も確かめておくと安心です。住み替えのトビラでは、相続した親のマンションを持ち続けるか売るかの判断も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。