AI査定で出てきた額を見て、「この額は本当に当たっているのか」「これを信じて次の家の予算を組んでいいのか」と迷ったまま止まっている方は多いはずです。
先に答えを書きます。AI査定の精度は、サービスの性能よりも「自分のマンションの事例の厚さ」で決まります。だから、自分の棟が当たりやすい条件に当てはまるかどうかは、自分で判定できます。
この記事では、マンションのAI査定の精度が高くなる条件と低くなる条件、自分のマンションで精度を確かめる方法、そして誤差を住み替え(買い替え)の資金計画に織り込む方法を、マンションからの住み替えを考えている方に向けて順に説明します。
マンションのAI査定の精度が高くなる条件
業界では「マンションは誤差5〜10%程度、都市部の大規模マンションならさらに小さい」と言われます。ただ、これは各社の説明であって、公的な統計とは別物です。一般的な精度の目安や、AI査定の額が実際の売却価格とずれる理由そのものは、別の記事でまとめています。
この記事で見ていくのは、平均の数字ではなく、自分の棟が当たりやすい条件に当てはまるかどうかです。当てはまる条件は次の5つです。
- 同じ棟で直近の成約事例が多い
- 築10年を超えて売買が繰り返されている
- 都市部で周辺に似た条件のマンションが多い
- 間取りや面積が棟の標準的な住戸に近い
- 成約価格を元データにしたサービスを使っている
以下で挙げる戸数や築年数の目安は、自分の棟を判定しやすいように本記事で置いたもので、公的な統計ではありません。順に見ていきます。
同じ棟で直近の成約事例が多い
AI査定は、過去の取引事例をもとに「似た条件の部屋はこのくらいで売れた」という平均を出す仕組みです。だから、同じ棟で最近売買された部屋が多いほど、計算の元になる事例が厚くなり、額が実際に近づきます。
一番当たりやすいのは、総戸数が多い大規模マンションです。総戸数が数百戸あれば、毎年何件も売買があり、AIは自分の棟の事例だけで計算できます。当てはまるかどうかの目安は、総戸数が100戸を超えていて、直近2年で数件の売買がある棟です。
逆に総戸数が少ない棟は、自分の棟の事例が乏しく、近隣の別の棟で補うため外れやすくなります。同じ棟の事例数は、AI査定サービスの事例一覧か、あとの章で説明する公開データで確かめられます。
築10年を超えて売買が繰り返されている
築年数も事例の厚さに関わります。築10年を超えたマンションは、購入した人の住み替えや転勤で売買が一巡し、事例が溜まっています。AIにとっては学習しやすい状態です。
一方、築浅のマンションは、まだ売りに出た部屋が少なく、事例そのものが乏しい状態です。この場合、AIは新築時の分譲価格や近隣の別の棟を参考にするので、額の根拠が薄くなります。
築10年を超えていて、管理組合の総会資料などで「毎年何件か所有者が入れ替わっている」と分かる棟なら、この条件に当てはまると考えて構いません。
都市部で周辺に似た条件のマンションが多い
自分の棟の事例が少なくても、周辺に似た築年・規模・駅距離のマンションが多ければ、AIはそれらの事例で補って計算できます。都市部の駅近エリアは、この補いが働きやすい場所です。
同じ駅の徒歩10分以内に、同じ時期に建った同じような規模のマンションが何棟もある。こういう状況なら、棟の事例が薄くても周辺の事例で精度は保たれます。
逆に、周辺にマンション自体が少ない地域では、この補いが働きにくくなります。自分の棟の周りに似たマンションがいくつあるかを、ポータルサイトの地図で一度見ておくと判断できます。
間取りや面積が棟の標準的な住戸に近い
AI査定は「棟の平均」に近い部屋ほど当たります。その棟で一番多い間取りと面積帯の部屋、たとえば3LDK・70平米台が中心の棟でその条件の部屋なら、事例の平均がそのまま自分の部屋の額に近くなります。
反対に、その棟に数戸しかない1LDKや、100平米を超える住戸は、比べられる事例が棟の中にほとんどありません。AIは面積で単純に按分するので、実際の市場での評価とずれやすくなります。
自分の部屋が「棟の中でよくあるタイプ」かどうかは、購入時のパンフレットの間取り表で確かめられます。
成約価格を元データにしたサービスを使っている
同じマンションでも、サービスによって精度は変わります。分かれ目は、元データが「成約価格」か「売り出し価格」かです。
売り出し価格は売主の希望価格で、実際の成約は交渉で数%下がるのが普通です。
売り出し価格を元にしたAI査定は、その分だけ高めに出やすくなります。
成約価格を元にしたサービスは、実際に売れた額をもとにするので、実際の売却価格に近い額が出ます。
見分け方は、サービスの説明文です。「成約事例をもとに」「取引事例をもとに」と書いてあれば成約ベース、「売出事例」「掲載事例」と書いてあれば売り出しベースです。精度を求めるなら、成約ベースのサービスを1つは含めておきます。
マンションのAI査定の精度が低くなる条件
次は、外れやすい条件です。どれか1つ当てはまると額がずれやすく、複数当てはまるほど、額を幅で広く見ておく必要があります。この章で見ていく条件は次の5つです。
- 築浅や小規模で棟の事例が少ない
- 地方や郊外で周辺の取引が少ない
- 角部屋や最上階など棟の中で条件が特殊
- リフォーム済みか設備の傷みが大きい
- 市況が急に動いている時期に調べている
外れる方向も条件で違います。棟や周辺の事例が薄い場合は上にも下にも振れ、角部屋や最上階のような特殊な住戸は低めに出やすく、リフォームや傷みは部屋の状態しだいで両方向へ、市況が急に動いている時期は上昇局面で低め・下落局面で高めに出ます。順に見ていきます。
築浅や小規模で棟の事例が少ない
前の章の裏返しです。築5年以内のマンションや、総戸数が30戸以下の小規模マンションは、自分の棟の売買事例がゼロか、あっても数件です。
事例がない場合、AIは近隣の別の棟や、数年前の古い事例で穴を埋めて計算します。すると出てくる額は「近くの似たマンションの平均」で、自分の棟の実力から外れます。築浅で人気のある棟なら実際はもっと高く売れるかもしれませんし、逆もあります。
この条件に当てはまるなら、AI査定の額は「近隣の目安」と割り切り、自分の棟の額は不動産会社の査定で確かめる前提で使います。
地方や郊外で周辺の取引が少ない
地方や郊外では、マンションの取引そのものが少なく、周辺の事例で補う手も働きにくくなります。AIは、数年前の事例や、条件のかなり違うマンションの事例を混ぜて計算せざるを得ません。
- 古い事例が混ざる → その間に市況が動いていた場合、額が実態からずれる
- 条件の違う事例が混ざる → 自分のマンションの強みや弱みが反映されない
どちらの場合も、額は上にも下にも振れます。地方のマンションでも、県庁所在地の駅前など取引が多いエリアなら精度は保たれます。自分のエリアの取引の多さは、あとの章で紹介する公開データで、直近1年の成約件数を見れば見当がつきます。
角部屋や最上階など棟の中で条件が特殊
角部屋、最上階、ルーフバルコニー付き、1階の専用庭付き、眺望が抜けている部屋。こうした「棟の中で条件が特殊な部屋」は、実際の市場では平均より高く評価されることが多い一方、AI査定では平均に近い額が出ます。
AIは階数や向きを入力できても、「角部屋である」「眺望が抜けている」という条件を細かく評価する仕組みを持っていません。その結果、特殊な部屋ほど、AI査定の額は本当の価値より低めに出やすくなります。
自分の部屋が棟の中で目立つ条件を持っているなら、AI査定の額は下限寄りとして受け取り、上振れの余地があると考えておくのが実態に近い読み方です。
リフォーム済みか設備の傷みが大きい
AIは部屋の中を見ていません。水回りを交換した、床や壁を張り替えた、というリフォーム歴は額に入らず、逆に設備が古く傷みが目立つ状態も反映されません。
フルリフォーム済みの部屋なら実際はAI査定より高く、設備が古いままの部屋なら低く、実際の査定では動きます。その幅は、数十万円から数百万円の単位になります。
建物側の事情も同じです。
- 修繕積立金が不足している
- 大規模修繕を控えて一時金の話が出ている
- 管理が行き届いていない
こうした棟固有の事情は統計に入らず、会社の査定で初めて額に反映されます。自分の棟の総会資料に気になる項目があるなら、AI査定より下振れする要因として数えます。
市況が急に動いている時期に調べている
AI査定は過去の事例の統計なので、市況が急に動いている時期には追いつきません。価格が上がり続けている局面では、過去の安い事例に引っ張られて低めに出ます。下がり始めた局面では、過去の高い事例に引っ張られて高めに出ます。
毎週更新しているサービスでも、元になる事例は数か月前の成約です。直近の動きが激しいほど、AI査定の額と今の実勢のずれは大きくなります。
相談事例では、「AI査定は3,500万円だったのに、会社の査定は2,800万円だった」という差が報告されています。
こうした大きな差は、ここまで挙げた条件が複数重なった物件で起きます。
自分のマンションがいくつ当てはまるかを数えておけば、額をどのくらい割り引いて見るべきかの見当がつきます。
自分のマンションでAI査定の精度を確かめる方法
不動産会社の担当者は、AI査定の額を見せられたら、まず同じ棟の成約事例を引いて確かめます。同じ突き合わせは、匿名のまま自分でもできます。今日できる手順は次の5つです。
- 2〜3サービスの額の幅で事例の厚さを見る
- 根拠に使われた事例の件数と時期を確認する
- 成約価格の公開データと突き合わせる
- 平米単価に直して周辺の成約と比べる
- 額の更新日を確認する
この章で挙げる件数や割合も、判断の目印として本記事で置いた目安で、公的な統計ではありません。順に説明します。
2〜3サービスの額の幅で事例の厚さを見る
最初に、2〜3のAI査定サービスで、同じ条件(マンション名・面積・階数・向き)を入力し、出てきた額を並べます。
見るのは額そのものより、額の「幅」です。サービス間の差が小さければ、どのサービスも同じ厚い事例を使っている証拠で、精度は高いと読めます。差が大きければ、事例が薄くて計算方法の違いがそのまま出ている状態で、精度は低めです。
| 最高値と最低値の差 | 読み方 |
|---|---|
| 総額の10%以内 | 精度は高め |
| 10〜20% | 中間。次の手順で確かめる |
| 20%超 | 精度は低め。幅を広く見る |
この幅は、最後の章で資金計画に使います。
根拠に使われた事例の件数と時期を確認する
AI査定サービスの中には、計算に使った事例の一覧を表示するものがあります。見るのは、同じ棟の事例が何件あるか、その事例はいつのものか、の2点です。
同じ棟の事例が直近2年で5件以上あれば、事例は厚いと言えます。1〜2件しかない、または3年以上前の事例ばかりなら、額の根拠は薄いと判断します。
事例一覧を出さないサービスの場合は、次の手順で公開データから自分で数えます。
成約価格の公開データと突き合わせる
成約価格そのものは、2つの公開データで匿名のまま見られます。
- 国土交通省の不動産情報ライブラリ
- 不動産流通機構のレインズマーケットインフォメーション
どちらも登録不要で、地区・築年・面積帯で絞り込めます。
自分のマンションと同じ地区・同じ築年帯・同じ面積帯の直近1〜2年の成約を並べ、AI査定の額がその範囲に入っているかを見ます。範囲の中に入っていれば、AI査定は地域の実勢と整合しています。範囲から大きく外れていれば、AI査定が売り出し価格ベースか、事例が薄い可能性があります。
同時に、この突き合わせで直近1年の成約件数も分かります。件数が多いエリアならAI査定の精度は高く、少ないなら低め、と前の章の条件の裏付けにもなります。公開データを使った相場の調べ方は、別の記事で手順をまとめています。
平米単価に直して周辺の成約と比べる
総額のまま比べると、面積の違いで判断が鈍ります。AI査定の額を専有面積で割って平米単価にし、公開データの成約も平米単価にして並べます。
平米単価で見ると、同じ棟の過去の売り出し価格とも比べやすくなります。AI査定の平米単価が、同じ棟の直近の売り出し価格の平米単価より高ければ、そのAI査定は売り出し価格ベースで高めに出ていると考えるのが自然です。
額の更新日を確認する
最後に、AI査定の額がいつ時点のものかを確認します。毎週更新しているサービスもあれば、数か月前の額のままのサービスもあります。
更新日が古いと、市況が動いた分だけ額がずれています。とくに前の章で触れた「市況が急に動いている時期」には、更新日の差がそのまま精度の差になります。
サービスの結果画面に「更新日」「算出日」の表示があれば、そこを見ます。表示がないサービスは、公開データの直近の成約と突き合わせて、ずれの方向を確かめます。
AI査定の誤差を住み替えの資金計画に織り込む方法
誤差は消せません。ただし、織り込めます。誤差を「怖いもの」ではなく「計画の余白」として扱えば、後で会社の査定が下振れしても慌てずに済みます。手順は次の5つです。
- 条件に応じて誤差の幅を見積もる
- 幅の下限で住宅ローンの残債と比べる
- 次の住まいの予算は幅の下限で組む
- 誤差が大きい条件なら早めに机上査定で幅を狭める
- 売り出し価格は不動産会社の査定と根拠で決める
順に説明します。
条件に応じて誤差の幅を見積もる
前の2章の条件をもとに、自分のマンションの誤差の幅を自分で置きます。
| 自分のマンションの条件 | 置く幅 |
|---|---|
| 高くなる条件が揃っている(都市部・大規模・築10年超・標準的な住戸) | 上下5%程度 |
| 低くなる条件が1つ当てはまる | 上下10%程度 |
| 低くなる条件が2つ以上当てはまる | 上下15%程度 |
この目安は業界で言われている範囲をもとに本記事で置いたもので、公的な統計とは別物です。
幅の下限で住宅ローンの残債と比べる
幅の下限から、仲介手数料などの売却の費用を引いた手取りを出し、住宅ローンの残債と比べます。
| 下限の手取りと残債の関係 | 状態 | 読み方 |
|---|---|---|
| 手取り>残債 | アンダーローン | 誤差がどちらに振れても住み替えは成り立つ |
| 手取り<残債 | オーバーローン | 下振れに備えて不足分の手当てを先に考える |
下限でもアンダーローンなら、AI査定の誤差がどちらに振れても住み替えは成り立ちます。下限だとオーバーローンになるなら、実際の査定が下振れした場合に不足分の手当てが必要になるので、その準備を先に考えておきます。
手取りの計算方法や、アンダーローンとオーバーローンの判定については、匿名で相場を調べる記事で計算例つきで説明しています。
次の住まいの予算は幅の下限で組む
次の家の予算を組むときも、使うのは幅の下限です。下限の手取りから残債を引いた額が、次の家に回せる自己資金になります。
上限で組むと、実際の査定が下振れしたときに、次の家の予算が足りなくなります。すでに次の家の契約を進めていたら、自己資金の不足を貯金の取り崩しや借入の増額で埋めることになり、計画が崩れます。
下限で組んでおけば、実際の査定が上振れした分は、そのまま余裕になります。誤差を余白として扱うとは、こういう組み方です。
誤差が大きい条件なら早めに机上査定で幅を狭める
低くなる条件が複数当てはまり、幅を上下15%と広く置いた場合、下限と上限の差は総額の30%に広がります。仮にAI査定が4,000万円なら、幅は3,400万円から4,600万円で、差は1,200万円です。この幅のままでは、次の家の予算帯を決めきれません。
この場合は、AI査定だけで粘らず、早めに不動産会社の机上査定を1〜2社に頼んで幅を狭めます。机上査定は担当者が同じ棟の成約事例と部屋の条件を見て出す査定で、部屋を見に来る工程を含まず、AI査定より個別の条件が反映されます。
机上査定の額がAI査定の幅のどこに来るかで、誤差の方向も分かります。幅の上限寄りなら自分の部屋は平均より評価が高く、下限寄りなら低い。この情報が、売り出し価格を決める段階で役に立ちます。
売り出し価格は不動産会社の査定と根拠で決める
最後に、売り出し価格を決める段階では、AI査定の額から離れます。売り出し価格は、会社の査定額と、その根拠になった同じ棟や周辺の成約事例をもとに決めます。
AI査定の幅の上限をそのまま売り出し価格にすると、実勢より高くなって買い手がつかず、売れ残ってから値下げする流れになりがちです。値下げを繰り返した物件は、買い手から「何か問題があるのでは」と見られ、最終的な成約価格がかえって下がります。
AI査定は、住み替えが成り立つかを判断し、次の家の予算帯を決めるまでの道具です。売り出し価格を決める役目は、会社の査定と根拠に渡します。この役割分担を守れば、AI査定の誤差に振り回されずに、住み替えの計画を進められます。
まとめ:AI査定の精度は自分の棟の事例の厚さで決まり、当たるかどうかは条件で判定できる
マンションのAI査定の精度を決めるのは、サービスの性能ではなく、自分の棟の事例の厚さです。同じ棟で直近の売買が多く、築10年を超え、都市部にあり、棟の標準的な間取りで、成約価格を元にしたサービスを使っていれば、額は実際に近づきます。逆に、築浅や小規模で事例が薄い棟、地方や郊外、角部屋や最上階のような特殊な住戸、市況が急に動いている時期は、額が外れやすくなります。この5つずつの条件に自分の棟をあてはめれば、当たりやすいかどうかは自分で判定できます。
次の一歩は、2〜3のサービスで同じ条件を入力して額の幅を作り、その幅と自分の棟の条件から誤差の幅を置いて、下限で住宅ローンの残債と比べることです。この一手間を飛ばしてAI査定の額をそのまま予算に入れると、あとから届く不動産会社の査定が下振れしたときに、次の家の予算ごと組み直すことになります。
幅ができたら、次に確かめるのは、公開データに載っている自分の地区の成約が、その幅と重なっているかどうかです。重なっていなければ、AI査定が売り出し価格ベースか、棟の事例が薄いかのどちらかを疑えます。住み替えのトビラでは、AI査定の精度の見分け方と誤差の織り込み方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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