親が施設に入ったあと、空いた親のマンションを子が代わりに売れるのは、親が自分で「売る」と言えるうちです。
親の判断する力が弱まると家庭裁判所の手続きが入り、売るまでに半年以上かかることもあります。
親のマンションを売りたい人に向けて、3つの売り方と手続きが止まりやすい場面、税金の期限を説明します。
子が親のマンションを売れるのは、親が自分で「売る」と言えるうち
子が使える売り方は、親に判断する力が残っているかで決まります。
この章では、親の判断する力の見分け方と、3つの売り方の違いを説明します。
実印と権利証を預かっていても、売ると決めるのは親本人
子が実印や権利証(登記識別情報)を預かっていても、マンションを売ると決められるのは持ち主である親本人です。
マンションを売るときは、部屋の名義を親から買主に移す「登記」が必要になります。登記を担当する司法書士は、書類を調べたあと、売主である親に会って売る意思を確かめます。
親の意思がないまま進めた売買は、あとで無効とされるおそれがあります。子が親の実印を使って勝手に書類を作れば、私文書偽造などの罪に問われることもあります。
書類を預かった子は、親が売ると決めたあとで、その手続きを親の代わりに進められます。
出典: e-Gov法令検索「刑法」(第159条 私文書偽造等)
うちの親は委任状で売れる?判断能力の見分け方
親の判断能力は、ふだんの会話で親が売る話を理解しているかを見ると、家族にもおおよそ分かります。
ここでいう判断能力とは、売ることの意味を分かったうえで、自分の考えを伝えられる力です。認知症と診断されていても、売ることの意味を分かっていれば、司法書士が判断能力ありと認める場合もあります。
家族が親との会話で確かめておきたいのは、次の4つです。
- どの部屋を売るのかを自分の言葉で言える
- 売ればその部屋を手放すと分かっている
- だいたいの値段とお金の使い道を話せる
- 日が変わっても同じ考えを話せる
4つとも当てはまれば、委任状で売れる見込みがあります。当てはまるか迷う点があれば、主治医に「契約の判断ができる状態か」を聞いておきましょう。
委任状で売れるかを最後に判断するのは、登記を担当する司法書士です。
委任状と成年後見では、売るまでの段取りが大きく変わります。そのため、不動産会社に査定を頼む前に、主治医の答えも伝えて司法書士へ相談しておくと、売り方を早く決められます。
委任状・成年後見・家族信託では、売るまでの期間も費用も大きく違う
子が親のマンションを売る3つの方法では、委任状を使うと、いちばん早く、費用も少なく売れます。
委任状を使うと、子が親の代理人になり、ふつうの売却と同じ手順で売れます。親の判断能力が足りなくなったら、家庭裁判所が選ぶ後見人が売る「成年後見」を使うことになります。
家族信託では、親が元気なうちに契約を結び、子に財産の管理を任せておきます。
3つの方法の違いは、次の表のとおりです。
| 委任状 | 成年後見 | 家族信託 | |
|---|---|---|---|
| 使える条件 | 親に判断能力がある | 親の判断能力が足りない | 親に判断能力があるうちに契約する |
| 誰が売るか | 親の代理人になった子 | 家庭裁判所が選んだ後見人(家族以外の人が多い) | 管理を任された子 |
| 売るまでの期間 | ふつうの売却と同じ(数か月が目安) | ・後見人が決まるまで多くは4か月以内 ・その後に買主探しと家庭裁判所の許可 | ・先に契約と登記の準備 ・その後はふつうの売却 |
| 主な費用 | 仲介手数料や登記費用など、ふつうの売却とほぼ同じ | ・申し立ての実費(数千円〜) ・鑑定費用(必要な場合。多くは10万円以下) ・後見人への報酬(月2万円〜) | ・専門家への報酬 ・信託の登記の費用 |
| 売ったあと | 手続きは終わり | 原則として親が亡くなるまで後見が続く | 契約に沿って子が管理を続ける |
成年後見は、家庭裁判所の手続きが入るぶん、売るまでに時間がかかります。売ったあとも、後見人への報酬を親の財産から払い続けることになります。
家族信託は契約の準備に費用がかかるものの、契約しておけば、親の判断能力が弱まったあとも子が売れます。
同じ「子が売る」でも、親の今の状態によって、かかる時間とお金が大きく変わります。
出典: 裁判所「後見開始」
出典: 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」
施設に入ったあと、売る時期が遅れるほど負担が増える3つの理由
親が施設に入ったら、親本人と話せるうちに、売るかを家族で話し合っておきましょう。
1つ目の理由は、親の判断する力が、年齢や病気によって少しずつ弱まることです。今日は委任状で売れても、半年後には成年後見が必要になる場合もあります。
2つ目の理由は、自宅を売ったときに使える税金の特例に期限があることです。この特例を使えるのは、多くの場合、施設に入った年の3年後の年末までです。
3つ目の理由は、空いた部屋にもお金がかかり続けることです。親は、施設の費用に加えて、部屋の管理費や修繕積立金、固定資産税も払い続けることになります。
施設に入る前や入ってすぐの時期なら、親本人と一緒に動けるので、選べる売り方がいちばん多くなります。
出典: 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
委任状で売るなら、最大の関門は施設で行う司法書士の面談
親に判断能力があれば、委任状を使う方法でいちばん早く売れます。
ただし、司法書士が施設で親と面談したときに、手続きが止まることがあります。
子が代理人になって親のマンションを売るまでの流れ
委任状で売る流れは、ふつうのマンション売却とほとんど同じです。
親から「売ることを任せる」と書いた委任状をもらうと、子は親の代理人として売却の手続きを進められます。代理人とは、本人に代わって手続きをする人のことです。
子が代理人として売るときの手順は、次のとおりです。
- 不動産会社に相談し、部屋の価格を調べてもらう(査定)
- 不動産会社と、売却を頼む契約(媒介契約)を結ぶ
- 買主を探し、条件が合えば売買契約を結ぶ
- 代金を受け取り、部屋を引き渡す(決済)
ただし、子が窓口になっても、大事な場面では親本人の確認が入ります。例えば不動産会社は、契約の前に親と会ったり電話で話したりして、売る意思を確かめるのが一般的です。
親の体調が良ければ、契約書に親が自分で署名する方法もあります。その場合、子の役目は書類集めや不動産会社との連絡になります。
親が自分で署名しておくと、あとで「本当に親の意思だったのか」と疑われるおそれが減ります。
出典: e-Gov法令検索「民法」(第99条 代理行為の要件及び効果)
委任状に書くことと親子それぞれが用意する書類
委任状の書式は自由なので、何を任せるのかを具体的に書いておきましょう。
任せる中身があいまいな委任状は、あとでトラブルのもとになります。委任状には、少なくとも次の5つを書いておくと安心です。
- 売る部屋(所在地や部屋番号など、登記簿のとおりに)
- 任せる範囲(売却の依頼、売買契約、代金の受け取りと引き渡し)
- 売ってよい価格の下限
- 委任状の有効期限
- 親の自筆の署名と実印
空欄のままの「白紙の委任状」に、印だけを押してもらう方法は避けたいところです。白紙の委任状では子が何でもできてしまうので、司法書士や買主が不安に思います。
次の表は、売るときに親と子がそれぞれ用意する書類です。
| 親(売主) | 子(代理人) |
|---|---|
| 印鑑証明書(発行から3か月以内) | 本人確認書類(運転免許証など) |
| 本人確認書類 | 実印と印鑑証明書(求められた場合) |
| 権利証(登記識別情報) | |
| 固定資産税の納税通知書 | |
| マンションの管理規約など |
親が住民票を施設に移していると、印鑑証明書の住所と登記簿の住所が違ってきます。その場合は、売る前に、登記簿の住所を今の住所に変える登記が必要です。
この住所の変更登記は、2026年4月1日から義務になりました。申請の期限は、住所が変わった日から2年以内です。2026年3月31日より前に変わった住所は、2028年3月31日が期限です。
書類を集め始めたら、まず印鑑証明書と登記簿の住所を見比べておくとよいでしょう。
出典: e-Gov法令検索「不動産登記令」(第16条 申請情報を記載した書面への記名押印等)
施設にいる親の意思は司法書士が面談して確かめる
親が施設にいる場合、司法書士は施設を訪ねて親と面談し、売る意思を確かめます。
面談で司法書士が親に聞くのは、例えば次のようなことです。
- 名前、生年月日、住所
- どこの部屋を売るのか
- 誰に、いくらくらいで売るのか
- 売ったお金を何に使うのか
- 売ったあと、どこで暮らすのか
質問は司法書士ごとに違うので、上の5つはあくまで一例です。親の答えが正確な数字でなくても、売ることの意味を分かっていれば、手続きを進められる場合があります。
反対に、話がかみ合わなかったり、親が「売るつもりはない」と言ったりすると、手続きは止まります。
面談は契約のときに加えて、引き渡しの直前にもう一度行われることもあります。その間に親の体調が崩れると、手続きが止まるおそれがあります。
施設には、面会の時間や人数のルールがあります。司法書士が訪ねる日は、子が早めに施設と相談して決めておくと安心です。
面談で止まると契約違反になることも。面談は契約の前に済ませる
司法書士の面談は、買主と売買契約を結ぶ前に済ませておきましょう。
売買契約を結んだあとの面談で手続きが止まると、子は買主との約束を果たせなくなります。契約の内容によっては、買主から違約金を求められることもあります。
そこで、不動産会社に売却を頼む段階で、司法書士に一度親と面談してもらうとよいでしょう。この時点で面談しておけば、委任状で進められるか、成年後見を考えたほうがよいかが、買主を探す前に分かります。
司法書士から委任状では難しいと言われても、買主を探す前なら成年後見に切り替えられます。その段階ではまだ契約を結んでいないので、違約金の心配をせずに済みます。
不動産会社の中には、ふだんから組んでいる司法書士がいるところもあります。最初の相談で「親が施設にいるので、先に司法書士の面談をしたい」と伝えておけば、面談の段取りも頼めます。
いつか売るかもしれないなら、親が元気なうちに家族信託を
売るのはまだ先という家庭なら、親が元気なうちに家族信託の契約を結んでおく方法があります。
家族信託とは、親が子に財産の管理を任せる契約です。マンションを信託すると、登記簿の名義が子に移り、子が管理や売却をできるようになります。子が売ったお金は、契約で決めたとおり親のために使います。
この契約のいちばんの利点は、契約した後に親の判断能力が弱まっても、子が成年後見を使わずに売れることです。
契約するときは、契約書を作る専門家への報酬や、信託の登記の費用がかかります。金額は依頼先や財産の額で変わるため、契約の前に見積もりを取って確かめておきましょう。
家族信託は、親に判断能力があるうちに結ぶ必要があります。家族信託を使うか迷っているなら、早めに司法書士や弁護士に相談しておくと安心です。
親の判断能力が足りなければ成年後見。後見人の8割超は家族以外
親が「売る」と決められない状態なら、成年後見を使って売ることになります。
ただ、誰を後見人にするかを決めるのは、家族ではなく家庭裁判所です。
後見人が決まるのは申し立てから2か月以内が7割。売れるのはその先
家庭裁判所に成年後見を申し立てると、多くの場合、2か月ほどで後見人が決まります。
成年後見とは、判断能力が足りない人に代わって、家庭裁判所が選んだ後見人が財産を管理する制度です。後見人を選んでもらう申し立ては、子からもできます。
申し立てから売るまでの流れは、次のとおりです。
- 親の住所地の家庭裁判所に申し立てる(主治医の診断書などを出す)
- 家庭裁判所が事情を聞き、必要なら判断能力をくわしく調べる(鑑定)
- 後見人が選ばれる(審判)
- 後見人が親の財産を調べ、買主を探す
- 家庭裁判所に「売ってよいか」の許可を申し立てる
- 許可が出たら、代金を受け取って引き渡す
最高裁判所の統計(2025年)では、申し立てから審判(後見人の決定)までが2か月以内だった割合は約71%でした。4か月以内まで含めると、その割合は約94%になります。
判断能力をくわしく調べる鑑定が行われた割合は、申し立て全体の約3.4%でした。多くの申し立ては、鑑定なしで審判まで進みます。
後見人が決まったあとも、売るまでには時間がかかります。審判に不服を申し立てられる期間が2週間あり、そのあと買主探しと家庭裁判所の許可が続きます。
申し立ての準備から数えると、売るまでに少なくとも半年ほどは見ておいたほうがよいでしょう。
出典: 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」
出典: 裁判所「即時抗告」
親が施設に移って空いた部屋でも、売るには家庭裁判所の許可が要る
後見人が親の住んでいた家を売るには、あらためて家庭裁判所の許可を得る必要があります。
親がすでに施設に移り、部屋が空いている場合も同じです。施設を出たときに戻る可能性がある家は、今は空いていても、許可の対象に含まれます。
許可を得ずに売ると、その売買は無効になります。そのため、持ち主に後見人が付いている部屋を買う人も、家庭裁判所の許可が出ていることを書類で確かめます。
後見人が許可を申し立てるのは、買主と値段がほぼ決まり、売買契約を結ぶ直前です。後見人は申し立てのときに、売買契約書の案や不動産会社の査定書を出します。査定より安く売る場合は、その理由の説明も求められます。
家庭裁判所が許可を出すときに見るのは、主に次の4点です。
- 親のために売る必要があるか
- 値段は安すぎないか
- 売った後の親の暮らしに困りごとはないか
- 親本人の気持ちはどうか
家族が親の暮らしとお金の事情を後見人に伝えておくと、後見人は申し立ての書類でこの4点に答えられます。
出典: 大阪家庭裁判所「居住用不動産処分許可の申立てについて」
出典: e-Gov法令検索「民法」(第859条の3 成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
親の預貯金で施設費が払えるなら、売却は認められにくい
親の預貯金と年金で施設の費用が払えるなら、家庭裁判所は売却を認めにくくなります。
後見人の役目は、親の財産を親のために守ることです。そのため家庭裁判所は、親の収入や預貯金の資料を見て、本当に家を売る必要があるのかを確かめます。
家庭裁判所に売る必要を説明できるのは、例えば次のような事情がある場合です。
- 預貯金が数年で尽き、施設の費用が払えなくなる
- 空き部屋の管理費や固定資産税が、親の家計の重荷になっている
- 部屋が古くなり、持ち続けると修繕の負担が増える
後見人が申し立てる前に、家族も、施設の月額費用と、親の年金・預貯金、部屋の維持費を書き出しておきましょう。何年後にお金が足りなくなるかまで計算しておくと、売る必要を家庭裁判所に示せます。
出典: 大阪家庭裁判所「居住用不動産処分許可の申立てについて」
後見人は弁護士・司法書士が中心。報酬は親の財産から毎月払う
家庭裁判所が後見人に選ぶ人の多くは、弁護士や司法書士などの専門職です。
申立書には、後見人になってほしい人(候補者)を書けます。子が自分の名前を書くこともできますが、誰を選ぶかを決めるのは家庭裁判所です。
最高裁判所の統計(2025年)では、後見人などに親族が選ばれた割合は約16%でした。残りの約84%は親族以外で、司法書士や弁護士、社会福祉士などが中心です。
もっとも、申立書に親族を候補者として書いた割合も、申し立て全体の約20%でした。親族が選ばれる割合が低いのは、名乗り出る家族がもともと少ないことも一因と考えられます。
子が後見人を務めたいなら、申立書の候補者の欄に自分の名前を書いておくとよいでしょう。ただし、財産が多い場合や、きょうだいの意見が分かれている場合は、専門職が選ばれやすくなります。
家族が後見人になっても、その仕事を見守る「後見監督人」が付くことがあります。
専門職の後見人には、親の財産から報酬を払います。報酬の額は家庭裁判所が決め、目安は家庭裁判所ごとに公表されています。次の表は、大阪家庭裁判所が示している月額の目安です。
| 後見人が管理する預貯金などの額 | 報酬の目安(月額) |
|---|---|
| 1,000万円以下 | 2万円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 3万〜4万円 |
| 5,000万円超 | 5万〜6万円 |
マンションを売ると、後見人が管理する親の預貯金が増えるため、報酬の目安が上がることもあります。後見人の仕事に特に手間がかかった場合は、報酬が上乗せされることもあります。
出典: 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」
出典: 大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」(令和7年4月)
売ったあとも後見は続く。新しい制度は2028年12月までに始まる
今の制度では、マンションを売り終えたあとも、後見は原則として親が亡くなるまで続きます。
後見人への報酬も、その間ずっと親の財産から払い続けることになります。
親が亡くなるまで後見が続く今の仕組みを見直す法律が、2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。
今の制度は、本人の判断する力の程度に応じて、後見と保佐、補助の3種類に分かれています(判断する力がいちばん弱い人が使うのが後見です)。新しい制度ではこれが「補助」の1つにまとまり、必要なことに、必要な期間だけ使えるようになります。
例えば、マンションを売ったあとで、家庭裁判所が制度を使う必要がなくなったと認めれば、利用をやめられるようになります。
新しい制度が始まるのは、公布から2年6か月以内に政令で決まる日で、遅くとも2028年12月です。今の制度で後見を始めた人も、新しい制度が始まったあとに、家庭裁判所へ後見の取り消しを申し立てられます。
法改正を待っている間にも、空き部屋の管理費や固定資産税はかかり続けます。税金の特例の期限が過ぎれば、売ったときの税金が増える場合もあります。
そのため、法改正を待つか決める前に、その間に増える出費や税金と、今の制度で払う後見人の報酬を比べておくとよいでしょう。
出典: 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
入居から3年後の年末を過ぎると税金が数百万円増えることも
施設に入ったあとに親のマンションを売るなら、売る時期によって税金が数百万円変わることがあります。
その分かれ目になるのが、施設に入った年の3年後の年末です。
3,000万円特別控除の期限は、多くの場合、施設に入った日から数え始める
自宅を売ったときに使える3,000万円特別控除は、多くの場合、親が施設に入った日を基準に期限が決まります。
マンションを売って利益が出ると、売主である親に税金がかかります。ここでいう利益は、おおまかに言うと、売った値段から、買った値段と売るためにかかった費用を引いた額です。
何十年も前に買った部屋なら、値上がりして思った以上の利益が出る場合もあります。
買った値段が分からない場合は、売った値段の5%を買った値段とみなして計算します。そうなると、利益が実際より大きく計算されるおそれがあります。購入時の契約書は、今のうちに探しておきましょう。
自分が住んでいた家を売ったときは、この利益から最大3,000万円を差し引ける特例があります。利益が3,000万円以内なら、税金は0円です。ただし、特例を使うには、売った翌年に確定申告をする必要があります。
この特例を使えるのは、住まなくなった日から3年がたつ年の12月31日までに売った場合です。親が施設に生活の場を移すと、多くの場合、その日が住まなくなった日として扱われます。
施設に入った日が住まなくなった日に当たるかは、家ごとの事情で変わることもあります。売る前に、施設に入った日と住民票を移した日を税務署や税理士に伝えて、確かめておくと安心です。
出典: 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
入居した年ごとの期限の早見表
3,000万円特別控除を使える期限は、多くの場合、施設に入った年の3年後の12月31日です。
次の表は、施設に入った年ごとの期限です。
| 施設に入った年 | 特例を使える売却の期限 |
|---|---|
| 2023年 | 2026年12月31日 |
| 2024年 | 2027年12月31日 |
| 2025年 | 2028年12月31日 |
| 2026年 | 2029年12月31日 |
例えば2023年に施設に入った親の場合、期限は今年(2026年)の年末です。期限に間に合わせるには、原則として部屋の引き渡しを12月31日までに済ませておく必要があります。
では、期限を過ぎると、税金はどれくらい変わるのでしょうか。次の表は、親が5年を超えて持っていた部屋を売り、利益がちょうど3,000万円だった場合の税金です。
| 売った時期 | 税金 |
|---|---|
| 期限内 | 0円 |
| 期限を過ぎてから | 約609万円 |
同じ部屋を同じ値段で売っても、売る時期の違いで、税金に600万円以上の差が出ます。
10年を超えて持っていた家なら、税率を下げる特例も使えます。対象は、3,000万円を差し引いたあとの利益のうち、6,000万円以下の部分です。
この特例の期限も同じなので、利益が3,000万円より大きいと、期限を過ぎたときの差はさらに広がります。
出典: 国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
後見を使うなら、税金の期限から1年さかのぼって動き出す
成年後見を使って売るなら、税金の特例の期限の1年前までに、家庭裁判所へ申し立てておくと安心です。
委任状で売る場合は数か月が目安ですが、成年後見ではそれより時間がかかります。次の表は、成年後見で売るまでの段階ごとの期間の目安です。
| 段階 | かかる期間の目安 |
|---|---|
| 申し立ての準備(診断書や書類集め) | 1か月ほど |
| 申し立てから後見人が決まるまで | 多くは4か月以内(2か月以内が約7割) |
| 買主探しと家庭裁判所の許可 | 数か月 |
3つの段階を合わせると、半年から1年ほどかかることもあります。期限から1年さかのぼって申し立てておけば、時間がかかった場合でも期限に間に合う見込みが高くなります。
例えば2024年に施設に入った親なら、特例の期限は2027年12月31日です。そこから1年さかのぼると、申し立ての目安は2026年の年末になります。
申し立ての目安の日がもう過ぎていたり近かったりする場合は、今月中に司法書士か弁護士へ相談しておきましょう。
出典: 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」
売ったお金をめぐるきょうだいのもめごとを防ぐ
売ったお金をめぐるきょうだいのもめごとは、代金の受け取り方と、売る前の伝え方で防げます。
代金を受け取るときと、売る前にきょうだいへ話すときに気をつけたいことを、順に説明します。
代金は親の口座へ。子が使えば贈与や使い込みを疑われる
売った代金は、子が代理人として売った場合も、買主から親の名義の口座に振り込んでもらいましょう。
マンションを売ったお金は、親の財産です。子の口座で受け取ると、それだけで、ほかのきょうだいや税務署から「子がもらったのでは」と見られるおそれがあります。
代金の使い道は、施設の費用や医療費、親の生活費など、親のためのものに限られます。成年後見を使った場合は、後見人がお金を管理し、使い道を家庭裁判所に報告します。
子が親のお金を自分のために使うと、親から子への贈与と見なされることがあります。贈与税は、1年間にもらった額が110万円を超えた場合に、超えた分にかかります。
親が亡くなったあとの相続では、ほかのきょうだいから「親のお金を使い込んだ」と疑われ、争いになることもあります。
子が親のために立て替えたお金は、領収書を残し、親の口座から精算した記録を付けておくと安心です。日付と金額を書いた簡単なメモでも、あとで自分の身を守る証拠として使えます。
売る前にきょうだいに伝えることと残しておく記録
売る理由と値段、お金の使い道を、売る前にきょうだいへ伝えておくと、あとのもめごとを防げます。
法律上は、持ち主である親の意思があれば、きょうだいの同意を得ずに売れます。それでも、親の家をめぐるもめごとは、「知らないうちに売られていた」という不信感から始まることがよくあります。
きょうだいに伝えておきたいのは、次の3つです。
- なぜ売るのか(施設の費用が足りなくなる、など)
- いくらで売るのか(査定の結果を見せる)
- 売ったお金を何に使うのか
伝えた内容とあわせて、次のような記録を残しておくと、あとで説明を求められたときに見せられます。
- 不動産会社の査定書と売買契約書
- 親の通帳の写し(代金が入ったことが分かるページ)
- 親が売ることに納得していたと分かるもの(親の手紙や、話し合いのメモなど)
成年後見を使う場合は、きょうだいとの関係がさらに大切になります。家庭裁判所は、後見人を選ぶときに、ほかの親族の意見を聞くことがあります。きょうだいが反対していると、家族ではなく専門職が後見人に選ばれやすくなります。
売る話を始める前に家族で話し合い、全員が納得しておきましょう。そうすれば、どの方法で売る場合も、途中で反対が出て手続きが止まるおそれが減ります。
まとめ:親が「売る」と言えるうちなら、子は委任状で親のマンションを売れる
子が親のマンションを代わりに売れるかは、親が自分で「売る」と決められるかで決まります。決められるうちなら委任状で、ふつうの売却とほぼ同じ手間で売れます。判断する力が弱まったあとは成年後見となり、家庭裁判所の許可と後見人の報酬が加わります。
次の一歩は、不動産会社に査定を頼む前に、司法書士に親との面談を頼むことです。この面談を後回しにして売買契約を結ぶと、引き渡しの直前に手続きが止まり、買主から違約金を求められるおそれがあります。
あわせて、親が施設に入った年から、3,000万円特別控除の期限を確かめておきましょう。住み替えのトビラでは、親が施設に入ったあとの親のマンションの売り方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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