親が施設に入ったら、子が代わりに親のマンションを売れる?3つの方法と期限

親が施設に入ったら、子が代わりに親のマンションを売れる?3つの方法と期限

親が施設に入ったあと、空いた親のマンションを子が代わりに売れるのは、親が自分で「売る」と言えるうちです。

親の判断する力が弱まると家庭裁判所の手続きが入り、売るまでに半年以上かかることもあります。

親のマンションを売りたい人に向けて、3つの売り方と手続きが止まりやすい場面、税金の期限を説明します。

子が親のマンションを売れるのは、親が自分で「売る」と言えるうち

子が使える売り方は、親に判断する力が残っているかで決まります。

この章では、親の判断する力の見分け方と、3つの売り方の違いを説明します。

実印と権利証を預かっていても、売ると決めるのは親本人

子が実印や権利証(登記識別情報)を預かっていても、マンションを売ると決められるのは持ち主である親本人です。

マンションを売るときは、部屋の名義を親から買主に移す「登記」が必要になります。登記を担当する司法書士は、書類を調べたあと、売主である親に会って売る意思を確かめます。

親の意思がないまま進めた売買は、あとで無効とされるおそれがあります。子が親の実印を使って勝手に書類を作れば、私文書偽造などの罪に問われることもあります。

書類を預かった子は、親が売ると決めたあとで、その手続きを親の代わりに進められます。

出典: e-Gov法令検索「民法」(第3条の2 意思能力)

出典: e-Gov法令検索「刑法」(第159条 私文書偽造等)

うちの親は委任状で売れる?判断能力の見分け方

親の判断能力は、ふだんの会話で親が売る話を理解しているかを見ると、家族にもおおよそ分かります。

ここでいう判断能力とは、売ることの意味を分かったうえで、自分の考えを伝えられる力です。認知症と診断されていても、売ることの意味を分かっていれば、司法書士が判断能力ありと認める場合もあります。

家族が親との会話で確かめておきたいのは、次の4つです。

  • どの部屋を売るのかを自分の言葉で言える
  • 売ればその部屋を手放すと分かっている
  • だいたいの値段とお金の使い道を話せる
  • 日が変わっても同じ考えを話せる

4つとも当てはまれば、委任状で売れる見込みがあります。当てはまるか迷う点があれば、主治医に「契約の判断ができる状態か」を聞いておきましょう。

委任状で売れるかを最後に判断するのは、登記を担当する司法書士です。

委任状と成年後見では、売るまでの段取りが大きく変わります。そのため、不動産会社に査定を頼む前に、主治医の答えも伝えて司法書士へ相談しておくと、売り方を早く決められます。

委任状・成年後見・家族信託では、売るまでの期間も費用も大きく違う

子が親のマンションを売る3つの方法では、委任状を使うと、いちばん早く、費用も少なく売れます。

委任状を使うと、子が親の代理人になり、ふつうの売却と同じ手順で売れます。親の判断能力が足りなくなったら、家庭裁判所が選ぶ後見人が売る「成年後見」を使うことになります。

家族信託では、親が元気なうちに契約を結び、子に財産の管理を任せておきます。

3つの方法の違いは、次の表のとおりです。

委任状成年後見家族信託
使える条件親に判断能力がある親の判断能力が足りない親に判断能力があるうちに契約する
誰が売るか親の代理人になった子家庭裁判所が選んだ後見人(家族以外の人が多い)管理を任された子
売るまでの期間ふつうの売却と同じ(数か月が目安)・後見人が決まるまで多くは4か月以内
・その後に買主探しと家庭裁判所の許可
・先に契約と登記の準備
・その後はふつうの売却
主な費用仲介手数料や登記費用など、ふつうの売却とほぼ同じ・申し立ての実費(数千円〜)
・鑑定費用(必要な場合。多くは10万円以下)
・後見人への報酬(月2万円〜)
・専門家への報酬
・信託の登記の費用
売ったあと手続きは終わり原則として親が亡くなるまで後見が続く契約に沿って子が管理を続ける

成年後見は、家庭裁判所の手続きが入るぶん、売るまでに時間がかかります。売ったあとも、後見人への報酬を親の財産から払い続けることになります。

家族信託は契約の準備に費用がかかるものの、契約しておけば、親の判断能力が弱まったあとも子が売れます。

同じ「子が売る」でも、親の今の状態によって、かかる時間とお金が大きく変わります。

出典: 裁判所「後見開始」

出典: 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」

施設に入ったあと、売る時期が遅れるほど負担が増える3つの理由

親が施設に入ったら、親本人と話せるうちに、売るかを家族で話し合っておきましょう。

1つ目の理由は、親の判断する力が、年齢や病気によって少しずつ弱まることです。今日は委任状で売れても、半年後には成年後見が必要になる場合もあります。

2つ目の理由は、自宅を売ったときに使える税金の特例に期限があることです。この特例を使えるのは、多くの場合、施設に入った年の3年後の年末までです。

3つ目の理由は、空いた部屋にもお金がかかり続けることです。親は、施設の費用に加えて、部屋の管理費や修繕積立金、固定資産税も払い続けることになります。

施設に入る前や入ってすぐの時期なら、親本人と一緒に動けるので、選べる売り方がいちばん多くなります。

出典: 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」

委任状で売るなら、最大の関門は施設で行う司法書士の面談

親に判断能力があれば、委任状を使う方法でいちばん早く売れます。

ただし、司法書士が施設で親と面談したときに、手続きが止まることがあります。

例えば、こんなことが起こります(架空の例です)

父が施設に入り、長男が父のマンションを売ることになりました。

長男は、父から売却を任せる委任状を預かりました。

買主が見つかり、売買契約も結びました。

ところが引き渡しの直前、施設で司法書士と面談した父は「家を売る話は聞いていない」と答えました。

引き渡しは延期になり、長男は買主との話し合いに追われました。

子が代理人になって親のマンションを売るまでの流れ

委任状で売る流れは、ふつうのマンション売却とほとんど同じです。

親から「売ることを任せる」と書いた委任状をもらうと、子は親の代理人として売却の手続きを進められます。代理人とは、本人に代わって手続きをする人のことです。

子が代理人として売るときの手順は、次のとおりです。

  1. 不動産会社に相談し、部屋の価格を調べてもらう(査定)
  2. 不動産会社と、売却を頼む契約(媒介契約)を結ぶ
  3. 買主を探し、条件が合えば売買契約を結ぶ
  4. 代金を受け取り、部屋を引き渡す(決済)

ただし、子が窓口になっても、大事な場面では親本人の確認が入ります。例えば不動産会社は、契約の前に親と会ったり電話で話したりして、売る意思を確かめるのが一般的です。

親の体調が良ければ、契約書に親が自分で署名する方法もあります。その場合、子の役目は書類集めや不動産会社との連絡になります。

親が自分で署名しておくと、あとで「本当に親の意思だったのか」と疑われるおそれが減ります。

出典: e-Gov法令検索「民法」(第99条 代理行為の要件及び効果)

委任状に書くことと親子それぞれが用意する書類

委任状の書式は自由なので、何を任せるのかを具体的に書いておきましょう。

任せる中身があいまいな委任状は、あとでトラブルのもとになります。委任状には、少なくとも次の5つを書いておくと安心です。

  • 売る部屋(所在地や部屋番号など、登記簿のとおりに)
  • 任せる範囲(売却の依頼、売買契約、代金の受け取りと引き渡し)
  • 売ってよい価格の下限
  • 委任状の有効期限
  • 親の自筆の署名と実印

空欄のままの「白紙の委任状」に、印だけを押してもらう方法は避けたいところです。白紙の委任状では子が何でもできてしまうので、司法書士や買主が不安に思います。

次の表は、売るときに親と子がそれぞれ用意する書類です。

親(売主)子(代理人)
印鑑証明書(発行から3か月以内)本人確認書類(運転免許証など)
本人確認書類実印と印鑑証明書(求められた場合)
権利証(登記識別情報)
固定資産税の納税通知書
マンションの管理規約など

親が住民票を施設に移していると、印鑑証明書の住所と登記簿の住所が違ってきます。その場合は、売る前に、登記簿の住所を今の住所に変える登記が必要です。

この住所の変更登記は、2026年4月1日から義務になりました。申請の期限は、住所が変わった日から2年以内です。2026年3月31日より前に変わった住所は、2028年3月31日が期限です。

書類を集め始めたら、まず印鑑証明書と登記簿の住所を見比べておくとよいでしょう。

出典: e-Gov法令検索「不動産登記令」(第16条 申請情報を記載した書面への記名押印等)

出典: 法務省「住所等変更登記の義務化について」

施設にいる親の意思は司法書士が面談して確かめる

親が施設にいる場合、司法書士は施設を訪ねて親と面談し、売る意思を確かめます。

面談で司法書士が親に聞くのは、例えば次のようなことです。

  • 名前、生年月日、住所
  • どこの部屋を売るのか
  • 誰に、いくらくらいで売るのか
  • 売ったお金を何に使うのか
  • 売ったあと、どこで暮らすのか

質問は司法書士ごとに違うので、上の5つはあくまで一例です。親の答えが正確な数字でなくても、売ることの意味を分かっていれば、手続きを進められる場合があります。

反対に、話がかみ合わなかったり、親が「売るつもりはない」と言ったりすると、手続きは止まります。

面談は契約のときに加えて、引き渡しの直前にもう一度行われることもあります。その間に親の体調が崩れると、手続きが止まるおそれがあります。

施設には、面会の時間や人数のルールがあります。司法書士が訪ねる日は、子が早めに施設と相談して決めておくと安心です。

面談で止まると契約違反になることも。面談は契約の前に済ませる

司法書士の面談は、買主と売買契約を結ぶ前に済ませておきましょう。

売買契約を結んだあとの面談で手続きが止まると、子は買主との約束を果たせなくなります。契約の内容によっては、買主から違約金を求められることもあります。

そこで、不動産会社に売却を頼む段階で、司法書士に一度親と面談してもらうとよいでしょう。この時点で面談しておけば、委任状で進められるか、成年後見を考えたほうがよいかが、買主を探す前に分かります。

司法書士から委任状では難しいと言われても、買主を探す前なら成年後見に切り替えられます。その段階ではまだ契約を結んでいないので、違約金の心配をせずに済みます。

不動産会社の中には、ふだんから組んでいる司法書士がいるところもあります。最初の相談で「親が施設にいるので、先に司法書士の面談をしたい」と伝えておけば、面談の段取りも頼めます。

いつか売るかもしれないなら、親が元気なうちに家族信託を

売るのはまだ先という家庭なら、親が元気なうちに家族信託の契約を結んでおく方法があります。

家族信託とは、親が子に財産の管理を任せる契約です。マンションを信託すると、登記簿の名義が子に移り、子が管理や売却をできるようになります。子が売ったお金は、契約で決めたとおり親のために使います。

この契約のいちばんの利点は、契約した後に親の判断能力が弱まっても、子が成年後見を使わずに売れることです。

契約するときは、契約書を作る専門家への報酬や、信託の登記の費用がかかります。金額は依頼先や財産の額で変わるため、契約の前に見積もりを取って確かめておきましょう。

家族信託は、親に判断能力があるうちに結ぶ必要があります。家族信託を使うか迷っているなら、早めに司法書士や弁護士に相談しておくと安心です。

出典: e-Gov法令検索「信託法」(第3条 信託の方法)

親の判断能力が足りなければ成年後見。後見人の8割超は家族以外

親が「売る」と決められない状態なら、成年後見を使って売ることになります。

ただ、誰を後見人にするかを決めるのは、家族ではなく家庭裁判所です。

例えば、こんな家族もいます(架空の例です)

ある家族の母親は認知症が進み、司法書士から「委任状での売却は難しい」と言われました。

長女は自分が後見人になるつもりで、家庭裁判所に申し立てました。

ところが、後見人に選ばれたのは地元の司法書士でした。

マンションは売れましたが、その後も後見人への報酬が、毎月母親の預金から払われています。

後見人が決まるのは申し立てから2か月以内が7割。売れるのはその先

家庭裁判所に成年後見を申し立てると、多くの場合、2か月ほどで後見人が決まります。

成年後見とは、判断能力が足りない人に代わって、家庭裁判所が選んだ後見人が財産を管理する制度です。後見人を選んでもらう申し立ては、子からもできます。

申し立てから売るまでの流れは、次のとおりです。

  1. 親の住所地の家庭裁判所に申し立てる(主治医の診断書などを出す)
  2. 家庭裁判所が事情を聞き、必要なら判断能力をくわしく調べる(鑑定)
  3. 後見人が選ばれる(審判)
  4. 後見人が親の財産を調べ、買主を探す
  5. 家庭裁判所に「売ってよいか」の許可を申し立てる
  6. 許可が出たら、代金を受け取って引き渡す

最高裁判所の統計(2025年)では、申し立てから審判(後見人の決定)までが2か月以内だった割合は約71%でした。4か月以内まで含めると、その割合は約94%になります。

判断能力をくわしく調べる鑑定が行われた割合は、申し立て全体の約3.4%でした。多くの申し立ては、鑑定なしで審判まで進みます。

後見人が決まったあとも、売るまでには時間がかかります。審判に不服を申し立てられる期間が2週間あり、そのあと買主探しと家庭裁判所の許可が続きます。

申し立ての準備から数えると、売るまでに少なくとも半年ほどは見ておいたほうがよいでしょう。

出典: 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」

出典: 裁判所「即時抗告」

親が施設に移って空いた部屋でも、売るには家庭裁判所の許可が要る

後見人が親の住んでいた家を売るには、あらためて家庭裁判所の許可を得る必要があります。

親がすでに施設に移り、部屋が空いている場合も同じです。施設を出たときに戻る可能性がある家は、今は空いていても、許可の対象に含まれます。

許可を得ずに売ると、その売買は無効になります。そのため、持ち主に後見人が付いている部屋を買う人も、家庭裁判所の許可が出ていることを書類で確かめます。

後見人が許可を申し立てるのは、買主と値段がほぼ決まり、売買契約を結ぶ直前です。後見人は申し立てのときに、売買契約書の案や不動産会社の査定書を出します。査定より安く売る場合は、その理由の説明も求められます。

家庭裁判所が許可を出すときに見るのは、主に次の4点です。

  • 親のために売る必要があるか
  • 値段は安すぎないか
  • 売った後の親の暮らしに困りごとはないか
  • 親本人の気持ちはどうか

家族が親の暮らしとお金の事情を後見人に伝えておくと、後見人は申し立ての書類でこの4点に答えられます。

出典: 裁判所「居住用不動産処分の許可の申立て」

出典: 大阪家庭裁判所「居住用不動産処分許可の申立てについて」

出典: e-Gov法令検索「民法」(第859条の3 成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)

親の預貯金で施設費が払えるなら、売却は認められにくい

親の預貯金と年金で施設の費用が払えるなら、家庭裁判所は売却を認めにくくなります。

後見人の役目は、親の財産を親のために守ることです。そのため家庭裁判所は、親の収入や預貯金の資料を見て、本当に家を売る必要があるのかを確かめます。

家庭裁判所に売る必要を説明できるのは、例えば次のような事情がある場合です。

  • 預貯金が数年で尽き、施設の費用が払えなくなる
  • 空き部屋の管理費や固定資産税が、親の家計の重荷になっている
  • 部屋が古くなり、持ち続けると修繕の負担が増える

後見人が申し立てる前に、家族も、施設の月額費用と、親の年金・預貯金、部屋の維持費を書き出しておきましょう。何年後にお金が足りなくなるかまで計算しておくと、売る必要を家庭裁判所に示せます。

出典: 大阪家庭裁判所「居住用不動産処分許可の申立てについて」

後見人は弁護士・司法書士が中心。報酬は親の財産から毎月払う

家庭裁判所が後見人に選ぶ人の多くは、弁護士や司法書士などの専門職です。

申立書には、後見人になってほしい人(候補者)を書けます。子が自分の名前を書くこともできますが、誰を選ぶかを決めるのは家庭裁判所です。

最高裁判所の統計(2025年)では、後見人などに親族が選ばれた割合は約16%でした。残りの約84%は親族以外で、司法書士や弁護士、社会福祉士などが中心です。

もっとも、申立書に親族を候補者として書いた割合も、申し立て全体の約20%でした。親族が選ばれる割合が低いのは、名乗り出る家族がもともと少ないことも一因と考えられます。

子が後見人を務めたいなら、申立書の候補者の欄に自分の名前を書いておくとよいでしょう。ただし、財産が多い場合や、きょうだいの意見が分かれている場合は、専門職が選ばれやすくなります。

家族が後見人になっても、その仕事を見守る「後見監督人」が付くことがあります。

専門職の後見人には、親の財産から報酬を払います。報酬の額は家庭裁判所が決め、目安は家庭裁判所ごとに公表されています。次の表は、大阪家庭裁判所が示している月額の目安です。

後見人が管理する預貯金などの額報酬の目安(月額)
1,000万円以下2万円
1,000万円超〜5,000万円以下3万〜4万円
5,000万円超5万〜6万円

マンションを売ると、後見人が管理する親の預貯金が増えるため、報酬の目安が上がることもあります。後見人の仕事に特に手間がかかった場合は、報酬が上乗せされることもあります。

出典: 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」

出典: 大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」(令和7年4月)

売ったあとも後見は続く。新しい制度は2028年12月までに始まる

今の制度では、マンションを売り終えたあとも、後見は原則として親が亡くなるまで続きます。

後見人への報酬も、その間ずっと親の財産から払い続けることになります。

報酬の合計の計算(仮の数字です)

仮に、報酬が月3万円で、後見が10年続くとします。

報酬の合計は、3万円×12か月×10年=360万円です。

自分の家で計算するときは、報酬の月額×12か月×後見が続く年数で目安が出ます。

報酬の月額は、上の表で親の預貯金などの額に当てはまる段を使います。実際の額は、家庭裁判所が審判で決めます。

親が亡くなるまで後見が続く今の仕組みを見直す法律が、2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。

今の制度は、本人の判断する力の程度に応じて、後見と保佐、補助の3種類に分かれています(判断する力がいちばん弱い人が使うのが後見です)。新しい制度ではこれが「補助」の1つにまとまり、必要なことに、必要な期間だけ使えるようになります。

例えば、マンションを売ったあとで、家庭裁判所が制度を使う必要がなくなったと認めれば、利用をやめられるようになります。

新しい制度が始まるのは、公布から2年6か月以内に政令で決まる日で、遅くとも2028年12月です。今の制度で後見を始めた人も、新しい制度が始まったあとに、家庭裁判所へ後見の取り消しを申し立てられます。

法改正を待っている間にも、空き部屋の管理費や固定資産税はかかり続けます。税金の特例の期限が過ぎれば、売ったときの税金が増える場合もあります。

そのため、法改正を待つか決める前に、その間に増える出費や税金と、今の制度で払う後見人の報酬を比べておくとよいでしょう。

出典: 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」

出典: 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律の概要」

入居から3年後の年末を過ぎると税金が数百万円増えることも

施設に入ったあとに親のマンションを売るなら、売る時期によって税金が数百万円変わることがあります。

その分かれ目になるのが、施設に入った年の3年後の年末です。

3,000万円特別控除の期限は、多くの場合、施設に入った日から数え始める

自宅を売ったときに使える3,000万円特別控除は、多くの場合、親が施設に入った日を基準に期限が決まります。

マンションを売って利益が出ると、売主である親に税金がかかります。ここでいう利益は、おおまかに言うと、売った値段から、買った値段と売るためにかかった費用を引いた額です。

何十年も前に買った部屋なら、値上がりして思った以上の利益が出る場合もあります。

買った値段が分からない場合は、売った値段の5%を買った値段とみなして計算します。そうなると、利益が実際より大きく計算されるおそれがあります。購入時の契約書は、今のうちに探しておきましょう。

自分が住んでいた家を売ったときは、この利益から最大3,000万円を差し引ける特例があります。利益が3,000万円以内なら、税金は0円です。ただし、特例を使うには、売った翌年に確定申告をする必要があります。

この特例を使えるのは、住まなくなった日から3年がたつ年の12月31日までに売った場合です。親が施設に生活の場を移すと、多くの場合、その日が住まなくなった日として扱われます。

施設に入った日が住まなくなった日に当たるかは、家ごとの事情で変わることもあります。売る前に、施設に入った日と住民票を移した日を税務署や税理士に伝えて、確かめておくと安心です。

出典: 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」

出典: 国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」

入居した年ごとの期限の早見表

3,000万円特別控除を使える期限は、多くの場合、施設に入った年の3年後の12月31日です。

次の表は、施設に入った年ごとの期限です。

施設に入った年特例を使える売却の期限
2023年2026年12月31日
2024年2027年12月31日
2025年2028年12月31日
2026年2029年12月31日

例えば2023年に施設に入った親の場合、期限は今年(2026年)の年末です。期限に間に合わせるには、原則として部屋の引き渡しを12月31日までに済ませておく必要があります。

では、期限を過ぎると、税金はどれくらい変わるのでしょうか。次の表は、親が5年を超えて持っていた部屋を売り、利益がちょうど3,000万円だった場合の税金です。

売った時期税金
期限内0円
期限を過ぎてから約609万円
税金の計算(仮の数字です)

仮に、親が5年を超えて持っていた部屋を売り、利益がちょうど3,000万円だったとします。

期限内なら、3,000万円-3,000万円(特別控除)=0円で、税金は0円です。

期限を過ぎると特別控除が使えず、3,000万円×20.315%=約609万円の税金がかかります。

20.315%は、5年を超えて持っていた家を売ったときの税率です。所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%を合わせた値です。

自分の家で計算するときは、(売った値段-買った値段-売るための費用-特別控除)×税率で目安が出ます。実際の税額は、税務署や税理士に確かめておきましょう。

同じ部屋を同じ値段で売っても、売る時期の違いで、税金に600万円以上の差が出ます。

10年を超えて持っていた家なら、税率を下げる特例も使えます。対象は、3,000万円を差し引いたあとの利益のうち、6,000万円以下の部分です。

この特例の期限も同じなので、利益が3,000万円より大きいと、期限を過ぎたときの差はさらに広がります。

出典: 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」

出典: 国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」

後見を使うなら、税金の期限から1年さかのぼって動き出す

成年後見を使って売るなら、税金の特例の期限の1年前までに、家庭裁判所へ申し立てておくと安心です。

委任状で売る場合は数か月が目安ですが、成年後見ではそれより時間がかかります。次の表は、成年後見で売るまでの段階ごとの期間の目安です。

段階かかる期間の目安
申し立ての準備(診断書や書類集め)1か月ほど
申し立てから後見人が決まるまで多くは4か月以内(2か月以内が約7割)
買主探しと家庭裁判所の許可数か月

3つの段階を合わせると、半年から1年ほどかかることもあります。期限から1年さかのぼって申し立てておけば、時間がかかった場合でも期限に間に合う見込みが高くなります。

例えば2024年に施設に入った親なら、特例の期限は2027年12月31日です。そこから1年さかのぼると、申し立ての目安は2026年の年末になります。

申し立ての目安の日がもう過ぎていたり近かったりする場合は、今月中に司法書士か弁護士へ相談しておきましょう。

出典: 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」

売ったお金をめぐるきょうだいのもめごとを防ぐ

売ったお金をめぐるきょうだいのもめごとは、代金の受け取り方と、売る前の伝え方で防げます。

代金を受け取るときと、売る前にきょうだいへ話すときに気をつけたいことを、順に説明します。

代金は親の口座へ。子が使えば贈与や使い込みを疑われる

売った代金は、子が代理人として売った場合も、買主から親の名義の口座に振り込んでもらいましょう。

マンションを売ったお金は、親の財産です。子の口座で受け取ると、それだけで、ほかのきょうだいや税務署から「子がもらったのでは」と見られるおそれがあります。

代金の使い道は、施設の費用や医療費、親の生活費など、親のためのものに限られます。成年後見を使った場合は、後見人がお金を管理し、使い道を家庭裁判所に報告します。

子が親のお金を自分のために使うと、親から子への贈与と見なされることがあります。贈与税は、1年間にもらった額が110万円を超えた場合に、超えた分にかかります。

親が亡くなったあとの相続では、ほかのきょうだいから「親のお金を使い込んだ」と疑われ、争いになることもあります。

子が親のために立て替えたお金は、領収書を残し、親の口座から精算した記録を付けておくと安心です。日付と金額を書いた簡単なメモでも、あとで自分の身を守る証拠として使えます。

出典: 国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」

売る前にきょうだいに伝えることと残しておく記録

売る理由と値段、お金の使い道を、売る前にきょうだいへ伝えておくと、あとのもめごとを防げます。

法律上は、持ち主である親の意思があれば、きょうだいの同意を得ずに売れます。それでも、親の家をめぐるもめごとは、「知らないうちに売られていた」という不信感から始まることがよくあります。

きょうだいに伝えておきたいのは、次の3つです。

  • なぜ売るのか(施設の費用が足りなくなる、など)
  • いくらで売るのか(査定の結果を見せる)
  • 売ったお金を何に使うのか

伝えた内容とあわせて、次のような記録を残しておくと、あとで説明を求められたときに見せられます。

  • 不動産会社の査定書と売買契約書
  • 親の通帳の写し(代金が入ったことが分かるページ)
  • 親が売ることに納得していたと分かるもの(親の手紙や、話し合いのメモなど)

成年後見を使う場合は、きょうだいとの関係がさらに大切になります。家庭裁判所は、後見人を選ぶときに、ほかの親族の意見を聞くことがあります。きょうだいが反対していると、家族ではなく専門職が後見人に選ばれやすくなります。

売る話を始める前に家族で話し合い、全員が納得しておきましょう。そうすれば、どの方法で売る場合も、途中で反対が出て手続きが止まるおそれが減ります。

まとめ:親が「売る」と言えるうちなら、子は委任状で親のマンションを売れる

子が親のマンションを代わりに売れるかは、親が自分で「売る」と決められるかで決まります。決められるうちなら委任状で、ふつうの売却とほぼ同じ手間で売れます。判断する力が弱まったあとは成年後見となり、家庭裁判所の許可と後見人の報酬が加わります。

次の一歩は、不動産会社に査定を頼む前に、司法書士に親との面談を頼むことです。この面談を後回しにして売買契約を結ぶと、引き渡しの直前に手続きが止まり、買主から違約金を求められるおそれがあります。

あわせて、親が施設に入った年から、3,000万円特別控除の期限を確かめておきましょう。住み替えのトビラでは、親が施設に入ったあとの親のマンションの売り方も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。