住戸の広さや階だけが今の暮らしに合わなくなってきたとき、気に入った立地や管理を保ったまま移れる、同じ建物の別の住戸への買い替えが選択肢に入ってきます。
ここで扱うのは、持ち家の分譲マンションを売り、同じ建物の別の住戸を買う住み替え(買い替え)です。賃貸で暮らしている場合の部屋の移動は手続きが異なるため、ここでは扱いません。
同じ建物の中の買い替えでは、希望の住戸がいつ売りに出るかを自分では選べません。だからこそ、売り出しが出る前に何を整えておくかで、出たときの判断のしやすさが変わります。
同じマンション内で住み替えると決めたら、最初にすること
希望の住戸が売りに出る前に、住戸の条件、売却額と資金、売り出し情報の受け取り方を整えておきます。同じ分譲マンション内での住み替えでは、今の住戸を売る人と新しい住戸を買う人を自分ひとりで兼ねるため、準備の量も二つ分になります。
変えたい条件と、変えたくない条件を分ける
最初にするのは、今の住戸の何を変えたくて、何を変えたくないのかを書き分けることです。売りに出た住戸を買うかどうかは短い期間で判断することになるため、条件を先に決めておくと物差しになります。
変えたい条件の中心は、住戸そのものにあります。子どもが独立して夫婦二人には広すぎる、在宅の仕事で手狭になった、玄関までの段差や住戸内の階段が負担になってきた、日当たりや間取りが暮らし方に合わない。こうした点を書き出し、階、向き、間取り、広さのうち譲れないものを一つか二つに絞ります。
変えたくない条件も並べて書きます。駅までの距離、買い物のしやすさ、顔なじみのご近所、慣れた管理。この住み替えは、生活の土台を残して住戸の不満だけを解消する選び方です。残したいものがはっきりしていれば、売りに出た住戸を条件と照らして落ち着いて比べられます。
今の住戸がいくらで売れそうか、見当をつける
買い替えに出せる金額は今の住戸の売却額で大きく決まるため、先に売却額の見当をつけます。
同じ建物に住み続けていると、掲示板の広告や投函されるチラシで、同じような間取りや階の住戸がいくらで売りに出ていたかを目にすることがあります。これは売却額を考えるときの出発点になります。ただし目に入るのは売り出しの価格で、実際にいくらで成約したかまでは分からないことがほとんどです。額の見当をつけたら、仲介会社の査定で裏を取ります。
あわせて、住宅ローンの残りと手元の資金も確かめます。売却の見込み額、ローンの残り、手元の資金を並べると、新しい住戸に自己資金として出せる金額が見えてきます。ここに新しく借りるローンを足したものが購入に使える金額になり、借りられる額は金融機関の審査で決まります。ローンの残りの正確な額は、借りている金融機関に確認します。
希望の住戸の売り出しを受け取れるようにしておく
希望の階、向き、間取りを仲介会社に伝えておくと、条件に合う住戸が売りに出たときに連絡をもらいやすくなります。売り出しは他の住民の事情で始まるため、自分から探しに行くだけでは時機を逃しやすいからです。
自分の目でも確かめられる場所があります。エントランスや掲示板に貼られる売り出し広告、投函されるチラシ、不動産情報サイトです。仲介会社からの連絡と自分の目の両方を持っておくと、同じ建物の売り出しに気づける場面が増えます。
売却と購入の順番と、重なる負担の抑え方
同じマンション内の住み替えは、希望の住戸が出るのを待つ形になるため、購入を先に決める「買い先行」になりやすく、購入と売却が重なる時期の負担をどう抑えるかが要点になります。
希望の住戸が出てから動くため、買い先行になりやすい
同じ建物の中では、希望の住戸が売りに出て初めて住み替えが動き出すため、購入を先に決める買い先行になりやすくなります。
一般的な住み替えなら、先に自宅を売って資金を固めてから次を探す進め方もあります。ところが同じ建物の中では、希望の間取りや階、向きの住戸がいつ出るかを読めません。狙っていた住戸が売りに出た時点で買うかどうかを判断することになり、住み替えの起点が住戸の側に寄ります。
買い先行で重なる負担と、引き渡し時期をそろえる考え方
買い先行の課題は、買った住戸と売る前の住戸の費用が一時的に重なることで、売却の引き渡しと購入の決済の時期をそろえて、重なる期間を短くするのが基本です。
先に新しい住戸を買うと、今の住戸が売れるまでの間は二軒分の負担が重なります。管理費と修繕積立金は二住戸分かかります。今の住戸に住宅ローンが残っている状態で新しい住戸のローンを借りる場合は、返済も重なります。この期間が長引くほど、お金の負担は大きくなります。
重なる分の目安になるのが、管理費と修繕積立金の水準です。国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、月・戸当たりの管理費(使用料等からの充当額を除く)が11,503円、修繕積立金が13,054円で、合わせて24,557円でした。二住戸分にすると、全国平均相当では月49,114円になります。ただし同じ建物でも額は住戸ごとに異なることがあるため、今の住戸の請求額と、購入を考えている住戸の書面上の額を足して確かめます。今の額を単純に二倍した数字が、そのまま自分の負担になるとは限りません。
同じ建物の中の取引でも、売却の相手と購入の相手は別々のため、引き渡しの日程は双方の事情に左右されます。同じ日や近い時期の決済を望む場合は、早い段階から仲介会社に希望として伝えておきます。
売却にかかる期間として公表されている数字もあります。東日本レインズによれば、2025年の首都圏の中古マンションは、レインズへの登録から成約まで平均82.5日でした。査定を始めた日から数えた日数でも、引き渡しまでの日数でもなく、同じマンション内で希望の住戸を待つ時間を示す数字でもありません。「何か月で売れる」と決め打ちせず、重なる負担に何か月耐えられるかを先に決めて、その範囲で進めます。
出典: 公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2025年)」p.9
売却の代金が入る前に購入の資金が必要になる場合は、つなぎ融資という短期の借入を使う方法もあります。売却の代金で返す前提の一時的な借入で、使えるかどうかや金利などの条件は金融機関によって異なります。取引のある金融機関に早めに確認しておくと、資金の見通しを立てられます。
先に売る場合に必要になることと、順番の決め方
手元の資金に余裕がなく二重の負担を避けたい場合は、先に今の住戸を売って資金を固める「売り先行」も選べます。
売り先行の利点は、売却額が確定してから次を探せるため、資金計画を立てやすいことです。返済が重なる心配もありません。ただし、売却を終えてから希望の住戸が出るまでの間は仮住まいが必要になり、引越しも二度になります。同じ建物の中は売り出しを待つ形のため、この間が長くなることもあります。
順番は、手元の資金にどれだけ余裕があるか、仮住まいと二度の引越しを受け入れられるか、希望の条件の住戸がこれまでどれくらい売りに出てきたかを見て決めます。
同じ建物でも省けない確認
同じ建物の中の買い替えでも、費用や手続き、住戸ごとの条件は改めて確かめます。「前と同じ」と思い込みやすいところほど、書面と確認先で確かめておくと、決めたあとの食い違いを避けられます。
売買の費用と住宅ローンは、通常の住み替えと同じように確かめる
同じ分譲マンションの中の取引でも、売却と購入のそれぞれに仲介手数料などの諸費用がかかり、新しい住戸をローンで買う場合は改めて審査を受けます。建物が同じでも、別の住戸の売買として一件ずつ契約するからです。
費用の項目や必要な手続きは、取引の内容や条件によって変わります。何がいくらかかるかは契約の前に仲介会社に確認し、審査の進め方と今の住戸に残っているローンの扱いは金融機関に確認します。売る側と買う側の両方の費用が同じ時期に出ていくため、どちらか一方だけで見積もらないことが大切です。
管理費・修繕積立金・駐車場は住戸ごとに変わる
管理費や修繕積立金の額は住戸ごとに決まっているため、同じ建物でも、新しい住戸では今の額と変わることがあります。住戸の広さなどに応じて定められているためです。新しい住戸の額は、購入の前に仲介会社を通じて確認します。
駐車場や駐輪場も、今の区画をそのまま引き継げるとは限りません。区画の扱いは管理規約と空き状況で決まるため、管理会社や管理組合に確認します。
住み心地も住戸ごとに違います。階や向きが変われば、日当たり、眺望、周りの音、エレベーターまでの動線が変わります。同じ建物だからと省かず、内覧では図面に出ないこうした点を自分の目と耳で確かめます。
住民として見えている管理と修繕の状況を、書面でも確かめる
修繕積立金の水準や値上げの予定、これまでの修繕の実施、管理組合の運営といった建物の内情を暮らしの実感で知っていることは、買う側として将来の費用を見極める材料になります。外から初めて検討する人には見えにくい部分を、日々の暮らしの中で見てきているからです。
そのうえで、実感だけで判断を終えず、書面でも確かめます。国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、長期修繕計画を定めて積み立てている1,402組合のうち、残高が計画に対して「不足している」が36.6%、「不足していない」が39.9%、「不明」が23.5%でした。全国を対象にした調査で、検討している建物の状態を示す数字ではありませんが、管理規約と長期修繕計画、積立の状況を書面で確かめておく理由にはなります。
同じ建物の住民が買う場合でも、仲介会社が入る取引では、購入の前に重要事項説明を受けます。その内容を管理規約や長期修繕計画とあわせて読み、自分の実感と照らします。食い違いがあれば、契約の前に仲介会社や管理会社に確認します。
引き渡しと引越しで確認すること
同じ建物の中の引越しでも、共用部分の使い方と届け出の確認は省けません。エレベーターの使用や廊下の養生について届け出が要るかどうかは、管理会社や管理組合に確認します。
日程も先に詰めておきます。今の住戸を引き渡す日と、新しい住戸に入れる日の間が空くと、荷物や寝起きの場所に困ります。二つの契約の日程がかみ合うよう、契約の段階で仲介会社と調整します。
建物が同じでも部屋番号が変わるため、届け出の変更は必要です。登記の住所、金融機関、保険、郵便物などで、住まいの表示を変える手続きが出てきます。同じ建物内でも部屋番号が変われば、原則として転居届が必要です。届け出の方法や期限は、お住まいの自治体に確認します。
ご近所と管理組合への配慮
同じ建物の中の売買は、売り手と買い手、そして周りの住民との距離が近いため、通常の住み替えより人との関係への配慮が必要になります。
売り出しと価格は同じ建物の中で伝わりやすい
住戸を売りに出したことは、同じ建物の中では周りの目に触れやすくなります。売り出しの価格や、売る理由について話が及ぶこともあります。
情報が伝わる主な経路には、次のようなものがあります。
- エントランスや掲示板に貼られる売り出し広告
- 総会や理事会での話題
- 内覧に訪れる人の出入り
- 管理員や住民どうしの何気ない会話
広告の出し方は、売却を依頼するときに仲介会社へ相談できます。館内の掲示板に広告を出すかどうか、どの範囲まで広く知らせるかを、あらかじめ話しておきます。ただし、売り出しの情報がどこまで広がるかを自分で決めきれるわけではありません。掲載できる範囲は媒介契約の内容によっても変わるため、依頼の前に確認します。
取引のあとも同じ管理組合に残る
住み替えのあとも同じ管理組合に残るため、取引の相手や進め方にも配慮が必要です。この住み替えは建物から退去するわけではなく、同じ建物での暮らしがそのまま続きます。
売買の相手が顔見知りであったり、将来の隣人になったりすることもあります。内覧の対応、価格の交渉、引き渡しの条件は、あとに角が立たない進め方を心がけつつ、条件そのものは冷静に確かめます。相手を選べる場面では、価格に加えて、住み替えたあとのつきあいも判断に入れます。
希望の住戸が出ないときの構え
同じ建物の中の売り出しは空き次第のため、希望の住戸が出ない期間にどう構えるかを、先に決めておきます。
希望の間取り・階・向きが出るとは限らない
同じ建物の中では、希望の間取りや階、向きの住戸が都合よく売りに出るとは限りません。住戸が売りに出るかどうかは他の住民の事情で決まり、こちらから動かせないためです。
条件を絞るほど、待ち時間は読みにくくなります。角部屋や高層階、南向きのように希望の重なりやすい条件は、売りに出たときに他の住民や外部の検討者と競合することもあります。
待つ・備える・範囲を広げる、という構え方
出ない期間の構えには、待つ、備える、範囲を広げる、という選び方があります。
- 待つ:条件に合わない住戸で妥協しない
- 備える:条件・売却額の見当・情報の受け取り方を保つ
- 範囲を広げる:同じエリアの別の建物も対象に入れる
「待つ」は、基本の構えです。妥協した住戸に移ると、環境を残す住み替えなのに、住戸への不満が残ります。希望に合う売り出しを待つことも、判断のひとつとして選べます。
「備える」は、待つ間の過ごし方です。仲介会社に伝えた希望条件、売却額の見当、ローンと資金の確認を、時間がたっても古びないよう見直しておきます。整えた状態を保っていれば、売り出しが出たときにすぐ動けます。
「範囲を広げる」は、待っても売り出しが出ないときの選び方です。同じエリアの別の分譲マンションまで対象を広げれば、生活圏を保ったまま選べる住戸が増えます。
まとめ:同じマンション内での住み替え
同じマンション内の住み替えは、気に入った立地や管理を保ったまま、住戸の不満だけを解消できる買い替えです。
希望の住戸はいつ出るか選べないため、変えたい条件の整理、売却額とローンの確認、売り出しを受け取る備えを先に済ませます。順番は買い先行になりやすく、重なる負担は引き渡しと決済の時期をそろえて抑えます。同じ建物でも、売買の費用やローンの審査、管理費・修繕積立金や駐車場の違い、引越しの届け出は一件ずつ確かめます。ご近所と管理組合との関係は取引のあとも続くため、売り出しの知らせ方と交渉の進め方に配慮しながら進めます。
住み替えのトビラでは、同じマンション内での住み替えの順番や、ご近所と管理組合への配慮も含めて、住み替えで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。
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