定年をきっかけに、一人で移住してみたい。
でも「体調を崩したら、誰に頼ればいいのだろう」と不安になる人は多いでしょう。
一人で移住する人には、先に決めておくことが五つあります。
この記事を読むと、移住するかどうか、今のマンションをどうするか、移住先の家をどうするかを、自分で決められるようになります。
| 先に決めること | この記事の答え |
|---|---|
| 移住するか、今の街に残るか | 車がなくても病院と買い物に行ける場所なら、一人でも移住できます |
| 今のマンションをどうするか | 売るのが基本です。迷う人は、移住先で1年暮らしてから決められます |
| 移住先の家は借りるか、買うか | まず借りて、1年暮らした後に買うと失敗を減らせます |
| 困ったときに誰に頼むか | 介護の相談、毎日の見守り、保証人、判断力が落ちたとき、亡くなった後の五つに分けて決めておくと安心です |
| 一人分のお金で暮らしていけるか | 年金と生活費の差を計算し、マンションを売ったお金は使い切らずに残しておきましょう |
一人で移住するか、今の街に残るか
最初に決めるのは、移住先ではなく、移住するかどうかです。
まず一人で移住した人が困りやすいことを知り、そのうえで自分に移住が合うかを確かめてみましょう。
一人で移住した人が困りやすいこと
一人で移住した人が困りやすいことは、次の四つです。
- 車の運転をやめた後、病院や買い物に行けなくなる
- 知り合いがおらず、何日も誰とも話さない
- 家の修理代、車にかかるお金、冬の暖房代が思ったより高い
- 元の家を売ってしまい、合わなかったときに戻る家がない
夫婦なら、どちらかが運転をして、話し相手になり、入院の手続きもしてくれます。一人で移住すると、これを全部自分ですることになります。
がんばりや我慢で乗り切ろうとすると、いつか無理が出るでしょう。住む場所の選び方と、困ったときに頼む相手を先に決めておくと防げます。
四つ目の「戻る家がない」は、マンションをすぐに売らずにおけば防げます。その方法は次の章で説明します。
移住をおすすめできる人、今の街に残るほうがよい人
一人の場合は、移住をやめることも、近くに引っ越すことも、移住と同じように考えてよい選択肢です。
自分がどちらに近いかを、次の四つで確かめてみてください。
- 健康で、新しい土地の暮らしに慣れていく体力がある
- 知らない土地で、自分から人に話しかけていける
- 移住先に、親族や友人など頼れる人がいる
- 今の病院や友人と離れても困らない
当てはまるものが多い人には、移住をおすすめできます。新しい環境にすぐなじめる人や、移住先に頼れる人がいる人です。
反対に、持病があって同じ病院に通っている人や、近所の友人やなじみの店が毎日の支えになっている人は、今の街に残るほうが安心でしょう。
同じ街で駅に近い部屋へ引っ越すのも、一つの方法です。
移住にかかる費用や進め方を先に知りたい人には、次の記事も参考になります。
今のマンションを売るか、貸すか、空き家のまま持つか
移住に使えるお金は、今のマンションをどうするかで大きく変わります。
方法は、売る、貸す、空き家のまま持つの三つです。一人で移住するなら売るのが基本で、迷う人には、期限を決めて空き家のまま持つ方法もあります。
| 方法 | 手間とお金 | おすすめの人 | 当サイトの考え |
|---|---|---|---|
| 売る | 手間は売るときの1回で終わる | 移住すると決めた人、移住先で家を買いたい人 | 一人で移住するなら、これが基本 |
| 貸す | 借り手探し、修理、家賃の管理がずっと続く | いつか戻って住むと決めている人 | 遠くから一人で続けるのは大変 |
| 空き家のまま持つ | 住んでいなくても毎月お金がかかる | 移住先で暮らしてみてから決めたい人 | 期限を決めるならよい方法。決めずに持ち続けると損 |
売る
移住すると決めた人には、売るのがいちばん楽な方法です。
売った後は、手間もお金もかからなくなります。
最初に査定を受けて、いくらで売れそうかを調べてみましょう。ここで知っておきたいのは、査定額は不動産会社によって違うということです。
査定額は、不動産会社が「この値段で売り出しましょう」と提案する金額です。買う人が実際に払う金額ではありません。
契約を取るために、わざと高い金額を出す会社もあります。
そこで、査定は3社ほどに頼んで金額を比べておきましょう。同じマンションや近所で実際に売れた値段をもとに説明してくれる会社の金額が、いちばん当てになります。
いちばん高い査定額で計画を立てると、後でお金が不足するおそれがあります。
もう一つ知っておきたいのが、住宅ローンです。定年後に一人で暮らす人は、住宅ローンを借りるのが難しくなります。返し終わる年齢に決まりがあり、年金だけでは借りられる金額も少ないためです。
つまり、移住先で家を買うなら現金で買うことになります。買える家の値段は、マンションを売って残ったお金までです。
そのお金から、介護や入院のために残す分を先に引いておくと安心です。
貸す
貸せば、マンションを持ったまま家賃が入ります。
ただ、遠くに住みながら一人で続けるのは大変です。
借り手を探す、借り手が出た後に部屋を修理する、設備の故障に対応する、といった仕事がずっと続きます。管理会社に任せると手数料がかかり、借り手がいない月は家賃収入がゼロになります。
貸した後で売りたくなったときも、不利になります。人が住んでいる部屋を買うのは、家賃収入が目的の人に限られるからです。自分で住みたい人には売れないので、値段が安くなりやすいといえます。
では、借り手に出ていってもらってから売ればよいのでしょうか。普通の賃貸契約では、貸す側の都合で出ていってもらうことは難しいのが実情です。
貸す方法をおすすめできるのは、いつか戻って住むと決めている人に限られます。
空き家のまま持つ
決められないまま空き家にしておくと、損をします。
ただし期限を決めれば、移住先での暮らしを試す時間として使えます。
マンションは、住んでいなくても毎月お金がかかります。管理費、修繕積立金、固定資産税です。移住先の家賃と合わせて、二重に払うことになります。
それでも期限を決めれば使えるのは、税金の決まりがあるためです。自宅を売って利益が出ても、3,000万円までは税金がかからない決まりで、引っ越した後もしばらく使えます。
使えるのは、引っ越してから3年たった年の12月31日までです。たとえば2027年5月に引っ越した人は、2030年12月31日までに売れば使えます。
つまり、3年あまりは「売らずに様子を見る時間」があるということです。この期間を使うと、次の順番で進められます。
- 査定を受けて、今のマンションがいくらで売れそうかを調べる
- マンションは売らずに、移住先で部屋を借りて1年暮らす
- 暮らしていけると分かったら売る。合わなければ元のマンションに戻る
この順番なら、「売ってしまって戻る家がない」という失敗を防げます。空き家の間にかかるお金は、やり直せるようにしておくための費用と考えられます。
期限を決めておくと、自分が亡くなった後のためにもなります。空き家のまま亡くなると、マンションの片づけや売る手続きを、ほかの誰かがすることになるからです。
税金がいくらかかるかは、買ったときの値段や売る時期で変わります。利益が出そうな人は、売る前に税務署か税理士に確かめておきましょう。
出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例(令和8年4月1日現在法令等)
移住先の家を借りるか、買うか
移住先の家は、借りる方法と買う方法があります。
高齢で一人暮らしの人は部屋を借りにくいので、借りるなら入りやすい部屋から探すと早く決まります。買うなら、場所と建物の種類が大切になります。
借りる
高齢で一人暮らしの人は、普通の賃貸では大家さんに断られやすくなります。
それでも、保証人がいなくても入りやすい部屋はあります。
大家さんが心配するのは、家賃を払い続けてもらえるかと、部屋で亡くなったときにどうするかです。借りる人の人柄とは関係のない理由といえます。
断られることもあると考えて、早めに探し始めましょう。借りられる部屋を比べると、次のようになります。
| 部屋の種類 | 保証人 | 一人での入りやすさ | 当サイトの考え |
|---|---|---|---|
| 普通の賃貸 | 保証会社を使うのが一般的 | 部屋は多いが、断られることがある | 高齢の人の部屋探しに慣れた不動産会社に頼むと進みやすい |
| UR賃貸住宅 | 原則いらない | 収入などの条件に合えば申し込める | 移住先にあれば第一候補。都市部に多く、無い地域もある |
| 公営住宅 | 自治体によって違う | 家賃は収入に合わせて安くなる | その自治体に住んでいる人が対象の所が多く、移住前は申し込みにくい |
| セーフティネット住宅 | 部屋によって違う | 高齢の人を断らないと登録された部屋 | 数は地域で大きく違う。移住先の役所で確かめる |
URは、礼金、仲介手数料、更新料がかからない賃貸です。入るときに払うのは家賃2か月分の敷金で、1年暮らしてみるための部屋としても使いやすいでしょう。
セーフティネット住宅は、国の制度で登録された賃貸住宅です。高齢の人など、部屋を借りにくい人の入居を受け入れています。
「何軒も断られてしまった」というときは、移住先の役所の住宅の窓口に相談してみてください。高齢の人の部屋探しを手伝う団体を紹介してもらえる地域もあります。
出典: UR賃貸住宅とは メリット・特徴
買う
家を買えば、大家さんに断られる心配がなくなります。
今マンションを持っている人は、売ったお金でこの方法を選べます。
買うなら、地方都市の中心にあるマンションがおすすめです。駅、病院、スーパーに歩いて行ける場所を選んでおくと、車を手放した後も暮らせます。
一戸建ては、庭の手入れ、雪かき、屋根や壁の修理を自分で手配することになります。マンションなら、建物の管理は管理会社がしてくれます。
売りやすさも違います。買う人が少ない地域の一戸建ては、安く買えても、何年も売れない例があります。自分が亡くなった後は、その家の片づけが残された人の負担になるでしょう。
自然が豊かな場所ほど、病院や店は遠くなりがちです。景色のよさと暮らしやすさの両方を見ておくと、後悔を減らせます。
買うのは、借りて1年暮らした後でも間に合います。冬の寒さや近所づきあいは、住んでみてはじめて分かるからです。
介護が必要になった後の住まいは、次の記事で説明しています。
困ったときに誰に頼むか
一人で移住すると、家族がしてくれるはずのことを、役所の窓口や専門のサービスに頼むことになります。
頼む相手は場面によって違うので、五つに分けて決めておきましょう。
| 困る場面 | 頼む相手 | いつ決めるか |
|---|---|---|
| 介護や入院の相談をしたい | 地域包括支援センター | 移住したらすぐ |
| 倒れたときに気づいてほしい | 自治体や民間の見守りサービス、緊急通報の装置 | 移住したらすぐ |
| 部屋を借りるときや入院するときに保証人が要る | 家賃の保証会社、社会福祉協議会、民間の身元保証サービス | 契約の前 |
| 判断力が落ちる | 任意後見 | 元気なうち |
| 亡くなった後の手続き | 死後事務委任契約 | 元気なうち |
介護や入院の相談
介護や入院で困ったときは、最初に地域包括支援センターへ相談できます。
高齢の人の介護、医療、福祉の相談を受ける公的な窓口です。保健師や社会福祉士などの専門家がいて、相談は原則無料です。
介護保険のサービスを使いたいときも、ここで申し込み方を教えてもらえます。
移住したら、元気なうちに一度行って、あいさつをしておきましょう。顔を知ってもらっていると、困ったときにすぐ相談できます。
移住先を決める前には、病院について次の三つを確かめておくと安心です。
- 歩きか、バスや電車で通える病院がある
- 救急の患者を受け入れる病院まで何分かかるか
- 家に来てくれる医師や看護師がいる
出典: 厚生労働省 地域包括ケアシステム(地域包括支援センター)
毎日の見守り
倒れたときに誰かが気づいてくれるしくみは、移住したらすぐに用意しておきましょう。
知り合いが少ない土地では、何日も気づかれないおそれがあるからです。
使えるものは、次の三つです。
- 自治体の見守りや安否確認のサービス
- 民間の見守りサービス(センサーや、定期的な電話・訪問)
- ボタンを押すと通報できる緊急通報の装置
あわせて、知り合いも自分から作っていくと心強いでしょう。新しい土地では、自分から動いてはじめて知り合いが増えていきます。
自治会、趣味の集まり、ボランティアのどれか一つに参加するところから始めてみてください。
近所づきあいが多い土地を、楽しいと感じる人もいれば、疲れると感じる人もいます。自分との相性は、借りて暮らす1年の間に確かめられます。
保証人
保証人は、部屋を借りるとき、入院するとき、施設に入るときに求められます。
「頼める親族がいない」という人にも方法があります。
部屋を借りるときは、家賃の保証会社を使えば、保証人がいなくても契約できる部屋が増えています。入院するときや施設に入るときは、まず役所か社会福祉協議会に相談してみましょう。
民間の身元保証サービスは、会社によって料金も内容も大きく違います。契約の前に次の三つを書面で確かめておくと、後のトラブルを防げます。
- 何にいくらかかるか(先に預けるお金の額と、その管理の方法)
- どこまでしてもらえるか(入院、施設への入居、亡くなった後の手続き)
- 途中でやめたとき、預けたお金がいくら戻るか
判断力が落ちたとき
認知症などで判断力が落ちたときのために、任意後見という制度があります。
元気なうちに、お金の管理や契約を任せる人を自分で選んでおく制度です。
任せる内容は、公証役場で作る正式な契約書に書かれます。判断力が落ちた後、家庭裁判所が、任せた人を見張る役の人を選ぶと、契約が始まります。
つまり、元気な間は今までどおりで、必要になったときに初めて動き出すしくみです。
契約が始まるまでの間は、見守り契約を一緒に結んでおくと安心です。任せる人と定期的に連絡を取り、暮らしの様子を見てもらえます。
判断力が落ちてからでは、この契約は結べません。元気なうちに決めておきましょう。
亡くなった後
亡くなった後の手続きは、死後事務委任契約で頼んでおけます。
葬儀、部屋の片づけと解約、役所への届け出を、信頼できる人や専門家に任せる契約です。
あわせて、財産がどこにあるかと、連絡してほしい人を、エンディングノートに書いておくと、頼まれた人が動きやすくなります。
契約の内容や相続のことは、司法書士や弁護士に相談しながら決めるとよいでしょう。
一人分のお金で暮らしていけるか
一人暮らしは収入が一人分なので、夫婦よりお金の余裕が少なくなります。
まず年金と生活費の差を計算してみましょう。移住支援金は、もらえないものとして計画を立てておくと安全です。
年金と生活費
一人暮らしの高齢者の家計は、平均で毎月約3万円の赤字です。
自分の場合はいくら不足するのか、下の表と比べてみてください。
| 65歳以上で一人暮らし、仕事をしていない人の平均(2025年) | 1か月 |
|---|---|
| 税金などを引いた後の収入 | 118,465円 |
| 生活費 | 148,445円 |
| 不足する金額 | 29,980円 |
毎月3万円不足すると、1年で約36万円です。65歳から90歳までの25年では、約900万円になります。
マンションを売ったお金や貯金から、まずこの分を取っておきましょう。
ただし、この平均には注意が必要です。生活費のうち住まいにかかるお金は月11,416円で、家賃を払っていない持ち家の人が多く入っています。
では、移住先で家賃5万円の部屋を借りるとどうなるでしょうか。不足する金額は、毎月7万円近くに増えます。部屋を借りるつもりの人は、平均より多めに見ておくと安心です。
移住すると、減る出費と増える出費があります。家賃は都市部より安くなることが多い一方で、車にかかるお金と、寒い地域の暖房代は増えます。
年金の金額は、ねんきん定期便かねんきんネットで確かめられます。国民年金だけの人は、満額でも月70,608円です(2026年度)。会社員だった人は、厚生年金の分が加わります。
最後に、介護や入院のためのお金を別に残しておきましょう。マンションを売ったお金を、移住先の家の代金とリフォームで使い切らないこと。一人で移住する人には、これがいちばん大切です。
出典: 総務省統計局 家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果の概要
移住支援金
国の移住支援金は、定年後に仕事をしないで移住する人は、ほぼ対象外です。
最初から計画に入れずにおくと、後であわてずに済みます。
この支援金は、東京圏から地方に移住する人が対象で、一人の場合は最大60万円です。ただし、次のどれかに当てはまる必要があります。
- 移住先の中小企業などで働く
- 今の仕事をテレワークで続ける
- 移住先で会社を起こす
仕事を辞めて移住する人は、どれにも当てはまりません。
これとは別に、引っ越し代や家の購入費を助けてくれる自治体もあります。移住先の役所で確かめてみてください。
出典: 内閣府 地方創生 移住支援金
まとめ
定年後に一人で移住するなら、困ったときに頼む相手を先に決めておきましょう。
決めないまま移住すると、体調を崩した日に、頼れる人がいなくて動けなくなります。
今のマンションは、査定でいくらで売れそうかを調べるところから始められます。迷う人は、期限を決めて、移住先で1年暮らしてから売るか戻るかを決めるとよいでしょう。
移住先を決めるときは、誰に何を頼めるかを紙に書き出してみてください。住み替えのトビラでは、一人で移住するときの住まいとお金についても、役に立つ情報をお届けしています。
住み替えのトビラ 
