住み替えするなら?築年数で読み解くマンション売却ベストタイミング完全ガイド

1章 結論:築10年前後が損失最小、築20年で再下落が加速

マンション価格は時間とともに必ず右肩下がりと思われがちですが、実際には2段階のカーブを描きます。

具体的には〈築0〜5年で急落〉→〈築6〜15年は緩やか〉→〈築20年前後でふたたび下落ピッチが上がる〉という波形です。

したがって「いちばん得をする出口」は、急落が収まり修繕コストが跳ねる手前、つまり築9〜12年に集中します。

逆に築20年を超えると価格と維持費が同時に下がるため、売却メリットが薄れやすいのが現実です。

1-1 価格曲線の全体像(首都圏70㎡平均)

築年帯 平均価格(万円) 5年間下落率
新築~5年 6,862
6〜10年 6,655 ▲3.0%
11〜15年 5,932 ▲10.8%
16〜20年 5,509 ▲7.1%
21〜25年 4,887 ▲11.3%

この表から読み取れるポイントは2つです。

第一に、築6〜15年は下落幅が緩やかで“谷間”になっています。

第二に、築20年を境に下落率が再び二桁に達し、価格と保有コスト(修繕積立金・設備更新)が逆転しやすい局面を迎えます。

1-2 得になる売却ポイント早見表

  • 築0~5年:まだ高値だが新築プレミアムが残り、自分だけ大きく損するリスク。
  • 築6~12年:価格横ばい+修繕積立金が軽い“出口ゾーン”。築9〜11年がベスト
  • 築13~20年:積立金増額や給湯器更新が始まる。売るか保有か分岐の時期。
  • 築21年以上:下落が再加速。売却益は期待しにくく、賃貸へ回す戦略が現実的。

箇条書きは売却判断を直感的に示すために絞り込みました。

詳細な数字と根拠は、次章で「資本価値」「保有コスト」「市場需給」の3ファクターに分けて論理展開します。

まずは「築9〜12年が狙い目、築20年超は覚悟が必要」という結論だけ押さえて先に進んでください。

2章 価格曲線を読み解く3ファクター

築年ごとの曲線には理由があります。価格下落の速度を決めるのは、

  1. 資本価値そのものが何年でどれだけ減るか、
  2. 所有期間に増えていく修繕関連コスト、
  3. 景気や金利に左右される需給マグニチュード

この3つの力学です。順に見ていくと「なぜ築9〜12年で横ばいになるのか」「なぜ築20年で再下落が始まるのか」が論理的に説明できます。

2-1 資本価値――築0〜15年は“プレミアム剥落期”、築20年で再加速

新築時の価格には広告・モデルルーム費用など販売プレミアム(平均10〜12%)が上乗せされています。

これが住み始めた直後から5年でほぼ剥落し、その後は建物の残存耐用年数に応じて緩やかな線形下落に移行します。

コンクリート寿命が50〜60年と言われるなかで、築15年までは「残り耐用年数が長い=含み価値が高い」ため下落ピッチが弱まるわけです。

しかし20年を過ぎると残存耐用が30年台に入り、再び「減価償却スピード>市場需要」という状態に転換します。これが価格カーブが再加速するメカニズムです。

2-2 保有コスト――修繕積立金と設備更新費が価格を“押し下げる”

価格カーブだけでは語れないのがキャッシュアウトの谷です。

大規模修繕が1回目(概ね12〜14年)、2回目(24〜28年)と来るタイミングで、積立金はステップ状に上がります。

築年 平均積立金(70㎡) 代表的な追加コスト
〜11年 月1.5万円 室内設備は保証期間内
12〜15年 月2.1万円 給湯器・浴室乾燥機更新(70〜80万円)
16〜20年 月2.4万円 排水管更新準備金

数字で見れば、築12〜15年に月6000円、年間7万2000円が上乗せされます。

もしこの時点で売却すれば、買い手が「修繕積立金の増額前の物件」を手に入れられるので値引き圧力が弱く、それが〈築9〜12年横ばい〉の主因になっています。

逆に、築20年以降は買い手が将来の高額修繕を織り込むため、売値にディスカウントが発生しやすいのです.

2-3 市場需給――金利と成約ボリュームが“売り時の窓”を作る

最後に忘れてならないのがマクロ要因です。

住宅ローン金利が下がれば買い手は増え、築年数のマイナスを金利メリットが相殺してくれます。

2023〜2025年は変動0.3%台が維持され、金融緩和による需要の底上げで築古でも動いた特殊相場でした。

ところが2026年以降、日銀が段階的利上げに転じるシナリオが濃い。金利が0.5%台になると月々返済は約7%上がり、真っ先に影響を受けるのは「価格と維持費がかさむ築20年超」のゾーンです。

したがって“得をする売却”を狙うなら、金利が動く前の築9〜12年で出口を決める合理性が高いと言えます。

3章 築年タイミング別シナリオ比較

価格曲線のメカニズムを理解したら、次に「いつ・どう動けば損益がどう変わるか」を具体的にイメージします。

ここでは築年帯を4つに区分し、それぞれのキャッシュフローと売却益をシミュレーションしたうえで、取るべきアクションを提示します。

表は比較を一瞥できるよう最小限の数字にとどめ、詳細は段落で補足しました。

築年帯 平均価格
(70㎡・万円)
保有コスト
(年額)
5年総コスト 推奨アクション
0〜5年 6,862 約20万円 ▲120万円 保有継続
※値下がり回避
6〜12年 6,300 約26万円 ▲250万円 売却検討
※損失最小
13〜20年 5,500 約35万円 ▲430万円 分岐点:売却orリノベ
21〜30年 4,600 約42万円 ▲630万円 賃貸転用
※売却益期待薄

※保有コスト=年間修繕積立金+設備更新積立。5年総コストは管理費等を除外した簡易計算。

3-1 築0〜5年:新築プレミアムが残る「値下がりリスク期」

最初の5年間は広告費やモデルルーム費用が価格に含まれるため、自分が「売り手」になるとプレミアム分をかぶりがちです。

購入直後に1割下がるという統計も珍しくありません。したがってこの期間は値下がり回避=長く住むが基本戦略。

売却する場合でも、同じ棟の賃料を調べて「ローン支払い<賃料」なら一時的に賃貸へまわし、市況回復を待つ選択もあります。

3-2 築6〜12年:下落が緩む“出口ゾーン”

新築プレミアムが剥落し終え、かつ修繕積立金はまだ月1.5〜2万円台。5年間で平均▲3〜4%しか価格が下がらないため、「売っても家計的損失が小さい」という稀少なタイミングです。

買い手にとっても「まだ室内が綺麗で修繕費が安い」ことが魅力なので、成約スピードが速いメリットが生じます。

具体的には築9〜11年に査定を取り、下落ペース×残保有年数仲介手数料を天秤にかけると判断が即決できます。

3-3 築13〜20年:修繕コスト増加前の分岐点

12年目以降は大規模修繕で積立金が月6000円以上増えるうえ、給湯器や浴室乾燥機といった高額設備が寿命を迎えます。加えて金利上昇リスクが現実味を帯びると、買い手が慎重になり始めます。

このゾーンでは「売却で利益確定するか、リノベ費用を含めて長期保有か」を数字で比較する必要があります。たとえば70㎡のフルリノベ(1000万円)が将来の売却価格を+800万円押し上げるならIRRはマイナスです。

逆に、駅近で坪単価の下落幅が平均の半分以下なら、設備更新して保有継続するシナリオも合理的です。

3-4 築21〜30年:値下がり再加速期は“出口より運用”

築20年を超えると、残存耐用年数が短くなることで金融機関の評価が下がり、ローンが通りにくくなります。その結果、買い手は自己資金比率を高める必要があり、売却価格にはディスカウントがかかりやすくなります。

しかし都心部や駅徒歩3分圏など立地プレミアムのある物件は、リノベーション賃貸に転用すると年間表面利回りが5〜7%出るケースも。

売却益よりインカムゲイン重視へ戦略を切り替えることで、築古物件でも資産価値を最大化できます。

4章 価格曲線を覆す3つの例外パターン

前章までに示した築年カーブは「平均値」であり、すべてのマンションが同じ軌跡をたどるわけではありません。

実勢では〈立地〉〈規模〉〈ブランド〉という3つの属性が、下落ペースを大きく修正します。

例外に当てはまる物件は“築年だけで売り時を決める”と機会損失が起きやすいため、別のロジックで出口を設計する必要があります。

例外タイプ 平均下落率 主な要因 推奨戦略
駅徒歩3分・大規模物件 築20年でも▲4~5%/5年 流動性と希少性 設備更新後に高値売却
100戸未満の小規模 築12年以降に▲15%超/5年 修繕費負担が急増 築10~12年で早期売却
都心ハイグレード築古 築25年でも横ばい 立地+ブランド指名買い リノベ賃貸でインカム重視

4-1 駅徒歩3分・大規模物件──「立地×管理力」で価値を保つ

極端に駅近、かつ総戸数が300戸を超えるマンションでは、築20年を過ぎても下落幅が半分程度にとどまります。

理由は明快です。第一に駅前再開発と連動して賃貸需要が強く残ること、第二に戸数が多いぶん修繕積立金を“薄く広く”集められるため、買い手が将来の費用負担を不安視しにくいからです。

このタイプは30年目の2回目大規模修繕後に共用部がリフレッシュされ、売却単価が一時的に上昇するケースすらあります。

したがって築年を理由に焦って売るより、設備更新を済ませてから出口を探るほうが損失を抑えられます。

4-2 100戸未満の小規模マンション──修繕積立金の急騰が曲線を押し下げる

一方で総戸数が少ない物件は、築12年あたりから急激にランニングコストが跳ねます。戸当たり積立金が月1万円増える例も珍しくありません。

買い手は将来負担を価格に織り込むため、平均より速いペースで価格が沈みます。

出口戦略としては、負担増が告示される前、多くの管理組合が改定案を公開する築10~12年での売却が最もリスクが低いと言えます。

4-3 都心ハイグレード築古──築年よりブランドと立地がモノを言う

最後はブランドマンションの築古物件。例えば港区・千代田区のヴィンテージレジデンスは、坪単価が築25年で横ばい、あるいは上昇している例もあります。

買い手の多くがリノベーション前提で「骨格となる躯体の品質」に価値を見いだすため、築年数のマイナスが希薄化するのです。

この場合、「売って差益を得る」よりもフルリノベ後に高単価で賃貸に出し、4~5%のネット利回りを確保する方がIRR(内部収益率)は高くなる傾向があります。

5章 数字で判定!3ステップ売り時チェックリスト

「いずれは売りたいけれど、結局 “いま” が得なのか判断できない」

多くの相談がここで止まります。そこで、専門家がヒアリングで使うフローを家庭向けにアレンジしました。

必要なのは〈購入価格・ネット査定額・修繕計画書〉の3資料だけ。手元に置いて、以下のステップを順番に埋めてみてください。10分で答えが見えます。

ステップ1 購入価格と査定価格から“年間下落率”を算出

1. スマホ電卓で下記を計算しましょう

(購入価格 − 現在のネット査定額) ÷ 経過年数

これが「年間下落額」です。

2. さらに

(年間下落額 ÷ 購入価格) × 100

年間下落率を出します。

3. この数値が2%未満なら“緩やか期”(築6〜12年相当)、3%超なら“再下落期”に入ったとみなせます。

> 例)購入5,800万円 → 現在5,300万円(築9年)
> 年間下落率=(500 ÷ 9) ÷ 5,800 ≒ **0.95%/年** → 緩やか期

ステップ2 修繕積立金・設備更新費を5年分合算

コスト項目 月額 / 見積り 5年間総額
修繕積立金 例:月1.8万円 108万円
給湯器交換 例:25万円 25万円
給排水管更新積立 例:月0.5万円 30万円
合計 163万円

 

  1. 管理組合の長期修繕計画書を開き、直近5年で積立金がいくら上がるかを確認。
  2. 給湯器・エアコンなど耐用15年機器の交換見積りを足します。
  3. 合計金額をメモ。これが「今後5年間、所有し続けた場合に必ず払う現金」です。

ステップ3 “売却コスト”と比較してGO/STOPを決定

  • 売却時の主な費用は仲介手数料:〈売却額×3.3%+6.6万円〉
  • ステップ2の5年総コストが仲介手数料を上回る場合、5年以内に売ると“コスト逆転”で損
  • 逆に仲介手数料の方が高い or 拮抗するなら、保有リスクより今売るメリットが大きい。

> **決断早見式**
> 5年保有コスト - 仲介手数料 = +なら保有 / -なら売却

これら3ステップを終えれば、「数字が赤字 → 今すぐ査定依頼」「黒字 → 修繕後まで保有」と行動が自動的に決まります。

迷ったまま時間を浪費するより、1回電卓を叩く方がはるかに家計にやさしい、それが価格曲線を“味方”にする最短ルートです。

6章 よくある質問(FAQ)

Q1 大規模修繕が終わってから売るのは損ですか?

大規模修繕直後は「見た目がきれいになるから高く売れる」と考えがちですが、実際の成約データでは価格上昇は平均で1〜2%程度にとどまります。

一方で、修繕準備金増額や臨時徴収ですでに数十万円を払った後というケースが多いため、トータルでは“ほぼトントン”か“微損”。

ただし駅徒歩3分など流動性が高い大規模マンションでは、共用部リニューアルが広告効果を発揮し築20年超でも5%前後の上振れが出る事例もあります。結論としては「駅近×戸数300超」の物件なら修繕後売却、それ以外は修繕前の築9〜12年での出口が合理的です。

Q2 リノベーションしてから売却すると得になりますか?

リノベ費用が売価アップ額を上回ると損をします。首都圏70㎡で見ると、

  • フルリノベ費用:平均1,000〜1,200万円
  • リノベ後の売価上昇:平均600〜800万円

この差額がIRRを押し下げるので、自己居住の快適性を高める目的ならOK転売益狙いではNGが原則です。

例外は都心ヴィンテージマンションで、坪単価が元々高いため、リノベ費用を家賃単価アップ(賃貸)で回収できる場合に限り投資妙味があります。

Q3 地方マンションでも「築10年前後」がベストタイミングですか?

地方では首都圏ほど急激な下落カーブは描きませんが、修繕積立金が跳ねるタイミングは同じです。特に100戸未満の地方物件は、積立不足を補うため築12〜15年で一括徴収や増額幅が都心部より大きいケースがあります。

したがって「築9〜12年」を目安にするロジックは地方でも有効ですが、流動性が低い分だけ売却期間が長い点には注意が必要です。早期に売り出し、価格を柔軟に調整できる体制を整えておくことが、損失最小化のカギになります。

7章 おわりに──電卓を叩けば“最適な出口”は10分で見える

マンション売却は「なんとなく高く売れそう」という感覚ではなく、
〈年間下落率〉と〈5年保有コスト〉という2つの数字で即判定できます。
まずはネット査定で“いまの価格”を把握し、本記事の3ステップ表に当てはめてください。
赤字なら即売却、黒字なら保有――答えがクリアになった瞬間、次の行動が決まります。

今日中に購入価格・査定価格・修繕計画の3点をメモに書き出し、
電卓を叩くところから始めましょう。迷いは数字で消せます。