売却先?購入先?住み替えタイミング完全ガイド【売り先行 vs 買い先行】

1章 結論──ゴールは「資金安全性」か「住環境の連続性」か

買い替えで最初に決めるべきことは「お金の安心を優先するか、生活リズムの連続性を優先するか」という軸です。

前者なら売却→購入(売り先行)、後者なら購入→売却(買い先行)が基本線。

どちらも長所と弱点が裏表になっているため、目的を明確にすれば迷いが半分以下になります。

1-1 一目でわかる選択早見表

チェック項目 売り先行が向く人 買い先行が向く人
ローン残高 ÷ 年収 5倍以上
返済負担が重い
3〜4倍以内
与信に余裕
生活預貯金 生活費6か月分+αがギリギリ 生活費1年分以上の現金がある
市場環境 金利上昇局面/買い手市場 売り手市場/在庫薄
家族事情 学区変更OK/仮住まい可 学区死守/高齢者同居で引越し回数を減らしたい

この表で「売り先行列」が3つ以上当てはまるなら売却を先行、「買い先行列」が優勢なら購入を先行しても資金破綻のリスクは低く抑えられます。

1-2 タイプ別おすすめシナリオ

共働き・子育て世帯(マンション→戸建)

教育費と住宅ローンの二重負担を避けたいなら売り先行

売却代金で旧ローンを完済し、頭金を現金化してから購入へ動けば、銀行審査はスムーズで金利優遇も付きやすい。

仮住まい期間は学区対策として同校区のウィークリー/マンスリーを3か月契約すると、二重引越しコストを抑えつつ子どもの環境変化も最小にできます。

リモートワーカー夫婦(都心→郊外)

希望物件をじっくり探し、引越しは1回にしたい

このニーズが強いなら買い先行が有効。年収に対してローン残高が小さければ、ブリッジローン期間を3か月以内に抑えるだけで利息負担は家賃1か月分程度。

旧居を空室にしてから売り出すと平均成約日数が25%短縮するため、実質リスクは想像より小さくなります。

シニア世帯(戸建→駅近マンション)

体力的・時間的に二度の引越しが負担となるケースでは買い先行+同日決済が最善。

購入物件の決済日と旧居売却の引渡し日を同日に揃えれば、仮住まいもブリッジローンも不要です。

ただしタイムライン調整がシビアになるため、売買双方を扱える“囲い込み禁止”を徹底する仲介会社を選ぶことが成功の鍵になります。

数字で安全余白を確保した上で、家族にとって譲れないライフスタイル条件を盛り込みましょう。これが住み替えタイミングの最短ルートです。

2章 売却→購入(売り先行)のメリットと注意点

売り先行は「まず資金を固め、次に買う」という手順。

キャッシュフローが読みやすく、ローン審査にも強い一方、仮住まいと引越し2回分の手間がハードルになります。

2-1 二重ローン回避と資金確定の安心感

メリット

  • 旧ローン完済が先行するため、残債リスクと二重ローンを回避できる
  • 売却代金が頭金に直結し、LTV80%未満で金利優遇を取りやすい
  • 売却価格が確定してから物件を探すので、予算ブレがほぼゼロ
  • 銀行審査は「新規ローン単体」で計算。年収倍率・返済負担率が下がり通りやすくなる

数字で見るメリット例

買い先行 売り先行
借入総額 旧3,000万+新4,000万=7,000万 新4,000万
返済負担率
(年収700万)
44% 25%
適用金利 0.45%(LTV95%) 0.30%(LTV80%)

2-2 仮住まい&引越しコストを最小に抑えるコツ

売り先行のデメリットは仮住まい費用と二重引越し。ただし工夫次第でコストもストレスも大幅に圧縮できます。

  • 同学区マンスリー+家具家電レンタル
    家族4人でも月12〜15万円で収まり、引越し荷物を半減。旧居→倉庫→新居の二重輸送を防げる
  • リースバック
    売却後も家賃を払って旧居に住み続ける方式。家賃は相場+15%前後だが、引越しが1回で済むためトータルでは同等以下になる事例が多い
  • “同日決済”をゴールに据えて逆算
    売買契約後の平均決済期間は30〜45日。同日に合わせるよう購入側の決済日を調整すれば、仮住まい期間を最短1週間に圧縮できる
  • 繁忙期を避ける
    3月は引越し料金が通常の1.4〜1.6倍。スケジュールが許す限り1月・6月に仮住まい&本引越しをセットで組むと最大10万円以上の差

売り先行は「資金の安心」と「生活の一時的不便」をトレードオフにする戦略です。

仮住まい期間とコストをExcelで見える化し、二重引越しの負担に家族全員が納得できれば、“数字に強い”安全パスとして機能します。

3章 購入→売却(買い先行)のメリットと注意点

買い先行は「住環境の連続性」を最大化する戦略です。

先に新居へ移ることで引越しは1回、学区・家具・生活動線をほぼそのまま維持できます。

ただし資金繰りと売却スピードが命綱。綿密なタイムマネジメントが必須です。

3-1 引越し1回・学区維持の快適さ

メリット

  • 旧居から直接新居へ入居でき、仮住まい家賃と二重搬送が不要
  • 荷物を減らさずに済むため、梱包・開梱コストも1回分で完結
  • 子どもの学区変更や介護環境を途切れさせないまま住み替えられる
  • 空室状態の旧居は内覧しやすく、平均成約期間が25%短縮(当社調査 n=312)

3-2 ブリッジローンと売却長期化リスク

買い先行の弱点は一時的な二重ローン。ブリッジローン(つなぎ融資)を利用する場合、金利は年3〜5%が目安です。

項目 ブリッジ3か月 ブリッジ6か月
借入1,000万円 利息 約7.5万円 利息 約15万円
借入2,000万円 利息 約15万円 利息 約30万円

リスク縮小の3ステップ

  1. 仮審査2本立て
    ―「ブリッジ利用」プランと「旧居売却後に繰上げ返済」プランを同時申請し、利息コストと手数料を比較しておく。
  2. 販売開始を1か月前倒し
    買い付け契約と同時に旧居の媒介契約を結び、最短で内覧予約を入れる。
    空室ならオンライン内覧(Matterport等)を導入し、成約速度をさらに加速。
  3. “値下げトリガー”を事前設定
    「○週間で反響△件以下なら▲%値下げ」などルールを数値化。
    感情に左右されず、市況に合わせて迅速に価格修正できる。

3-3 買い先行が成功しやすいケース

  • ローン残高 ÷ 年収が4倍以内(与信ゆとり層)
  • 売り手市場:築浅マンション・駅近戸建など需要過多エリア
  • 引越し1回の価値が高い:受験生・介護同居・身体的負担を抑えたいシニア
  • 現金または投資資産が生活費1年分以上:ブリッジ利息を実質ヘッジできる

買い先行は「快適さ」と「資金負荷」がシーソーのように連動する戦略です。与信余力と市場スピードを冷静に見極められるかが、成功とストレスフルな二重ローンの分かれ道になります。

4章 判断フレーム──資金余力 × 市場環境 × 家族事情

住み替えのタイミングは「売り先行か買い先行か」という二者択一で語られがちですが、実際には資金余力・市場環境・家族事情という3軸が複雑に絡み合っています。

ここでは、3つの軸を順番に検証していくことで「数字で安全、生活も快適」という落としどころを導く方法を解説します。

4-1 キャッシュ&与信シミュレーション――数字で“許容ストレス”を可視化

最初にチェックすべきは資金余力、すなわち「現金+与信」のバランスです。

ローン残高と年収の倍率を算出し、生活防衛資金を差し引いたときにどこまで無理なく借入が増やせるかを把握します。

指標 安全圏 黄信号 赤信号
ローン残高 ÷ 年収 〜4倍 4〜5倍 5倍超
生活費に対する現金比率 12か月以上 6〜12か月 <6か月

黄信号以上の場合は「売り先行で頭金を厚くしてLTVを下げる」か「購入規模を再検討」の二択。数字が整わない限り快適シナリオを優先しても家計は長期的に揺らぎます。

4-2 売り手市場・買い手市場と金利トレンド――“時計の針”を読む

次に市場環境を分析します。ここでは「需要と供給のバランス」と「金利トレンド」という2本の矢印が時間軸でどう動いているかが鍵です。

  • 売り手市場 × 金利低下局面
    物件が不足し価格が高騰気味。売ればすぐ現金化できるため、多少の金利上昇リスクを取っても買い先行が有利。
  • 買い手市場 × 金利上昇局面
    在庫が豊富で値引き交渉もしやすいが、売却が長期化しやすい。金利が上がる前に借りるメリットも薄く、リスクを抑えるなら売り先行がセオリー。

このように時計の針がどちらへ振れているかで“リスクを取る価値”の大きさが変わります。

最新の市況レポートや、融資担当者が共有している長期金利のフォワードガイダンスをチェックし、半年先の金利をシミュレートしておくと判断精度が格段に上がります。

4-3 学区・介護・ライフイベントの優先順位――数字だけでは測れない家族の価値

最後の軸は家族事情です。学区、通勤、介護、健康、転職予定など、数字では測れないライフイベントの重みを整理します。

例えば「来春に子どもが中学受験」「祖父母の介護で階段のない住まいが必須」という家庭では、引越し1回で済む快適さが金利差や仮住まいコストを超える価値になります。

一方、単身または共働きDINKsでフレキシブルに動けるなら、金利差数十万円を優先した売り先行のほうが合理的。

家族それぞれが感じる負担を紙に書き出し「数値化できない心配事」を見える化すると、資金シミュレーションとの整合が取りやすくなります。

5章 タイムラインで見る2大シナリオ

住み替えの全体像をつかむには、やるべきタスクを「いつ」「誰が」「何のために」実行するのかを時系列で可視化するのが近道です。

ここでは売り先行(資金安全型)買い先行(住環境連続型)を、それぞれ6か月スパンでロードマップ化しました。

行動の〝詰まりやすい箇所″と〝資金が動くタイミング″を確認しながら読み進めてください。

5-1 売り先行6か月ロードマップ――資金を固めてから動く

時期(目安) 主なタスク チェックポイント
6か月前 不動産一括査定(3社以上)
媒介契約を締結
・想定売却価格とローン残高を照合
・残債証明書を銀行から取得
4か月前 内覧開始・価格調整ルールを設定 ・ハウスクリーニング完了
・週次で反響数を記録
3か月前 売買契約締結(手付金受領) ・抵当権抹消書類を司法書士に依頼
・仮住まい候補を2社比較
2か月前 決済日確定→旧ローン完済予定額確定
購入物件探し&ローン仮審査
・頭金用サブ口座を開設
・金利と審査結果を一覧化
1か月前 売却決済・残代金受領
仮住まい入居
・受領金を頭金口座へ即日送金
・引越し業者と本搬送日を確定
当月 購入物件の売買契約&ローン本審査 ・手付金を頭金口座から支払い
・火災保険・登記費用を見積もり
翌月 新居決済・鍵受領→本引越し ・残金決済と同日に光熱開栓
・旧居コストは完全終了

5-2 買い先行6か月ロードマップ――引越し1回で生活をつなぐ

時期(目安) 主なタスク チェックポイント
6か月前 希望エリア・予算を確定
ローン事前審査(2行以上)
・上限借入額と金利メモを作成
・旧居の想定売却価格を同時試算
5か月前 購入申込→売買契約(手付金支払い) ・手付金は頭金口座から支出
・新居リフォームの要否を調査
4か月前 ブリッジローン本審査
旧居の媒介契約・販売準備
・ブリッジ枠と利率を確定
・室内の不要家具を処分して空室撮影
3か月前 新居決済・引越し完了 ・ブリッジ融資開始日を記録
・旧居販売をオンライン内覧対応に
2か月前 旧居内覧集中期間 ・週次で反響と価格を分析
・値下げトリガーを自動実行
1か月前 旧居の売買契約締結 ・決済日をブリッジ返済期日内に設定
・抵当権抹消の書類を準備
当月 旧居決済→ブリッジローン完済 ・完済証明を受領し新ローンへ提出
・売却益が出た場合は繰上げ返済か運用へ振り分け

売り先行では「資金固定までの速さ」が、買い先行では「ブリッジローン期間の短縮」が成功の分水嶺になります。

表の時期とタスクを自分のカレンダーへ落とし込み、各ステップが1〜2週間ずれた場合のリカバリープランを先に書き出しておくと、急な相場変動や家族のトラブルにも冷静に対処できます。

6章 費用シミュレーション──仮住まいとブリッジローン、どちらが得か

売り先行で悩ましいのは「仮住まい家賃+二重引越し代」、買い先行で心配なのは「ブリッジローン利息」。

ここでは首都圏ファミリー(4人/物件価格5,000万円)をモデルに、両プランの追加コストを具体的な数字で比べます。

ご自身の条件に置き換えやすいよう、計算プロセスと“コストが跳ねるポイント”も明示しました。

6-1 売り先行モデル──仮住まい3か月+引越し2回

項目 期間・数量 単価 小計
仮住まい家賃 3か月 16万円 48万円
引越し代(旧居→仮住まい) 通常期 20万円 20万円
引越し代(仮住まい→新居) 通常期 20万円 20万円
敷金・保証料ほか 一式 10万円 10万円
合計 98万円

家賃と引越しを通常期に限定できれば100万円を切ります。

ただし繁忙期(3月)に重なると家賃+1か月、引越し+10万円で最大+26万円が一気に上振れするので、学校行事や退去日の調整がコスト抑制のカギになります。

6-2 買い先行モデル──ブリッジローン90日+引越し1回

項目 期間・数量 単価 小計
ブリッジローン利息 2,000万円×90日 年3.5% 17万円
引越し代(旧居→新居) 通常期 20万円 20万円
保険・管理費の二重負担 90日 月2,500円 0.75万円
合計 約38万円

利息が軽いぶん総額は売り先行の約4割。ただし旧居が1か月長引くだけで利息+6万円。

空室販売やオンライン内覧を組み合わせ、90日以内に売り切ることが費用抑制の生命線です。

6-3 数字から見る選択ガイド

売り先行 買い先行
追加コスト(想定) 約98万円 約38万円
コスト上振れ要因 仮住まい延長・繁忙期引越し 売却遅延による利息増
1か月遅延した場合 +16万円 +6万円

売り先行は“時間がコスト”、買い先行は“スピードがコスト”という構図。

仮住まいを延長しても家計が回るか、利息が6万円増えても心理的に許容できるか――

この2点を家族で話し合い、自分たちが背負えるリスクかどうかを数字で確認してから選ぶのが、後悔しないタイミング決定の近道です。

8章 おわりに──次の一歩は“数字を書く”だけ

頭では理解しても、行動に移さなければタイミングは逃げていきます。
今すぐスマホのメモに以下の4行だけ書き込んでください。

・旧ローン残高:__万円
・想定売却価格:__万円
・頭金(手元+売却益):__万円
・引越し希望時期:__年__月

この数字がそろった瞬間から、あなたの住み替え計画は「ぼんやり検索」から「実行フェーズ」へ進みます。